■中村洋子アナリーゼ講座≪「平均律1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」≫第2回 ■
~第2回は、平均律第1巻「7番 Es-Dur 変ホ長調」です~
2019.4.22 中村洋子
★4月20日は、≪平均律1巻と、この「1巻を源泉」とする名曲」≫
第1回のアナリーゼ講座でした。
取り上げました曲は、「Inventio & Sinfonia 各1番」です。
★私は、Bachが平均律1巻で自ら書き下ろした「序文」について、
それを翻訳し、その「序文」でBachが何を言いたかったかを、
詳しく解説して出版しています。
https://www.academia-music.com/products/detail/159893
★「序文」での、核となる用語の≪長三度即ち「ド レ ミ」、
短三度即ち「レ ミ ファ」≫を象徴しているのが、
平均律第1巻1~6番の6曲です。
★Bachは、「序文」でわざわざ謎めかすように「ド レ ミ」、「レ ミ ファ」を
明記して、取り上げていますが、
「ミ ファ ソ」、「ファ ソ ラ」、「ソ ラ シ」、「ラ シ ド」、「シ ド レ」
については、何故か、何も記述しておりません。
★Bachの謎かけは、“それを皆さんが各々考え、探求してください”、
“探求により、さらに大きな世界が広がり、
平均律1巻の全体像がつかめますよ”という、暗示であると
私は思っております。
★その謎かけを解くカギが、「Inventio & Sinfonia」の各1番といえます。
「Inventio & Sinfonia」は、この2曲が一体となって、
Bachの平均律「序文」を、裏付けています。
★「Sinfonia1番」には、ハ長調の音階「ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド」の
音階音のすべてを「開始音」とする「音階」が存在します。
これこそが、Bachの「counterpoint 対位法 」です。
★どこにその音階が存在し、それをどのように見つけ出し、
演奏でそれをどう提示していくか・・・
それを、講座で詳しくご説明いたしました。
★ 「Sinfonia1番」は、音階が流れるように花開いています。
各音階は、それぞれ色彩溢れた音のパレットをもち、
Inventioのわずか22小節、 Sinfoniaわずか21小節の中で、
Claude Monet クロード・モネ(1840-1926)の「睡蓮」のように、
色が響き合い、融け合っています。
決して、無色透明な曲ではありません。
★「Sinfonia1番」の核となるmotif モティーフは、
「ソ ラ シ」の長三度です。
「ソ ラ シ」の長三度は、即ち「C-Dur ハ長調」のドミナントを意味します。
そして、この「ソ ラ シ」は、平均律1巻では「7番」 Prelude & Fugaの
主要モティーフとなっています。
次の第2回アナリーゼ講座は「平均律1巻7番 Prelude & Fuga」
を学びます。
この7番を勉強するためには、「Sinfonia1番」の理解が
不可欠だったのです。
★このように、平均律第1巻以外の曲に光を当てることで、
平均律第1巻への理解を盤石にすることができます。
全4回のこのシリーズでは、第3回は、
Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)の
≪Piano Sonata op.27-2 「月光」の第1楽章≫と、
Chopin ショパン(1810-1849)≪プレリュード op.28-15「雨だれ」≫
の2曲です。
第4回は「平均律1巻第8番 プレリュードes-Moll、 Fuga dis-Moll」 を
予定しています。
★これは、8番の Preludeと Fugaが異名同音調であることを、
Beethovenと Chopin がどう学んだかを、まず明らかにすることにより、
1巻8番の音楽史を変えるほどの「凄さ」が、理解できるはずです。
その結果、Bachがなぜ、この革命的手法をとったかも、
実感として、納得できるはずです。
★20日の講座の前夜、国立能楽堂で、お能の「邯鄲」を鑑賞
してまいりました。
「邯鄲」は、中国の唐代の伝奇小説「沈中記」を基にしたお話。
旅の宿で一人の青年が、霊験あらたかな枕でひと眠りします。
夢の中で、彼は王位を授けられ、たくさんの妃に囲まれ、
無上の歓楽の日々、治世の栄華は五十年にも及び、
さらに千年の寿命を約束される霊薬が与えられるところで、
「粟飯が炊けた、起きなさい」と、宿屋の女主人が揺り起こします。
すべてはつかの間の幻影、一瞬の夢でした。
★私は、いつも 「Inventio & Sinfonia 1番」を弾きますと、
この短い一瞬に終わるような曲の中に、なんと豪華な音楽が
繰り広げられているか、と感嘆するのです。
