音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■私の著書の紹介が「ムジカノーヴァ」「ショパン」9月号に掲載■

2022-08-24 01:17:29 | ■私の作品について■

■私の著書の紹介が「ムジカノーヴァ」「ショパン」9月号に掲載■
~Amazonレビュー欄でも、心打たれる感想を沢山頂きました~      

      2022.8.24 中村洋子

 

 

 

 

★記録的な猛暑の夏でしたが、いかがお過ごしですか。

のんびり過ごしているうちに、ブログ更新が遅れてしまいました。

私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》の書評が、

月刊誌「ムジカノーヴァ9月号」「ショパン9月号」に掲載されました。


ムジカノーヴァ9月号は、「CD&BOOK」(p78)の欄。

長井進之介さんの文章。

私の本を十分読み込んでいただき、的確な評でした。

 

 

★「本書の著者の中村は、我々の見ている市販の楽譜には、
作曲家の重要なメッセージがほとんど反映されていないため、
出版譜だけでなく、「自筆譜」を見ることが非常に重要だという」


★「本書では、自筆譜から初版譜、そして現代の楽譜での表記の
違いを丁寧に説明しながら、なぜそれが起こっているのかも解説。
また、11人の作曲家を時系列に並べ、それぞれの楽曲が生まれた
背景と共に、詳細な楽曲分析や作曲家が求めていた音楽の形を
わかりやすく示していてくれる」

★「平易な言葉で書かれており、楽譜を読むことが苦手だという
方にとっても、高い壁を感じることなく、説明を理解できるように
なっているのも見事である」

★「分析をただ分析で終わらせることなく、楽曲の理解や演奏解釈
へとつなげられるよう、非常に実用的な説明をしていてくれる」

★「演劇や文学を例に挙げながら、解釈することの本質に迫る
コラムも非常に読みごたえがある」

★「普段、なかなか目にする機会のない自筆譜というものを意識する
だけで、音楽の世界がこれほど広がっていくのかと驚かされた」

★「現在はインターネットを含め、様々なかたちで自筆譜を閲覧する
ことが可能となっているし、本書で取り上げられた楽譜の所在が
分かりやすくまとめられているので探しやすい」

★「是非、本書を新たな角度から楽曲に向き合うきっかけにしてほしい。」

 

 

 

「ショパン9月号」は「音本」books infoのコーナーです。

本書で著者が伝えたかったことは次の三つだ。

①大作曲家の作品に「バッハが宿っていないもの」はない。
②バッハ《フーガの技法》はなぜ「ニ短調」で書かれたか。
③大作曲家の「自筆譜」を学べば、「対位法」「和声」が自然に身につく。

★モーツァルトの自筆譜は、声部や楽器によって、太いペンと細いペン
書き分けられている。ベートーヴェンは4種類のスタッカートを使い
分け、
それぞれ狙いが異なる。などなど、本書ならでは記述も満載で、
楽曲分析を通じて音楽の奥深さも垣間見られる1冊となっている。

 

 

 

 

★Amazonのレビュー欄でも、心打たれる感想を頂きました。
https://www.amazon.co.jp/s?k=11%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A4%A7%E4%BD%9C%E6%9B%B2%E5%AE%B6+%E8%87%AA%E7%AD%86%E8%AD%9C+%E3%81%A7%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%99%E3%82%8B%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E5%8F%B2&i=stripbooks&crid=2SWJYTM0DU27Z&sprefix=11%E4%BA%BA%2Cstripbooks%2C185&ref=nb_sb_ss_pltr-ranker-opsacceptance_3_3

 

「音楽は聴く一方で、知識も演奏力もないのですが、この本を
読んでいると音楽史が頭に入ってきます。平面的だった知識が
立体的になった気がします。楽譜の部分は私には難しかった
のですが、スラーやテヌートの位置から演奏法がイメージできる
という件があるムソルグスキーの《展覧会の絵》から面白くなり、
楽譜でわからない所は飛ばしながら読み進めました。
合間に入るコラムのテーマが私には本文以上に面白く、著者の美術、
映画、小説、音楽への意見、根底にある芸術への愛に、
共感したり、感心したりしました。
 20世紀音楽の源流と言われているドビュッシーもバッハを基礎に
していたと、アラベスクを例に示されていることに《なるほど!》
と思いました。というわけで、楽譜が読めなくても楽しめる本でした」


★「ショパンのスラーの筆致やブラームスの符尾の使い分け、
バルトークの記譜のレイアウト。繊細な手がかりにより、
彼らの頭の中に存在したはずの魅力的な和声や対位法が提示
されています。
 これまでありふれた常識のように弾いたり聴いたりした和音や
旋律からも、別の奥深い響きが現れます。
また、和声や対位法の背景知識も、理解しやすい柔らかい
語り口で説明されます。
 作曲家達が採用し駆使した具体例がどれも個性的で美しいので、
難解な和声用語なども鮮やかに記憶に留められます。
各章は独立していますが一貫してバッハが共有されていることが
大きな意味を持つのだと、とても強く印象に残りました。」

 

 


★「読み手が置いてけぼりになるようなよくある難しい専門書では
なく、内容を理解するのに必要な和声の知識や音楽用語の説明が、
その都度とてもわかりやすい語り口で(図入りで)書かれている。
 そして、バッハはじめ11人の作曲家への尊敬と親しみが根底に
あり、分析と言っても堅苦しくなく、むしろ血の通った温かい
勉強姿勢。
その上で、重要なポイントの分析(解説)がなされるので、
途中で挫折することなく、むしろどんどん引き込まれて
11人の作曲家に親しみがわき、もっと知りたくなる!」


★「作曲家のいろんなエピソードも所々に盛り込まれており、
バルトークのメニューイン宛ての手紙なども人柄が出ていて温かい。
優れた演奏家、映画、古典、半藤一利さんなど音楽のみならず違う
分野の本物を知る人たちの話が、チャプターの間にコラムとして
挟まれていて、視野も広がり、脳が柔軟になる。
幅広く学べる、まさに有難い一冊です。」


★「平均律1巻で24番プレリュードのみがテンポ表示を持つこと、
平均律で調性を、フーガの技法で対位法を解き明かしたこと、
平均律1巻冒頭のドミソはニ短調のフーガの技法でも強調し使われて
いる
ことなど、本書の深い分析から初めて大いに興味深く学びました。
素人の手習いでピアノにて平均律1巻冒頭、ゴルトベルクのアリアと
第三変奏までなどを四苦八苦して発表会で披露したことがあるので、
改めて片鱗ながら何と高邁な経験をさせていただけたことかと感動しました」


★「巷に広くある、思い入れと感嘆符のみによる《名作名演》の礼賛、
平板で単調な音楽史、史実や楽曲の本質を離れたCD解説などとは無縁
の本書は、
知的快楽と頭の芯を心地よく刺激してくれる高度で楽しい
理屈っぽさに
満ちた音楽史の数少ない不朽の名著に数えられると
思います。

ぜひ手に取って、バッハ様の天才に思いを馳せつつ、
多くの西洋古典音楽愛好家に読んでいただきたいと思います。」

 

 


★このように皆様に応援していただきますと、

「本を書いて、本当によかった!」と実感できます。

有難うございます。


★ところで、《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》

38ページ5行目の文章につきまして、以下に訂正いたします。

《ショパンの前奏曲集は「展覧会の絵」が作曲される35年前の
1874年、
フランスで完成されています。》と記述しましたが、
正しくは、下記です。

《ショパンの前奏曲集は「展覧会の絵」が作曲される1874年の
35年前、
フランスで完成されています。》

ショパンの前奏曲集の完成した年は、1839年です。

慎んでお詫びいたします。

本をお求めになられました方は、訂正をお願いいたします。


★さっと読み飛ばせる本ではありませんが、

すべてを簡単、単純化した世界は、本当の芸術からはほど

遠いのではないでしょうか。

たとえ非力であっても、「人間は考える葦」であってほしい、

と思います。

この本をゆっくり紐解いていただければ、クラシック音楽の輝くば

かりの真実に到達する方法がつかめるはず、と確信しています。

 

 

 


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             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》 の読後感を頂きました■

2022-07-20 01:14:59 | ■私の作品について■

■《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》 の読後感を頂きました■
~「三つのワルツ 作品64」は一曲として考えるべき、よ〜く分かりました~
            2022年7月20日 中村洋子

 

 

 


《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》が6月22日に

発売されましたが、のんびりしている間に、ブログ更新が、1ヵ月

も間が空いてしまいました。

 


★その間にも、世の中は目まぐるしい勢いで変化しています。

私の本の、若い読者の方から「じっくり拝読させて頂いておりま

す! この時代にこそ、クラシック音楽が必要であると、痛感い

たします」というお便りを頂きました。

 


★そうですね、困難な時代に、本当に必要なのは、安易に作ら

れた音楽ではないでしょう

大作曲家が全身全霊を込めて、作曲した作品にこそ、時代に

対峙する力がありますし、私たちは、手抜きすることなく、それを

学ばなければならないと思います

 

 

 


★長い間ピアノと離れていましたが、最近またピアノのレッスン

を、再開された方からもお便りを頂きました。

偶然、Chopin ショパンの「Valse Op64.No.2 cis-Moll 嬰ハ短調」

を、レッスンで弾いていらっしゃるそうです。

ショパンのワルツ作品64は3曲から成り、作品64-1は有名な

「子犬のワルツ」です。

この本のchapter 3(第3章)は「子犬のワルツ」でしたので、

第3章から読み始められたそうです。

 


第3章の小見出しをご紹介します。

・ショパンが、フォーレなどのフランス近代音楽の扉を開く


・ドビュッシーは晩年、ショパンの「ピアノ作品全集」を校訂


・「フーガ」を徹底的に学んだラヴェル


・Chopinショパンの「子犬のワルツ」は晩年の大傑作


・子犬のワルツのある「三つのワルツ作品64」は1曲として考えるべき


・冒頭のスラーの絶妙な位置、どう音楽を始めるかを示唆


・子犬のワルツは「四声体和声」、「符尾」の向きは声部を示す


・「作品62-2」の性格を決定する「gis¹」音は、最後に付け加えられた


・1小節の両端に「gis¹」を配置、堅固は"柱”を構築


・大作曲家の五線紙は、建物の設計図と同じ


・「属音」を積み重ね、クライマックスで「主音」に到達させる設計


・ショパン人気の秘密は、ドミナントから主音に達した時の開放感


・大富豪への贈呈譜でも、彫琢の過程を余すところなく記載

 

 

                           モリアオガエルの卵


★この第3章をじっくりお読みいただけましたら、「子犬のワルツ」

冒頭の、この曲のニックネームの由来ともなった、子犬がコロコ

ロと転げまわるような八分音符の主題と、その主題が再現され

る73小節以降は、旋律は同じであっても、ショパンの胸の中では、

違う声部であったことがお分かりいただけると思います。

声部が違うのであれば、当然音色や曲想も異なります。

 


★その答えは、

 《子犬のワルツは「四声体和声」、「符尾」の向きは声部を示す》

にあります。

大作曲家の「自筆譜」にしばしば見られますように、

大作曲家は、音の高さにかかわらず、ソプラノ声部の符尾は

上向き、アルト声部の符尾は下向きに記譜する例が枚挙に

暇がないからです。

正確に把握するためには、まず「自筆譜」をご覧ください。

すぐに納得できると思います。

 


ショパンは、常に「四声体和声」の物差しmeasureに則って

作曲しています

そしてそれはショパンに限らず、本書で取り上げましたどの大作

曲家の頭の中にも、厳然として存在している基準でもあるのです。

ピアノのレッスンでショパンを弾いていらっしゃる方のお便りは、

「三つのワルツ 作品64」は一曲として考えるべき 、よ〜く分か

りました。64-2から始めましたが、何年かかるかわかりませんが、

三つのワルツを弾きこなしたいです》と締めくくられていました。

 

 

 

 


★嬉しく拝読し、この本を書いて「本当によかった!」と思います。

本の校訂は何度も何人かの目を通して、目が痛くなるくらいした

つもりでしたが、ごめんなさい。目次に二カ所ミスがありました。

 


★訂正 その1
目次 chapter 4


Die Kunst der Fugue のFugueのuを削除して、Fugeに訂正して

ください(Fugaに訂正していただいてもO.K.です)。

本の92ページ(注)で詳しくご説明しましたように、

フーガの技法の初版譜のタイトルは Die Kunst der Fuge

すべてドイツ語です。

1742年にバッハが清書したフーガの技法の自筆譜に、バッハ

自身による題名の記入はありませんが、表紙にバッハ以外の

人が書いた題名は「Die Kunst der Fuga」となっています。

この「Fuga」はイタリア語またはラテン語です。

 

 

 


★訂正 その2
目次 chapter 11
「Deux arabesques」のarabesques冒頭の小文字aを、大文字A

訂正してください。

これにつきましては、5月31日当ブログに詳しく書いてあります

ので、是非お読みください。
https://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/ae7bbd01c6a301fbae0a3dab68a15904

