音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■≪Bach的学習≫とは何か、変則的レイアウトが曲の構造を伝える■

2016-10-30 13:44:31 | ■私のアナリーゼ講座■

■≪Bach的学習≫とは何か、変則的レイアウトが曲の構造を伝える■
~ 「Annaクラヴィーア小曲集」の自筆譜を学べば、演奏法も分かる~
            2016.10.30   中村洋子

 

 

★10月26日は、KAWAI名古屋で、「平均律1巻4番」の

アナリーゼ講座を開催いたしました。

ご参加された方から、私の著書につきまして、

「とてもよかったので、生徒にプレゼントしました」と、

嬉しいお話をうかがいました。


★次回は来年3月8日(水)になりますが、「平均律1巻5番」です。

11月7日(月)は、東邦音楽大学の公開講座で、

若い学生さんに語りかける予定です。
https://www.toho-music.ac.jp/college/campuslife/openclass/2016/1107.html


★その公開講座でも取り上げます

「Clavierbüchlein für Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集」は、

一般的には、
Bach作品とされていた親しみやすい舞曲

収録されている、
ピアノ初心者用の曲集・・・というイメージが

強いかもしれません。


★事実、1725年からBach家で、Bach本人や息子たち、奥さんのアンナ

によって書き込まれた≪家庭の音楽帳≫です。

その中には、「Partitaパルティータ」1番や2番の初稿、

「Französische Suite フランス組曲」1番や2番の前半なども入っています。

「平均律1巻1番 Prelude」や、「Goldberg-Variationen 

ゴルトベルク変奏曲」
主題である「Ariaアリア」も含まれています。


★「Goldberg-Variationen」のAriaは、

「Clavierübung クラヴィーアユーブング第4巻」の初稿という訳ではなく、

Bachがそれを作曲した後に、 Anna が写譜したものでしょう。


★それ以外には、フランソワ・クープランFrançois Couperin

(
1668-1733)の作品やBachの息子たちの作品、

歌詞が書き込まれたアリアやコラールなど多種多様な音楽が

入っています。

家族が一緒になって歌ったり、弾いたりして楽しんだ様子が

目に浮かぶようです。

 

 


★その中で、特に有名なメヌエットが「Christian Petzold

ぺェツォルト」の「Menuet メヌエット」でしょう。



このようによく知られた親しみやすい舞曲が、10数曲入って

いますが、それらはほとんど作曲家が分かっていません。


★しかし、それがいずれもいかにも≪Bach的な作品≫であることに、

驚かされます。

事実、以前はそれらがBachの作品であると、信じられていました。

つまり、Bachの目と耳を通して厳選され、家族で楽しむのに

適していると、お墨付きが与えられた作品群であるのです。


★このため、それらがBachの作品でないとはいえ、

≪Bach的な勉強法≫をとるべきである、と言えます。


★≪Bach的な勉強法≫とは何か・・

以下で詳しくご説明します。

例えば、作曲者不明の作品である「Poloneise ポロネーズ」

と書かれた曲(通常はPolonaise)、これは Anna が写譜したものです。


★少し脇道に逸れますが、 Anna の写譜は「early handwriting」と、

「later handwriting」とに分類されます。

「early handwriting」は Anna が結婚して間もない時期の写譜で、

書き慣れていないため、つたなく幼い筆致で間違いも多くあります

しかし、 Anna は勉強するにつれ、最後は夫のBachの楽譜と

見分けがつかない程にまで上達しました。

それらが「later handwriting」です。

Anna は絶えず夫の曲を学び、そして深く理解したのでしょう。


★「Clavierbüchlein für Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集」は、

現在、その生の楽譜がFacsimileで、そのまま見ることができます。

 

 

★「Poloneise ポロネーズ」のお話に戻ります。





この楽譜は、大Bachの楽譜によくみられるように、

全体を3段で記譜
しているのですが、

2段目は、12小節目の1拍目で終わっています。





2拍目は、下の3段目から書き始められています。




★この「Poloneise ポロネーズ」は「early handwriting」ですので、

Anna の考えで、このように小節を途中で切ることはないでしょう。

このようなレイアウトにしたのは、Bachの意向に沿って、

写譜されたと考えられます


★このことが、≪Bach的な勉強法≫の中身なのです。

つまり、意図的に「変則的なレイアウト」で楽譜を書くことにより、

何かが分かるのです。


それは、レイアウトが≪楽曲の構造を示す≫という事実です。

 

 


★それでは、このレイアウトがどういう構造を示しているのでしょうか?

