■私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》6月17日発売■
~ドビュッシーは Deux Arabesquesの大文字「A」をどう書いたか~
2022年5月31日 中村洋子
★お待たせしました。
私の新しい著書《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》が、
6月17日に、「DU BOOKS」より発売されます。
内容につきましては、次回ブログで詳しくお伝えします。
★登場します11人の大作曲家は、バッハ、モーツァルト、
ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ムソルグスキー、
ブラームス、チャイコフスキー、ドビュッシー、ラヴェル、
バルトークです。
★解説する名曲は、 Bach「フーガの技法」、
Mozart「交響曲40番」、 Beethoven「悲愴」、
Tchaikovsky「四季」、Schumann「ユーゲントアルバム」、
Chopin「子犬のワルツ」、Mussorgsky「展覧会の絵」、
Brahms「交響曲4番」、Tchaikovsky「四季」、
Debussy「アラベスク」、Ravel「マ・メール・ロワ」、
Bartók「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ」で、
「自筆譜」、あるいはそれに近いものが入手できる曲を選びました。
★名曲解説とは別に、《フーガの技法はなぜ「ニ短調」のみで
書かれたか》、《ドビュッシーはどのように音楽を学んだか》を、
章立てして分析しました。
自負できる内容となっておりますので、ご期待ください。
★これら「人類の宝」の蓋を、「自筆譜」によって開き、
全く新しい視点により、解読します。
この本をお読みいただければ、
本物の音楽とは何か! それを聴き、演奏することが、ますます
楽しくなり、愉悦に満ちた瞬間となることを、実感できる
と思います。
★この本は、ネット購入もできますが、書店、楽譜店さんなど、
街にある実店舗でお求め頂けれましたら、更に嬉しいです。
お散歩をしているときに、廃業を告げる書店の張り紙をみますと、
悲しく、残念に思います。
身近にある書店は、私たちにとって、無くてはならない貴重な存在です。
直接、現物の本や楽譜を自分の目で確かめることは、とても重要です。
楽器店の音楽書籍コーナーでも、お求めいただけます。
どうぞよろしくお願いいたします。
麦秋
★さて、前回ブログで取り上げましたドビュッシー「アラベスク」は、
この新著でも、中身濃く書きました。
勉強しながら、本を執筆している際、「アラベスクはこんなに
凄い曲だったのか!」という驚きの連続でした。
★今日は、その「落穂拾い」のようなお話です。
大作曲家の「自筆譜」を勉強していますと、一見音楽とは
関係なさそう事でも、とても面白い発見があります。
例えば「 Deux Arabesques 2つのアラベスク」自筆譜に書かれた、
「Arabesques」の大文字の書き方です。
★私は「自筆譜」ファクシミリを入手する前は、こんな「瑣末」
なことには、全く、無頓着でした。
今では、これは決して「瑣末」でもないような気がしています。
★私が所持しています、Henle、Wiener Urtext Edition、Bärenreiter、Durand、
ヘンレ、ウィーン原典版、ベーレンライター、デュラン‥‥、
定評ある楽譜は皆、きちんと「Deux Arabesques」と、
「Arabesques」冒頭の大文字「A」を、
パリのエッフェル塔のように、カチッと尖った形に書いています。
★ところがドビュッシーの「自筆譜」はどうでしょう。
ドビュッシーはこの「Deux Arabesques」の文字を3ヵ所で
書いています。
①表紙に書かれた曲の題名。
②アラベスクⅠの楽譜の冒頭
③アラベスクⅡの楽譜の冒頭、計3箇所です。
★①は通常の「A」の大文字ですが、馬蹄形の柔らかい曲線。
②は小文字の「a」を、大文字のように大きく書いています。
Deuxの「De」は、「自筆譜」のその部分が剥落、読めません。
③は、ほとんど小文字「a」にしか見えません。
④「アラベスク1番」冒頭の速度表示「Andante con moto」の
「A」大文字は①によく似ています。
★この4種類を、書き写してみます。
正確なところは、自筆譜ファクシミリでご覧ください。
https://www.academia-music.com/products/detail/159002
★ドビュッシー先生は、パリのエッフェル塔型の大文字「A」は、
お使いにならないのでしょうか?
いいえ、そんな事はありません。
「アラベスクⅠ」冒頭の署名では、「C.A.Debussy」と
エッフェル塔型の大文字「A」を、使っていらっしゃるのです。
“この曲の題名に、かっちりした大文字「A」は
使いたくなかったのです”
とでも、言いたげな様子です。
アラベスク模様は、曲線が似合います。
★そんなお話を知人に、メールしましたら、こんなお返事が来ました。
『題名が小文字の「a」を大きく書いているのは、もしかして
モティーフの始まりの大事な音を強調しているのかも!と
思ってしまいました。』
なるほど。
実は、お送りしたメールで「ラ ソ# ファ# ミ」が、
アラベスクの実に大切な、「主要モティーフ」であることを、
その方にお伝えしていたのです(新著にも書きました)。
そうかもしれません。
★あるいはドビュッシーは愛国者でしたから、「ラ」の音を、
ドイツ式に「a、A」とは思わず、「La」と思っていたかも
しれませんので、そうではないかもしれません。
真相は分かりませんが、書体の異なりを眺めているだけでも、
「ラ ソ# ファ# ミ」が、より一層身近に、親しみをもって
感じられるようになりました。
★こんな楽しい発見は、バルトークにもありました。
それについては、本を読んでいただくことにしますが、
「自筆譜」で大作曲家の、肉筆に触れることによってのみ得られる、
楽しい発見です。
その結果、いろいろと考えをめぐらすことができるのも、
楽しい刺激の一つです。
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