音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ショパン「 Preludes Op.28 24の前奏曲」の謎めいた≪2番≫は、何調?■

2017-11-23 21:46:40 | ■私のアナリーゼ講座■

■ショパン「 Preludes Op.28  24の前奏曲」の謎めいた≪2番≫は、何調?■
            2017.11.23 中村洋子

 

 

★昨日のブログの続きです。

Chopinの「24 Preludes Op.28」の「Nr.2 第2番 Lento」の

調性は何なのでしょうか?


★まず、この曲集の「調性配分」を考えます、

ごく機械的に列記しますと、このようになります。

1番 C-Dur 
2番 a-Moll
3番  G-Dur    ♯1つ
4番  e-Moll    ♯1つ
5番  D-Dur    ♯2つ
6番  h-Moll    ♯2つ


★このように、13番まで調号の「♯」が1つずつ増えていきます。

13番の「♯6個」をもつ「Fis-Dur」を最後に、

14番から「♭」系の調号に転じます。

14番 es-Moll   ♭6つ
15番  Des-Dur  ♭5つ
16番  b-Moll     ♭5つ
17番 As-Dur   ♭4つ        

というように、「♭」が1つずつ減っていき、

「24番 d-Moll」は「♭1つ」で全曲を閉じます。


★余談ですが、Bachの「インヴェンション Inventionen」

の初稿でもある

≪Klavierbüchlein für Wilhelm Friedemann Bach
 ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集≫は、

「Inventio」という名称ではなく、「Praeambulum プレアンブルム」

であったばかりではなく、曲順も、

C-Dur、 d-Moll(♭1つ)、e-Moll(♯1つ)、F-Dur(♭1つ)、

G-Dur(♯1つ)、a-Moll(0)、 h-Moll(♯1つ)・・・となっています。

 

 

 


各曲の主音を順に並べますと、

 

 

C-Dur の音階が形成されるように、設計されています。


★お話をChopinに戻しましょう。

2番は、調号に「♯」も「♭」もありませんので、

「a-Moll」であるといえましょう。

しかし、その冒頭を聴いた限りでは、およそ「a-Moll」には、

聴こえません。


「a-Moll」 ですと、「ドミナントⅤ」で開始するのが、

常識的でしょう。

2番冒頭の1、2、3小節は、 「E-G-H」の短三和音ですが、

 

 

「a-Moll」の「ドミナントⅤ」としますと、

「E-Gis-H」の長三和音になります。

 

 


★陰鬱な、冬の雲が重く立ち込めたような、

冒頭1、2、3小節の「G」に 「♯」 がついて「Gis」になる

ということは、ありえないことです。


★この2番を弾く人、聴く人にとって、冒頭1、2、3小節は、

まぎれもなく「e-Moll」でしょう。

そして、前回ブログでご説明しましたように、

6小節目で、重い冬の雲から一条の陽が射し込むように、

「G-Dur」が顔を覗かせます。


冒頭の「e-MollのⅠ」と思わせた和音を、

「G-Durの Ⅵ」に読み替え、易々と転調する。

 

 


★これにつきましては、私の著書

≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の133ページ、

http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/1006948955

「f-MollのナポリのⅡの和音を、b-MollのⅥと読み替えるBachの天才」

を、お読みください。

 

 


★この「読み替えの技法」こそ、ChopinがBachから学んだものであり、

そして、あの素晴らしいChopinの和声を創造したのです。

そのカギの一つが「Ⅵの和音」なのです。


★併せて、私の著書の「Chapter 4」 100~134ページも、

お読みください。


★それでは、「e-Moll」から「G-Dur」に転じた後の調性は、

どうなるでしょうか。

8、9小節目は、3、4小節を若干の変化を加え、5度高く移動し、

対応させています。

 

 


