音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Inventionの頂点9番の「受難のモティーフ」は、どこから来たか■

2015-04-22 21:39:48 | ■私のアナリーゼ講座■

■Inventionの頂点9番の「受難のモティーフ」は、どこから来たか■
  ~ 中村洋子 BACHインヴェンション・アナリーゼ講座
       第9回 「Invention & Sinfonia 第9番 f-Moll」~

                                                            2015.4.22   中村洋子

 

 

★Bach ・Invention講座も、三分の二の道のりに、さしかかりました。

西洋クラシック音楽では、曲の三分の二のところに、

クライマックスを置くことが、よくあります。

ソナタ形式ですと、ちょうど、展開部が終わり、再現部に入るところです。

このインヴェンション、シンフォニアとも、

バッハは、曲集としての大きなクライマックスを、

この9番に置いている、と私は考えます。

 

★バッハの受難曲では、キリストが受難する場面が、頂点となります。

その受難を象徴する9番と、その前後の8番、10番とが、

どのような関係で、結ばれているか、

詳しく、お話いたします。

 

インヴェンション 9番は、「嘆き(エスプレッシーヴォ)の歌」。

シンフォニア 9番は、印象的な 「 半音階 」 のバスに、

歩行の音形がかぶさり、沈痛に曲が始まります。

 

 

 

★ロ短調ミサ曲や、平均律クラヴィーア曲集 1巻 24番などとの、

親密な関係についても、お話いたします。

 

★9番は深い内容ですので、

 子どもに与えるには早すぎる というのは、

大きな間違いです。

 

★宗教的な意識の有無を問わず、バッハの音楽は、

人類共通の、普遍の感情を表現しています。

誰が弾いても、美しく深く、音楽の真の喜びを、

味わうことができます。

人類にとって、かけがえのない宝物なのです。

 

 

★レッスンを始めて間もないお子様でも、無理なく弾けるような、

指導方法や、バッハのカンタービレ奏法とは、何か、

ソルフェージュに、どう応用するか・・・などを、

分かりやすく、ご説明いたします。

 

曲の構成を詳しく理解することによって、

バッハを弾くことが、さらに喜びに満ちたものとなり、

自信をもって弾くことが、可能になります。

 

 

-----------------------------------------------------------------------

     中村洋子・ Invention アナリーゼ講座

第9回 「Invention & Sinfonia 第9番 f-Moll」

日  時 : 2015年 6月24日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分 

会  場 :  カワイ金沢ショップ、南町5-9 
                                 ( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )

予 約 :   Tel.076-262-8236

------------------------------------------------------------

 ・次回  第10回 7月22日(水) 
                             Invention & Sinfonia 第10番 G-Dur

----------------------------------------------------------------
 ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

     東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
     日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

         2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

         07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

         08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

         08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

         09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
 
         10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                    全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

         10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
       Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

         11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

         13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
      ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
       ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
     「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

           スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
      自作品が演奏される。

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」         https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/                           で販売中。

       ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■平均律2巻5番、生誕の喜びに溢れるPrelude、ギリシャ彫刻を彷彿させるFuga■

2015-04-17 22:55:55 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律2巻5番、生誕の喜びに溢れるPrelude、ギリシャ彫刻を彷彿させるFuga■
~平均律第2巻・アナリーゼ講座、第5番 D-Dur  Prelude & Fuga~
              2015.4.18     中村洋子

 

 

★綿々と続く嘆きの「4番 cis-Moll」Prelude、

その悲しみに駆り立てられる「4番 Fuga」、

続く「5番 D-Dur」は一転、悲しみの影を吹き去り、

Preludeは、弾けるような生命力と喜びの躍動で、曲が始まります。


★同じ D-Durの「Weihnachts-Oratorium 、

Christmas Oratorio クリスマスオラトリオ BWV 248 」の曲頭、

5小節目から始まるトランペットの3声カノンと、

この2巻5番 Prelude冒頭1小節目の上声とは、

深い関係を、もっています。


★両者とも「生誕」の喜びを表していますが、

5番の Prelude & Fugaは、4番 cis-Moll で周到に準備された

motif モティーフの、驚くべき展開でもあるのです。

 

 


