音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ベッチャー先生の追悼演奏会が、6月4日午後6時ベルリンで開催■

2021-05-26 15:19:54 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ベッチャー先生の追悼演奏会が、6月4日午後6時ベルリンで開催■
   ~ウルズラ  トレーデ=ベッチャー先生から心の籠ったお手紙も~


             2021.5.26  中村洋子

 

 

 

 


★ことし(2021年)2月24日逝去されたチェロの

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生の

【追悼コンサート】が、6月4日(金曜日)午後6時(現地時間)

ベルリンで開催されます。

先生のご家族から、お知らせがありました。


★ベルリン芸術大学とヒンデミット協会の共催コンサートが開かれ、

当日、下記サイトにて無料で視聴できます。


https://www.udk-berlin.de/kalender/detailansicht/calendar/2021-06-04-in-memoriam-prof-wolfgang-boettcher/

 


★プログラム Programm:
Julius Klengel Hymnus  op. 57
  ユリウス・クレンゲル(1859-1933) 『賛歌』op.57

Krzysztof Penderecki Divertimento
  クシシュトフ・エウゲニウシュ・ペンデレツキ
  Krzysztof Eugeniusz Penderecki (1933-2020)
                      『ディベルティメント』

Jean-Baptiste Barrière Sonate G-dur für zwei Violoncelli
  ジャン=バティスト・バリエール
     (Jean-Baptiste Barrière1707–1747) 
               『チェロ二重奏のためのソナタト長調』

Paul Hindemith Solosnate für Violoncello op. 25 Nr.3
  パウル・ヒンデミット (Paul Hindemith1895-1963)
                      『チェロのためのソロソナタ Op.25 Nr.3』

Peter Tschaikowski Andante Cantabile
 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840ー1893)
                                    『アンダンテ・カンタービレ』

・Johann Sebastian Bach Cellosuite Nr. 3 C-Dur 
      BWV1009    Prelude Sarabande Gigue
    ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)
                  『チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009 
               プレリュード サラバンド ジーグ』

・Johannes Brahms Streichsextett B-Dur op. 18
      Allegro ma non troppo  Andante ma moderato
  ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
      『弦楽六重奏 変ロ長調 Op.18』より
                        第1楽章 アレグロ マ ノントロッポ 
                 第2楽章 アンダンテ マ モデラート

 

 

 

 


★Mit: 出演
den 12 Cellisten der Berliner Philharmoniker
  「ベルリンフィル12人のチェリスト達」
Wen-Sinn Yang ウェン・シン・ヤン
David Geringas ダーフィット・ゲリンガス

und den Violoncello-Professoren der UdK Berlin:
 そして  ベルリン芸大チェロ教授の
Konstantin Heidrich コンスタンティン・ハイドリッヒ
Danjulo Ishizaka 石坂団十郎 
Jens Peter Maintz イエンス・ペーター マインツ
Wolfgang Emanuel Schmidt 
     ヴォルフガング・エマニュエル・シュミット

 

 

 

 


★また先日、 ベッチャー先生のお姉さま

Ursula Trede-Boettcher ウルズラ トレーデ=ベッチャー先生から

お便りが来ました。

印刷された2pageのベッチャー先生に対する彼女の追悼文と、

2pageのお心のこもった私宛の自筆のお手紙でした。


★印刷された2ページの追悼文を以下に訳してみます。

トレーデ先生はこの文章を、皆様に送られたのだと思います。

 

★太陽が沈みました。
沈んだ太陽は、より高い世界で私たちのために輝いています。
Wofganag Boettcherの死について・・・


最愛の弟、ウォルガング(ブッツェ)がこの世を去りました。
深い悲しみの中で、私たちが共に歩んできた運命について
考えています。         
(※ブッツェは愛称)

 

私たちは、妹のマリアンネ・ベッチャーと 共に、
ベルリン・クラインマハノーの音楽教育家の両親の家で、
太陽のように暖かい子供時代を送りました。

 

マリアンネ・ベッチャー は、 後にベルリン芸大の
ヴァイオリン教授になり、私たち三人はデュオやトリオの
パートナーになりました。

 

