★ドイツで 12月に、私の旧作( 未出版 )を、演奏していただくことになり、
楽譜を準備していましたが、いろいろと手を加えたくなり、
暫く、その旧作と格闘しておりました。
このため、ブログの更新が滞っていました。
★以前、ブログでお知らせいたしましたように、
ドイツで出版する曲の、校訂作業を、緻密に、濃密に、
編集者と議論しながら進めた後であった、ということもあり、
自分の作品を、編集者の目で客観的に厳しく、
距離感をもって、見ている自分に気付きました。
とても、いい体験でした。
★この格闘の結果、この旧作を correct & polish することができました。
correct は、♯、♭、タイ、ナチュラルなどのミスがあれば直し、
さらに、演奏者により正確に伝わるように、厳格に書き記すことです。
polish は、「 推敲 」 に当たります。
★今回、自分でも、とても驚いたことがあります。
メトロノームで表記していましたテンポが、
とても 「 速く 」、書かれていたことです。
自分で書きながらも、私が求めるテンポより速かったのです。
★よく 「 作曲家のメトロノームが狂っていたのではないか 」 と、
言われることが、あります。
最もよい例は、Schuman シューマンの 『 Kinderszenen 子供の情景』 にある
「 Träumerei トロイメライ 」 です。
Beethoven ベートーヴェンや、 Cerny チェルニーでも、
同様の指摘が、あります。
★それはどういうことか、と考えますと、
作曲家は、作曲に没入していますと、心理が、ある種の興奮状態に陥ります。
客観的にみて、 「 速い 」 テンポを記入しましても、
それでも、まだ “ ゆっくり ” である、と感じ、さらに 「 速く 」 するのです。
★このような 「 作曲家の心理 」 を知ることは、
自筆譜第一稿・・・第二稿・・・第三稿・・・最終稿、
初版譜・・・第二刷・・・などの段階で、必ず次々と相違が出現します。
それを、どいう読み解き、解釈するか、その一つの重要な手掛かりが、
上記の 「 作曲家の心理 」 です。
★私は、ある曲を分析する際、自筆譜ファクシミリを見ることが可能であれば、
それを、第一資料とします。
その自筆譜と出版譜とを比較し、その過程で correct されたものが、
何であり、作曲家の意図どおりに correct されているか、
判断することが、大変に重要となります。
★それを判断する基準は、何度も繰り返し、堂々巡りになりますが、
≪ どのような構造物 ≫ として、その曲が作曲されているか、
それを知ることが、大前提です。
そのためには、ショパンを例にとりますと、
ショパンによる 「 平均律クラヴィーア 」 への書き込みを分析し、
≪ ショパンが、Bachをどう見ていたか ≫ という、
作曲家としての個性を、知るのです。
★明 28日 ( 日 ) は、Kawai横浜 「 みなとみらい 」 で、
「 ショパンの見た Bach平均律・アナリーゼ講座 」
第 1巻 7番 変ホ長調 Es-Durを、開催いたします。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20120923
★上記のような体験をした後、ショパンの書き込みのある、
Bachの平均律クラヴィーア曲集を子細に見ますと、一層、
ショパンの分析と、それに付随して、
ショパンその人の音楽も、読み取ることができるのです。
また、新しい興奮を覚えました。
★一例を挙げますと、
ショパンは、7番前奏曲の冒頭 に、「 p 」 を、記入しています。
そして、3小節目 2拍目に、「 cresc. 」 を、書き込んでいます。
ということは、1 ~ 3 小節目冒頭までは、「 p 」 ということですが、
1小節目 3拍目 2分音符 des2、2小節目 3拍目 2分音符 f2、3小節目 3拍目 as2 に、
アクセント記号を、付けています。
★これは 「 p 」 の中で、「 des2、 f2、 as2 」 が、
さざ波に浮かび上がるような効果を、出します。
さらに、3小節目の 「 cresc. 」 は、5小節目 3拍目で 「 f 」 に到達します。
そのときのソプラノ2分音符は、「 c3 」 です。
★この 「 des2、 f2、 as2 」 という、
3度ずつ階段を昇っていくような上行が、何を意味しているのか、
それは、講座で詳しくお話いたしますが、
ショパン自身が、惚れ惚れするような美しい演奏をしていたであろうことが、
容易に、想像できます。
実に、見事です。
★「 des2、 f2、 as2 」 を解くヒントを、一つお話いたします。
11、12小節目の内声の音符について、ショパンは、
その符尾を青鉛筆で色を付け、強調しているのです。
★さらに、21小節目と 23小節目の内声の 二音についても、
青鉛筆で、色付けしています。
★同じ 21、 23小節目の Bass 4拍目、タイで結ばれた音の次の音が、
それぞれ、「 2 」 と fingering されています。
これらすべてを、統合して見ますと、
ショパンによる、 ≪ 大きなアナリーゼ ≫ が、厳然と出現するのです。
★ たとえ録音が残されていなくても、ショパン自身がどのように、
素晴らしく演奏したか、その響きと根拠を、
講座で、お話いたします。
★私は、バルトーク校訂 「 平均律クラヴィーア曲集 」 の、
天才的な読みの深さに、いつも驚嘆していますが、
バルトークは、Bachの自筆譜を見ています。
★しかし、ショパンは、自筆譜を見ていないはずです。
「 誤植だらけの平均律クラヴィーア楽譜 」 しか、持っていませんでした。
にもかかわらず、
なぜ、かくも、バッハの本質に切り込んでいくアナリーゼが出来たのでしょうか。
真の天才としか、やはり、言いようがないでしょう。
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