★5番 Fuga のSubjectは、これ以上ないほどまでに、

あたかも“ 彫刻刀 ”で、そぎ落としたようなフォルムです。

この Subjectを理解するには、「Invention & Sinfonia」、

「Wohltemperirte ClavierⅠ平均律 第1巻」の勉強が、

欠かせません。


★「4番 cis-Moll」 と 「5番 D-Dur」 の Prelude & Fugaは、

「Manuscript Autograph 自筆譜 」 が、残念ながら行方不明です。

Bach が自筆譜で表現し、訴えたかったことを、

Inventionや Wohltemperirte Clavier の自筆譜を手掛かりに、

考え抜くしかありません。


★失われた「Manuscript Autograph 自筆譜」は、

このように、書かれていたであろうと、

可能な限り、挑戦いたしたいと思います。

 

 


Mozart は、この Fuga を「KV.405」として、

弦楽四重奏に、編曲しています。

編曲といいましても、数か所音を変えているだけで、

そのまま、弦楽四重奏に置き換えているだけです。


★通常、Fuga を提示部から発展させていく過程では、

様々な変奏が出現するのですが、

Bach はこの Fuga では、8分音符による動きを、

律儀に、最後の最後まで押し通しています。

平均律第2巻のなかでも、かなり異色です。


その骨格を、裏側から支えている

“ 屋台骨 ”のような「和声」の構造を、解き明かし、

詳しく、ご説明いたします。

 

 

---------------------------------------------------
中村洋子・平均律第2巻・アナリーゼ講座、第5番 D-Dur 


■日  時 :  2015年 6月16日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ
■予  約  :    Tel.03-3409-1958

● 今後のスケジュール :第24回  7/14(火) 第12番 ヘ短調

---------------------------------------------------
 ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

     東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
     日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

         2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

         07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

         08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

         08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

         09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
 
         10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                    全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

         10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
       Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

         11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

         13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
      ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
       ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
     「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

           スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
      自作品が演奏される。

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」         https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/                           で販売中。

       ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

  

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■自筆譜が不明の「平均律2巻4番」のレイアウト、かなり解明■

2015-04-12 23:57:00 | ■私のアナリーゼ講座■

■自筆譜が不明の「平均律2巻4番」のレイアウト、かなり解明■
 ~Bachがどう作曲していたか、その過程の推測が可能に~
           2015.4.12    中村洋子

 

 

★15日開催の≪私のSACD「無伴奏チェロ組曲」試聴会≫は、

以下の機材を使用することが決まりました。
-------------------------------------------
●ゴールデンルール試聴会 
・日時:4月15日(水)18:30~(開場は18時)
・会場:dues新宿 (ディスクユニオン イベントスペース)
  JR新宿駅東口より徒歩2分 東京メトロ新宿三丁目A5出口徒歩1分
・参加について:要予約・費用500円(ドリンク代)
使用機材:
   SACDプレーヤー:  ESOTERIC K-03X
   プリメインアンプ:  ESOTERIC I-03
   スピーカー:     TANNOY KENSINTON

【問い合わせ/参加予約】
ディスクユニオンお茶の水クラシック館 (担当:高木)
TEL/03-3295-5073
-------------------------------------------
★各組曲から2曲ぐらいを選択、最高の機材により、

SACDの素晴らしい音質を、体験できます。

 

 


16日の KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」は、

「4番 cis-Moll」 です。

Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」が不明なことから、

不安でもありましたが、いろいろな角度からアプローチを試みました。

その過程で、曲の構造がより明確に解明でき、さらに、

Bach 自身がどのような手順を経て、楽譜として書き記したか、

ということも、分かってきました


★やはり、Bach は“魔法”を使って、

楽譜を書いていたのではなかったのです。

秘法やら、隠された技法がある訳でもなく、

非常にオーソドックスに下書きしたものを、練りに練り上げて

「完成」させます。

次のステップとして、完成稿を、

この上ない精緻な ≪ layoutレイアウト ≫ で、

「楽譜」に落とす作業を、するのです。

 

 

 


★「楽譜」に落とす際、その≪ layout レイアウト ≫は、

完成稿のレイアウトとは、大きく異なっています。

なぜ、異なるのでしょうか?