★Chopinの自筆譜をよく見ますと、ここの部分で推敲を重ね、

和音を消した跡があります。


★この8小節目のみを見ますと、これは「h-Moll」の「Ⅰの和音」に、

聴こえます。

しかし、9小節目は、「D-Dur」です。

即ち、8小節目の「h-Moll」の「Ⅰの和音」を、

「D-DurのⅥ」と読み替えて、またまた「e-Moll」から、

するりと「D-Dur」に転調してしまいました。

 

 


★ここまでを、整理しますと、調性の変遷は、

e-Moll → G-Dur → h-Moll → D-Dur となり、

 

 

各調の主音を順に並べますとお行儀よく、3度ずつ上昇していきます。

Chopinが、いかにBachの平均律「序文」を、深く読み込み、

己が芸術に昇華させたことか、よく分かります。

 

 


2番は、全23小節ですが、「a-Moll」の主和音が顔を出すのは、

やっと、15小節目です。

1曲の半ば過ぎてからです。


★もう一度、1小節目に戻ります。

Chopinは何故、「e-Moll ホ短調」でこの曲を始めたのでしょうか。

1、2、3番の冒頭を見ますと、その答えが分かります。

1番は、「C-G-e」の「C-Durの主和音Ⅰの解離配置」、

 

 


2番は、「E-H-g」の「e-Mollの主和音Ⅰの解離配置」、

 

 

 


3番は、「G-d-g-h」の「G-Dur 解離配置と密集配置のミックス」。

 

 

1、2、3番の冒頭開始和音を、列記しますと、以下になります。

前回ブログに書きましたように

この1、2、3番の調性の主音、即ち、「C-E(e)-G」を、

和音構成のように垂直に並べますと、

「C-Dur ハ長調」の主和音が、形成されるのです。

 

 

これを聴き手に強く印象づけるため、Chopinは、2番冒頭の和音を、

「e-MollのⅠ」と、したのでしょう


★結論としまして、この2番はまず、

Bachの、「調性とは何か」という命題を追及した「平均律第1巻」に、

立脚した曲であることは、間違いありません。

そして、そのChopinのアプローチを解くカギは、

この2番に存在します。


★そう考えますと、この2番について、

冒頭の調号のみを見て、「♯」も「♭」も付されていないため、

「a-Moll」である、と判断するのは早計です。

 

 


★では、2番は何調なのでしょうか?

虚心に、Chopinの音楽に耳を傾けるのであれば、

≪e-Mollに始まり、a-Mollに終わる≫と解釈することが、

24曲の全体設計を考えるうえでも、最も適切であると、

私は、思います。

「a-Moll」と決めつけますと、せっかくの Chopin の天才的意図を、

見通すことはできなくなるでしょう。


★来年1月20日の「平均律第1巻1番アナリーゼ講座」で、

これについて、少し触れる予定です。

 

 


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■ショパン「Preludes Op.28」の驚くべき調性配置、そのお手本とは?■

2017-11-22 12:22:57 | ■私のアナリーゼ講座■

■ショパン「Preludes Op.28」の驚くべき調性配置、そのお手本とは?■
~カワイ表参道で≪ベーレンライター平均律1巻・解説本≫を大きく展示~
            2017.11.22   中村洋子

 


★日没がどんどん早くなります。

夏ならまだ散歩をしていた時間なのに、日はとっぷりと暮れています。

≪茶の花のわづかに黄なる夕べかな≫蕪村


★「お茶の花」は、山茶花に似て白い花びらに黄色い雄蕊、

白く可憐な花びらからこぼれんばかり。

淋しい秋の夕暮れに、

しなやかな黄色の絵の具を、一滴落としたようです。


★先月、出版しました私の

「ベーレンライター原典版・平均律第1巻楽譜」解説書が、

「カワイ表参道」1Fの楽譜売場でも、楽譜棚の1マスを使って、

展示されました。

初冬の一日、青山、表参道にお出掛けの折に、

どうぞ、お立ち寄りください。

 

 


★今日は、 Chopin の「24 Preludes Op.28」の自筆譜を見ながら、

ピアノを弾き、楽しみました。

そして、また新鮮な発見がありました。


1番 Agitato は、Bach「平均律第1巻1番」 Prelude の、

見事な賛歌 homage です。

 

 



★この1番「C-Dur ハ長調」 に続く2番は、何調でしょうか?

