音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■第 1回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」 のご案内■

2013-03-28 14:37:33 | ■私のアナリーゼ講座■

■第 1回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」 のご案内■
      第 1番  C-Dur BWV870  prelude & fugue 
        ~  countepoint 対位法 のあらゆる技法を提示している第 1番 ~

                                           2013.3.28  中村洋子

 

 

★2010年~2012年にかけ、Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 )
 
「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律クラヴィーア曲集  第 1巻 全 24曲 」 の、

アナリーゼ講座を、開催いたしました。

毎回、一つの調の prelude & fugue を扱い、全 24回でした。


Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、 「 Bach の

平均律クラヴィーア曲集 Wohltemperirte Clavier が〝旧約聖書″、

Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)の Klaviersonaten Nr.1-32

ピアノソナタ 32曲 が 〝新約聖書″ と、よく言われるが、

平均律曲集  Wohltemperirte Clavier が、旧約聖書であり、新約聖書でもある 」

と、語っています。


★クラシック音楽は、 すべて Bach が源であり、Beethoven などの豊かな大河が、

そこから、生まれ育った、という意味でしょう。

 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律第 1巻 24曲は、

≪ 調性とはなにか≫、という問いに対する、完璧な解答です。


★それでは、Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律第 2巻 全 24曲で、

Bach は、何を追究したのでしょうか

それを、探究することが、この講座の目的です。

それを学ぶことにより、クラシック音楽のいかなる作品も、

その価値を、判断できるようになり、

演奏の基礎の基礎を、得ることができるのです。

 

★Albert Schweitzer アルベルト・シュヴァイツァー (1875~1965) は、

幼い子供こそ、バッハを演奏するべきである、と言っております。

音楽の価値を測る物差しが、養われ、

終生、持ち続けることになるからです。

 


第 2巻 1番、ハ長調 BWV 870 前奏曲 は、

C の 3小節にわたるオルガンポイントの上に、おごそかに、

16分音符の c d f が、奏でられます。

この c d f こそが、 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律第 1巻 で、

Bach が、追及した命題でした。

 

★二声で始まった 1番前奏曲は、次第に、声部を増やし、

最後は、六声で終結します。

大輪の花が、開いたのです。

 

★1番の三声フーガは、明るく軽やかで、屈託のない音楽です。

しかし、最後は、堂々たるオーケストラのような、

五声となります。

この声部、つまり 「 counterpoint 対位法 」 を、

どのように、分析理解するか、

それが、演奏の要となってくるのです。


★Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律第 2巻は、

counterpoint 対位法の、究極の姿を、追究したものでしょう。

Bach の自筆譜を基に、分かりやすく、一歩一歩、

ともに、学んでいきたいと、思います。

 

 

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■ 日  時 :  2013年 5月 21日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

■ 会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

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■ 講師:作曲家 中村 洋子

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

 2003年~ 05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

 07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠W.ベッチャー氏が

   演奏した CD 『 W.ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』、

        CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。

 08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」 全 15回を開催。

09年10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏によりドイツ・マンハイムで 初演される。

10~12年:バッハ平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリーゼ講座 (24回)を、カワイ表参道で開催。

10年:「 Suite Nr.1 für Violoncello  無伴奏チェロ組曲第 1番 」 が、ベルリンのリース&エアラー社 Ries & Erler Berlin から出版される。

CD 『 無伴奏チェロ組曲  第 3番、2番 』 W.ベッチャー演奏を発表。

「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・チェロトリオス ( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

 11年4月:「10 Duette für 2 Violoncelli  チェロ二重奏のための10の曲集 」が、ドイツの「 Ries & Erler  Berlin 、リース&エアラー社 」から出版される。

 12年12月:Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5) チェロ4重奏のための10のファンタジー(第 1巻、1~5番)が、ドイツ・ドルトムント Musicverlag Hauke Hack社から出版される。

 スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

 

 ●上記の楽譜とCDは、「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 

  「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、販売中。

 