★これまでに、何度も指摘していることですが、

Bachは、≪ layout レイアウト ≫によって、

“このように演奏して欲しい”という希望を、

示しているのです。

それは、このうえなく優しい、親切な教えでもあるのです。

その≪ layout レイアウト ≫を理解して演奏しますと、

Bach の意図通りの演奏に、近づくことができるのです。

Bach先生から、直接教えていただくのと同じなのです。


★この「4番 cis-Moll」の Prelude は、62小節、

Fuga は71小節です。

Fuga は16分の12拍子(1小節に12拍)ですので、

かなり長大な曲です。


★ Preludeを見開き2ページで書きますと、

Fugaが見開き2ページでは、入りきらないのは当然です。

他の曲の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」を見ますと、

それは、歴然です。


★そういう場合、Bach は二通りの方法をとっています。

一つは、 Preludeを2ページで書き、 Fuga も2ページで書きますが、

書き切れない部分を、 Fuga 1ページ目の下の余白に、

「NB ノタベーネ:注意せよ」の記号を付け、

やや小さい音譜で、残りを書き記します。


★二つ目の方法は、「「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

のように、 Preludeが書き終わったところ、つまり、

2ページ目の6段目か7段目、 Preludeの終わりに直ぐ続けて、

Fugaを書き始める方法です。

 

 


★私は今回まず、 Fugaを左ページの冒頭から書く試みをしました。

その際、Bachが多用しています「不完全小節」、

これは、小節の途中で段を変えて記譜する書き方ですが、

それを用いつつ、Bachはこう書いたのであろうと分析しながら、

全体のレイアウトを、作ってみました。


★そうしましたところ、驚くべき精緻さで、

主要な音、和声が、各段の同じ位置に現れてきました。

つまり、ある重要なカギとなる音が、その下の段や、

さらに下の段の、同じ位置、つまり、垂直に見下ろした位置、

真下の場所に見事に、出現していたのです。


私自身、作曲家ということから、確信をもって言えることは、

Bachは、上記のようにしてまず完成稿を作り上げた、

ということです。

 

 


★私は、そのような作業をした後、この平均律の

「Manuscript Autograph  自筆譜 」に、かなり似ていると

言われる「筆写譜」を、じっくり検討し、

これも写譜してみました。


この「筆写譜」は、かなり信頼できると思いました。

その理由は、これを筆写した人物が、

編集者がよく行うような、勝手な恣意的な変更などを、

加えていないと、判断できるからです。


Anna Magdalena Bach アンナ・マグダレーナ・バッハの写譜に、

よく見られることですが、Bachの各声部の音譜、

例えば「soprano」声部を、ずっと横に一段分写していき、

その後、「alto」声部を同様に、横に写していきますと、

どうしても、ズレが生じてきます。

本来は、「soprano」声部の真下にあるべき「alto」声部が、

左右にかなりズレていることが、よくあるのです。


この「筆写譜」には、こうしたズレがあり、

高慢なお節介な編集者にみられるような、

“Bach の間違いを直してやった”という、

思い上がった態度が無い、という「証明」であるともいえます。

つまり、正直にBachの 「Manuscript Autograph  自筆譜 」を、

黙々と写していた、という可能性が強いのです。

 

 


★お話が飛びますが、Bachの死後5年の1755年頃に書き写され、

1993年になって、フランスの「Conservatoire National de Région

de Toulouse トゥールーズ音楽院」の  Biblioteque Musicale で

発見された、「Inventionen und Sinfonien 」の ≪ Toulouse  写本 ≫

という楽譜があります。


★この ≪ Toulouse  写本 ≫ は、とても興味あるものです。

レイアウトが、大胆に変更されています。

写した人が、「自分はこのように弾きたい」という考えを基に、

レイアウトされています。

それは、大変に音楽的です。

この写し手が、Bach の音楽を、深く深く、理解していたことが、

一目瞭然です。

もし、Bachがこの写本を見ましたら、喜んだに違いないでしょう。

作曲家は、自分の作品が真摯に研究されたうえで、

多用な解釈で演奏されることを、望んでいるからです。

日本の偉い先生方のように、「こう弾かなくてはならない」と、

睨むのではないのです。

 

 


★上記の「筆写譜」に戻りますが、これを写した人物は、

あまり緻密ではなく、しかも、かなり急いで写した様子です。

ある小節の「一声」が、すっぽりと抜けているところもあります。

段落の終わり方も、かなり大雑把です。

こういう事実も、Bachを“忠実に”写したという傍証でしょう。


この「筆写譜」は、 Preludeの2ページ目6段目の

終わりごろから、 Fuga を始めています。

これは、逆に言いますと、この人物の発想では、

到底出てこない手法だと言えます。

やはり、Bach の 「Manuscript Autograph自筆譜」 を、

大まかに踏襲して写した、と言えそうです。

 