これは大変不思議な曲で、曲の開始は「e-Moll」で、

終止は「a-Moll」になります。

この不思議さについては、別の機会にご説明しますが、

曲の冒頭を聴いた限りでは、どなたも「e-Moll」と、

判断されるでしょう。

 

 ★「e-Moll」とみせかけ、6小節目で鮮やかに「G-Dur」に

転調します。

この「G-Dur 」は、第3番Vivaceの調でもあるのです。

Chopinの自筆譜は、見開き2ページの左ページに2番、

右ページに3番を記譜しています。

やや陰鬱な2番の6小節目を弾いているとき、否応なく、

右ページの初夏の太陽のような、晴れやかな3番が、

目に飛び込んできます。

2番の6小節目は、2段目冒頭にあり

それに対応する3番の2段目冒頭は、5小節目です。

そこを見ますと、3番5小節目下声部は、

あたかもBachの「無伴奏チェロ組曲第1番」の冒頭を思い起こさせる

ような、「G-Dur」の主和音です。

見事な対応です。

 

 


6小節目の「G-Dur」から見ますと、

冒頭「e-Moll」の主和音は、「G-Dur」の「Ⅵの和音」です

これは、Bachがよく使う転調の技法でもあります。

ここで、聴く人は「e-Moll」と思って聴き始めたところ、

するりと「G-Dur」に転調し、なんと最後は「a-Moll」に、

着地する、この技法は、まさに “Bachマジック”

そのものです。

 
★この2番には、1番「C-Dur」の3度上の「e-Moll」、

そして、3度下の「a-Moll」が含まれているばかりか、

属調である「G-Dur」すら内包されている、

非常に複雑な曲ですが、読み解き方としては、

平均律「序文」にある「3度の定義」に帰結します。

この冒頭の「e-Moll」を仮に、2番の調として考えますと、

下記のようなChopinのアイデアが、浮かび上がってきます。

 




★2番の調を、1番「C-Dur ハ長調」の主音「C」から

長3度上の「e」を主音とする「e-Moll ホ短調」と仮定します。

それでは、3番は?

 



「e-Moll ホ短調」から短3度上の「G」を主音とする

「G-Dur」です。


★1番と2番、2番と3番の調性は、「3度の関係」
にあります。

これは「ベーレンライター原典版・平均律第1巻楽譜」解説書の、

Bach「序文」の解釈で、ご説明いたしましたように、

Bachが規定した「3度」音程の意味を、

Chopinが、熟考したうえで、配置した調性です。


★その上、1、2、3番の調性の主音、即ち、「C-E(e)-G」を、

和音構成のように垂直に並べますと、

何と、「C-Dur ハ長調」の主和音が、形成されています。

2番の冒頭が「e-Moll」であると判断しました理由は、

ここにあります。

Chopinは、この1、2、3番で耳から、「C-Dur」の

主和音を聴き取って欲しかったのでしょう。

 





平均律第1巻を研究し尽した Chopin は、

自分の「24 Preludes Op.28」に、

その内容を反映させただけでなく、

配置をも、Bach「序文」の意味を踏まえた上で、

Chopinの天才を羽ばたかせながら、構想したといえましょう。


★それでは、続く「4番」は、どうなっているのでしょう。

 

 

Chopin自筆譜4ページ上半分に、

3番の21小節目から33小節目までが、大譜表3段にわたって、

記譜されています。

そして、4ページ下半分に、続く4番の全25小節が、

細かくびっしりと書き込まれています。

 