 

 

        ※copyright © Yoko Nakamura    All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■Kempffは、なぜ フランス組曲の Gigueで、tie を 2ヶ所取り去ったか■

2013-03-25 23:25:15 | ■私のアナリーゼ講座■

■Kempffは、なぜ フランス組曲の Gigueで、tie を 2ヶ所取り去ったか■
         ~第 3回  フランス組曲・アナリーゼ講座 のご案内 ~
                  2013.3.25    中村洋子


★3月 28日 KAWAI 表参道で、開催いたします

 「 第 3回   Französische Suite フランス組曲・アナリーゼ講座 」

のため、忙しい毎日です。

今回は、 フランス組曲 5番 の第 7曲目 Gigue ジーグ

について、お話いたしますが、

組曲とは何かを、より明確に理解していただくため、

Suite Nr.2 c-Moll  組曲 2番 BWV813 の Air と、

Suite Nr.4 Es-Dur 組曲 4番 BWV 815 の Air についても、

併せて、ご説明する予定です。


Französische Suiten フランス組曲 の直筆譜は、

「 Klavierbüchlein der Anna Magdalena Bach

アンナ マグダレーナ バッハのためのクラヴィーア小曲集 」 に、

収められた  「 初稿 」  しかありません。

この 「 初稿 」 も、新婚時代の Anna Magdalena Bach (1701~ 1760)

のために書いたもので、アンナの写譜も混在しているようです。

また、それ以降、Bach のたくさんのお弟子さんによる写譜も、

残されています。


★ここで、最も大事なことは、 「 最終稿 」 、あるいは、

「 生前の出版譜 」 が存在するかどうか、ということです。

Chopin  も同様ですが、Bach はお弟子さんの個性に合わせて、

教育していますので、Bach 自身による最終稿がない以上、

どれが正しいとは、いえません。


★このため、 Anna Magdalena Bach 小曲集 に収められた

「 初稿 」 の勉強が、最も重要でしょう。

この 2、4番の 「 Air」  を比較しますと、その類似点の多さに驚かされます。


★2番の楽譜は、1ページに大譜表が 3段レイアウトされた楽譜ですが、

 Air は、2段目の途中から、記譜が始まっているのです。

ということは、 「 Air」  を弾く際、その前の Sarabande の終わりが、

自然に、目に入ってくるのです。

これは、何を意味するのでしょうか。


★この 2番の Air は、見開き 2ページの 左ページから始まり、

右のページの、 2段目で終わります。

そして、 3段目に Bach は、第 7曲の ジーグ を書いています。

これは、完全な形ではなく、fragment です。

ジーグの spelling は、イタリア語の 「 Giga 」 となっています。


★現在の実用譜では、等しく 「 Gigue 」 に、と統一されていますが、

Bach は、Gigue と Giga とを、使い分けています。

組曲 4番の第 5曲 Air  も、見開き 2ページの左ページ 2段目から

書き始められ、右ページの 3段全部を使い、その下に、

小さく追加された カデンツが、あります。


★2番の Air よりは、長い曲ですが、この 2曲は、

調性も 2番が c-Moll ハ短調、4番が Es-Dur 変ホ長調と、

平行調の関係にあります。

調性は、両方とも、♭が 3つです。


★当ブログで、以前に、Bach の

「 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 」

全6曲の調性について、詳しくご説明したことがありますが、

Französische Suiten フランス組曲 6曲も、

この Bach の初稿を見ますと、

彼が、全6曲を大きな構想のもとに、

書き始めたことが、よく分かります。


★組曲 2番の Air の後に、Giga の fragment を書いたのは、

よく言われるように、余白があるから書き込んだのではなく、

設計図を思考錯誤しながら、書いているのでしょう。


★作曲をしている人ならば、それは、直ぐに分かることです。

Bach が何を思考していたのか、それを考えることが、

組曲とは何か、という答えに近づく一歩ですし、

それを、考えなければ、Bach の組曲は弾けないでしょう。


★ Französische Suiten  フランス組曲 全 6曲のなかに、

さりげなく配置されている 二曲の Air が、

それを解くカギに、なります。

 

