■平均律1巻2番、冒頭の連続する16分音符は、和声と対位法の塊■
~c-Mollをg-Mollに読み替えると「ナポリの和音」が出現~
- KAWAI 名古屋 第2回 平均律アナリーゼ講座-
2015.12.30 中村洋子
★今年もあと数時間となりました。
来年2月に出版いたします本
「クラシックの真実は、大作曲家の自筆譜にあり」では、
解説の文章に合わせて、私が手書きしました譜例を、
たっぷりと載せています。
大変に分かりやすくなっていると、思います。
★今年も、 Bach に明け、Bach に暮れた一年でした。
Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973) が、
Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集を弾くことから、
一日を始めたように、Bach を学び続けることは、ある意味で、
地球が丸いのと同じくらい「当たり前」のことです。
しかし、いまの日本には、地球が「四角」であったり、
「三角」であるような音楽家も多いようですが、
そのような音楽は無視。
★今年10月から始まりました KAWAI名古屋での、
「Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律クラヴィーア曲集第1巻」
アナリーゼ講座の第2回は、「2番 c-Moll」 です。
2月24日(水)開催です。
★全38小節の Preludeですが、第1小節~33小節までは、
絶え間ない16分音符の連続です。
特に、1~24小節までは右手と左手が同時に16分音符の動きを
見せています。
★これを、≪指の練習曲である≫とする、愚かな解説書が、
いまだに日本で大手を振ってまかり通っているのは、驚きです。
★この絶え間ない16分音符の連続の中に、
厳然と存在する≪四声体の和声≫と、
それを骨組みとして支えている Bachの
≪counterpoint 対位法≫を、読み解き、
Bach 演奏、鑑賞の道しるべとすべきなのです。
★次回の名古屋平均律アナリーゼ講座では、
Bach の「和声」をじっくりと、解説する予定です。
例えば、1~4小節は、下記のような和声で、
c-Moll から離れることはありません。
和声要約しますとこのようになります。
★しかし、5小節目はどうでしょう?
これは、「c-Moll」から見れば「Ⅵの和音」となります。
短調の「Ⅵの和音」は、長三和音ですので、
ここで一抹の光が差し込んで来たような明るさが、
感じられます。
★続く6小節目は、「g-Moll」 に転調します。
6小節目は「g-Moll」の属七の和音、
7小節目は「g-Moll」 の主和音です。
それでは5小節目の和音は
「g-Moll」 とは、無関係なのでしょうか?
「g-Moll」 の音階に、「as¹ ラの♭」はありませんので、
この和音は、
「g-Moll」 には、存在しないように見えます。
★しかし、「g-Moll」 の「Ⅱの和音」の
根音を半音下げた
は、
実は、≪ナポリの和音≫なのです。
★結論です。
5小節目の和音は、「c-Moll」 の「Ⅵの和音」でありながら、
読み替えしますと、「g-Moll」 の「ナポリのⅡの和音」
になります。
★Bachの和声で、この「ナポリのⅡ」が使われますと、
その仄かな明るさ、暖かさが、
重要な場面転換を示しているのです。
★上記のような「読み替え」の手法を用いて、
「ナポリのⅡ」を出現させることは、結果的に、
≪転調の一つの手段≫となるのです。
Bach はそれを、多用しています。
★このBachの「ナポリのⅡ」については、
出版する本で、詳しく説明しております。
★皆さま、良いお年をお迎えください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■中村洋子Bach 平均律第1巻2番 c-Moll
Prelude & Fuga アナリーゼ講座
~平均律1巻2番は、インヴェンションと平均律とを結ぶ架け橋~
★Bachは、平均律クラヴィーア曲集を見開き2ページ、
1ページ6段で書いています。
2番Preludeは、奇妙なことに左ページ冒頭からは始まっていません。
1番 Fugaが終わった(見開き右ページ3段目)後、
ページを改めることなく、すぐ下の4段目から始めています。
★紙を節約したのでしょうか? そうではありません。
2番 Preludeは次のページの右側4段目で終わりますが、
その下2段は空白にしていることからも分かります。
Bachは意図的に変則的レイアウトにしたのです。
そこにこそ、Bachの深い意図、曲の構造を分かりやすく示す
という意図が、隠されているのです。
★このレイアウトの意図が理解できますと、
2番 Preludeがどのような曲で、どう演奏すべきかが、
まるで、空を厚く覆った雲が風で吹き飛ばされ、
青空に包まれるかのように、すっきりと分かってきます。
一見、分散和音がずっと続くかのようにみえますが、
美しい和声をまとった対位法の骨格が透けて見えてくるのです。
講座で、ご説明いたします。
★Bachは、平均律1、2巻とインヴェンション & シンフォニアを、
大きな宇宙のような広大な設計図のもとに作曲しました。
2番 Fugaは、そのインヴェンションと平均律1巻とを結ぶ重要な架け橋です。
それを前提にして、この素晴らしい2番 Prelude & Fugaのもつ
和声と対位法の世界に踏み入れますと、
音楽の喜びが心から湧き上がってきます。
それをただ指に覚えさせるのではない、一生忘れない「真の暗譜」に
どう結びつけるか、詳しくお話いたします。
----------------------------------------------------------------
■日 時 : 2016年 2月 24日(水) 10:00 ~ 12:30
■会 場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■予 約 : Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427
-----------------------------------------------------------------
■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