これは、3段目冒頭の12小節目2拍目から始まるバスの

「d c B」による3度の下行motif モティーフを際立たせるための、

レイアウトと言えます




その motif はどこに対応しているのでしょうか。

真上の1段目1小節目を見てみましょう。

上声ソプラノは「g¹ a¹ b¹」と、見事に対応しているのです。




 


★即ち、1小節目冒頭のmotifモティーフ「g¹ a¹ b¹」の反行拡大形

であることが分かってきます。


 

そのように見ていきますと、12小節目2拍目からの「d c B」は、

反復記号の後の5小節目上声「b¹ c² d²」の逆行拡大形である

ことも、見えてきます。


 

 



★目を3小節目に戻しますと、3小節目の上声2番目の音から

「b¹ c² d²」もこの5小節目と同じ motif モティーフであることが、

次々に読み取れます。





このため、12小節目の1拍目と2拍目を、段で分けるよう、

Bachが、 Anna に指示したのでしょう。


★そして、ここの12小節目から13小節目にかけてのバスについて、

Bartók Béla バルトーク(1881-1945)は、

1917年copyrightの

「Clavierbüchlein für Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集」

セレクション校訂版で

このように Fingeringでアナリーゼしています。

 


★上記のレイアウトによる構造を、BartókはこのFingering及び、

「d c B」をスラーでつなぐことで、同様に示しているのです。


★Bartókは、11小節目を「forte」として、

12小節目3拍目を「diminuendo」に、

13小節目冒頭を「piano」にしています。

このDynamic ディナミークと Fingering を合わせますと、

この12小節目の「d c B」が、浮かび上がってくるのが

お分かりになると、思います。



★「Clavierbüchlein für Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集」を

そのまま印刷しました Facsimile版と、

Bartók校訂版とにより、これだけ深い内容が見えてきます。


★Facsimile版の価値は、計り知れないほど深いものがあります。

構造を理解することが、演奏に、

素晴らしい演奏に直結するのは、言うまでもないことでしょう。

 

 

(「Clavierbüchlein für Anna Magdalena Bach
  アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集」

        Facsimile版の表紙:Bärenreiter-Verlag)

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=0008906063
(アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳と書かれていますが、
  アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集のことです)

 

 

 

 
※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■Bach自筆譜の各小節の長さどおりに写譜すると、続々と新たな発見が■

2016-10-25 00:51:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach自筆譜の各小節の長さどおりに写譜すると、続々と新たな発見が■
~平均律1巻4番前奏曲がなぜ、3番フーガの後に続けて書かれているか~
  =KAWAI名古屋「平均律1巻4番 cis-Moll」アナリーゼ講座=
                     2016.10.24  中村洋子

 

 

★26日は、KAWAI名古屋での「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 4番」の

アナリーゼ講座です。

忙しい時ほど、本が読みたくなります。

Vincent van Goghフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の、

「ゴッホの手紙」を少し、つまみ読みいたしました。


★この本の訳は、みすず書房と岩波文庫から出ていますが、

訳文がいま一つ読みにくいので、双方を見比べ、

大意を推し量ります。


★1888年5月20日ごろ、ゴッホが弟Theoテオに出した手紙の

最後の部分が、印象に残りました。

病気のTheoテオを気遣い、早く健康を取り戻すよう、

愛情あふれるアドバイスを細々と書いた後、

おおよそ、次のようなことを言っています。

≪肉体の若さが衰えても、別の若さが芸術作品に現れれば、

若さを失ったことにはならない。

作品を創る若さは、別の若さである≫。

 