 


★第 5番の 7曲目の ジーグは、単独でも演奏される素晴らしい曲です。

私の愛聴盤は、 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ (1895~1991)

と、Myra Hess マイラ・ヘス(1890 ~1965)の演奏です。

 Kempff 盤では、15小節目ソプラノ付点 8分音符の d2  (2点ニ音) と、

付点 4分音符の d2 の間をつなぐ 「 tie タイ 」  を、取り去り、 

d2 を、2回弾いています。

「 初稿 」 には、 「 tie タイ 」 が記載されています


★ジーグ後半の、 41小節目は、前半の 15小節目に対応する所ですが、

同じく、ケンプは、付点 8分音符の h2 (2点ロ音) と、

付点 4分音符の h2 の  「 tie タイ 」 も取り去り、

h2 を、 2回弾いています


★ケンプは、なぜ 「 tie タイ 」 を取り去ったのでしょうか。

これは、平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 1番 ハ長調 C-Dur 、

2番ハ短調 c-Moll の Bach 自筆譜を勉強いたしますと、

その答えが、見つかると思います。

講座で、詳しくお話したいと思います。


★このような分析をしますと、いままで全貌が隠れていた

Französische Suiten に、思いがけない光が当たり、

それが、垣間見られたような気がいたします。

1722年は、 Wohltemperirte Clavier Ⅰ

平均律クラヴィーア曲集 第 1巻が成立し、

Französische Suiten の初稿が書かれた、輝かしい年でした

 

 

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■第 11回インヴェンション講座、Brahms の掛留音も、 Bach 由来■

2013-03-15 22:05:45 | ■私のアナリーゼ講座■

第 11回 Bach インヴェンション・アナリーゼ講座 ■
   「 インヴェンション & シンフォニア 第 11番 g-Moll 」
     ~ Brahms の掛留音(非和声音)も、 Bach 由来 ~

                     2013.3.15   中村洋子

 


★インヴェンションは、 1番 C-Dur から昇りつめ、

9番 f-Moll で頂点に達します。

そして、10番 G-Dur は、その後の世界をあたかも眺望するかのような、

明るく晴れやかな曲です。

11番 g-Moll は、10番と対を成す曲ですが、

いずれも 1番 C-Dur の大きな翼の下にあるのです。

講座ではまず、この関係からお話いたします。

この関係を理解することが、テンポやエクスプレッション、ディナミークなど

奏法に直接、関係してくるのです。

 

★インヴェンションに一曲づつ、単独で向かい合うのは、

Bach が意図した構想、

音楽の真の姿には、触れることができません。

 

★この 11番のメランコリックな世界を深く愛したのが、

Brahms ブラームス です。

「 Drei Intermezzi 間奏曲 Op.117-2 」 を例に、

Brahms  と Bach  の非和声音、

特に今回は、掛留音 ( suspention ) をご説明します。

 

 

★日本語に翻訳された和声用語の難解さに、惑わされるのは、

本当につまらなく、時間の無駄であると思います。

無味乾燥な教科書で覚えようとしても、不可能です。

Bach や Brahms の本物の作品を通して、

非和声音を、分かりやすく噛み砕いて、

ご説明いたしますので、自然に身につくことでしょう。

 

■日時 : 2013年 6月 26日 ( 水 ) 10:00 ~ 12:30
■会場 :  カワイ名古屋  2F コンサートサロン 「 ブーレ 」

 

■ 講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団 《 東京の夏音楽祭 》 で新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲第 1番 」 などをチェロの巨匠W.ベッチャー氏が演奏したCD 『 W.ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