(第二次世界大戦が始まり) 山での休暇、防空壕での爆撃の夜、
ウッカーメルカーのフォン・アーニム邸での
避難生活、
ロシアからテューリンゲンの大叔母のもとへの飛行、

戦争末期最愛の父の死。

 

戦後の飢餓と苦難の時代(苦いドングリのスープ、イラクサの葉っぱ、
小さな鍋1杯だけの根菜)。
私たちの素晴らしい母(ミュライン)は、音楽院で教鞭をとり、
「買い出し」をして生きていくために必要なものを
手に入れてくれました。逆境こそが私の最大の教育手段だったと、
母は後に語っています。

 

母は、ヴォルフガングのチェロを買うため、宝石を売るなど、
非常に困難な状況にもかかわらず、子供たちに一流の音楽教育を
施しました。

 

ヴォフガングと私の類似点は他にもあります。
クラインマハノーの同じ小学校に通い、
ツェーレンドルファー・ギムナジウムを卒業、
ベルリン音楽大学(現在の Udk ベルリン芸大)で一緒に学び、
ボリス・ブラッハーにアナリーゼを師事。
リヒャルト・クレムとエンリコ・マイナルディに二人で学び、
ARDミュンヒェン国際音楽コンクールを含むコンクールで
共に優勝し、昨年2020年まで二人で演奏旅行を行いました。

 

ヴォルフガングの妻はレギーネ・フォルマー(旧姓)、
私の夫はミヒャエル・トレーデです。
この二人は私たちの名付け親である音楽家の
エーベルハルト・プロイスナー(ザルツブルク・モーツァルテウム
元学長)と私たちの父のハンス・ベッチャーと深い関係があります。

 

 

 

 

ヴォルフガングと私はともに、4人の娘と1人の息子があり、
その中にはウォルドルフを卒業して成功した
マリー・ベッチャー・コッゲ(ヴァイオリニスト、
Participation music のディレクター)とターニャ・トレーデ
(ヴァイオリニスト、ハーグの Resident Oktest,Den Haag に在中)
がいます。
私たちにとって、最も関心が深いのは、音楽、家族、自然、宗教、
文学です。

 

ヴォルフガングは、傑出した世界的に人気のある教師として、
国際的に大活躍をしました
(彼は「若い人たちと音楽的な仕事をすることが許されるのは、
神の恵みです!」と語っています)。

 

ソリストとしては(主要な)チェロ作品のすべての曲を演奏し、
室内楽奏者としては「ベルリンフィルの12人のチェリストたち」
共同設立者であり、「ブランディス・カルテット」のメンバー
でもありました。

 

オーケストラ奏者(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の
ソロ・チェリスト)として、あらゆる音楽センターや音楽祭で、
カラヤン、チェリビダケ、フィッシャー=ディースカウなどの
偉大な指揮者と共演しました。

 

ヴォルフガングは、非常に献身的で、心が温かく、前向きで、
情熱的で、ユーモアがあり、控えめで、運動神経が良く
(マラソン 7回!)、
素晴らしい人でした。
その音楽性と独特のチェロの音色は、聴く人すべてに親近感を
与えました。

 

 

 

 

★"Vergangen nicht, verwandelt ist,was war"(Rilke)
    "Don't pass by, what was is transformed"(Rilke)

 
★Wir sollen nicht in Trauer versinken,dass wir ihn verloren haben,
sondern dankbar sein dafur,dass wir ihn haben duruften
                       (Hieronymus)
 
 We should not sink into mourning that we have lost him,
 but be thankful that we were allowed to have him (Jerome).