 


★8月末、草津温泉で Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生と、お蕎麦ディナーをしながら

歓談しました際も、「若さ」が話題になりました。


★先生は、足や膝を指さしながら「older and olderになっていく」と

おっしゃっていました。

「先生の演奏は、微塵も老いを感じさせません。

先生の心は、毎日若くなりますね」と、私が申しますと、

先生は「その通り」と、微笑まれました。

その時の、先生の得心された笑顔を、

ゴッホの手紙を読みながら、思い出しました。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20160902


★私は既に東京、横浜で「平均律アナリーゼ講座」を開催しました。

しかし、ゴッホの顰に倣い、この作品の永遠の命を、

さらに探求すべく、もう一度、Bach自筆譜をFaximileを参照しながら、

書き写しました。

 

 


★今回は、自筆譜の各1小節の長さをそのまま正確に測り、

それに基づき、写譜し、テキストを作り直しました。

東京と横浜のテキストは、レイアウトを自筆譜通りにして、

書いたつもりでした。

例えば、1段目は4小節、2段目は4小節半で記譜されていますが、

その小節を均等に同じ長さにして写していました。

しかし、Bachの自筆譜は、各小節の長さが「絶妙に」

異なっています。


★それを実際に物差しで測り、その通りに写してみました。

陳腐な表現ですが、自分の目から鱗が剥がれ落ちていくのが

分かりました。

新しい発見が、続々と出てきました。


★偉大な Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973)は、

毎朝毎朝、Bachを勉強するたび、

”Bachという花園の色彩”が、さらに色濃く、鮮やかになっていくのを、

発見していたのでしょう。

 

 


★今回のテキスト一新に伴い、講座では、

Bach自筆譜から分かること、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン(1855-1932)版と、

Bartók Béla バルトーク(1881-1945)版のフィンガリングから、

それをどう演奏に結び付けるか、さらに、

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の解釈はどうであったかを、

お話いたします。


★平均律1巻4番 Preludeは、3番 Fugaが4段目で書き終えられた後、

ページを改めることなく、引き続き5段目から書き始められています。

その理由が明確に分かりました。

講座で詳しくお話いたします。


★Röntgen版とBartók版のFingeringは、酷似している所が

多々あります。

それは、Röntgen版と、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー

(1886-1960)版との間でも、同じことが言えます。


★Röntgen版を源泉として、Bartók版、Edwin Fischer版が

成立していると言えます。

しかし、日本でよくみられる、いろいろな版の“つまみ食い”、

“パッチワーク”というものではなく、

Röntgen版という優れた源泉が、さらにBartók、Edwin Fischer

という天才に滋養を与え、美しく秀逸な校訂版を育んでいった、

と見るのが妥当でしょう。

 

 


★この4番 Preludeにつきまして、Bartók版のレイアウトは、

Röntgen版に酷似しており、5小節目からのFingeringが、

 

Bartók版は   

 

 

Röntgen版は  

 


★Röntgen版が「5 1」と書いたところを、Bartók版は「5 4」と

写し間違えたようで、微笑ましいFingeringとなっています。


★しかし、Bartók版独自のFingeringも数か所見られます。

例えば、1小節目の   

 

 

これは、演奏するうえで、大変優れたFingeringです。

この「2」がなぜ素晴らしいのか、是非、ピアノで弾いて

体験し、考えて下さい。

演奏の根幹に関わります。

 

 

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■中村洋子「バッハ 平均律 第1巻 4番 cis-Moll
           P
relude& Fuga アナリーゼ講座」
  ~軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、
            子供にこそ弾いて欲しい曲
 
 ~Beethoven 月光ソナタは、4番が源泉~
----------------------------------------------------------