★このように1ページの中に、二つの曲が書き込まれているのは、

この自筆譜では、その他に「37ページ」があるだけです。

37ページは、上半分に23番の19~22小節目まで、

即ち、23番最後の4小節が書き込まれています。

更に、その下に、24番の1~11小節目が、ページを改めずに、

書かれています。


★この「3番から4番」、「23番から24番」以外の、

5、7、9、10、11、15(有名な雨だれ)、18、21番は、

曲が終わった後、五線紙に余白があっても、

次の曲を書き込んではいません。

次の曲は、次ページ冒頭から始めています。


★第18番にいたっては、自筆譜18ページで、

大譜表3段を使って、13~21小節を書き切った後、

その下の五線5段分を、余白として残しています。

そのうえ、19ページは全く空白になっています。


第19番は、次の20ページから始まります。

この気迫に満ちた18番を作曲して、書き切った(弾き切った)後、

大きな深呼吸をして(19ページすべてが空白)、

第19番「Es-Dur 変ホ長調」 Vivace を、

新たな気持ちで始めたのでしょうね。

 

 

 

★お話を「4番」に、戻しましょう。

自筆譜4ページの上半分が、3番の後半です。

そして、4ページの下半分に4番の全25小節が、やや窮屈そうに、

びっしりと、書き込まれています。


★Chopinは、紙を節約したのでしょうか?

しかし、もしそうであるなら、BachやChopinを筆頭に、

大作曲家は吝嗇家が多いということに、なりそうです。


★私は、吝嗇家であると思ったことは、全くありません。

知性が合理を引き寄せた結果であると、

思っています。


3番と4番の調性は、3番の「G-Dur」に対し、

4番は「e-Moll」、平行調の関係です。

もう一度、おさらいします。

1番 C-Dur  e-Moll  G-Dur  e-Moll です。

1、2、3番は、C e Gと、3度づつ上昇していきますが、

4番 e-Moll で後ずさりしたような印象です。

 

 

★1、2、3番が、3曲でがっちりと一組となっているのに対し、

4番は、どういう役割を担っているのでしょうか?


★その答えは、Bachの「平均律第1巻」の「序文」に、

見出すことができます。

そして、それを解き明かすヒントは、1番と4番の上声部にあります。





4番から、新しい1セットが始まったこと。

そして、新しいセットの出発点である4番は、実は、

「1番から生まれ出ている」、ということが分かります。

Chopinは、このような考え方を、Bachの平均律から、

学んでいるのです。


★そして、4番が新しい1セットの開始の曲であっても、

1番から途切れることなく、続いていることを、

何より、作曲家のChopinが強く意識しているからこそ、

3番が終わったそのページから、4番を始めたのでしょう。


 

 


★そうしますと、前回のブログでご説明しましたように、

平均律第1巻は、全24曲ではなく「全1曲」であり、

同様にChopinの Prelude も、全24曲ではなく、

「全1曲」ということになります。


★この平均律第1巻「序文」については、今回、出版しました

「ベーレンライター原典版・平均律第1巻楽譜」添付の「解説書」で、
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/

詳しく解説しました。

また、来年1月20日の「平均律第1巻1番」アナリーゼ講座でも、
http://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html

ピアノで実際に音を出しながら、この「序文」の意味を、

具体的に、更に深めていく予定です。

 

  

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■銀座「山野楽器」3F楽譜売場で、≪ベーレンライター平均律「解説書」付≫を特集■

2017-11-15 15:18:21 | ■私の作品について■

■銀座「山野楽器」3F楽譜売場で、≪ベーレンライター平均律「解説書」付≫を特集■

           2017.11.15  中村洋子

 

 

 

★北国では初雪の便り、山々には初冠雪、

次々と、冬の便りが聞かれます。


銀座「山野楽器」本店3F、楽譜売場で、

私が「解説書」を書きました

≪ベーレンライター原典版「平均律第1巻」解説付き楽譜≫が、

平台で大きく、展示されています。

「解説書」のサンプルも手に取ってご覧になれるよう、

準備されています。

 

 

 


★私の著書の≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫

≪ベーレンライター「ゴルトベルク変奏曲 :クラヴィーア練習曲集第4部≫

日本語解説付も、同様に展示されております。

銀座にお立ち寄りの際は、どうぞご覧ください。

 