私たちは、彼を失ったことを嘆くのではなく、
彼を持つことができたことを感謝しなければなりません
                   (ヒエロニムス)

 

 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■映画「レンブラントは誰の手に」(原題 My Rembrandt)と ピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」■

2021-05-02 18:51:13 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■映画「レンブラントは誰の手に」(原題 My Rembrandt)と
         ピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」■
   ~アカデミアミュージックでファクシミリ特集開催中~
             2021.5.2 中村洋子

 

 

 

 

★イタリア出身の女性歌手 Milva ミルバさんが亡くなりました。

81才でした(1939.7.17~2021.4.23)。

ミルバは、2002.5.16~19、東京のオーチャードホールで、

Astor Piazzolla アストル・ピアソラ(1921~1992)作曲の

オペリータ(小さなオペラ)「MARIA DE BUENOS AIRES 

OPERA-TANGO ブエノスアイレスのマリア」に出演しました。

「昨日のように」という手垢の付いた表現がありますが、

その実演を聴きました私には、全くその通りで、

昨日のことのように、ミルバの歌った主役のマリアを、

忘れられません。


★「脳裏に焼きつく」という常套句もぴったりです。

舞台は洗練されたパリやローマではなく、

南米アルゼンチンのブエノスアイレスの裏町。

ごみごみした、腐臭すら感じられそうなそうな舞台でした。

臓腑から絞りだすような、ミルバの歌は、

時にはかすれ、時にはオーチャードホールを揺るがすような、

圧倒的な存在感でした。

20年近くの間、思い出し、反芻し、感動しています。


★ミルバの実演を聞いたのは、たった一度きり。

この公演のみでした。

コンサートは、どれもたった数時間の「対面」による

「音楽会」ですが、それを聴いた人の、心に生涯焼き付き、

離れないこともあります。

 

 

 


★コロナ禍で、時代の趨勢は、virtual バーチャルです。

virtual を辞書でひくと、「実体を伴わない 仮想的  擬似的」と

書いてあります。

演奏者と聴衆、そして両者を背後から支える作曲家が、

一体となって創り上げる、実態のあるコンサートは、

やはり尊いものだと思います。


★20年前の思い出から、ぐっと飛んで、2021年春のお話。

映画「レンブラントは誰の手に」(原題 My Rembrandt)

鑑賞しました。

http://rembrandt-movie.com/
https://www.youtube.com/watch?v=w5YWYlEDxhY

2019年のオランダ映画、ドキュメンタリーでしたが、

実に巧みに構成された楽しい映画でした。


★2018年、競売に出された『若い紳士の肖像』を、

「レンブラントの作品だ!」と、確信した若い画商が、

およそ800万円ほどの金額で落札したのが、事の発端。

その画商ヤン・シックス11世は、実に表情が豊かな人物で、

その絵画が本物かどうか、真贋論争の紆余曲折を経る間、

希望に燃えたり、落胆したり、迷ったり、まるで一流の

俳優さんのようです。


監督のウケ・ホ-ヘンダイクは、カメラを通して、その人の人格、

人間性を抉り取るところは、まるで現代のレンブラントかしら。


★この映画の構成は、名曲の作曲技法によく似ています。

『若い紳士の肖像』の真贋騒動が、中心となる「第1主題」

「第2主題」や「エピソード(嬉遊部)」、「間奏曲」として、

レンブラントの他の名画数点が、巧みに散りばめられています。

さらに、その個々の名画にまつわる人間模様がとても面白く

ヨーロッパの歴史の勉強しているような思いです。

 

 

 