弾き終わった後は、夢から覚めたような心地です。
★20日の講座は、前夜の「邯鄲」の心地よさが余韻として
残っている中、満員の聴講者の皆さまと共に、
Bachの世界を深めることができたと、思いました。
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●第2回中村洋子アナリーゼ講座≪「平均律1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」≫
~第2回は、平均律第1巻「7番 Es-Dur 変ホ長調」~
・「プレリュード7番」は、『プレリュード』の範疇を大きく逸脱して
『二重フーガ』の構造となっています。一体これは何故なのでしょうか。
・繊細にして軽やかな「フーガ7番」の応答主題の中に、バッハの平均律「序文」の
真意が読み取れます。
https://www.academia-music.com/user_data/analyzation_lecture
■日 時: 2019.7.20 14:00~18:00
■会 場: エッサム本社ビル4階 こだまホール
住所:東京都千代田区神田須田町1-26-3 ℡03-3245-8787
■定 員: 70名
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●「平均律第1巻」の1番から6番までは、バッハの「序文」に則り、一本の太い道筋
をなぞるように、各曲の「プレリュード&フーガ」が粛々と進行していきました。
ところが、7番に至って、劇的な展開を見せます。70小節にも上る重厚長大な
「二重フーガ」の大伽藍を、何故バッハは「プレリュード」としたのでしょうか?
●その「プレリュード」に続く、本来の「フーガ」は初夏の小鳥の囀りのように、
軽やかで繊細な37小節。鮮やかな逆転劇です。このフーガの変応技法
(alteration)による応答主題(tonal Answer)を勉強しますと、バッハが
「序文」で言いたかったことが、浮かび上がってきます。
●この「フーガ」は、底知れない嘆きに満ちた8番(プレリュード:es-Moll、
フーガ:dis-Moll)を準備しているのが、刻々と伝わってきます。
8番は平均律第1巻で最も人気のある曲の一つです。
●私が書きました《Bärenreiterベーレンライター版平均律1巻楽譜に添付の
「前書きに対する注」》20~23ページ、33~36ページをお読み下さい。
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★平均律クラヴィーア曲集第1巻7番 ・プレリュード7番 Es-Dur 1~9小節は、
絶え間なく動く16分音符の「テーマⅠ」、10~24小節は、4分音符と
2分音符によるゆったりとした「テーマⅡ」。25~70小節は、
このテーマⅠ、Ⅱによる二重フーガです。バッハならば、サラサラ流れる流麗で
典型的なプレリュードを、いともたやすく作曲できたはずですが、
そうはしなかったことを考え抜きますと、平均律第1巻がまた一段とその輝きを
増します。
・フーガ7番 Es-Dur 軽やかで清澄、一抹のメランコリーをたたえているフーガは、
この上ない和声の極上パレットでもあります。この和声をよく理解し、
身につけますと、バッハがコラールを歌い、コラールを作曲し、
演奏し続ける一生涯を送ったことが、深く納得させられます。
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■講師: 作曲家 中村 洋子 東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
(disk UNION : GDRL 1001/1002) 「レコード芸術特選盤」
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
(アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)
・2017年「チェロ四重奏のための10のファンタジー(第2巻、6~10番)」を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の≪「前書き」日本語訳≫
≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、詳細な解釈と解説≫を担当。
・2016~18年、「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」全10回、
「平均律クラヴィーア曲集第1巻 第1~6番・アナリーゼ講座」全6回を、
東京で開催。
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