★「霜の花」という、美しい日本語があります。

私が作曲しました「無伴奏チェロ組曲第2番第4曲」は、

「霜の花」を、頭に浮かべて書きました。

この言葉は、真っ白に積もった霜のはかない美しさを、

花に譬えています。


★この楽譜は、

「Musikverlag  Ries & Erler  Berlin  リース&エアラー社」から、

出版されていますが、当然、日本語の表記はありません。

ただ、表紙はもの珍しいのか、漢字がデザインとして使われています。

http://shop.rieserler.de/index.php?cat=c90_Violoncello-solo-Violoncello-solo.html&sort=&XTCsid=a615a02d02b8c7474c8ec2e14b616e87&filter_id=729

http://shop.rieserler.de/product_info.php?info=p2917_suite-nr--2-fuer-violoncello-solo.html

http://www.academia-music.com/html/page1.html?s1=Nakamura%2CY.&sort=number3,number4,number5

http://www.academia-music.com/shopdetail/000000154722/


★「霜の花」をそのまま訳しても、ドイツ人には何のことか

分からないでしょう。

英語で「Frosty Flowers」としても、同様に意味をなしません。

そこで、いささか情緒には欠けますが、

「Frostige Nacht - Frosty Night」と、しました。

これが最も直截な訳といえましょう。


★霜が降るのは、しんしんと冷えた夜。

翌朝、美しい霜の花が咲き、朝日に輝きます。

それもつかの間です。

 

 

 
★是非、楽譜を見ながら、CDをお聴きください。

http://diskunion.net/diw/ct/list/0/72362809

http://diskunion.net/diw/ct/detail/1006437641

★出版された楽譜、それも自分の作品を手書きで写す、

ということは、なかなか面白い体験です。

 

 


Bachは65年の生涯で、出版された曲はごく僅かでした。

これにつきましては、私の平均律第1巻「解説書」の

18ページを、お読みください。

Bachが生前、自らの意思で出版した

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

 「Manuscript Autograph 自筆譜」が行方不明です。

同じく生前出版の「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」も、

自筆譜は失われています。

二つとも、彫り師Engraverに渡した「自筆浄書譜」が、

不明ということです。


★作曲家は、自分の曲が出版されますと、安堵するものです。

たとえ自筆譜が不明でも、出版物により、その作品は確実に

生き残るからです。


★Bachがそうであったかは、断定できませんが、

出版により、その作品の生命が保証されたと、思うことは、

間違いではないでしょう。


★そのような見方からしますと、生前に出版されなかった

 「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」の自筆譜を、

Bach本人、そして息子たち家族やお弟子さんたちは、

出版されるまでの約50年間、

どんな思いで大切に扱っていたかは、想像に難くありません。


★その自筆譜にこそ、平均律の心髄が宿ることは、

言うまでもないことです。

それをどう理解し、演奏や鑑賞に活かすかを、

今回出版されました、私の「解説書」に詳しく、書きました。

 

 

 

★私は、生活環境にクラシック音楽がほとんどない環境で、

育ちました。

しかし、1980年代ごろまでのNHK/FM放送は、現在と異なり、

クラシック音楽に対して、畏敬にも似た尊敬と愛情をもった方々が、

担当されていたと、思います。

クラシック音楽の放送時間もとても長く、歴史的な名演奏なども

熱意ある解説とともに時折、放送されていました。

それらを聴くことで、知らず知らずのうちに、

クラシック音楽の基礎的知識が、身についていきました。

服部幸三先生の「バロック音楽の楽しみ」や、

河本喜介先生の、フランス歌曲に対する、

愛情溢れたお話は、いまでも懐かしく、耳に焼き付いています。


★しかし、最近はどうでしょうか?

