音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ シューマンの音楽評論 ■■

2007-12-24 15:54:34 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2006/11/24(金)

★「音楽と音楽家」シューマン著 吉田秀和訳(岩波文庫 ¥600)で、

シューマンの評論を読むことが出来ます。

音楽の基礎を理解しない訳者による、日本語になっていない音楽翻訳本が、

氾濫していますが、

この岩波文庫は、(ベルリーズの交響曲のアナリーゼの部分で、訳に首を傾げるところもありますが)

お薦めできます。

シューマンの肉声が聞こえる凄い内容の本だからです。

特に、195ページ「音楽の座右銘」は、わずか9ページですが、音楽を志している人すべてが、

繰り返し読むべき内容です。

この座右銘は、当初、「子供のための小曲集」(ユーゲント・アルバム)Op68に添付されていました。


■【シューマンの珠玉の座右銘のピックアップ(文庫本の訳文通り)】

★やさしい曲を上手に、きれいに、ひくよう努力すること。

  その方が、むずかしいものを平凡にひくよりましだ

★小さいときから、昔の音部記号を練習しておくこと。

  さもないと、多くの昔の宝をむざむざと逃すことになる

★大きくなったら、名人よりはスコアと交際するように

★よい大家、ことにヨハン・ゼバスチャン・バッハのフーガを熱心にひくように

★≪平均律クラヴィーア曲集≫を毎日のパンとするように。そうすれば、いまにきっと立派な音楽家になる

★いわゆる大演奏家はよくやんやと喝采されるが、あれをみて、思いちがいしないように

★みんなが、大衆の喝采より、芸術家の喝采を重んじるようだといいと思う

★およそはでなばかりで内容のない売物は、時代とともに流れてしまう

★技巧は、より高い目的に奉仕しているときだけ、価値がある

★どんな流行も、結局流行遅れになる

★大きくなったら、流行曲などひかないように。時間は貴重なものだ。

★いまあるだけのよい曲を一通り知ろうと思っただけでも、百人分ぐらい生きなくてはならない。

★小さいときに、和声学の基礎を勉強するように

★理論、ゲネラルバス、対位法等々といった言葉におじけないように。

★こうしたものは、使っていると、段々なれてしまう。

★音楽好きの人たちは何かというと「旋律」という。もちろん旋律のない音楽なぞ、音楽ではない

★しかし、その人々のいう旋律とは、何をさしているかよく考えてみるがいい

★あの人たちはわかりやすい、調子のよいものでなければ、旋律だと思わない

★貧弱な、どれもこれも同じような旋律、ことに近頃のイタリアのオペラの旋律など、

  早くおもしろがらなくなるように。


★いつも正しく調律された楽器を扱うこと


■この文章は、いまから150年以上前の言葉ですが、現代にも、完全にそのまま当てはまります。

早く派手に弾く名人芸だけで喝采を浴びるピアニスト、

オペラの甘ったるく耳に慣れた旋律にブラボーを叫び、それしか喜ばない多くの聴衆、

バッハの美しい対位法を、努力して聴こうとせず、“難しい、頭が痛くなる”と耳を塞いでしまう

音楽ファン、調律が狂っていても平気な、楽器に無関心なピアノの先生、などなど。

★シューマンの言葉の分かりやすさはどうでしょう!!!

一度読むだけで完全に理解できます。

シェーンベルクの評論も、同じくらい分かりやすく、含蓄に富んだものです。

第一級の音楽家は、決して、難しい言葉で、難解なことは言いません。

もし、皆さんが理論書や音楽書をお読みになって、<分かりにくい>、

<どうしても理解できない>と感じられた場合、往々にして、

本の内容や訳文に問題がある場合が多いのです。

※■中村注「理論、ゲネラルバス、対位法等々といった言葉」の【ゲネラルバス】という語は、

  【通奏低音】の訳がいいと思います。

「マタイ受難曲」や「パッヘルベルのカノン」のスコアで、和音の下に

数字が書いてあるのを、ご覧になったことがあると思います。

チェンバロなどの鍵盤楽器奏者は、その数字によって指定される和音を、即興的に演奏します。

例えば、「5」は和音の基本形、「6」は第一転回形、

「4、6」(しろくの和音)は第二転回形を意味します。

ドミソの和音の5はドミソ、6はミソド、4、6は、ソドミを意味します。

≪子供のころから、数字付低音を見て、初見で、鍵盤上で和音をつくれるように、慣れなさい≫と

シューマンは薦めているのです。



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