私も、この「4番 cis-Moll」について、

Bachは、完成した下書きを、6 or 7段目の

Preludeが終わった場所から、 Fuga を書き始めた、と思います。

それは、 Prelude と Fugaを、一つのまとまった曲として、

演奏するには、その両者の関係、その構造を理解して欲しい、

という意図があるからです。


Prelude と Fuga を別々のpageで書いた場合、

異なった二曲を並べただけの演奏に、陥ります。

それを避けるための、Bach の「親切な layout」なのです。

 

 


★ちなみに、私がBach の「発想」を再構築しようとした際、

最大の道しるべとなったのは、Julius Röntgen

ユリウス・レントゲン (1855~1932)の Fingering

フィンガリングによるアナリーゼです。


★私は「下書き」という言葉を使いましたが、

Bachのような天才は、下書きの作業を、

実際に「紙」に書いていたのか、あるいは、

全部頭の中で、「完成稿」を作り上げ、

それを「楽譜」として書き下ろしていたかは、

分かっておりませんが、大変に、興味があります。

Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)は、

下書きを「紙」に、書いていました。

 

 

 

----------------------------------------------------

 ●中村洋子 平均律クラヴィーア曲集 第 2 巻・アナリーゼ講座

   第 22 回 第 4 番 cis-Moll  BWV873  Prelude & Fuga

■日 時 : 2015 年 4 月 16 日(木) 午前 10 時 ~ 12 時30 分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tell. 03 - 3409 - 1958

 ---------------------------------------------------------

 ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

     東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

         2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

         07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

         08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

         08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

         09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
  
   10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

         10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

         11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
   チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

         13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
     ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
    「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

               スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 
        https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/
                          販売中。

 

      ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

  

 
※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■自筆譜不明の平均律2巻4番、Bachがどう書いていたか、渾身の解明作業■

2015-04-03 23:50:24 | ■私のアナリーゼ講座■

■自筆譜不明の平均律2巻4番、Bachがどう書いていたか、渾身の解明作業■
~Boettcher先生が、Wittenで私の無伴奏チェロ組曲4番を再演~
              2015.4.3   中村洋子

 

 

★日陰躑躅・薄黄、椿・赤、連翹・黄、雪ノ下・白、

花韮・薄紫、桜・薄桃、ムスカリ・紫、海棠・朱・・・

春は、色彩の乱舞です。


4月16日(木)KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」は、

「4番 cis-Moll」 です。

2巻の4、5、12番は、Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」が、

不明です。


★これまで、 「Invention講座」の全15回、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律 第 1巻 」 全24回、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律 第 2巻 」 21回の、

アナリーゼ講座は、すべて、

Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」 が、

北斗星のように、行く手を照らしてくれていました。

 

 


★4番を読み解くには、これまでの“Bach 自筆譜体験”を基に、

全知全能を傾け、レイアウトを考え抜く以外にありません。

Bach自筆譜の「レイアウト」とは、

Bachがその作品をどのように、構成して作曲したか、

それを知るための、最良の手掛かりなのです。


★私にとって、平均律2巻最後の6曲「19~24番」、

空前絶後の偉大な作品に挑戦し、

それらを読み解いていった、という体験が、

いまとなっては、大きな力となり、励ましになっております。


★ちょうど、登り切った頂上から、いま来た道を眺め下ろす、

そんな感じも、いたします。


★そして、ようやく4番を ≪Bach はこう書いていたであろう≫

という解読が、ほぼできたと思います。


★2、3月は、名古屋 KAWAI で、

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

のアナリーゼ講座を、開催しました。

その勉強の成果も、大きく作用しています。


★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」の3楽章は、

奇妙にも、2楽章の最終段の右端から、始まっています。

私は、同様に平均律2巻4番「 Fuga 」も、

見開き2ページに書かれた 「Prelude」最終段の、

右端から、始まっていると、確信をもって言えます。

 