孫引きを淡々と読み上げるだけの、若い解説者のお話からは、

「クラシック音楽はなんて素晴らしいのだろう!」という、

情熱や感動は伝わってきません。

取り上げられる演奏家も、“いま売り出しの”という類ばかりです。

現代の若い世代の方々は、“どう勉強していいのか”

分からないのではないかと、心配になります。


クラシック音楽の魅力に、目と耳と心を奪われ、

もっと深く知りたい、学びたいという方に対し、

「独学」、つまり「自力」で、

平均律の勉強法が習得できることを願い、

私は平均律第1巻「解説書」を、書きました。


★ここで書きました、「自筆譜の読み方」を、ご自分で応用され、

是非Bachの圧倒的な、音楽の豊かさを味わっていただきたい、

と思います。

 

 


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■ベーレンライター平均律第1巻楽譜に添付の「解説書」を出版しました■

2017-11-11 19:22:46 | ■私の作品について■

■ベーレンライター平均律第1巻楽譜に添付の「解説書」を出版しました■
  ~「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり」も第3刷を刊行~
  ~来年1月から、新しい「平均律第1巻アナリーゼ講座」を開催~

            2017.11.11        中村洋子

 

 


★今月は、1日の「十三夜」に秋の月を愛で、7日ははや立冬」

11月も、もう半ばです。

銀杏の葉の黄金色と、ツワブキの花の黄とが、

天と地で呼応しています。


私が解説を書きました

  【ベーレンライター原典版  
    バッハ、平均律クラヴィーア曲集 第1巻
       日本語による詳細な解説付き楽譜】 が、

 このほど出版されました。  
      http://www.academia-music.com/
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/

 

 

 

★楽譜に添付されたこの「解説書」では、

まずは、Bachが自ら書き記した、わずか21行の【序文】を翻訳しました。

しかし、この「序文」は謎解きのような文章であるため、

そのまま訳しましても、Bachが言いたかったことを、

現代の私たちは、とうてい理解できないと思われます。


★この「序文」は、簡単に申しますと、

≪「平均律第1巻」がどのような曲集であるか≫、

を規定しているばかりか、

≪「調性」とは一体何であるのかを、Bachが定義している文章である≫、

と言うことができます。


★「解説書」では、どなたがお読みになっても、それを理解できるよう、

詳細に分析し、ご説明いたしました。

この試みは、これまで、あまり例がないと思います。

 

 


★これは、衒学や、

音楽学者の陥りがちな、重箱の隅をつつくような内容では

決して、ありません。


★この「序文」こそが、Bachを理解する出発点であり、

さらに、Bachのみならず、クラシック音楽の素晴らしい世界へと、

足を踏み入れることができる入口なのです。


★現在の日本で、“クラシック音楽” と言われる領域をみましても、

ケバケバしい、厚塗りの “クラシックもどき” が、

巷に、溢れています。

それらとBachの作品との距離は、月と地球ほどあるでしょう。


序文の意味を理解し、Bachと“クラシックもどき”との距離を

実感されますと、

「Bachを演奏することが、ますます楽しくなり、さらに、

鑑賞する際の、正しい道標にもなる」ことでしょう。

これは、Bachに限らず、クラシック音楽の名曲すべてについても、

同じことが言えるでしょう。

 

 


★「序文」の解説から導き出される結論は、

≪平均律第1巻は、全24曲ではない≫ということです。

では何曲なのでしょうか?


★≪平均律第1巻は、「1曲」なのです≫。

皆さまは、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」を

「全30曲」、または「アリアと全30曲」とは、おっしゃらないでしょう。

「Goldberg-Variationen」は、「1曲」です。


★「ゴルトベルク変奏曲」という名前も、Bachがあずかり知らない、

後世のニックネームです。

正式には「Clavier- Übung クラヴィーア・ユーブング(練習曲集)」

四部作の最後の1巻です。

 http://www.academia-music.com/shopdetail/000000174751/ 

http://www.academia-music.com/shopdetail/000000174750/

http://www.academia-music.com/html/page1.html?q=%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF&sort=number3,number4,number5&searchbox=1

 