小さなスペルにも、これだけ多くの情報が含まれています。

そしてそれは単なる衒学趣味ではなく、

その曲を読み解く大きなヒントとなることもあるのですね。

 

 

 

 

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■登場する作曲家は年代順でないものの、これが音楽史の根幹です■

2022-06-17 18:12:49 | ■私の作品について■

■登場する作曲家は年代順でないものの、これが音楽史の根幹です■
~私の新著を「ディスクユニオン・御茶ノ水クラシック館」が店頭販売を開始~


                2022年6月17日 中村洋子

 

 

 

 

     
★私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》

書店発売は、6月22日ですが、東京・お茶の水の「ディスクユニオ

ン・御茶ノ水クラシック館」の店頭に、6月16日から並びました。

お待ちかねの皆様は、一足早く、このお店でお求め下さい。
https://www.dropbox.com/s/y2iew7zg4cefcgw/%EF%BC%88%E8%A3%8F%E8%A1%A8%EF%BC%8911%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A4%A7%E4%BD%9C%E6%9B%B2%E5%AE%B6%E3%80%8C%E8%87%AA%E7%AD%86%E8%AD%9C%E3%80%8D%E3%81%A7%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%99%E3%82%8B%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E5%8F%B2.pdf?dl=0


★11人の大作曲家の登場順は、年代順ではありません。

巻頭の作曲家はロベルト・シューマン(Robert Alexander  

Schumann 1810-1856)です。

シューマンは、「Album für die Jugend ユーゲントアルバム( 子供

のためのアルバム) Op.68」の第1曲目を、「Melodie メロディー」

と、名付けました。


★著書で、詳しくご説明しましたが、この曲こそ「Harmonie 和声」

または「Kontrapunkt 対位法」という題名にしたほうが適切である

といってもよい曲です。

シューマンは、何故か「Melodie メロディー」と名付けました。

 

★この曲は一見、教則本「バイエル」と間違えてしまうくらい、

簡素ですっきりと、優しい曲です。

それがどうして厳しい「Harmonie 和声」あるいは「Kontrapunkt 

対位法」と命名してもよいくらいの曲なのでしょうか。

それを本書で、解き明かしました。

その答えをかみ締め、すっと納得できるようになるまで、

読み返してください。

そういたしますと、厳格で近寄りがたいと思われた「和声」と

「対位法」が、イソップ物語「北風と太陽」のお話のように、

暖かく柔らかい、冬の日の太陽のように感じられることでしょう。


★シューマンは、それを意図していたと思います。

そして「こんなきれいなメロディーも《和声と対位法》によって、

できています。ですから和声も対位法もちっとも恐がる事はありま

せん。親切で優しいお友達です」と、七歳の長女マリーちゃんに

語りかけているように、私には感じられます。

 

 

 


★さぁここから、皆様もシューマン先生からいただいた「和声と

対位法を解く鍵」を手にして、続く10人の大作曲家の作品を紐解

いていきましょう。

そうしている内に、クラシック音楽にとって「Melodie メロディーとは

何ぞや」という答えが、カーテンを開けると美しい花園が眼前に

広がるかのように、浮かび上がります。


★その結果、大作曲家が「Melodie 旋律」に付けた、スラーの

位置が、その旋律の冒頭の符頭から著しくずれている、例えば、

前のめりだったり、後ろから始まったりと、大きく離れていても、

それは意図的に書かれ、曲を解釈をする上で、大きな意味がある

ことが、お分かりになっていくでしょう。

一般の市販譜では、スラーは機械的に、符頭から符頭へと

掛けられています。


★この本は音楽史を語る本でありながら、第2章はシューマンの

後に、いきなりモデスト・ムソルグスキー(Modest Mussorgsky 
 
1839-1881)の「展覧会の絵 プロムナード Promenade」

飛びます。

有名な第1曲プロムナードの

「g¹ f¹ b¹ c² f² d² ソ ファ シ♭ ド ファ レ」の「c² f² d²」のスラー

を、ムソルグスキーは自筆譜で変幻自在に、書き分けています。

それが何を意味するのかを、詳しく解説しました。

 

 

 


★そして、そのムソルグスキーの作曲の土台となった作曲家

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)が、第3章の主人公です。

第3章は、ショパンの「Valse Op.64 No.1~3」

(ワルツ3曲作品64)を取り上げました。

この3曲のうち、冒頭の「Valse Op.64 No.1」のニックネームは、

「子犬のワルツ」です。

ショパン自身は、この曲にニックネームは付けていません。

このワルツ3曲は、晩年のショパンのとても峻厳な作品といえます。

それを理解しますと、ショパンの本質、真価が更に深く理解できる

ようになることでしょう。


★ショパンが第3章であるならば、当然第4章は、ショパンが終生

にわたって敬愛し、作曲家としての原点、出発点そして到達点と

して、仰ぎみていた Johann Sebastian Bach バッハ

(1685-1750) になります。


★第4、5章では、バッハの「フーガの技法」第1曲を解説しつつ、

何故、「フーガの技法」が《d-Mollニ短調》のみで書かれたか・・・

の謎を、解き明かしました。


★私は、学者先生の本を殆ど読みません。

自分でこつこつ勉強し、辿り着いた結論です。

どうぞお読みください!

このように時間軸とは一致しませんが、これがクラシック音楽史

の根幹であると、自負しています。

これらが分かってきますと、クラシック音楽を聴き、演奏し、勉強

する楽しさがますます深まることでしょう。

どうぞお楽しみください。

 

 

 

 

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■《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》の発売は6月22日■

2022-06-13 17:29:40 | ■私の作品について■

■《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》の発売は6月22日■

 ~前書:大作曲家の作品に「バッハが宿っていないものはない」~

              2022年6月13日 中村洋子

 

 

 

 

★私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》

発売日は、残念なことに、6月17日が22日に変更になりました。

流通の都合で、当初の予定より5日間ほど遅れ、6月22日に書店、

楽器店の楽譜売り場に並びます。

お待たせしまして、申し訳ございません。


★書店へ本を運ぶ流通トラック便が、減っているためだそうです。

雑誌がよく売れていた時代には、毎日のように搬送されていたの

ですが、雑誌が売れなくなり、トラック便が減り、小さな書店ですと、

週に1便まで、落ち込んでいるそうです。

ネットショップでは、注文翌日に配送される現状に照らしますと、

街の本屋さんが苦戦しているのが、実感できます。

 

 

 


★一日でも早く手に取り、お読みになりたい皆様は、

東京・お茶の水の「ディスクユニオン」御茶ノ水クラシック館まで

お出かけください。

この本の発売元です。

〒101-0062  東京都千代田区神田駿河台2-1-18 
                     tel 03-3295-5073
https://diskunion.net/shop/ct/ocha_classic

6月22日の数日前から、店頭販売が始まります。

販売開始日が確定しましたら、又お知らせいたします。


★私は、この「御茶ノ水クラシック館」が大好きで、絶版になった

貴重なCDを数知れず、ここで求めました。

今では入手可能になりましたが、絶版状態だった

「Barylli Quartet バリリ弦楽四重奏団」のモーツァルト弦楽四重奏

の全集を、一枚一枚揃えていった事は、懐かしい思い出です。


★この全集は、LPレコードのジャケットが、そのままCDジャケット

になっていますので、垢抜けたデザインも楽しみです。

ネット上でお手軽に音源をさっと聴き、「ハイ、それまでよ」という

音楽の楽しみ方には、馴染めません。

名演を何度も何度も聴き、学びます。

 

 

 


海外で作られたCDは、優れた解説も多いので、日本版、海外

版のCDが同時にあるときは、躊躇なく、海外のものを選びます

優れた演奏のCDは、解説も見識ある人のものが多く、愛情や

熱意が伝わってきます。

読みごたえがあります。

辞書を引き引き、その解説を読むのですが、こうすることにより、

頭と心に、その内容が沁みこむ気がします。


《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》「まえがき」

を、ここに転載します。

どうぞこの本を手に取り、じっくりと本当の「クラシック音楽」を

楽しむ手がかりを、ご自分のものとしてください。

 

 

 


★まえがき
 2016 年3月、私は『クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』を上梓しました。私はそこでは「なぜ、大作曲家の自筆譜から学ばなければならないのか」、その理由と「自筆譜を読み込む方法」について、詳しく書きました。
 本書はその内容を更に深めると同時に、音楽史の流れに沿って、大作曲家の自筆譜を「鳥の目と虫の目」で、さらにもっと深く勉強していきたいと思います。

 「鳥瞰(ちょうかん)」という言葉の通り、大空に舞う鳥の目となってはるか上空から、大作曲家の自筆譜を眺め、作品の「大きな構造」を把握します。それと同時に、小さな虫たちの眼をもって、曲の「細部」を詳しく徹底的に分析する能力を養っていきたいと思います。

 この二種類の「目」を持ちませんと、名曲といわれるクラシックの作品の理解、演奏、そして鑑賞は、底の浅いものとなってしまいます。「鳥の目&虫の目」による分析がなされた上、豊かな感情が溢れ出る演奏こそが、本物の演奏といえましょう。
本物の演奏をすることができる、演奏が本物かどうかを判断できる能力を自身で養うことができる、それこそがクラシック音楽の演奏、鑑賞の醍醐味です。
 
 曇りのない「鳥の目&虫の目」を持つために必要なものは、『和声と対位法』です。「和声と対位法」を自家薬籠中の物 とするのは、至難の業です。本書に取り上げるような大作曲家でなければ、和声と対位法に熟達する、ということは、かなり難しいともいえます。それでは諦めるしかないのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。私は、「和声と対位法」とは一体どんなものなのか? という問いに対する答えの手掛かりを、この本で示すことは可能であると思っています。

 本書をじっくり読んで、その手掛かりを体験して下さい。スッと皆様の掌に何かつかめるものがあったとき、何か腑に落ちるものがあったとき、「和声や対位法」という音楽の技術の範疇を超えて、芸術の根本、そして人間の技の素晴らしさ、英知に触れることのできた一瞬なのです。その体験があれば、大作曲家が駆使する「和声、対位法」という大きな山の麓まで辿り着いたことになり
ます。誰のものでもない、皆様ご自身の「和声と対位法」を構築する第一歩なのです。

 無味乾燥な理論書に依ることなく、大作曲家の名曲の中にある「生きた和声」、「生きた対位法」を学びましょう。皆様が「和声と対位法」の真髄に触れたと感じる瞬間を得ることができますよう、私はこの書を編みました。

 クラシック音楽は、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)以前と、バッハ以後ではがらっと相貌を変えます。バッハ以前の例えば、ギヨーム・デュファイ(Guillaume du Fay 1397-1474)、ジョスカン・デ・プレ(Josquin Desprez1450/1455-1521)、ウィリアム・バード(William Byrd 1543-1623)など綺羅星のごとく存在する大作曲家の曲に、心を奪われない人がいるでしょうか?

 私の高校生時代、毎日の最大の楽しみは、毎朝6時すぎから始まる NHK のFM 放送「バロック音楽の楽しみ」(1963-1985 放送)を聴くことでした。毎朝むさぼるように聴き、バッハ以前の大作曲家の作品に魅せられていきました。服部幸三先生、皆川達夫先生の平易でわかりやすく、音楽に対する愛に満ちた解説が、放送を聴く人の心を捉えて離さなかった番組でした。
 バッハ以前の大作曲家の作品は、真珠の輝きにも似た美しいものでしたが、番組でバッハの音楽を取り上げた日は、生命力に満ち溢れた太陽が、その姿をこの世に初めて姿を現したかのように、異次元の圧倒的な感動が伝わってきました。

 そしてバッハ以降の大作曲家の作品はどうなったのでしょうか?
モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)、ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)、ショパン( Frederic Francois Chopin 1810-1849)本書に登場する大作曲家の作品に、“ バッハが宿っていないもの ” は、皆無であるともいえるようになりました。言葉を変えますと、バッハが宿らない作品は、傑作として成立しなくなったとも言えます。

 「バッハの存在」というのは、それほど大きく重いものです。本書では、そのバッハの影響を、バッハ以降の大作曲家の作品の自筆譜から探っていきます。通してお読みいただけますと、自ずと音楽史の流れが見えてくると思います。

 クラシック音楽の要素は、「和声」と「対位法」、さらにもう一つ、重要な要素があります。それは「旋律」です。ロベルト・シューマン(Robert Alexander Schumann 1810-1856)は、「Album für die Jugend ユーゲントアルバム( 子供のためのアルバム) Op.68」の第1曲の題名を「Melodie メロディー」としました。この命名は、とても意味深いものです。まずはその意味を詳しく説き明かし、「和声」「対位法」「旋律」が、どのように絡み合って楽曲を構成していくか
を見ていくことから、本書の扉を開きたいと思います。
                         
             2022 年 3 月 21 日 中村洋子      


★https://www.dropbox.com/s/y2iew7zg4cefcgw/%EF%BC%88%E8%A3%8F%E8%A1%A8%EF%BC%8911%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A4%A7%E4%BD%9C%E6%9B%B2%E5%AE%B6%E3%80%8C%E8%87%AA%E7%AD%86%E8%AD%9C%E3%80%8D%E3%81%A7%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%99%E3%82%8B%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E5%8F%B2.pdf?dl=0