08年:CD 「 龍笛&ピアノのためのデュオ 」 、CD ソプラノとギターの 「 星の林に月の船 」 を発表。

08~09年:「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座 」 全 15回を開催。

09年10月:「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」が、W.ベッチャー氏により ドイツ・マンハイムで初演される。

10~12年:バッハ平均律クラヴィーア曲集 第 1巻の全曲アナリーゼ講座       (24回)を、カワイ表参道で開催。

10年:「 無伴奏チェロ組曲第 1番 」 が、ベルリンのリース&エアラー社 Ries & Erler Berlin から出版される。

CD 『 無伴奏チェロ組曲第3番、2番 』  W.ベッチャー演奏を発表。

「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・チェロトリオス ( 虹のチェロ三重奏曲集 )」  が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

11年4月:「 10 Duette für 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集 」が、 ドイツの 「 Ries & Erler Berlin 、リース&エアラー社 」 から出版される。

12年12月:Zehn Phantasien für Celloquartett  ( Band 1,Nr.1-5 )   チェロ4重奏のための10のファンタジー(第 1巻、1~5番)が、ドイツ・ドルトムント Musicverlag Hauke Hack社から出版される。

スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

●上記の楽譜とCDは、「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/

「 カワイ・名古屋 」 http://shop.kawai.co.jp/nagoya/floor/1f_score.html

「 アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/  で、

販売中

 

 

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■Fugueの第 1提示部とは何か?フリーデマン小曲集から分かること■

2013-03-11 19:12:33 | ■私のアナリーゼ講座■

■Fugueの第 1提示部とは何か?フリーデマン小曲集から分かること■
                                 2013. 3. 11                      中村洋子

 


★先月27日、名古屋で、 「 第 10回 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 を、

開催いたしました。

講座が終わりましてから、和菓子の老舗 「 亀末廣 」 さんの

風格ある家屋が、かつて建っていました場所へと、行ってみました。

鰻の寝床のように、奥深いその敷地には、無残にも、

無機質な黄色い看板が、立っていました。

コインを入れる駐車場となっていました。

かつての名店、その風情の痕跡すらありません。

日本の和菓子文化の、頂点に立つお店でしたが、

その文化を育てるには何10年、あるいは、

100年単位の年月が必要だったことでしょう。

しかし、それが消滅するのは一瞬です。

果たして、「 亀末廣」 さんに匹敵するようなお店が、

出現することが、ありうるのでしょうか。


★名古屋の講座では、遠方からも熱心な音楽愛好家の皆さまが、

お出かけくださいました。

また、私のお話に呼応して楽譜を見ながら、

「 あ、この個所も、先生の指摘されているのと同じですね 」 と、

ご自身で発見される方もおいでになり、とても、うれしい講座でした。

 

 