★憂愁の霧に閉ざされたような、メランコリックな平均律第1巻
「4番前奏曲」は、実は、Bachの Französische Suiteフランス組曲の
優美な舞曲と深く、関連しています。この4番前奏曲と表裏一体の
関係にある「3番フーガ」は、明るく、軽やか、屈託がありません。

★このことからも、「4番前奏曲」を深刻に、重々しく弾く必要がない、
ことが分かります。Bachは、この前奏曲 を、当時10歳前後だった
長男のフリーデマンに弾かせるため、1720年「フリーデマンバッハの
ためのクラヴィーア小曲集」に、この前奏曲を、ほぼそのまま収
録しています。

 
★軽やかにして繊細な、この4番前奏曲は、子供さんにこそ、
弾いていただきたい曲です。演奏法についても、分かりやすく
お話いたします。

 
★解説書などには、“4番フーガの主題は、十字架の形をしている”
などと、もったいぶって“あなたには難しすぎる”と言わんばかりの、
衒学的な解説がなされているようです。
しかし、それに囚われる必要は全くありません。

 

★Bachの意図を理解するために、自筆譜の勉強が欠かせません。
また、Beethovenの月光ソナタ「Klavier sonate cis-Moll
Op.27 Nr.2」は、この平均律1巻4番を源泉としています。
月光ソナタの繊細な美しさこそ、この4番フーガの魅力の一面でも
あるのです。月光ソナタの自筆譜から読み取れることを、
4番フーガに逆照射いたしますと、さらに両曲の理解が、
深まります。

 

 

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■日 時 : 2016年 10月 26日(水) 10:00 ~ 12:30
■会 場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■予 約 :〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15 カワイ名古屋
     Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427

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■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。日本作曲家協議会・会員。
ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数を発表。
2003年~05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

07年:自作品「Suite Nr.1 fϋr 無伴奏チェロ組曲 第1番」などをチェロの巨匠
         Woiggang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏したCD
      『 W.Boettcher Plays JAPAN ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』を発表。

08年:CD『龍笛&ピアノのためのデュオ』、CD『星の林に月の船』
         (ソプラノとギター)を発表。

08~09年:「Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien Analysis
               インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、KAWAI表参道で開催。

09年:「Suite Nr.1 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第1番」を、
           ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

10~12年:「Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ Analysis
               平均律クラヴィーア曲集 第1巻 アナリーゼ講座」全24回を、
                                                                      KAWAI表参道で開催。

10年:CD『Suite Nr.3 & 2 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番、2番』
         Wolfgang Boettcher演奏を発表。
       「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」をドイツ・ドルトムントの
         ハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年:「10 Duette fϋr 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」を、
           ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

12年:「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
          チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)を 
           Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版」

13年:CD『Suite Nr.4 & 5 & 6 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第4,5,6番』
         Wolfgang Boettcher演奏を発表。
      「Suite Nr.3 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番」を、
        ベルリン・リース&エアラー社「 Ries & Erler Berlin」から出版。

14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」
           の楽譜を、ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」から出版。
    SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲
    第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』を、「disk UNION 」社から、
    ≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
    スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で
    自作品が演奏される。

16年:ドイツの「ベーレンライター出版社」が刊行した J.S.バッハ(原典版)
   「ゴルトベルグ変奏曲」など、バッハ鍵盤作品の「序文」の日本語訳と
   「訳者による注釈」を担当。

    著書『クラシック音楽の真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』
                       (DU BOOKS)を出版。

     CD『 Mars 夏日星』(ギター)を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や
     全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
   http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■平均律1巻4番前奏曲にある「2オクターブ+減5度」の大“空間”の凄み■

2016-10-14 01:24:01 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律1巻4番前奏曲にある「2オクターブ+減5度」の大“空間”の凄み■
  ~Beethoven は後期ピアノソナタで、この“空間”を取り込む~
  名古屋KAWAI「平均律第1巻 4番cis-Moll 嬰ハ短調」アナリーゼ講座


         2016.10.14 中村洋子

 

 