★例えば、レンブラントの絵画を何枚も買い上げ

それらを、ルーブル美術館に寄贈したアメリカの大富豪

「寄付」という行為により、自分の名前を後世に残すことができ、

名誉欲を十全に、満たすことができたのでしょう。

ちょうど Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)に、

支援と引き換えに、作品を「献呈してもらった」多くの貴族や

富豪のご婦人たちのように。

このアメリカの大富豪は、購入したレンブラントの人物画に、

「キスをした」とも、打ち明けます。

購入欲に取り付かれる前は、「絵画に興味がなかった」と、

正直に告白しています。


★しかしホーヘンダイク監督は、彼を冷たく突き放して

描くことはせず、どこかユーモラスに、喜劇的に撮っています。

佳きエピソード(嬉遊部)ですね。


★対する物静かなイギリス紳士、バックルー公爵は、

レンブラントの、極めつけの名画といえる『本を読む老女』を、

自分の住む、古い大きなお城の居間の壁に掛け、

毎日その下で、優美なランプを灯し、静かに本を読んでいます。

趣味の極みでしょう。


★昔、お城に強盗が入ったので、公爵の父親は、

その絵を、壁の高い所に架け替えてしまっていたのですが、

彼は部屋の模様替えをし、絵画を暖炉の真上に掛け直します

薪を暖炉にくべ、ソファーに身を沈め、傍らにゆらゆら輝く炎。

"家族"である『本を読む老女』は、公爵をいつも見下ろし、

公爵も、老女に見守られることで、心の安寧を得られるようです。

読書の夜は、静かに過ぎていきます。


アメリカの陽気な大富豪と、イギリスの端正な貴族。

正反対の性格を持つ、二つの嬉遊部、上出来なcompositionです。

私は「絵画にキス」や「暖炉の上の絵画」は

少々絵画にとっては「危ないなぁ」と思いながら、見ていました。

 

 



 


税金を支払うために二点の Rembrandt 作品

『「マールテン」と「オープイェ」夫妻の肖像画』を、

売却することにした、フランスの筋金入りの大富豪

エリック・ド・ロスチャイルド男爵は、第2主題でしょうか。

日本円にして200億円のこの絵画二点をめぐって、

「ルーブル美術館」と「アムステルダム国立美術館」が、

政治家も入り乱れて、大争奪戦。

ロスチャイルドのお殿様は、さすがに鷹揚なお人柄です。


★この映画は Rembrandt の絵画を観る映画ではなく、

Rembrandt が観たであろうような「人間」を観る映画でした。

登場人物は皆、21世紀を生きる人たちですが、

レンブラント時代の人間と、それほど変わることはないでしょう。

そしてその人々は、腐臭漂うブエノスアイレスの、

裏町のマリアとも、ちっとも変わりはないと、私は思います。

この映画で、気の遠くなるようなお金に翻弄される人たちを

見ていますと、つくづく、私は音楽家、それもクラシック音楽家で

よかった、と思います。


★勿論、大作曲家の 「Manuscript Autograph 自筆譜」

手に入れるとなると、天文学的なお金がいるのでしょうが、

現代は、精巧なファクシミリが入手できますので、

Bachの息吹、筆遣いを実感しながら、

「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」を、

難なく、勉強できます。

 

 

 

 


★私はこれから、その「Wohltemperirte Clavier」とともに、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

「Die Kunst der Fugue フーガの技法」の勉強を、更に深めて

いかなくては、と思っているのですが、

「Die Kunst der Fugue 」のファクシミリが、

近年入手困難で困っていました。


★1冊は昔に購入して所持しているのですが、勉強するときは、

自筆譜ファクシミリに、ボールペン、サインペン、色鉛筆、

鉛筆などで、どんどん書き込みをしていきますので、

どうしてももう1冊、何も書き込みのない、

無傷のファクシミリが、必要となってきます。

もう1冊欲しいなぁ、と願っていたところ、

最近「アカデミアミュージック」のファクシミリフェアで

これを発見し、早速求めました。(フェアは5月5日まで)

http://www.academia-music.com/user_data/sale_facsimile_2021spr_1
http://www.academia-music.com/user_data/sale_facsimile_2021spr_2
http://www.academia-music.com/user_data/sale_facsimile_2021spr_index


★この「Die Kunst der Fugue フーガの技法」のファクシミリは、

当然、Bach が手で書いた楽譜と全く同じサイズ、色も違わず、

本物そのままです。

近々また品切れしそうな雰囲気ですので、やっと心置きなく

これで勉強できると、安堵しています。

今回、このフェアにもあります Chopin の「ワルツOp.64/2」

について、書こうと思いましたが、これについては

また後ほどにします。


「ワルツOp.64/2」は、ピアノの発表会でよく弾かれる

Chopin 入門曲のように思われていますが、

実は "花の陰に隠れた大砲" です。

「自筆譜ファクシミリ」は、書棚に飾るものではなく、

ピアノの譜面立てに置き、勉強するためにあるものです。

 

 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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