★たくさんのことをお話しましたが、そのうちの一つを書きますと・・・。

「 Klavierbüchlein für Wilhelm Friedemann Bach

ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集 」  に、

「 Inventionen und Sinfonien 」 の初稿が含まれています。

Sinfonia シンフォニア 11番は、「 ヴィルヘルム・フリーデマン小曲集 」 では、

「 Fantasia 5番 」 となっています

それは、 「 ヴィルヘルム・フリーデマン小曲集 」 が、

「 Inventionen und Sinfonien 」 のように、

調が、Dur、 Moll と一つずつ上がっていく配列には、

なっていないからです。

フリーデマン小曲集の Fantasia も、全 15曲ですが、

配列は、C-Dur d-Moll e-Moll F-Dur G-Dur ・・・

の順になっているため、5番なのです。


この曲集と、 「 Inventionen und Sinfonien 」 との配列の違いが、

どこに起因するか、それについては、講座でお話しましたが、

そこを、理解いたしますと、 Inventione の理解が容易になります。


★「 Bartók バルトーク 版の平均律クラヴィーア曲集 」 の配列についても、

よく、ご質問を受けますが、

作曲者の Bach ですら、初稿の 「 ヴィルヘルム・フリーデマン小曲集 」 と、

決定稿 「 Inventionen und Sinfonien 」 との配列が、

決定的に、異なっているのですから、

どうしてそのような配列としたかを、考え抜くことが、

曲を理解する、最善の道です。

皆さまもじっくりと、お考えになってください。


★あまり細かいことを言わずに、決定稿だけ勉強すればいい、

という考え方も、あるかもしれませんが、

どこを推敲したかを、詳しく調べることにより、

決定稿での Bach の意図を、正確に読み取ることが可能になります。

例えば、Fantasia 5 番の 5小節目 3拍目内声 3番目の16分音符は、

cis2 ( 2点嬰ハ音 ) 、

6小節目の上声 2拍目 3番目の 16分音符も、

cis2 ( 2点嬰ハ音 ) 、となっています。


同じ個所が、Sinfonia 10番では、

c2 ( 2点ハ音 ) となっています。

この相違は、どこから来たのでしょうか?

 

 

★Fantasia 5番 を、弾いてみますと、

この cis2 ( 2点嬰ハ音 ) が、大変に魅力的で、

Sinfonia 10番より、 「 鮮やかな印象 」 を受けます。

Fantasia 5番 では、5小節目の1、2、3の各拍に、 cis1、 cis2、 cis2 と、

3回、 ドの ♯ が現れます。

6小節目では、 2拍目に、前述した cis2 が現れます。

そして、3拍目に、唯一 4分音符の ♮ がついた c2 が奏されます。

この c2 は、美しく意外性があり、演奏する場合、

subito p ( 急に弱く ) のような効果を、もたらします。

このため、 5、 6小節だけを見ていますと、

Fantasia 5番 のほうが、美しく感じられます。

Sinfonia 10番 は、 5小節目 3拍目、 6小節 2拍目で、

既に、 c2 が奏されますので、 6小節目 3拍目 c2 の 4分音符に、

意外性は、全くありません。


★Sinfonia 10番 の 5、 6小節目は、 Fantasia 5番 と比べますと、

穏やかで、落ち着いたイメージです。

Bach はなぜ、最終的に、落ち付いた 5、 6小節を、

選択したのでしょうか?


★この曲の 8小節目までは、

3声の fugue フーガの 1st Exposition ( 第 1提示部 ) です。

そして、3声の fugue の場合、 1st Exposition は、 

subject ( 主題 )、 answer  ( 応答 )、 subject ( 主題 ) と、

3回 、テーマの提示があります。

事実、この曲は、 1、 2小節目の ソプラノ に subjectが置かれ、

3、 4小節目の内声 ( この場合は、アルト声部に相当します )に answer  、

7、 8小節目の下声 ( バスというよりは、テノール声部に近いようです )に

subject が置かれています。

これで、 「 3回の テーマ の提示 」 となりますが、

実はそれだけではなく、 5、 6小節目のソプラノに、

3、 4小節目アルトの answer を、

そのまま 1オクターブ上で、反復しています。


★このため、 5、 6小節目の 2拍目が cis2 となっているのです。

しかし、ここは、3小節目 answer の反復であり、

1st Exposition の提示とはいえません。

「 間奏 」 と、みるべきでしょう。

 

 


★ Bach はよく 第 1提示部で、 fugue フーガ の声部の数よりも、

ひとつ多く、テーマを提示することがあります。

その場合、どれが、本来のテーマであるか、

どれが間奏であるか、を見分けることが、

非常に、重要です。


★Fantasia ファンタジア 5番 のように cis2 を配置しますと、

5、 6小節目が、個性的でとても美しくなってしまい、

「 間奏 」 という役割から、逸脱してしまいます。


★事実、 Bach は、 5、 6小節目の下声は、

5小節目 1拍目 d  ( かたかな ニ音 ) の 4分音符が出た後、

7小節目下声に subject が登場するまでを、休符としています。

それは、 7小節目下声の subject という千両役者が登場するまでは、

その前の 2小節を、お休みとし、

舞台の証明を暗くするように、 7小節目 subject が堂々と、

登場する効果を、際立たせる演出です。

そのために、 5、 6小節目は、 Sinfonia 10番 のように、

穏やかで、落ち着いた c2 を使ったのでしょう。


★初稿である Fantasia 5番 と Sinfonia 10番 を比較することで、

これだけ豊かな情報が得られ、どのように弾いたらいいかも、

自ずから、分かってくるのです。


★次回の名古屋 「 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 は、

6月26日 ( 水 ) 10時 ~ 12時30分

インヴェンション & シンフォニア 11番  g-Moll です

 

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■ 第 11回  ショパンが見た 平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座 ■

2013-03-08 22:12:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■ 第 11回  ショパンが見た 平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座 ■

          平均律 第 1巻 11番、前奏曲&フーガ へ長調 F-Dur 

~有名な Brahms の 「 Walzer für Klavier Op.39 」 の源泉は、この11番~

                                          2013. 3. 8  中村洋子

 


★平均律クラヴィーア曲集 1巻 11番 F-Dur は、

全 24曲の真ん中の 12番 f-Moll の、一つ手前にあります。

この曲が、 9番 E-Dur、 10番 e-Moll、そして 12番と

どのような関係にあるか・・・についてから、お話を始めます。

この関係こそが、 平均律クラヴィーア曲集で Bach が追及した

≪ 調性とは何か≫ という命題を解くカギ、でもあります。

 

★ Bach の見事なレイアウトによる ≪ 自筆譜 ≫ から読みとれること、

さらに、 Chopin がこの 11番に書き込みました fingering の意味を、

詳しく、ご説明いたします。

 

 

★ Chopin の持っていた平均律第 1巻の楽譜は、

1番から7番までが、過剰なまでにテンポ、エスプレッション、

ディナミークなどが、書き込まれています。

しかし、8番は Chopin独自の記号のみとなり、

9、10番はわずかな fingering が書き込まれているだけです。

11番も、数か所の fingering のみです。

12番以降も、 Chopin 独自の記号か fingering が、

書かれているだけで、1番から7番までの過剰さは、

姿をひそめています。

Chopin はなぜ、考え方を変えたのでしょうか?

 

★この 11番から深い影響を受けた曲は、

Brahms ブラームス (1833~1897) の、

「 Walzer für Klavier ピアノのためのワルツ集 Op.39 」 です。

特に、Mediante  ( 和声の三度の関係 ) の視点から、

詳しく、ご説明します。

この Mediante を理解しますと、

Bach があらゆる作曲家の和声の基礎を築いたことが、

実に、よく分かります。

 

 

■ 講師: 中村洋子

■ 日時:  2013年 4月 14日  ( 日 )  午後 2時 ~ 4時 30分

■ 会場: カワイミュージックスクールみなとみらい        
       横浜市西区みなとみらい 4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F
       ( みなとみらい駅 『 出口 1番 』 出て目の前の高層ビル3F )
 
( 要予約 )   Tel.045-261-7323  横浜事務所
          Tel.045-227-1051  みなとみらい直通

 

 


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■今後のアナリーゼ講座の予定、~Marie-Claire Alain が亡くなりました~ ■

2013-03-05 23:04:51 | ■私のアナリーゼ講座■

■ 今後のアナリーゼ講座の予定です ■

~Marie-Claire Alain が亡くなりました

                       2013.3.5        中村洋子

 

★お雛さまの祭りが終わり、本日は啓蟄でした。

吹く風はまだ冷たいものの、陽光は春のようにきらめいています。

桃の花が間もなく咲き始め、寒かった冬も、

ようやく、終わりのようですね。

★先週 2月 26日は、フランスの organist オルガニスト 

Marie-Claire Alainマリー=クレール・アラン (1926年生まれ) が、

 86歳で、亡くなりました。

私にとりましては、作曲家 Jehan Alain ジャン・アラン(1911~1940) の妹、

というイメージが、強く焼き付いています。

Jehan Alainは、オルガニストでもあり、

「 Litanie (リタニー) 連祷 」  という曲は、私も好きな曲です。

彼は、第二次世界大戦中、ドイツ軍に射殺され、39歳の若さで亡くなっています。

 

 

Anton  Webern アントン・ヴェーベルン(1883~1945年9月15日)も、

第二次世界大戦の終戦直後、逆に、連合国側のアメリカ兵に撃たれ、

亡くなっています。

Webern が、戦後も作曲を続けていたならば、

音楽史は、もっと素晴らしい道筋を示していたことでしょう。

なぜなら、 Webern は  Arnold Schönberg

アルノルト・シェーンベルク (1874~1951) の弟子であり、

その Schönberg は、 Johannes Brahms

ブラームス (1833~1897) の、正統な、後継者だったからです。

 

★Brahms は、 Bach の豊かな土壌から育った大樹です。

歴史を刻むような偉大な才能の持ち主たちが、このように暴力によって、

いとも簡単に、作曲家生命を断たれてしまったことは、

とても悲しく、惨いことです。

これが戦争というものの正体です。


★ Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937) も、

ピアノ独奏曲 「 Le Tombeau de Couperin クープランの墓 」 (全 6曲) を、

第一次世界大戦で命を落とした 六人の知人に献呈しています。

その第 6曲目の Toccata トッカータ は、

á la memoire de capitaine Joseph de Marliave と記されています。


★この Marliave は、有名な Marguerite Long

マルグリット・ロン ( 1874~1966) の夫です。

彼も、戦争の犠牲者で、若くして亡くなっています。


★ 第一次世界大戦に、トラック運転手として従軍した Maurice Ravel

モーリス・ラヴェル(1875~1937) の写真は有名です。

ヘルメットに迷彩の毛皮のようなものを纏った姿は、まるで舞台衣装のよう。

世紀の大作曲家がこのような姿を残すのは、滑稽でもあり、どこか、残酷です。

「 Le Tombeau de Couperinクープランの墓 」 は、

クープランを称える曲としていますが、実は、6曲から成る 「 組曲 」 なのです。

このクープランの墓 第 6番 Toccata トッカータ は、

ラヴェル流に一ひねりしてありますが、

Bach の組曲のジーグに対応する曲とみていいと思います。

 

Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918)

「 Suite bergamasque ベルガマス組曲 」全 4曲の組曲です。

いずれも、規範は Bach であることは、いうまでもありません。

 

3月28日、カワイ表参道での 「 第 3回フランス組曲・ アナリーゼ講座 で、

「 組曲 」 とは何か、を詳しくご説明しますが、フランス組曲を学ぶことにより、

Debussy や Maurice Ravel モーリス・ラヴェル (1875~1937) の、

組曲まで見通すことができるような視点を、ご提示したいと思います。

 

 

春から夏にかけての講座の予定を、お知らせいたします。

■ 4月14日 ( 日 ) 午後 2時~4時半、 「 Chopin の見た平均律アナリーゼ講座 」 

            平均律第 1巻 11番 へ長調 F-Dur : KAWAI 横浜・みなとみらい 

 

 ■ 5月から、KAWAI 東京・表参道で、

「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」 が、 新たに始まります。

・  5月 21日(火)   2巻 第 1番  ハ長調 C-Dur 
・ 6月 13日(木)   2巻 第 2番 ハ短調  c-Moll
・ 7月  9日 (火)   2巻 第 3番 嬰ハ長調 Cis-Dur
                                               いずれも 午前10時~12時半

■ 6月 26日 ( 水 )  「 インヴェンション・アナリーゼ講座 」  
Inventio & Sinfonia 第11番 g-Moll ト短調 とブラームスとの関係について
                               KAWAI 名古屋 午前10時~12時半                          

                                                                             などです。

 

 

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