 

 

 

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■私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》6月17日発売■

2022-05-31 16:18:13 | ■私の作品について■

■私の新著《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》6月17日発売■
~ドビュッシーは Deux Arabesquesの大文字「A」をどう書いたか~

              2022年5月31日  中村洋子

 

 

 

 

★お待たせしました。

私の新しい著書《11人の大作曲家「自筆譜」で解明する音楽史》が、

6月17日に、「DU BOOKS」より発売されます。

内容につきましては、次回ブログで詳しくお伝えします。

 

★登場します11人の大作曲家は、バッハ、モーツァルト、

ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ムソルグスキー、

ブラームス、チャイコフスキー、ドビュッシー、ラヴェル、

バルトークです。


解説する名曲は、 Bach「フーガの技法」、

Mozart「交響曲40番」、 Beethoven「悲愴」、

Tchaikovsky「四季」、Schumann「ユーゲントアルバム」、 

Chopin「子犬のワルツ」、Mussorgsky「展覧会の絵」、

Brahms「交響曲4番」、Tchaikovsky「四季」、

Debussy「アラベスク」、Ravel「マ・メール・ロワ」、

Bartók「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ」で、

「自筆譜」、あるいはそれに近いものが入手できる曲を選びました

 

 

 

 

★名曲解説とは別に、《フーガの技法はなぜ「ニ短調」のみで

書かれたか》、《ドビュッシーはどのように音楽を学んだか》を、

章立てして分析しました。

自負できる内容となっておりますので、ご期待ください。


★これら「人類の宝」の蓋を、「自筆譜」によって開き、

全く新しい視点により、解読します。

この本をお読みいただければ、

本物の音楽とは何か! それを聴き、演奏することが、ますます

楽しくなり、愉悦に満ちた瞬間となることを、実感できる

思います。


★この本は、ネット購入もできますが、書店、楽譜店さんなど、

街にある実店舗でお求め頂けれましたら、更に嬉しいです。

お散歩をしているときに、廃業を告げる書店の張り紙をみますと、

悲しく、残念に思います。

身近にある書店は、私たちにとって、無くてはならない貴重な存在です。

直接、現物の本や楽譜を自分の目で確かめることは、とても重要です。

楽器店の音楽書籍コーナーでも、お求めいただけます。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

                            麦秋

 


★さて、前回ブログで取り上げましたドビュッシー「アラベスク」は、

この新著でも、中身濃く書きました。

勉強しながら、本を執筆している際、「アラベスクはこんなに

凄い曲だったのか!」という驚きの連続でした。


★今日は、その「落穂拾い」のようなお話です。

大作曲家の「自筆譜」を勉強していますと、一見音楽とは

関係なさそう事でも、とても面白い発見があります。

例えば「 Deux Arabesques 2つのアラベスク」自筆譜に書かれた、

「Arabesques」の大文字の書き方です。


★私は「自筆譜」ファクシミリを入手する前は、こんな「瑣末」

なことには、全く、無頓着でした。

今では、これは決して「瑣末」でもないような気がしています。


★私が所持しています、Henle、Wiener Urtext Edition、Bärenreiter、Durand、

ヘンレ、ウィーン原典版、ベーレンライター、デュラン‥‥、

定評ある楽譜は皆、きちんと「Deux Arabesques」と、

「Arabesques」冒頭の大文字「A」を、

パリのエッフェル塔のように、カチッと尖った形に書いています。


★ところがドビュッシーの「自筆譜」はどうでしょう。

ドビュッシーはこの「Deux Arabesques」の文字を3ヵ所で

書いています。

①表紙に書かれた曲の題名。
②アラベスクⅠの楽譜の冒頭
③アラベスクⅡの楽譜の冒頭、計3箇所です。


★①は通常の「A」の大文字ですが、馬蹄形の柔らかい曲線

②は小文字の「a」を、大文字のように大きく書いています。

Deuxの「De」は、「自筆譜」のその部分が剥落、読めません。

③は、ほとんど小文字「a」にしか見えません。

④「アラベスク1番」冒頭の速度表示「Andante con moto」の

「A」大文字は①によく似ています。

 

★この4種類を、書き写してみます。

 

 

正確なところは、自筆譜ファクシミリでご覧ください。
https://www.academia-music.com/products/detail/159002

 

 

 

 


★ドビュッシー先生は、パリのエッフェル塔型の大文字「A」は、

お使いにならないのでしょうか?

いいえ、そんな事はありません。

「アラベスクⅠ」冒頭の署名では、「C.A.Debussy」と

エッフェル塔型の大文字「A」を、使っていらっしゃるのです。

“この曲の題名に、かっちりした大文字「A」は

使いたくなかったのです”

とでも、言いたげな様子です。

アラベスク模様は、曲線が似合います。

 

 

 

 

★そんなお話を知人に、メールしましたら、こんなお返事が来ました。

『題名が小文字の「a」を大きく書いているのは、もしかして

モティーフの始まりの大事な音を強調しているのかも!と

思ってしまいました。』

なるほど。

実は、お送りしたメールで「ラ ソ# ファ# ミ」が、

アラベスクの実に大切な、「主要モティーフ」であることを、

その方にお伝えしていたのです(新著にも書きました)。

そうかもしれません。

 

 

 

 

★あるいはドビュッシーは愛国者でしたから、「ラ」の音を、

ドイツ式に「a、A」とは思わず、「La」と思っていたかも

しれませんので、そうではないかもしれません。

真相は分かりませんが、書体の異なりを眺めているだけでも、

「ラ ソ# ファ# ミ」が、より一層身近に、親しみをもって

感じられるようになりました。


★こんな楽しい発見は、バルトークにもありました。

それについては、本を読んでいただくことにしますが、

「自筆譜」で大作曲家の、肉筆に触れることによってのみ得られる、

楽しい発見です。

その結果、いろいろと考えをめぐらすことができるのも、

楽しい刺激の一つです。

 

 

 

 


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■私の新しい著作が、間もなく刊行されます■~Debussy「2つのアラベスク」は、春風に舞う天女の世界~

2022-04-24 01:47:38 | ■私の作品について■

■私の新しい著作が、間もなく刊行されます■
 ~Debussy「2つのアラベスク」は、春風に舞う天女の世界~

             2022.4.24 中村洋子

 

                                苧環(オダマキ)


●ゴールデンウィークも間近です。

前回ブログの日付を見ましたら1月末でした。

もう3ヶ月も経ってしまったのですね。

その間、近く出版します本の執筆で忙しい毎日でした。


●最後になって、新たに「バルトーク」の章を追加することになり、

全部で計11人の大作曲家について、有名な作品一曲を、

「自筆譜」を基にして、詳細な分析を施しました


★一人の作曲家につき、30近い「譜例」を、私が手書きで写譜し、

添付しましたので、とても時間がかかります。

文章だけでも十分ご理解いただけると思いますが、

「譜例」があるとさらに鮮明に、イメージが湧くことでしょう。


★原稿と譜例は、ゲラ刷りの段階に到着しました。

校正を重ね、万全を期して皆様にお届けしたいと思います。


★11人の大作曲家の作品は、前回ブログで書きましたように、

モーツァルト「Sinfonie g-Moll 交響曲40番ト短調」KV550 や、

ブラームス「Sinfonie Nr.4 交響曲第4番 e-Moll ホ短調」Op.98

のように、オーケストラ作品や、Bartók Bélaバルトーク・ベーラの

「Sonata for solo violin無伴奏ヴァイオリンソナタ」の室内楽、

バッハの「フーガの技法」のように楽器編成不明の曲等、

多岐にわたっています。

 

 

                  水芭蕉

 


★モーツァルトやブラームスの交響曲、バルトークの晩年の傑作、

バッハの畢竟の大作は、その巨大な作品のどこを取り上げるべきか、

書く前から身構えたのですが、ドビュッシーのピアノ独奏のための

「Deux Arabesques 2つのアラベスク」は、ほんの少し息抜きの

気持ちがあったことは否めません。


ドビュッシー初期の、優雅でエレガントな「アラベスク」の

自筆譜は、曲想通り、流れるように美しく、見ているだけで

うっとりします。
http://www.academia-music.com/products/detail/159002

しかし、分析しながら書き始めますと、豈図らんや(あにはからんや)

想像を絶する大建造物でした!


★シューマンが、ショパンを評する言葉のChopinをDebussyに

置き換えるだけでよいのですね。

Chopins Werke sind unter Blumen eingesenkte Kanonen“

"Chopin's works are guns buried in flowers." Robert Schumann

ショパンの作品は花々の陰に隠れた大砲だーロベルト・シューマン

(直訳:ショパンの作品は花の下に埋もれた大砲である)

"Debussy's works-Deux Arabesques are guns buried in flowers." 
                                                           -Yoko Nakamura


★冗談はさておき、「Deux ArabesquesⅠ」は、著作で

微に入り細に入り考察しましたので、このブログではほんの少し

「Deux ArabesquesⅡ」について書きましょう。


★ドビュッシーの自筆譜を見ますと、「ArabesqueⅠ」、「ArabesqueⅡ」

というタイトルの書き方はしていません。

1曲目は「Deux ArabesquesⅠ」、「2曲目は Deux ArabesquesⅡ」です。

日頃、気にも留めていなかったのですが、自筆譜を見ますと、

ドビュッシーは「C.A.Debussy」という自分の名前の署名より、

タイトルの方を、とても大きく、そして目立つように書いています。


★ドビュッシーの「この曲はアラベスク1番、アラベスク2番、という

二つの曲ではなく、“二つのアラベスク”という、一曲の曲なのです」

という声が、聞こえてきそうです。

 

 

                     ショウジョウバカマ

 


★それでは「二つのアラベスク」の調性の関係はどうでしょう。

1番は「E-Dur ホ長調」、2番は「G-Dur ト長調」です。

「E-Dur」の主音と「G-Dur」の主音は、「3度の関係」にあります。

 

 


 

 


★「3度の関係」の調性につきましても、本で詳しく論じましたが、

バッハ由来の、意外性もあるうえに、実に美しい転調です。

ショパン、シューベルト、ブラームスの、「3度の関係」の転調は、

一度聴いたら忘れられないほど、強い印象を与えます。

 

★この譜例に書きました二つの三和音を、是非、

続けて、弾いてみてください。

それだけでも、この美しさを実感できると思います。

 

★ドビュッシーは「Deux ArabesquesⅠ」で、徹底した

motif 動機」による構造設計を試みています。

この曲の、麗らかで雅な外見からは、想像もつかないような

峻厳な構造です。

その中の一つ、「Deux ArabesquesⅠ」の冒頭1、2小節で、

さりげなく登場するバス声部の motif「cis¹ h a ド♯、シ、ラ」は、

「Deux ArabesquesⅡ」では冒頭1、2、3小節では堂々

全音符の「c¹ h a ド シ ラ」に、成長しています。


★ただし、この2番は「G-Dur」ですので、「cis¹ ド♯」は、

「♯」のない「c¹ ド」になっています。

細い蔦の枝が成長し、見事な「アラベスク」模様を

形作るかのようです。

「アラベスク」という語の意味するものについても、

本でご説明しました。

 

 

 


★もう一つ、この曲の特徴として挙げられるのは、いくらか憂愁を

帯びたような、魅惑的な響きは、「Ⅲの和音」によるもの

でもあります。

「Deux ArabesquesⅠ」の1、2小節を、和音要約しますと

こうなります。

 

 

 


「E-Dur のⅣ、Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ」の和音第一転回形「Ⅳ¹ Ⅲ¹ Ⅱ¹ Ⅰ¹」の

並行移動になりますが、その2番目の「Ⅲ¹」の魅惑的なこと!

この和音要約も、是非音に出して弾いてみてください。

「Deux ArabesquesⅡ」では、2小節目の和音が、

「G-DurのⅢ」の和音です。

 

譜例4

 

 

長調の「Ⅰ」の和音が「長三和音」なのに対して、

長調の「Ⅲ」の和音は、少し陰のある「短三和音」です。

 

★その点も、はっきりした色彩ではなく、マリー・ローランサン

Marie Laurencin (1883-1956)のパステル画のような

淡い色調になるのですね。

ちなみに、ドビュッシーは1862年生まれ、ラヴェルは1875年生まれ、

ローランサンはその少し後の世代ですね。

 

 

 

 

★そういえば作曲家のアントン・ヴェーベルン 

Anton Friedrich Wilhelm von Webernも1883年生まれでした。

ドビュッシーとヴェーベルンが、20歳しか年齢差がないのは、

少々、意外な気がします。

この二人が、20世紀の音楽の行く末を決定付けた作曲家です。


★お話を戻しますと、ドビュッシーは、天女が春風に吹かれて

空中で舞うような「Deux ArabesquesⅠ」と、

春の光を一杯浴びて、蝶や小鳥が舞い飛び回るような

「Deux ArabesquesⅡ」という、夢のような世界

作り上げました。

 

★しかし、その世界は、少しの風で、もろくも揺らぐような

脆弱な土台ではなく、盤石な石組みの上に、その夢の世界を

繰り広げたのでした。

“Es ist des Lernens kein Ende.”―Robert Schumann

シューマン曰く「学びに終わりはありません」ですね。

 

 

 


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■モーツァルトの「自筆譜」は、まるで歌っているかのよう■ ~去年から執筆中の本の原稿が昨夜完成しました。~

2022-01-31 23:17:09 | ■私の作品について■

■モーツァルトの「自筆譜」は、まるで歌っているかのよう■
 ~去年から執筆中の本の原稿が昨夜完成しました。~
              2022.1.31   中村洋子

 

 

 

 

★去年からずっと執筆中でした本の原稿を昨夜、完成しました。

偶然にも昨日は、昨年亡くなられた Wolfgang・Boettcher 

ヴォルフガング・ベッチャー先生(1935年1月30日-2021年2月24日)

87回目のお誕生日でした。


★今年はお誕生祝いのカードを送る事もなく、寂しい1月でしたが、

原稿完成が先生のお誕生日だったのは、天国から、応援していて

くださったようだと感じています。

先生は、Wolfgang Amadeus Mozart モーツァルト(1756年1月27日 -

1791年12月5日)と、お誕生日が近いことをいつも喜んで

いらっしゃいました。

ファーストネームも、モーツァルトと同じヴォルフガングです。


★来月2月24日、先生のお命日に、ドイツで先生の追悼文集が出版

されます。

私も追悼文を寄稿しました

ここで思い出されますのは、2007年5月の先生の来日中のことです。

この年は先生が、私のチェロ組曲1番をCD録音してくださった年です。

その来日期間中、同年4月に亡くなったチェリストのMstislav 

Rostropovich ロストロポーヴィチ(1927年3月27日-2007年4月27日)

の追悼文を、ホテルで書いていたそうです。


★お忙しい演奏と教育活動の日々、貴重な休息時間の夜も、

心のこめて文章を紡いでいらっしゃったのでしょうね。

私がそのベッチャー先生の追悼文を、十数年後に書くことになるとは、

夢にも思いませんでした。

 

 

 


★お話を、私の今度出版する本に戻します。

この本の内容は、大作曲家の自筆譜によって、音楽史の大きな流れ

を俯瞰する試みです。

もちろんその中に、モーツァルトも含まれます。

選んだ作品は「Sinfonie g-Moll KV550 交響曲40番 ト短調」です。

作品を選ぶ基準は、その曲の「自筆譜」ファクシミリが出版されている

こと、を前提としました。


★現代は便利で、ネットでかなりの自筆譜を見ることができます。

けれども、私は紙の「自筆譜」ファクシミリを、ピアノの譜面台に

置き、矯めつ眇めつ(ためつすがめつ)勉強することが好きです。

残念ながら、大半の「自筆譜」ファクシミリは、分厚く重く、

譜面台には置けないことも多く、やむを得ず、机に置いて

見ていますが・・・

本の原稿の一部をここに掲載します。


モーツァルトの「自筆譜」は、まるで歌っているかのよう。

交響曲40番の「自筆譜」ファクシミリを読んでいて、つくづく

楽しいと思うのは、スラーの掛け方です。

モーツァルトが歌っているかのような、息遣いが感じられます。


★これはショパンのスラーとも共通点があります。

バッハの作品にはスラーが掛けられることはあまりなかったですが、

それはバッハ時代の楽譜の記譜様式が、そうだったからです。

 

 

 


★モーツァルトの時代は、もう現代のように、スラーをたくさん

書き込みます。

バッ ハ「自筆譜」は、一度書き上げた楽譜上に、時を経て、

推敲のペンを入れる ことがあり、平均律1巻も楽譜の色が

違うところは、その推敲の跡です。


★ところが、モーツァルト「交響曲40番」は、第1ページから

二色のペンで楽譜 が書かれています。

これはどういうことかと言いますと、モーツァルトは作曲 の際、

先ず「旋律部分(ソプラノ声部)」と「バス声部」を書き込み、

その後 「内声部」を異なる色のペンで書いているからです。


★この「ソプラノとバスの声部」は、太い筆跡の鷲ペンで書き、

「内声」は、カチッと硬い線の引ける、当時では珍 しかった鋼鉄の

ペンで書かれたようです。

モーツァルトの音楽に、バッハの対位法は地下水脈のように滔々と

流れているとしても、彼の作品の様式は、 「旋律」とそれを支える

「和声」部分からな っていることは自明の理です。


★「ソプラノ」声部のヴァイオリンと、「バス」 声部のチェロと

コントラバスが、太く力強い鷲ペンで朗々と記されているのに対 し、

「内声」を担当するヴィオラの八分音符の、空間を区切るように

細かく 刻む音は、硬質な鋼鉄ペンのほうが、書き易く

曲想にも見合っています。                       
                       (引用は以上)

 

 

 


モーツァルトの「自筆譜」を見ていると、彼が歌っているような

錯覚にとらわれてしまうほど、楽しい時間を過ごすします。

原稿を書く手を休めて、楽譜を読みふけっていました。


★ベッチャー先生に私の「無伴奏チェロ組曲4、5、6番」を

録音していただいた2011年末の頃ですが、

モーツァルトの主要なオペラの「自筆譜」ファクシミリを、

意を決して、揃えました。


「 Die Zauberflöte KV620 魔笛」のスコアも、「交響曲40番」

同様に、二色刷りのようなきれいな楽譜です。

もちろん、主だった歌は濃く太く、力強い鷲ペンで書かれています。

本でもご紹介しますが、モーツァルト独特のスラーやスタッカート

音を、彼がどのように演奏されることを望んでいたか、

頭の中で、その音を想像しながら、楽譜を読む愉悦。


★是非、この愉しさを皆様にもお裾分けしたいと思っています。

原稿の本文は完成したのですが、まだやるべきことが、

多々残っています。

まずは、文章を理解しやすくするための、「譜例」をたくさん、

手で書く作業です。


楽譜を読めることが堪能な方には、この譜例により、

更に具体的に分かり易くなると思います。

読譜があまり得意でない方も、文章だけで、十分に大作曲家と

その作品の自筆譜が、どんなに多くのメッセージを発しているか

お伝えできていると思います。


大作曲家の自筆譜からは、「このように演奏してください。

このように聴くと、より深く楽しめますよ」という声が、

囁きが、聞こえてきます。

 

 

 

 

★今回出版する本は、当初の心積もりでは、バッハから

年代順に、次々と大作曲家とその「自筆譜」をたどり、

音楽史を俯瞰するつもりでした。

しかし、当ブログで取り上げましたように、昨年私は、

半藤一利さんの現代史の著作を読み進めていくうち、

歴史は決して一本調子で、時間軸に沿って進むものではない

ことを知りました。


★音楽史でいえば、ムソルグスキーの曲に、ショパンが色濃く

宿っていることを、一つの例とすることができます。

ですから、本で取り上げる作曲家の順番は、ムソルグスキーの

次に、ショパンを取り上げたりしました。

時間軸の流れは、逆転しています。

チャイコフスキーの次は、当然ドビュッシーになります。

その理由は、本をお読みください。


★書き終えてみて、クラシック音楽の直線的ではない、

歴史の大きなうねりを、実感できました。

予定では、マーラーやシェーンベルク、バルトークにヴェーベルン、

そしてジョン・ケージやリゲティを、「自筆譜」から読み解くつもりで

準備もしたのですが、ラヴェルに行き着いたとき、既に予定の

紙面を越えました。

20世紀のマエストロたちについては、また次回のお楽しみに


★1月は半藤一利さんの、生前のインタビューをNHKラジオ

放送していました。

聴き逃し配信で、まだ聴くことができますので、

お聴きになることを、お薦めします。

特に若い皆さんが、これを聴き、彼の本を手にとられること

願っています。


★音楽学生の皆さんには、「本物の音楽家」になるために、

本当に必要で有益な知識と考え方、その方法論を、

彼から得ることができると、思います。

カルチャーラジオ NHKラジオアーカイブス「声でつづる昭和人物史

~半藤一利」
https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=1890_01

 

 

 

 


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■中村洋子作曲「風宴」はピアノでも弾けます■

2021-07-11 21:29:09 | ■私の作品について■

■中村洋子作曲「風宴」はピアノでも弾けます■
 ~源氏物語の「お手紙」の意味するもの~
            2021.7.11 中村洋子

 

 

 

 

★前回ブログで、私の作曲しましたチェンバロ独奏曲「風宴」

ついて書きました。

その後、ピアニストの皆さまから「是非弾いてみたい」という

お問い合わせを、多数いただきました。

Bach の「平均律クラヴィーア曲集」は、当時、おそらくチェンバロで

弾かれたことでしょう。

もちろんオルガンやクラヴィコードでも可能です。


★Bachは、ゴルトベルク変奏曲やイタリア協奏曲について、

明確に「チェンバロで弾くように」と楽器指定しています。

しかし現代の私たちは、それらの曲をチェンバロはもとより、

ピアノで弾いたり、大ピアニストのすばらしいピアノ演奏で

楽しんでいます。


★このような訳ですので、私のささやかな作品、

チェンバロ独奏曲「風宴」もどうぞ、ピアノで思いっきり

弾いて下さい。

ご遠慮することなく、ペダルも十分に用い、現代のピアノの豊かな

響きを楽しんでいただきたいと思っています。

 

 

 


★前回ブログでは、私が通っていた保育園の先生が、卒園前に下さった

お手紙について、懐かしく思い出しながら、書きました。

私の通っていた保育園は、カナダの宣教師が戦前に開園されました。

自宅からはとても遠かったのですが、大変評判のよい保育園で、

人気があり、母はその評判を聞いて、私を入園させたのでした。

どの保母さんの言葉使いも、丁寧で優しく、明るく穏やか。

子供の目を見てゆっくり話をされ、、春のお日様のもとで

日向ぼっこをするような雰囲気でした。


★かつて、私のドイツ人の友人が、「僕の一番好きなドイツ語は、

"Kindergarten" です。

本当にきれいな言葉だ!」と言ったのを思い出しました。

「キンダーガルテン 子供たちのお庭」、きれいな言葉ですね。

その保育園も、「子供たちの楽しいお庭」という環境でした。

ただとても遠かったので、痩せっぽちでひ弱な私が通うには、少々

辛い面があり、生島先生もそれを案じて下さっていたのでしょうね。

雨が降ると、「保育園を休んでよい」という暗黙の了解が、

我が家にはできてしまい、「おうち遊び」も大好きな私は、

雨の日は家で絵本を読んだり、ステレオで童謡を聴いたり、

ピアノを弾いたり、きれいな千代紙で貼り絵をしたり・・・

楽しい一日でした。


★「三つ子の魂百まで」。いまだに雨が降ると、子供の頃の

習慣から、仕事の手を止め、長いすに寝そべって、本を読んだり、

サボっています。


★生島先生の優しいお手紙から、お話が脱線してしまいましたが、

梅雨空の、雨が多い毎日。

当然小さい頃からの習慣で、本を沢山読みます。

久しぶりに、円地文子訳「源氏物語」を紐解きました。

日本最高の古典文学≪源氏物語≫では、「お手紙」は最も重要な

恋の駆け引きの道具であり、差出人の才知の見せ所、そして

この物語の展開を牽引する、道具でもあります。

 

 

                                                                            モリアオガエルの卵

 


★物語の主人公光源氏は、最愛の妻の「紫の上」を亡くし、

生前に「紫の上」が書いた手紙を、女房たちに命じて焼いてしまう

場面を、少し書き写してみます。


★円地文子さん《1905(明治38年)-1986(昭和61年)》の訳です。

(源氏は)「あとに残っては見苦しいような人のお文なども、

破るには惜しくお思いなったのか、少しずつ残しておありに

なったのを、何かのついでに見出して、破り捨てさせなどなさる。

あの須磨にご退去の頃、あちこちの女君たちからさし上げたものの

ある中で、亡き紫の上の御手蹟(みて)のは、特に一つに

まとめておありになった。

御自身でこうしてお置きになったのだったが、それも遠い昔のこと

となってしまったと思召す。

しかし、今の今書いたような墨の色など、ほんとうに千年の形見にも

出来るものであるが、出家すれば見てはなるまいものとお思いになり、

是非ないことと、親しくお使えする女房たち二三人ほどに言いつけて、

お前で破らせておしまいになる」


★紫の上の一周忌を済ませ、出家を決意した源氏の心境です。

当時の仏教に基づいた世界観から言えば、出家するという事は、

「この世から、この世とあの世をつなぐ架け橋のような位置

(仏門に入る)に移動する」、という決意表明です。

もうこの世の人ではなくなる、という意味です。

 

 


 


★源氏は初めて、その時に、紫の上の手紙を破らせます。

このように生きていた(この世にある)ときに、最も大切に

保存するものが、手紙だということになります。


★もう一つここで重要なことは、「今の今書いたような墨の色など、

ほんとうに千年の形見にも出来るもの」という表現です。

紙が貴重品であった時代、これも高価な墨で書かれた手紙は、

まるで今書いたように見えるし、千年も持つことでしょう、と

紫式部は書いています。


源氏物語は2008年に、源氏物語が読まれていたことが記録上で

確認される時期から、ちょうど一千年を迎えました。

紫式部の心中は、手紙と同じく、「自分の書いた物語は、

千年の形見になるほど残るかもしれない」、という密かな

自負を持っていた事を、私はこの文章に嗅ぎ付けるのです。


★源氏物語を現代語訳した円地文子さんとは、面識もなく、

お会いしたこともないのですが、ご自宅と、私の実家の距離が近いので、

何となく親近感がありました。

源氏物語全訳に取り組んでおられると聞き、ご自宅前を通るときは、

「ここでお仕事をしていらっしゃるのだなぁ」と、お庭の木々の先の

お家を見上げていました。


★私は現代の作家たちの源氏物語訳も、時々本屋さんで立ち読み

してみるのですが、購入にはいたりません。

現代人にも親しみやすく、というのはわかるのですが、

やはり王朝文学ですから、源氏物語の世界は、市井の人々の

言葉使いや感覚とは違う、と思います。

王朝と現代感覚の庶民の暮らしを、峻別しつつ、王朝人と現代人に

共通する、人間観察と洞察をその訳によって探るのが、

源氏物語の翻訳の本来の姿勢でしょう。

この円地文子訳はそれに成功していると思います。


★そして大事なことは、私が購入する気になれない、いくつかの

現代語訳は、源氏物語を、今読まれている漫画のように、

プレイボーイ光源氏の恋愛模様の物語と捉えていることです。

確かに彼はハンサムで、もてるのですが、私には、

光源氏は大きな物語の「狂言回し」にしか過ぎないようにも、

思われるのです。


源氏を中心とする、さまざまな人間の、物語の中の有機的配列を

見ていきますと、人間とは何か、その人間を支配する、

「時」とは何か、という大命題が浮かんでくるのです。


★そう「時」と「時」を繋いでいくものが、手紙なの

かもしれませんね。

源氏物語は、バッハの音楽の大伽藍に似ている、といつも思います。

本物の芸術は、古今東西、その表現し、探求するものは、

音楽、文学の違いに関わらず、

案外、同じものなのかもしれません。

 

 

 

 

 

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■中村洋子作曲≪チェンバロ独奏曲「風宴」≫の楽譜、取扱を開始■

2021-07-09 12:31:23 | ■私の作品について■

中村洋子作曲≪チェンバロ独奏曲「風宴」≫の楽譜、取扱を開始■
       ~作曲家の習性について~
                2021.7.9  中村洋子

 

 

麦秋:「 Debussy 亜麻色の髪の乙女」の髪は、そよ風に揺れる麦のこの黄金色でしょうか

 


★梅雨末期のうっとおしい雨が続いています。

それでも、灰空の雲の上には、きっと美しい青空が

広がっているのでしょうね。

私の作品、チェンバロ独奏曲「風宴」の楽譜のお取り扱いを

アカデミア・ミュージックで始めました。

この作品は1989年作曲、2000年1月に日本作曲家協議会(JFC)

から出版されました。

全5楽章の美しい曲です。


★私がここで自らの作品を「美しい」と書きましたことを、

不思議に思われた方もおいでになるかもしれません。

私は、作曲をしました後は、次の作品を書くために、

できるだけ過去の作品を、記憶から消去してしまう

習性があります。

もちろんすっかり忘れてしまうのではないのですが、

大まかな記憶にとどめて、細部の音などは、霞がかかった

ような記憶にとどめます。


★ある俳優のエッセーを読みましたら、上演し終わった劇の

シナリオを捨てる、と書いていました。

それと近い行為かもしれません。

(もちろん大事にとっておく役者さんも多いようですので、

一概には言えませんが)

バッハの作品は一音たりとも忘れまい、と身構えているのとは、

正反対です。

 

 

 


★このたび「アカデミアミュージック」さんで、この「風宴」の楽譜を

お取り扱いをいただくことになり、改めて弾いてみましたら、

とても美しくて佳い曲だなぁ、と素直に思えました。

 

 


第1楽章は 「Quasi improvisation あたかも即興のように」

楽譜に音は、きっちりと書き込まれているのですが、それをまるで

”即興で弾いているように聴こえる”、ような曲想と演奏を望んでいます。

 

 

 


★この「風宴」という曲の題名の由来について少しお話します。

この作品の初演はチェンバリストの及川真理子さんに

お願いするつもりでした。

及川真理子さんはフランスでロベール・ヴェイロン=ラクロワ

(Robert Veyron-Lacroix, 1922年 - 1991年)にチェンバロを

学ばれました。

帰国して意欲的な活動をされている頃、私は彼女に出会い、

及川さんが主催されていたバロック音楽研究会で、チェンバロの楽器の

歴史と特性を学び、通奏低音を試行錯誤し、時には来日した

ロンドンバロック(1978年、イギリスで結成されたオリジナル楽器

による演奏グループ)の皆さんと歓談したり、美味しい小川軒の

ケーキでお茶を飲み、楽しく実り豊かな時を過ごしました。


通奏低音に関しては、「あなたは作曲家だから、

自由に弾いていいのよ」

というお言葉通り、楽しく自由に和声をつけて弾いていました。

和声は決して堅苦しいものではありません。

必要最低限の知識と制約の上に、自由の翼を羽ばたかせればよい、

と私は思っています。


★私たちは21世紀に生きているのですから、干からびて、

灰色のほこりをかぶったような、「通奏低音」を学問のように

弾く必要はないと思っています。

そのような楽しい時は、及川さんの突然のご病気で終わって

しまいました。

ご入院先からお電話を頂き、「初演はご回復をずっと待ちます」と

申し上げたのですが、「もうできないの」とおっしゃった時の声を

忘れることはできません。

儚いですね。

 

 

 


★そのような経緯の後の作品完成です。

この1楽章は、天上で軽やかにチェンバロを弾いている女性の

イメージです。

その音は地上からは、風の音にしか聴こえないかもしれませんね。

「風の宴=風宴」のタイトルの由来です。

 

第2楽章 Lamentoso 悲しみに沈んだ、哀悼

ゆったりとチェンバロの豊かな音の響きを味わいます。

 

 

 


★私はチェンバロの作品を作曲するときは、

百瀬昭彦さんの工房スタジオをお借りしていました。

百瀬さんはいつも完璧に調律された銘器をご用意して下さり、

私はチェンバロの豊穣な響きに、一人で酔いしれていました。

ちなみに私はアルコールを一滴も飲めないのですが、

お酒に酔う、ってこんな感じかしら、といつもスタジオで

感じていました。

頭の中がふっくらとよい香りと幸福感で満たされた感じですね。


★第3楽章 Allegretto 快速に

20世紀(作曲したのは20世紀ですので)の軽やかな舞曲。

繻子のトウシューズをはいた踊り子が、軽やかに舞い踊ります。

まるで地球の重力から開放されたかのような舞曲。

 



 

★第4楽章♪=ca.52~60

8分音符をおおよそ52~60のテンポで

とてもゆっくりした楽章です、沈思黙考。音の思索を深めます。



 


★第5楽章 Grandioso  堂々と荘厳に

音でできた壮麗な大理石の階段をゆっくり上っていきます。

上りきった天上にはきらびやかな音の宝石の宮殿がそびえています。



 


★Yoko Nakamura
Fû-en for harpsichord JFC-9915

中村洋子 「風宴」ハープシコードのための
(社)日本作曲家協議会 JFC-9915 定価1,100円

お問い合わせは アカデミア・ミュージック 佐久間様
電話 03(3813)6751

アカデミアミュージック / 輸入楽譜の専門店 TOP (academia-music.com)

 

 

 


★ところで、今日は思い出話をもう少し。

お部屋を少し整理していましたら、

私が通っていた保育園を、卒園する前に、保母さん

(私はこの言葉の、なんとも優しい響きが大好きです)

からのお手紙が出てきました。

茶封筒に入っているのですが、昭和の時代の封筒は、現代より

少し縦横の幅が小型のようです。

茶色のブンブン紙のような封筒に透かしの線が縦に

平行して入っています。

「このごろのようこちゃんは とてもげんきでおしゃべりで
ほんとうに はるのこどものようですね。とてもうれしいです。
がっこうへいったら からだをもっともっとじょうぶにして、
よくあそび、よくべんきょうしてくださいね。

なかむらようこさまへ  さやうなら    いくしまえつこ」

と書いてありました。

 

★ひ弱で痩せっぽち、内気な(現在と全て反対です)私を、

優しく気遣って下さった生島先生のお手紙です。

生島先生お元気かしら。


遠い昔のお手紙も、紙で書かれた時代ですから、きちんと残ります。

パピルスの昔から、紙は無限に長い時間を生き延びてきました。

現代の通信手段、ネットのメールは、これからどうなるのでしょうね。

送信したメールも、マザーコンピューターに集約されてしまい、

人間の一番繊細でやさしい感情が、集約され、圧縮されていくような、

なんともいえない不気味さも感じます。


★昭和の時代の生島先生の、暖かく、優しい思いやり深い感情は、

何十年のときを経ても、色あせることはありません。

断捨離で、すっきり何もないお部屋、

思い出のお手紙の一葉もない生活には、

私は耐えられないのです。

 

 

 

 

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■中村洋子「無伴奏チェロ組曲」第1巻SACD、再プレスされました■

2021-03-23 23:08:55 | ■私の作品について■

■中村洋子「無伴奏チェロ組曲」第1巻SACD、再プレスされました■
~ Boettcher ベッチャー先生の名演をお聴きください~

                2021.3.23  中村洋子

 

 





★3月20日午後6時すぎ、宮城沖でM6.9、震度5強の地震が発生。

東北、関東にお住まいの方はさぞ、ストレスを感じられたこと

でしょう、心より、お見舞い申し上げます。

 

3月21日は、 Johann Sebastian Bach バッハ (1685-1750)の

お誕生日でした。

★さて、きょうは嬉しいお知らせです。

中村洋子作曲「無伴奏チェロ組曲第1巻」(第1~3番)の、

SACDが、再プレスされました。

再プレスとは、書籍の増刷と同じです。

SACD第1巻は、私の作曲しました「無伴奏チェロ組曲」

1、2、3番。

第2巻は、「無伴奏チェロ組曲」4、5、6番です。

演奏は、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生。






★私は気が付きませんでした、大変ありがたいことに、

第1巻は、既に売り切れとなっていました。

Boettcher ベッチャー先生が、2月24日に急逝された丁度その頃、

発売元の「Disk Union ディスクユニオン」制作部で、再プレスが、

決まったそうです。


★前々回ブログで書きましたように、Boettcher ベッチャー先生の

ソロの演奏を録音で残すことができましたことは、

何とも幸せでした。

亡くなられた時に、再プレスが決定されたのは、偶然とはいえ、

何か運命的なものを、感じます。

是非とも、この素晴らしい演奏を残していきたいと、思います。


「第1番」は春、「第2番」は冬、「第3番」は秋、

「第4番」は春分と秋分、「第5番」は夏、

「第6番」は季節の統合を、象徴しています。


★「第1番」を作曲した時には、組曲の中の各曲のタイトルを、

日本語で考えました。

2番、3番と書き進むうち、この作品の出版社は、ドイツの

「Musikverlag Ries & Erler  Berlin リース&エアラー社」ですし、

演奏は Boettcher ベッチャー先生ですので、だんだん、英語や

ドイツ語の発想でまず、タイトルを考え始めるようになりました。


★その後、全6曲の楽譜を出版することが、「Ries & Erler」社から

決定した際、「表紙に日本語のタイトルを添えたいので、

日本語で書いて送ってください」と言われ、何とも、訳し難かった

ことを、覚えています。

 






★漢字や平仮名は、ドイツの皆さんにはエキゾチックで、

魅力的に見えるようで、表紙をカリグラフィー風に

飾りたかったのだ、と思います。

辞書を引き引き、自分で考えた外国語のタイトルを、

今度は、母語の日本語に移すのがこんなに難しいとは!

つくづく、言葉の壁を実感しました。


「組曲第1番」について、少しお話いたしましょう。

この曲は、2007年5月に作曲し、同年6月7日、ベルリン市庁舎で

開催されました「フンボルト財団」記念演奏会で、

Boettcher ベッチャー先生により、1曲目「雪国の祝い歌」と、

8曲目「青田波」が、初演されました。

全曲の初演は、その後です。

https://www.academia-music.com/products/detail/53140






★出版されています「組曲第1番」の楽譜は、「Ⅰ~Ⅵ」という

形式で、6曲という数え方です。

その中の「Ⅴ」は、Bachの組曲のように、Ⅴ-1、Ⅴ-2、Ⅴ-1と、

演奏されますので、全8曲のようにも、聴こえるのです。


★作曲する数年前、雪深い東北を旅したことがありました。

一面見渡す限りの銀世界が、いまでも目に浮かびます。

農家は、農閑期の冬に結婚式(祝言)をすると、その際、

聴いたことがあります。

雪はこんもり、暖かく、家と田畑を包み込みます。

 

★Ⅰ「雪国の祝いうた」  
ⅠFestlicher Gesang aus dem Schneeland
Festive singing out of snow country
深々と降る雪、軒まで雪に埋もれた茅葺の屋根、
ぼんぼりのように灯りがともった窓から、祝い歌がこぼれてきます。
お目出度いことがあったのでしょう。
山も川も人もみな、春を待ちわび、静かに静かに眠りに就きます。

 


★第一曲目「雪国の祝いうた」の冒頭、2分音符の「E音」が、

静かに「P」で奏されて始まります。

雪原を、周りの空気を震わせながら真っ直ぐに、

スーッと伸びて行きます。

3拍目の「A音」に達するまで、たった一つの音です。

心地よい、ほの暖かさがにじみ出るようなビブラートです。

雪深いしかし、どこか明るさ、輝きを含んだ冬の風景が、

目の前に浮かび上がります。





 

 

★Ⅱ「山笑う」
Leuchtende Berge im  Vorfrühling
Bright mountains in early spring
早春の山は、梢が風に揺れ、山が揺れるようです。
山が微笑んでいるのでしょうか。
春の精が、家々をノックして回ります。

 

★第二曲目「山笑う」

「山笑う」という日本語の季語は、さすがに、そのまま英語には

訳せませんでした。

直訳しても、分からないでしょうね。

36小節目で、ノックの音だけ弓を使わず、チェロを拳でコツコツと

叩いて頂いたのですが、リハーサルのその音は、とてもドイツ的で、

重々しく荘重でした。

春の妖精(フェアリー)は、「もっと軽く、薄衣を着て飛び回る」と

先生にお話しましたら、こんなに素敵なノックの音になりました。

 

 

 

★Ⅲ 「惜春」
Wehmut  über  das Ende des  Frühlings
  Melancholy  about the end of spring
山桜の花びらが風に舞います。
春の夕暮れは、いつまでも暮れません。
行く春を惜しむように。

 


第3曲目「惜春」

第1曲でビブラートの深く長い音、第2曲でコツコツと

チェロを叩く音を堪能した次は、この第3曲「惜春」

 


Boettcher 先生は、さりげなく弾いていらっしゃいますが、

拍節感は生命力に満ち、4小節目後半のスタッカートは、

なんと生き生きとしていることでしょうか。

33小節目の最後の音は、「fis」ではなく、「e」が正しいです。

楽譜の初版で、間違っていましたが、重版で訂正されました。




 



 

★Ⅳ  「山の神への祈り」
Morgengebet zu den Berggöttern
 Morning Prayer to the gods of the mountains
 今日一日の安全と山の恵みをいただくよう、朝日を浴びながら、
山に向かい、祈りを捧げます。

 


★4曲目「山の神への祈り」

昔の日本人は、自然に対する畏敬の念を抱いていたのですね。

曲頭の「G」と「d」の重音の何とも安らぎに満ちた、

優しい鼻濁音のような「音色」を、味わってください。



 



 

 

 

 

★Ⅴ-1「田植え歌」
Lied der Reispflanzer
Rice planter song
大地を一歩一歩踏みしめ、
苗を丁寧に植えていきます。

 


★第5曲Ⅴ-1「田植え歌」

冒頭のritmicoと

 

 

7、8小節の 

 

 

の、メランコリックな legato の対比は、見事です。




 

 

★Ⅴ-2「五月雨」  
Nieselregen während der Regenzeit im  Frühsommer
 Drizzle during rainy season in early summer
しとしとと雨は降り、霧に曇る五月の田。
田植え歌が流れます。

 

★第5曲Ⅴ-2 「五月雨」

梅雨の季節のしとしと雨の情緒は、日本人だけのものと

思っていましたが、 Boettcher 先生の演奏は、広重の浮世絵

のように、雨に煙(けぶ)る、そのしっとりとした湿度まで、

感じられます。

それは、5、6小節目の「d¹」音と「g」音の開放弦の響きが、

醸し出すのでしょうか。

21小節目は、少し趣きが変化します。

 


 



Ⅵ「青田波」 Eine feine Brise weht  über das saftig grüne Reisfeld
Gentle breeze blowing over a lush green rice field
やさしい初夏の風に、
稲の穂が波のように揺らぎます。

 

★第6曲「青田波」

「sul ponti celle スル ポンティチェロ(「駒の上で」の意)」、

駒(ブリッジ)近くに、弓を当てて弾く奏法や、

「sul tasto スル タスト(「指板の上で」の意)」、駒から離れた

指板の上を弾く奏法が、曲の後半に現れます。

 




★「sul pont.」の少しザラザラとした手触りと、

「sul tasto」の、音は弱いものの、違う世界から聴こえるような

感触、この二つのポジションと normal position の組み合わせで、

青々とした田を渡る、透き通った風の色が、どんなに心地よいか、

体感できることでしょう。

 

 

 

 


★このチェロ組曲第1番は、 Boettcher ベッチャー先生はじめ、

先生のお弟子さんたちを中心に、ヨーロッパで演奏されています。

日本でも少しずつ演奏されるチェリストが出ているようです。

作曲の動機の一つは、先生に日本の自然の素晴らしさを

お伝えしたいと、思ったことでした。


★作曲して10数年たちましたが、日本の美しい風景も変わりました。

この作品で描いた日本の心象風景が、既に現実のものとしては

存在せず、ノスタルジーの彼方に霞んでしまうことのないように

祈っております。

そして、 Boettcher ベッチャー先生のこの上ない演奏を

聴き続けられることを、切望しております。

 


Disk Union

【追悼】中村洋子:無伴奏チェロ組曲 GDRL1001&1002

追悼再プレス(SACDハイブリッド)入荷しました。
             (Disk Union御茶ノ水店)

W・ベッチャー先生(チェロ)2021年 2月没
杉本一家さん(エンジニア) 2019年10月没
ディスクユニオンにこの名演・名録音を残して下さった
お二人に、
心からの感謝と哀悼の意を捧げます
https://diskunion.net/shop/ct/ocha_classic


 

★このSACDの録音とマスタリングを、精魂込めてなさって下さった

日本ビクターの late KAZUIE SUGIMOTO 故杉本一家さんにも、

深い感謝と哀惜の念を、禁じ得ません。


★電気の雑音が入らなくなる深夜まで、わざわざスタジオに残り、

通常ではあり得ないほど入念に、じっくりと時間を掛け、

マスタリングをしていただきました。

このSACDは、彼の masterpieceマスターピース、自信作でした。

明るく豪放、そして人一倍細やかな気配り、骨の髄まで音楽、

音楽が大好きだった“杉さん”、このSACDを聴くたびに

彼の笑顔を思い出します。

このSACDは、Boettcher ベッチャー先生と杉本さんという二人の

Maestro マエストロによる合作でした。


 

 

 

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■「月刊ショパン」2月号に、Bachなどの自筆譜について寄稿■

2019-01-16 23:57:18 | ■私の作品について■

■「月刊ショパン」2月号に、Bachなどの自筆譜について寄稿■
~Mozart を学ぶことはBachを学ぶこと、
     幻想曲とソナタ K475、K457は、対位法の宝庫と精華~
           

                            2019.1.16 中村洋子

 

 

                   (川に流れる大根葉)

 

★≪易水に根深流るる寒さ哉≫ 与謝蕪村(1716-1784)

易水は中国の河、「風蕭蕭として易水寒し。壮士ひとたび去って

復(ま)た還(かえ)らず」。

史記「刺客列伝」が下敷きになっているようですが、

これは、日本の冬景。


冷たく流れる小さな川に、根深(葱)が流れていく、という

もの寂しい風景。

寒さが伝わり、身に沁みます。

決して富貴な暮らしの活写でなく、貧しい庶民の生活風景。

そこはかとない暖かさと、おかしさを感じさせてくれる

蕪村ならではです。


明17日(木)は、冬の「土曜入り」です。

立春まであと18日です。

土用とは、「立春、立夏、立秋、立冬」の前の18日間を指します。

次の季節へ移る前の準備時期、季節の変わり目で、

四季に合わせて4回あります。

20日(日)は、大寒、寒さも底です。

 

 


雑誌「月刊ショパン」2月号に、私の原稿が掲載されます。

タイトル≪大作曲家の自筆譜から見えるもの≫
  副題:《大作曲家の自筆譜を勉強すれば、
                         その曲の構造、
演奏法まで分かります。
    実用譜から抜け落ちた作曲家の意図、息遣いまで描かれた、
    大作曲家の自筆譜に迫ります》
                         
★内容は、Bachの Invention、ゴルトベルク変奏曲の第25変奏、

平均律1巻第3番Cis-Dur、Chopinの前奏曲集第15番Des-Dur

(ニックネーム、雨だれ)についてです。


★1月18日発売、48~51ページに掲載されています、どうぞお読み下さい。http://www.chopin.co.jp/month.html   


フランスの出版社「フュゾー Fuzeau」の「ファクシミリ叢書」に、

絶版となる楽譜が大量にあることを、

アカデミアミュージック様から教えて頂き、

慌てて、何冊か求めました。


★なかでも、入手出来てつくづくよかった、と思いましたのは、

Mozart の「Fantasie et Sonate Pour le Forte-Piano
                    幻想曲とソナタ K475、K457」の

初版譜です。


Fantasie et Sonate Pour le Forte-Pianoは、1785年に、

ヴィーンの Artaria社から出版されました。

自筆譜は失われていますので、この初版譜で勉強すればするだけ、

この初版譜の貴重さが、身に沁みて分かります。

 

 


★Bach「ゴルトベルク変奏曲」の初版譜の勉強(これも自筆譜は不明)

と同じことが言えましょう。


★Fantasie K475の初版譜を、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー

(1886-1960)校訂版を道標に、読み解いていきますと、

この曲が、「Counterpoint 対位法 」の宝庫と精華であることに、

驚かされます。


★Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)のパトロンであった

Karl Lichnowsky カール・リヒノフスキー侯爵(1761-1814)の弟である

Moritz Lichnowsky モーリッツ・リヒノフスキーは、

Bach作品の筆写譜を数多く持ち、

コレクションとしていました(1784年頃)が、

Mozart はそれを見て、勉強しています。


Mozartが、「Fantasie K475」を作曲した原動力は、

この筆写譜の勉強が基になっていることは、間違いないでしょう。

これにつきましては、機会がございましたら詳しく説明いたします。

 

 


★Mozart の「Fantasie et Sonate Pour le Forte-Piano

 K475、K457」に、話を戻しますが、

横長の楽譜にFantasie(Phantasia KV475)は、2~9ページに、

Sonata KV457 は、10~23ページに収録されています。

1ページ目は、表紙です。


★Fantasie(Phantasia KV475)は、≪Adagio-Allegro-Andantino-

Più Allegro-Tempo primo≫と、変遷していきますが、

冒頭ページ(2ページ)は、Adagio の1小節目から22小節目が、

1ページ5段のレイアウトで、書かれています。

1段目冒頭は、もちろん第1小節目

 

 

2段目冒頭は、6小節目です。

 

 

★2段目は、5小節目から始めたほうが、几帳面で整ったように

みえますが、何故、6小節目から始めたのでしょうか。

 

 


★1段目バスの、各小節冒頭音をつないでいきますと、

見事な、下行半音階が現れます。

 

 


★それに対し、2段目6小節に配置されている6~9小節目までの

4小節間の bass バス は、「As-As-A-B」の上行半音階。

 

 

それでは3段目に書かれている10~16小節目2拍目までは、

どんな意味をもっているのでしょう(4段目は、16小節目3拍目から記譜)。

 

 


★3段目バスは、「H-Ais-A-As-G-Ges-Fis」と、下行半音階。

「Ges」と「Fis」は、異名同音です。

 

 

10小節目は、1小節目の「c-Moll」に対し、「H-Dur」から始まっています。

 

 

しかし、この下声の冒頭三つの音「H-dis-fis」を、
異名同音で書き直しますと、

 

 

「Ces-es-fis」の「es-fis」は、1小節目「c¹-es¹-fis¹」と共通です。

そして、この重要な motif モティーフ「H-dis-fis」は、このページの

最後の小節、即ち、5段目右端の22小節目下声に、

見事な「h-Moll」となって、展開されています。

 

 

 

 

このページのレイアウトが、そのまま1~22小節の≪アナリーゼ≫に

なっているのです。

何とも、見事な楽譜です。

これにFischerの Fingering を解読しながら、楽譜を読み込んでいきますと、

Bachの「Counterpoint 対位法」 が、厳かにその真髄を現してきます。


Mozart を学ぶことは、Bachを学ぶことです。


★楽譜収集は、なかなかに費用がかさみますが、

≪Bachは「給料と副収入で楽に大家族を養い、貯金する余裕もあったが、
敢えてそうはしなかった。その代わりに、楽譜や楽器を買い、さらに、
野心作を演奏するための資金にしていたに違いない」≫
     (ヨハンセバスティアン・バッハ  クリストフ・ヴォルフ著)

 

 

          (日本一美味しいパン屋さん)

 

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■Berlinで私のCello+Piano Duo「Spanish Garden」が再演される■

2018-07-06 16:09:11 | ■私の作品について■

■Berlinで私のCello+Piano Duo「Spanish Garden」が再演される■
~平均律1巻8番の「空虚5度」は、Bachの作曲技法の真骨頂~
        ~英一蝶の「涅槃図」を見る~
                  2018.7.5   中村洋子

 

 

 


★≪日は天に夏山の木々熔けんとす≫
                      芥川龍之介

★先週は、記録的に暑い一週間でした。

7月に入りますと、長雨です。

七夕のお星さまは見えるのでしょうか。


★先週6月27日のカワイ名古屋の最終講座

「平均律第1巻8番アナリーゼ講座」から帰宅しますと、

ベルリンのWolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生

から、お便りとプログラムが届いていました。


★私の、チェロとピアノのデュオの為の作品

「Spanischer Garten / Spanish Garden」が、

この春のMannheim初演に続き、6月12日、Berlinベルリンで、

再演され、好評だったそうです。


★お手紙には、

『土曜日(6/16)、私たち(先生とUrsula Trede Boettcher先生)は、
ベルリンで、Spanischer Gartenを演奏しました。
多くのお客様(聴衆)が、この作品を大変気に入っていました。
プログラムは素晴らしく、Shostakovichショスタコーヴィチ、
Claude Debussy クロード・ドビュッシーの偉大な作品、
そして、愛らしい小品群です。
Busoniブゾーニ(1866-1924)の作品はチャーミングで、
Ursulaは、ブリリアント(輝かしく)に弾きました。
大阪で大地震があったと、聞きました、大丈夫ですか。
私は元気です。この夏、草津音楽祭に行きます』


★プログラム
Duo Boettcher 16.Juni 2018
Wolfgang Boettcher, Violonncello
Ursula Trede-Boettcher, Klavier

・Felix Mendelssohn-Bartholdy (1809-1847)
   Variations concertantes,op.17
・Dimitri Schostakowitsch (1906-1975)
  Sonate für  Violoncello und Klavier ,op.40

  -PAUSE-

・Feruccio Busoni (1866-1924)
  "Kultaselle",zehn kurze Variationen über ein finnisches Volkslied
・Antonin  Dvořák  (1841-1904)
  "Waldesruh",op.68/V

・Yoko Nakamura
  "Spanischer Garten",komponiert für Ursula Trede und
                    Wolfgang Boettcher (2018)
・Claude Debussy(1862-1918)
  Sonate für Violoncello und Klavier d-Moll

 


 

★カワイ講座の前日、名古屋ボストン美術館に行きました。

お目当ては、≪英(はなぶさ)一蝶(1652-1724)≫

「涅槃図」(1713年)でした。

お釈迦さまの入滅を嘆く、高さ約3m、幅約2mの巨大な絵画です。


★横臥したお釈迦さまの周りには、

菩薩さまなどのお弟子だけでなく、

ありとあらゆる階層の人々、虎、馬、山羊、兎などの動物、

泣いている親猿を眺める子猿も。

鶴、烏、鴛、雀などの鳥。

蛇や、蝉、蜻蛉の昆虫まで集い、悲しみ、涙を流しています。

 

 


★お釈迦さまの背後には、仏を守る持国天、増長天、広目天、多聞天の

四天王や阿修羅たちが、いかつい顔をゆがませ、悲嘆の表情。

上空では、天女が雲に乗って駆け付けて来ました。

袖で目を覆っています。


★不思議に、どの顔も艶やかで、暖かみがあり、

生身の人間臭さが漂っています。

一蝶は、狩野派に入門したものの破門され

肉筆の浮世絵に近い風俗画を好んで描いていました。

俳諧に親しみ、宝井其角(1661-1707)や、

松尾芭蕉(1644-1694)ともお友達、書も嗜み、

吉原通いを楽しむ一方で、自ら「幇間(ほうかん)」、

つまり"太鼓持ち"としても、名人芸を誇ったそうです。

そして、12年間も三宅島に島流しの刑に処せられた過酷な運命、

罪状は、「生類憐れみの令」違反(町人には許されていない「釣り」をした)

と言われていますが、諸説あるようです。

 

★人生をおおらかに楽しもうとする生き方が、

ホッとするような暖かみのある表情を、巧まずして表出させている

のかもしれません。

 

 


★同展では、古代エジプト

《ツタンカーメン王頭部》、《メンカウラー王頭部》も感動的でした。

三大ピラミッドで有名なギザで発掘された古代エジプト王の頭部像。

これらは、3000~4000年近く前の作品。

大きく見開かれた彫像の目は、気の遠くなるような年月、

じっと虚空の何かを見つめていたのでしょうか。

この眼差しが、頭から離れず、カワイアナリーゼ講座に臨みました。

 

 


平均律1巻8番 Fuga dis-Moll には、≪空虚5度≫が周到に配置されています。

耳にいったん入りますと、なかなか離れない音です。

8番 Prelude の"悲嘆の歌"が終わり、8番 Fugaが始まりますと、

 Subject 主題の開始音「dis¹」と、続く「ais¹」による「完全5度」が

いきなり現れます。

 

 

★アルト声部で開始された Subject 主題に続き、

ソプラノ声部で Answer 応答が奏されます。

3小節目アルト声部の付点につきましては、私の著作

≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の25ページ

「音楽的でイマジネーションをかきたてる自筆譜」を、お読み下さい。

 

 

 

★3小節目のSubject最後の音「dis¹」と、Answerの開始音「ais¹」も、

完全5度を形成します。

 

 


★この場合、「dis¹」と「ais¹」で形成される三和音は、≪第3音≫が

存在しません。

この曲の調性 dis-Moll の音階から推定される≪第3音≫は、

もちろん「fis¹」ですので、「dis¹-fis¹-ais¹」の短三和音でしょう。

 

 

しかし、第3音が存在しないことにより、何とも言えない「やるせなさ」、

「空虚感」、あるいは、悲しさで放心したような気持になります。

この第3音が存在しない「完全5度」を、

≪open fifth(英) leere Quinte(独) 空虚5度≫と言います。


★ドイツ語の「leer」は、「空の、空っぽの」という意味で、

対応する英語は「empty」、Quinteは「5度」です。


★この3小節目の空虚5度は、その後しばらく姿を見せません。

あえて「5度音程」を避けている、とすら思える個所が、

かなり見受けられます。


★そしてHöhepunkt(high point) 頂点の一つである,

52小節目 2拍目 dis-ais、3拍目「dis¹-ais¹」で、

畳み掛けて空虚5度が、繰り出されます。

ここは、バス声部、内声、ソプラノ声部、 

3声全てで、主題のストレッタ、

 これ以上無いくらいの緊迫した場面です。

 それこそ、Bachの作曲技法の真骨頂でしょう。

 

 


★Bachの自筆譜を見てみましょう。

冒頭3小節目の「dis¹-ais¹」の空虚5度は、見開き左ページ1段目、

二つの空虚5度「dis-ais」、「dis¹-ais¹」のある52小節目は、

右側最下段6段目に、配置されています。

これは、偶然ではありません

右側最下段がなぜ、51小節目の4拍目から始まっているか、

についても、講座でお話いたしました。


★10年近く続きました名古屋講座も、一区切りです。

熱心にご参加下さいました皆さまと、名残を惜しみました。


★このBachの「3度音程」につきましては、

Bärenreiterベーレンライター版「平均律第1巻楽譜」の解説2~8ページを、

もう一度、お読み下さい。

https://www.academia-music.com/products/detail/159893

 


★さて、平均律第1巻は、6曲1セットであると同時に、

もう一つの顔として、8曲1セットの構造ももっています。

今回の8番は、その最初の1セット最後の曲でした。

その8番に至る過程を、東京の講座で追っていきます。

奇しくも7月21日の講座は、「平均律1巻4番 cis-Moll」です。

8番は、この4番から用意周到に準備され、

全てのベクトルは、24番に至ります。

 

 

 

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■春の黄金週間:P・ Rösel レーゼルのリサイタル、独でチェロ四重奏の初演■

2018-05-07 18:10:18 | ■私の作品について■

■春の黄金週間:P・ Rösel レーゼルのリサイタル、独でチェロ四重奏の初演■

                            2018.5.7 中村洋子

 




★≪五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする≫ 朔太郎

風薫る5月のゴールデンウイークでした。

大輪の牡丹、花びらが散ったと思うと、

雌蕊がもう、ふっくらと孕んでいます。


★≪ちりてのち おもかげにたつ 牡丹かな≫ 蕪村

あでやかな花びらの残影が、散った後も、

まぶたから離れません。


★コンサートで、良い演奏に巡り合った時に感じる、

心からの幸福感と陶酔にも、同じことが言えそうです。


★五月を色に譬えますと、若草色。

牡丹の咲く前の四月は、淡い桜色かもしれません。

連休前に、山桜の花びらを塩漬けにしました。

 

 

★季節を先取するのも粋ですが、振り返るのも素敵です。

このピンクのガラス瓶を見ては「花の四月」を、

懐かしんでいます。


★塩漬けの桜の一片、

冬に向かう木枯らしの日、

この花びらを、白磁のお茶碗に沈め、

白湯をそっと注いでみましょう。

春が浮かび上がってきます。


★連休中に、Peter Rösel ペーター・レーゼル(1945- )の、

ピアノリサイタルに行きました。

曲目は、

・Mozart Piano Sonata 第11番 KV331 A-Dur

・Claude Debussy クロード・ドビュッシー(1862-1918)                                                                       版画(1903)

・Mozart Piano Sonata 第13番 KV333 B-Dur

アンコールは、 Debussy 「Children's Corner 子供の領分」より

「Golliwogg's Cake walk ゴリヴッグのケークウォーク」


★ドイツが東西に分かれていた頃、

VEB Deutsche Schallplatten Berlin シャルプラッテン

レーベルで、旧東ドイツの音楽家の演奏を聴いていました。

Dieter Zechlin ディーター・ツェヒリン(1926- 2012)

シューベルト Piano Sonata 全集は、かけがえのない

音楽体験でした。

 

 


★そのシャルプラッテンから、Peter Rösel ペーター・レーゼル

CDも出されていたのを、記憶しています。


★今回、コンサートに出かけました最大の動機は、

私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫

http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/1006948955

で書きました『 Mozart  KV331 の自筆譜見つかる、

エレガントでなく、劇的な音楽だった』(P242~246)を、

確かめたかったためです。


2014年秋、ハンガリーで発見されました KV331

(Piano Sonata11番、第3楽章は有名なトルコ行進曲)の、

自筆譜から分かりますように、

いままで、常識という"灰色のヴェール"に覆われていた

2楽章の3小節目、8小節目、24~26小節目の三ケ所を初めとする、

Mozart の「これぞ真実、真筆!」という、

作曲家本人の書いた音を、Rösel レーゼルは、

どのように演奏するか?という期待感でした。


この三ケ所を Mozart 自筆譜による彼自身の意図通りに

演奏しますと、2楽章全体の設計図も変更されるはずです。

少なくとも、2楽章は全く新しい相貌を呈することになります。

 

 


★どのような相貌かは、P244~245の「従来の小奇麗で、

エレガントな曲ではなく、ドラマティックな音楽だった」を、

お読みください。


★P243に書きましたように、

初版譜」では、 Mozart の自筆譜通りの革命的な音楽

でしたが、その後、校訂者により、ドンドン改竄されていった

のですから、罪深い話ですね。


★それはさておき、 Rösel レーゼルの演奏は残念ながら、

従来通りの "改竄version" でした。

「自筆譜の発見」で明らかになった

2楽章の3小節目、8小節目、24~26小節目の計三ケ所での

大きな改竄、さらに、

この三ケ所を含め、19、21、22、28小節目の計7か所は、

昔のままの "改竄version" 版による演奏でした。

 

★マエストロが率先して、 Mozartの意図に沿った

演奏がなされることを、楽しみに待ちたいと思います。


面白い発見もありました。

KV331の第1楽章Variatio Ⅴ 第5変奏の108小節第2括弧の

最後の音(譜例の赤い枠)は、このようになっています。

 

 


A-Durの主和音のソプラノ声部は、「根音a¹」

テノール声部は「第3音 cis¹」です。

 

 


バス声部の「a」とアルト声部の「e¹」は、

8分の6拍子の4拍目に打鍵され、

そのまま6拍目まで、鳴り響いています。


4拍目のバス声部は「A-Dur イ長調」の主音です。

4拍目のテノール「d¹」、アルト「e¹」、ソプラノ「gis¹ と h¹」

により、「A-Dur 」の属七の和音を形成します。

 

 

主音と属七の第7音が11度音程を形成しますので、

このような和音を「Ⅰの11」と、言うこともあります。

主音上の属七という意味です。

これは、4拍目の属七の和音バス声部に、

属七によって解決するであろう主和音の根音(a)が、早くも、

滑り込んでいるのです。

Mozart の終止和音に、この「Ⅰの11」が使われることは、

とても多く見受けられます。

 

 


4拍目のバス声部の「a」で、主和音を期待させ、

6拍目のテノール声部「cis¹」で、主和音に着地します。

今回、Rösel は、たまたまこの「cis¹」音を、少し弱く弾き過ぎたため、

この6拍目では、「a e¹ a¹」の三つの音しか、はっきり聴こえず、

「空虚5度」(3音が存在しない)のように、聴こえてしまいました。

 

 


★それが、2番目の曲目、 Debussy 「版画」の「空虚5度」に

つながって聴こえ、音楽史を音で聴く楽しさを、

偶然にも体験してしまいました。


★「空虚5度」が、なぜ空虚なのかと言いますと、

3度音程が不在のため、この場合ですと、長調(A-Dur)か、

短調(a-Moll)かを、規定できないからです

 

 


★≪3度音程≫こそ、調性体系の根幹を成す音程です。

それを、Bachは「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の『序文』で、

高らかに、宣言しているのです。

 

 


私が書きました「Bach序文の解釈」の

P2~8を、お読み下さい。
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/


★Rösel のリサイタル2曲目、Debussy 「Estampes 版画」は、

3楽章から成っています。

その2楽章 「Soirée dans Grenade グラナダの夕べ」

冒頭4小節は、このようになっています。

 

 


★この4小節間は、音高はまちまちですが、嬰ハ音(cis) と、

嬰ト音(gis)しか、聴こえてきません。

 

 

★つまり、三和音の根音は嬰ハ音(cis) で、

第5音は嬰ト音(gis)ですが、

第3音がホ音(e)即ち短三和音なのか、

第3音が嬰ホ音(eis)即ち長三和音なのか、

耳で聴く限り、判断できません。

(楽譜を見ていれば、調号は♯三つですので、類推はできます)

5、6小節目も、依然第3音は顔を見せません。

 

 


第3音がホ音(e)なのか、嬰ホ音(eis)なのか、分からない。

その≪もどかしさ≫が、スペイン・グラナダのアンニュイ(物憂い)な

夕暮れに、ピッタリの効果をもたらします。


気をもたせた末、やっと「eis¹」が現れるのは、13、14小節です。

Debussyの優れた作曲技法です。


 

★アンコールの「Golliwogg's cake walk」も、楽しい演奏でした。

Rösel の演奏では、楽譜に書いていない音が随分とたくさん

"登場"したのですが、その書いていない音を基にして

作り上げた和音は、秀逸でした


和声、対位法がきちんと頭と心に入っているから

臨機応変に対応できるのです。


★≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の、

『ドビュッシー「子供の領分」は、どこの何版を使うべきか」

(P269~274)を、是非ご一読ください。

 



★日本で楽しい連休を過ごしているとき、5月5日、

ドイツのNordrhein-Westfalen ノルトライン ヴェストファーレン

(ドイツ西部の州、州都はデュッセルドルフ)と、

Honnover ハノーヴァ―の、Celloの先生方約30人による、

会議が、Dortmundの音楽学校で、開催されました。

その会で、この度、Hauke Hack社 から出版されました、

私の「Zehn Phantasien für Celloquartett(Band2, Nr.6-10)

チェロのための10のファンタジー 第2巻、6-10番」から、

3曲が先生方によって、初演して頂けました。

・Ⅶ Abent dämmerung-Evening twilight
・Ⅷ Spanischer Garten- Spanaish garden
・Ⅹ Postludium,Krokusblüte-Crocus blossom


★この中の第8番「スペインの庭」は、

前回ブログでご紹介しましたように、

4月8日ドイツ・Mannheimマンハイムで、

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生のCello、

Ursula Trede-Boettcher  ウルズラ  トレーデ=ベッチャー先生の

のPianoによる、「Duo for Cello and Piano version 二重奏版」が、

初演されました。


★5月5日にお集まり頂いた先生方は、きっとこれから、

たくさんのお弟子さんたちと、私のチェロ四重奏を

楽しんでいただけると思います。

明るく楽しいゴールデンウイークも終わり、

五月の新緑は、日に日に濃くなっていきます。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■私の作品、「チェロとピアノのためのDuo・スペインの庭」」がマンハイムで初演■

2018-04-20 23:03:35 | ■私の作品について■

■私の作品、「チェロとピアノのためのDuo・スペインの庭」」がマンハイムで初演■
 ~"Spanischer Garten" war ein schöner Erfolg in Mannheim~
 ~「スペインの庭」は、マンハイムで素晴しい成功をおさめました~
          2018.4.20  中村洋子

 

 


★マンハイムで2018年4月8日に開催されました
「Deutsches  und Spanisches 」
「ドイツとスペインの作曲家」という演奏会です。

Wolfgang Boettcher : Violoncello
ヴォルフガング・ベッチャー : チェロ
Ursula Trede-Boettcher : Klavier
ウルズラ トレーデ-ベッチャー : ピアノ


  

★タイトルは「ドイツとスペインの~」となっていますが、

日本人である私の作品も、

題名が「Spanischer Garten スペインの庭」ですので、

 Boettcher ベッチャー先生の格別のご好意で、

プログラムの中に入れて頂き、初演されました。


★滞在先から、先生がお手紙とプログラムを送って下さいました。

"Spanischer Garten" war ein schöner Erfolg in Mannheim" 

「スペインの庭」はマンハイムで素晴しい成功をおさめました」と、

書いてありました。


★プログラムは以下の構成です。

・Felix Mendelssohn Bartholdy (1809-1847)
      Variations concertantes op.17

・Johannes  Brahms (1833-1897)
     Sonate e-Moll op.38

    PAUSE

・Manuel De Falla  (1876-1946)
     Suite Populaire  Espagnole

・Yoko Nakamura
     Spanischer Garten
       Uraufführung, den Geschwistern
       Boettcher gewidmet

・Eginhard Teichmann (geb.1937) (2017)
     Tango Botticello 
   
 den Geschwistern Boettcher gewidmet

・David Popper(1843-1913)
     Aus "Spanische Tänze" op.54,Nr 2 & Nr.5

・Alberto Ginastera(1916-1983)
     Pampeana Nr.2
     Rhapsodie op.21

以上の豪華なプログラムです。

 

 


★お二人はたくさん録音されており、CDでも聴くことができます。
https://www.discogs.com/artist/2316372-Ursula-Trede-Boettcher

ベッチャー先生の演奏も、勿論CDで聴く事ができます。
http://tower.jp/artist/discography/691507


★今回初演されました私の作品「Spanischer Garten」の原曲は、

チェロ四重奏曲です。

この楽譜に収録されています。
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177497/


★冬が厳しいドイツにとって、南の国スペインやイタリアはきっと、

憧れの国なのでしょうね。

先生のお手紙にも、「長く厳しい冬の後、やっと晴れた春の日が

来た様に見えます」と書いてありました。

夏の一歩手前のような、異常気象とも言ってよい日本と、

相当違います。

 



5月26日の「平均律1巻 第3番 アナリーゼ講座」では、

Bach「Cis-Dur Praeludium und Fuga」が、

後世に、どれほど甚大な影響を及ぼしたか、

具体的には、Beethoven→ Chopin→ Ravel を例にとり、

分かりやすく、ご説明するつもりです。


Chopinが、ポーランドからフランスに移り住むことによって、

フランスの音楽を激変させたこと、

フランスの「印象派」と称されている大作曲家は、

≪Chopinなしには存在し得なかった≫こと、

"発表会用の小品"と、誤解されている

「子犬のワルツ Valse op.64-1」(Chopinは名前を付けていません)

が、その後のフランス音楽に与えた影響

それをRavelのどこに見出すか・・・等をお話いたします。


★「ドイツとスペイン」というリサイタルから、

ヨーロッパを東西に横切って、

フランスに移り住んだChopinを思い、

勉強に励んでいます。

 

 

 

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■Schumann「若い人のためのアルバム」、物凄い推敲の跡■

2018-02-17 22:14:21 | ■私の作品について■

■Schumann「若い人のためのアルバム」、物凄い推敲の跡■
~私のCello&Piano二重奏がマンハイムで4月初演、蕪村の"うづみ火"~

       2018.2.17 中村洋子 Yoko Nakamura

 

 


★各地で大雪が続き、厳しい寒さが続いています。

≪うづみ火や 終(つい)には煮(にゆ)る 鍋のもの≫蕪村(1716-1784)

火鉢の灰にうずめた炭。

火力は弱いのですが、長持ちします。

貧しい蕪村は、埋み火のわずかな火で暖をとり、

煮物にも使ったのでしょうか。


★煮物は蕪でしょうか、お芋でしょうか。

うっすらと白い灰がかぶさった弱弱しい炭火、

やっとのことで煮上がった野菜を、

背を丸めて、ふうふうと召しあがっている蕪村先生。

世におもねず、芸術を誠実に追及しますと、

富貴とは、縁が遠のくようです。

 

 


★≪愚に耐えよと 窓を暗くす 竹の雪≫

温厚篤実な蕪村先生にして、この句有りです。

蕪村の晩年、天明時代は卑俗な俳句が流行し、

「蕉風回帰」の蕪村は、孤立していました。


★2017.12.16の当ブログで、http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/6fce011491cea5ad12ca908d80ae14d1

ご紹介しました、私の作品 『チェロ四重奏 

Zehn Phantasien  für Celloquartette』の、

ピアノとチェロ二重奏版が、ことし2018年4月、

ドイツの Mannheim マンハイムで、初演されます。


★この曲は、2017.12.16ブログでも書きましたように、

「für junge Cellisten フュア ユンゲ チェリステン

若いチェリスト達の為に」としていますが、

Robert Schumann ロベルト・シューマン(1810-1856)の

顰に倣って、実は、成熟した音楽家のための曲でもあります。


初演は、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生

のチェロ、お姉様のUrsula Trede-Boettcher

ウルズラ・トレーデ・ベッチャー先生のピアノです。

お二人のリサイタルです。

ウルズラ先生は、ADRコンクール(ミュンヘン音楽コンクール)の

審査員を務められたこともある、ピアニスト(オルガニスト)です。

 

 


★さて、その Schumannの「Album für die Jugend Op.68

若い人のためのアルバム」についてです。

「こどものためのアルバム」と訳されることも多いのですが、

「Jugend」は、英語の「young」ですから、

「若い人のためのアルバム」としたほうがより、Schumannの気持ちに

沿っているともいえましょう。


★「Album für die Jugend」は一見、シンプルです。

完成稿の楽譜を見ますと、Schumannが推敲を重ねた末の結果が、

簡素に、書かれています。

一方、その自筆譜を見ますと、推敲に推敲を重ねていたその過程を、

詳しく、辿ることができます。

(自筆譜
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030258/

 

★例えば、18番 「Schnitterliedchen 刈入れの小さな歌」を見ますと、

21小節目から最終36小節目までは、すべて初稿に「×」を入れ、

すべて、書き直しています。

特に、21小節目から30小節目の10小節間は、

大幅に書き直されています。


★21、22小節目は、完成稿ではこのようになっています。

 

 

「これしかない!」という完成度の高さ。

Schumannのペンが、すらすらと流麗に書き進んだかのように

見えますが、そうではありません。


自筆譜は、一見しただけでは、ほとんど何も分からないほど、

何度も書いては、消されています。

正確には書き写せませんが、大体、このようになっています。

 

 


★「F」と大きく書かれていますので、

「F-Dur」に転調し、

調号も新しくするつもりであったようですが、

それを断念し、主調の「C-Dur」のまま、あくまで簡潔さを

目指しています。

 Mozart モーツァルトの音楽もそうですが、「簡潔」ほど難しい

ことはありません。

 

 

 

★作曲家としましても、複雑怪奇に書くことはいとも簡単です。

しかし、お米を磨いて磨きぬいて清酒を造るように、

この磨く過程にこそ、作曲家の仕事があると思います。

ちなみに、私はお酒が飲めませんので、人生の楽しみの、

幾ばくかを知らないことは、残念です。


★Schumannの最初のアイデアは、これに近かったように、

思われます。

 

 


★完成稿では、1、2小節目と同様に整然とした四声体になっています。

 

 


しかし、完成稿でソプラノ声部で歌われる旋律を、

Schumannは当初、アルト声部に配置していたことが分かります。

この旋律を、アルト声部の1オクターブ上のソプラノ声部に

配置することにより、冒頭1、2小節目のソプラノの旋律を、

 

 


初稿では、完全5度下で再現しますが、

 

 

完成稿では、完全4度上で再現することになります。

 

 

1小節目の旋律を、完全5度下ではなく、

完全4度上に移調して、再現することにより、

「収穫の喜び」を、より高らかに歌い上げたかったのでしょう。

 


★25、26小節目につきましても、同様に、当初とその推敲過程、

そして、完成稿を比べることにより、Schumannのメッセージを

たくさん受け取ることができます。

 

 


★それこそが、Schumannを勉強することであり、さらに、

Schumannを演奏することに、直結することは、

言うまでもないことでしょう。


その勉強の後に、Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ

(1845-1924)が校訂した版の Fingering フィンガリングを、

研究してみましょう。


(フォーレ校訂版
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000146830/


Schumannの作品への「扉」を、きっと、

いとも易々と、開くことができようになることでしょう。

 

 

 


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