★第1、2、3には、それぞれ「1巻」、「2巻」、「3巻」と書かれていますが、

「ゴルトベルク変奏曲」については、Bachは何故か、

「第4巻」あるいは「最後の巻」とは記入していませんでした。


★engraver(彫版士)の彫り忘れを、完全には否定はできませんが、

四部作の最後という位置付けから、更に一歩飛躍して、

「集大成」として、あえて、「第4巻」としなかったのではないか

とも思います。

 

 


★お話を戻しますと、

平均律第1巻の「序文」に記された1722年からほぼ20年弱後の、

1741~42年に出版された「ゴルトベルク変奏曲」を勉強しますと、

「平均律第1巻」、そして「ゴルトベルク変奏曲」とほぼ同時期に完成した

「平均律第2巻」をも、明確に理解することができます。


★私は、2016~17年の2年間にわたり、

全10回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」を開催し、

「ゴルトベルク変奏曲」を綿密に勉強することが、できました。


★それにより、平均律第1巻に対する見方が、これまでとは、

がらっと変わりました。

それが、今回出版しました「解説書」に、結実したとも言えます。


Bachは用意周到に、手抜き無く、

自分の生涯にわたる作曲の計画を練り、

たゆまぬ努力の上に、じっくり仕事を進めた人です。


★そのような視点で、Bachの作品群を勉強していきますと、

音楽学者による解説は滑稽なものが多いのです。

例えば、Bachの他の曲集について、

「この曲集は、書いた後、放置されていた作品を

寄せ集めて使っている」・・・など、可笑しさを通り越して、

憐みすら感じてしまいます。

これは、音楽学者の間で孫引きが繰り返された“定説”でも

あるのです。

 

 

 

 


★「大作曲家」が、どのように作曲を計画し、

作曲を積み重ねていくか、という工程を、

まるで分かっていないようです。

Bachは、その人の身の丈にあった「Bach像」しか、

示さないようです。


★私たちは、自分の「身の丈」を少しずつ、

Bachに近づけるよう、日々の努力が欠かせませんね。

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973) が、

毎朝、平均律を弾くことから一日を始めた、

この日課こそが、「身の丈」拡大の近道です。


★今回の「解説書」では、アルフレート・デュルの

「前書き」も、翻訳しました。

この「前書き」で示されたデュルの見解については、

説明不足の点も、かなり見受けられますため、

私は、それらの点について、詳細な「注釈」を施しました。


★例えば、デュルが「5度圏」と、一言だけ記述して済ませている

ところについても、この「5度圏」とはどういう意味なのか、

どなたでも理解できるよう、図も用いて説明し、

Bachが作曲していた当時、どんな意味があったのか

についても、踏み込んで書きました。


★また、17~20ページ(注17)では、

4番 cis-Moll 嬰ハ短調フーガを、Bach自筆譜から勉強しますと、

どんな発見があるのか、それが演奏や鑑賞に、どう役立つか、

具体的に譜例を用いて、詳しく解説しました。


★Bachが同型反復(ゼクエンツ)を、どう演奏して欲しいと、

望んでいたかも、これにより、分かってくることでしょう。


★この同型反復(ゼクエンツ)の扱いにつきましては、

21ページ(注18):7番 Es-Dur 変ホ長調の項でも、

更に発展させてご説明しました。


★これらを理解されますと、

Bachの「Manuscript Autograph  自筆譜 」 facsimile 読み方が、

知らず知らずのうちに、身につく思います。

秋の夜長に是非、じっくりお読みください。

 

 


★10月末には、私が昨年出版いたしました著書

≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり
     ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、
                  曲の構造、演奏法まで分かる~≫
                       (DU BOOKS刊)が、

「第3刷」の刊行となりました。

根強いご支持で、ジワジワと継続的にお買い求めいただいているようで、

とても嬉しいことです。


★来年1月からは、新たに「平均律第1巻アナリーゼ講座」も、

開催されます。
http://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html


★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」から、逆照射された

「平均律第1巻」は、今度はどんな輝きを見せてくれるのでしょうか。

この講座を一番楽しみにしているのは、実は、私なのです。

 

 


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