★気付きましたのが大変遅かったのですが、私の著書

≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり≫の書評が、

YAMAHA「ピアノの本」2016年5月号に、掲載されていました。

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■新刊Selection 「選者」小沼純一氏

 『エリーゼのために』をあなたは間違って弾いていませんか?
そんな問い掛けから始まる本書。作曲家が楽譜を書き、それが
出版社で浄書されて流通する。あいだには校訂者がいる。だが、
校訂の作業で間違いも生じる。著者は、だからこそ、自筆譜に
可能なかぎりあたるべきだとする。それも学校で教えられる知識
としての知識ではなく、生きた音楽と結びついたものが不可欠だ
と主張する。多数の譜例を使いながら、証明してゆく。本書の背骨
にあたる部分にはバッハの名があり、ベートーヴェンやショパンも
そこへとつなげられる。力強い主張とミステリーにも比類すべき
謎解きには、読み終えることができたなら、かならずや読者を
新しいところへと連れてゆくだろう。

 

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10月26日の名古屋KAWAIでのアナリーゼ講座では、

「平均律第1巻 4番cis-Moll 嬰ハ短調」を勉強します。

4番 Preludeでは、舞曲との関係をお話し、どう演奏に

結び付けるかに発展させます。


★同時に、Chopinが実際に使っていた楽譜、

さらにBartókとRöntgenの校訂版を道しるべに、

Bachの自筆譜を読み込みます。


★Chopinは、平均律を愛し、わが物にするために、

大変な勉強をしています。

現代のように、Bachの自筆譜やファクシミリが簡単に

手に入るわけではなく、たくさんの校訂版があるわけでも

ありませんでした。


★この4番 Preludeを、重々しく、しかつめらしく弾くことがかなり

一般化しているようです。

Chopinは、自分の楽譜の冒頭に「Andante con moto

アンダンテ コン モート」と、書いています。

アンダンテはゆっくりと歩く速度、コン モートはwith motion

動きを伴ったという意味です。

決して、遅すぎるテンポではありません。

これも、舞曲との関係から来たものと思われます。

 

 


Chopinが所持していました平均律の楽譜は、

Beethoven の弟子の Czerny チェルニーが校訂した版でした。

Bach自筆譜と比べまして、異なったところがかなり多い版でした。


★例えば、4番 Preludeの1小節目6拍目で、Bachは「fis¹」を

書いていますが、Czerny チェルニー版では、「fis¹」がありません。

Chopinは、Bach自筆譜を見ていなかったのですが、天才の分析、

あるいは直観で、この「fis¹」を鉛筆で書き加えているのです。

見事ですね。




★また、あちこちに見られるChopin手書きの「cres.」「dim.」や、

強弱などの記号からは、ChopinがBachをどう弾いていたかが、

生々しく分かってきます。


★また、ときにはChopinの“フライイング”で、

Bachが書いていない音を、大量に書き込んでいる場所さえあります。

これは“フライイング”というより、ChopinがBachの音楽を歌い、

弾き、心から共感し、その奥底にあるChopinの音楽が

溢れ出てきた、と見るのが妥当でしょう。






★その一例として、4番プレリュードの

17、18小節目を見てみましょう。

Chopinは、Bachがそのように書いたとは自分でも思っては

いなかったでしょうが、心が高揚する中で、Chopinの耳は、

17小節目4拍目から“四声体を聴いた”のでしょう。

 

 

17小節目4拍目の右手で奏される上声ソプラノ声部は「a²」です。

4拍目左手で奏されるバスの「Gis」と、テノールの「dis」は

「完全5度」を形成します

そのテノールの「dis」と、ソプラノの「a²」間には、

アルトが存在せず、「2オクターブ+減5度」の

大きなインターヴァル、“空間”が広がっています。

 

 