★Bachは、theme、motif、それらの展開を、

レイアウトによって表現する作曲家です。

そこを考えに考え抜き、レイアウトを決めていく作業は、

頭脳を極限まで酷使しますが、まことに、

得難く、スリリングな体験といえます。


★一方、Bach を分析するには、違う視点から勉強することも、

大切であると、思います。

例えば、「 Partita Ⅱ für Violin solo

無伴奏ヴァイオリンパルティータ2番 BWV1004」 は、

大変参考になります。

特に、平均律第2巻4番 Fuga の関連性が、強く出ています。

 

 

 

★これを、Wolfgang Eduard Schneiderhan

ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915 - 2002)の、

校訂版で、勉強いたしますと、

Bach の主題、motif、旋律を、どう解釈し、

演奏するうえで、どのように構成していくかが、

実に、よく分かってきます。


★この校訂版の「Joh.Seb.Bach  Sechs Sonaten und Partiten

 für Violine solo」 の表紙には、次のように書かれています。

für den

praktischen gebrauch eingerichtet

und mit erläuterungen versehen
 
von

WOLFGANG SCHNEIDERHAN

(直訳しますと、シュナイダーハンによる、演奏するうえで役立つ

arrangement とその解説ーですが、分かりやすくしますと、

Bach の原曲にボーイングやフィンガリング、フレージングを、

詳細に書き込み、解説も加えた、という意味になります)


★Bach の勉強は、 「Manuscript Autograph 自筆譜 」を

読み込み、そして、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー、

Schneiderhan シュナイダーハンのような、

偉大な音楽家の校訂版からも、教えを乞うのが、

最良の道です。

 


★少し前になりますが、BerlinのWolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が届きました。

3月8日、ドイツの Witten で、

私の「Suite für Violoncello solo Nr.4

無伴奏チェロ組曲 第4番」を、再演していただきました。


★1月の初演に続き、すぐさま再演していただき、

とても、嬉しく思っております。

この第4番は、SACDで発売されました「組曲第2集」の

冒頭の曲です。


★Friedrich Hölderlin ヘルダーリンの詩 

≪ Andenken 追想 ≫に、作品のイメージを求めたものです。

プログラムでは、各楽章にその一節が、丁寧に書かれています。

組曲全6曲中、唯一、日本のイメージから離れ、

ドイツの詩に依っています。

 

 

★Cellokonzert  Wolfgang Boettcher
Programm

・J.S.Bach                   Suite  G-Dur BWV1007 (1721)
・Tigran Mansuryan       Capriccio

・Yoko Nakamura       Suite Nr.4(2009 bis 2011)                                                    

      Wolfgang Boettcher gewidmet

                            Texte aus dem Gedicht
                            "Andenken" von Friedrich Hölderlin                          

      Ⅰ   Der Nordost  wehet,

                   der liebste unter den Winden mir,
                   weil er feurigen Geist 
                   und gute Fahrt verheißet den Schiffern.
                  北東の風が吹く、
         私の最も愛している風、
         この風は、燃えるような魂     
         航海するものたちに
         良い船旅を約束する

       Ⅱ Gute Fahrt                  出航

       Ⅲ Ein edel Paar
                     Hinschauet ein edel Paar
                     von Eichen und Silberpappeln
                     オークと銀のポプラの
          気高い一対を彼方に臨む

       Ⅳ  Von goldenen Träumen schwer,
                     ein wiegende Lüfte ziehen
                       金色の夢で深く
            眠り込ませるような風が吹く

       Ⅴ① Zur Märzenzeit,wenn gleich
                        ist Nacht und Tag
                        三月の時、
            夜と昼が等しい時

       Ⅴ② Einsam           孤独

       Ⅵ   Was bleibet aber,
                        stiffen die Dichter
                        留まるものを創り上げるのは、
             詩人たちだ

                Pause

  ・J.S.Bach             Suite c-Moll BWV1011

 

 






★Boettcher ベッチャー先生も、

この曲が、とても好きになられたようです。

先生はその後、ポルトガルのリスボンで、

マスタークラスやコンサートを開かれ、

「相変わらず、忙しい毎日です」と、書かれていました。


4月15日夕、「dues 新宿」(disk Union イヴェントスペース)

で、開催します「SACD 無伴奏チェロ組曲」の試聴会で、

この第4番も、聴くことができます。

「ESOTERIC エソテリック社」 最高の機器を、使用します。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする