音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■チャイコフスキー《四季》「12月」の素晴らしい音階構成■

2019-12-14 02:39:19 | ■私のアナリーゼ講座■

■チャイコフスキー《四季》「12月」の素晴らしい音階構成■
           2019.12.14 中村洋子

 

 



★あと10日でクリスマスです。

クリスチャンでなくともクリスマスは、何となく心躍ります。

22日は冬至ですから、夜長が極まった後、

二日後にクリスマスなのは、嬉しいですね。


★Bach「クリスマスオラトリオ」カール・リヒター指揮を聴いています。

クリスタ・ルードウィヒ、グンドゥラ・ヤノウ”ィッツ、お二人の

Masetraマエストラの歌声が、心に沁みわたります。


Tchaikovsky チャイコフスキー(1840-1893)の「四季」

(The seasons/Die Jahrezeiten)を、自筆譜を基にじっくり

勉強中です。


この曲集、一見12の独立した小品集のように見えますが、

「平均律クラヴィーア曲集」程ではないにしろ、12曲が実に緊密に、

有機的に構成されています。

https://www.academia-music.com/products/detail/159893

それを全く気付かせず、楽しませてくれるのがチャイコフスキーの

凄さ、力量といってもいいのかもしれません。

同工異曲の曲はいくらでもありながら、何故この曲集がいつの世にも

人々に愛され続けているかの証左でもありましょう。

 

 

 



四季は、各月の曲の冒頭に数行の短い評(poetic motto)、

エピグラフ(epigraph)が、掲載されています。

これはチャイコフスキーによって選ばれたのではなく、

出版社が用意したものですが、その中から、

「12月 December Christmas-Tide/Dezember.Weinachtszeit」

の詩を、私はロシア語が分かりませんので、ドイツ語訳から、

日本語に訳してみます。

 若い娘たちは(主の)御公現の祝日(三博士来訪の祝日)に
 運勢を占いました。
 靴を脱ぎ、門の外に(私の運はどうかしら?)と、
 靴を放り投げたのでした。

若い娘たちが靴を投げ、恋占いをする

明るい新年のひとこまでしょう。

 

★私はクリスチャンではありませんので、詳しく知りませんが、

「公現祭」とは、キリスト生誕の祭、東方の三博士(The three Magi)が、

ベツレヘム(Bethlehem)を訪れたのを記念する、

1月6日の祭日のことだそうです。


★この曲は、私たちが思っている「クリスマスイブ」をイメージして

いるのではなく、英訳も「Christmas-Tide クリスマスの時期」、

ドイツ語も「Weihnachtszeit クリスマスタイム」なのですね。

 




「四季」全12曲は、有機的なつながりを持っています。

特に各曲を特徴づけている、各々の音階の配置が素晴らしく、

そのため、一曲ずつが独立しているようでありながら、

全12曲で1曲のような印象をも、与えます。


★今回は、特に「12月」の音階について見てみます。

冒頭4小節、ワルツのテンポです。

 



この4小節の上声により「as¹-b¹-c²-des²」が、形成されます。

 




★次の3小節により、「c²-des²-es²-f²-g²-as²」



この二つを合わせると、「as-Dur」の音階が形成されます。



★続く9小節目から12小節目までの上声、各小節冒頭音をつなぐと、

「ges²-f²-fes²-es²」という下行半音階が、生まれます。




★この下行半音階は、1~7小節の上声上行全音階と、好対照です。

それでは、13小節目からはどうなっているのでしょうか。

チャイコフスキー自筆譜は、この曲を1頁7段で記譜していますが、

13小節目は、3段目の冒頭に置かれています。

大変に重要な位置であると、いえます。





★なんと今度はバス声部に、「Ges-F-Fes-Es」という下行半音階が、

奏されます。

先ほどの9~12小節目までの「ges²-f²-fes²-es²」の3オクターブ下の

カノンです。



1~7小節の上声全音階、

 9~12小節の上声下行半音階、

 13~16小節は、その下行半音階をバス声部、

 3オクターブ下のバス声部のカノンで答える、という見事な構成。

 

 

 

 



★続く17小節から26小節までの10小節間は、

細かい変化がたくさんありますが、ほぼ1~10小節の反復といえます。


★それでは、27、28小節はどう変化したのでしょうか。

25、26小節は、9、10小節とほぼ同じですが、

そこから書き写してみます。

自筆譜25小節目は、1頁7段のうち5段目冒頭です。




★驚いたことに、25、26、27、28小節のバス声部冒頭音を

つなぎますと、「A-B-H-c」という上行半音階が現出します。



★この25~28小節をもう一度、9~12小節と比べてみて下さい。

9~12小節は、上声下行半音階、25~28小節は、25、26小節が

9、10小節とほぼ同じなのに、バス声部に上行半音階を形作ります。

見事です。

 




★この25~28小節のバス声部上行半音階は、チャイコフスキーの

バレー組曲《Nutcracker Suite(Suite from the Ballet Casse-Noisette)

くるみ割り人形》Op.71の、最後の曲である

《Valse des Fleurs(Waltz of Flowers)花のワルツ》にも、

よく似た箇所があります。

 



★そうです! くるみ割り人形も「クリスマス・イヴ」のお話でした。

Merry Christmas !

 



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