Chopinはその“空間”に、加筆して四声にしました。

Chopinが追加して四声体としたものを弾いて体験した後、

Bach本来の楽譜で弾きますと、

改めて、Bachの音楽の偉大さが実感できます。

この“沈黙の空間”が物凄いエネルギーを秘めた存在である

ことが、切々と実感できます。

Bachはあえて、四声体にせずに、「2オクターブ+減5度」の

“空間”を置いたのです


その“空間”存在を認識してお弾きになれば、

きっと、より豊かな演奏となることでしょう。

 

 


★さらにChopinは、18小節目テノール声部に、

冒頭1小節目の上声モティーフ「ソ ファ ミ レ ミ ド」を

鉛筆で書き込み、はめ込んでいます。

 





見事にすっぽりと、はまり込んでいます。

はまり込んだときの、作曲家ならではの、

わくわくとした感情は、本当によく理解できます。

 




★以前、当ブログで指摘しましたが、

Beethoven 後期のPianoSonataで、上声と下声との間の

“空間”が大きい、あまりにかけ離れているところがある、

ということについて、

それはBeethoven の耳の疾患のせいで、

音の配置のバランスが悪くなっている、という説が

まことしやかに、流布されてきました。

しかし、そうではないでしょう。


★聴覚に障害があった場合、作曲家はピアノで音を確かめることなく、

頭の中でのみ、作曲するはずです。

その場合、それまで修練を重ねてきた手法で、

常識的にバランスよく作曲するというのが実は、

最も容易な方法なのです。


それをあえて逸脱し、革新的な音の配置を作ろうとしたのが

Beethovenであり、それが彼の後期の様式なのです。


★Bachの、このソプラノとテノール声部の間の、

大きくかけ離れたインターヴァル。

それによって生まれる、息を呑むような緊張感。

Beethoven はこれを学び、踏襲したのかもしれません。

 



★蛇足ですが、Bachの自筆譜が現代の譜と異なるのは、

Bachは平均律1巻の右手声部を、ソプラノ記号で書いていることです。

また、調号については、一見して♯が6つも付いているため、

驚かれるかもしれませんが、

それは、「ド♯」を「cis¹」「cis²」の二つに♯を付けているためで、

現代では♯は4つです。


 

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■中村洋子 バッハ 平均律 第1巻 4番 cis-Moll
                              Prelude& Fuga アナリーゼ講座

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■
      ~Beethoven 月光ソナタは、4番が源泉~

日時 : 2016年 10月 26日(水) 10:00 ~ 12:30
会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

予約  : カワイ名古屋
 〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15
 Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427

 

 

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★憂愁の霧に閉ざされたような、メランコリックな平均律第1巻

「4番前奏曲」は、実は、Bachの Französische Suite

フランス組曲の優美な舞曲と深く、関連しています。

この4番前奏曲と表裏一体の関係にある「3番フーガ」は、

明るく、軽やか、屈託がありません。


★このことからも、「4番前奏曲」を深刻に、重々しく弾く必要がない、

ことが分かります。

Bachは、この前奏曲 を、当時10歳前後だった長男のフリーデマンに

弾かせるため、1720年

「フリーデマンバッハのためのクラヴィーア小曲集」に、

この前奏曲を、ほぼそのまま収録しています。


★軽やかにして繊細な、この4番前奏曲は、

子供さんにこそ、弾いていただきたい曲です。
 
演奏法についても、分かりやすくお話いたします。
 
 
★解説書などには、“4番フーガの主題は、十字架の形をしている”

などと、もったいぶって“あなたには難しすぎる”と言わんばかりの、

衒学的な解説がなされているようです。

しかし、それに囚われる必要は全くありません。


★Bachの意図を理解するために、自筆譜の勉強が欠かせません。

また、Beethovenの月光ソナタ「Klavier sonate cis-Moll Op.27 Nr.2」は、

この平均律1巻4番を源泉としています。

月光ソナタの繊細な美しさこそ、この4番フーガの魅力の一面でもあるのです。

月光ソナタの自筆譜から読み取れることを、4番フーガに逆照射いたしますと、

さらに両曲の理解が、深まります。

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講師: 作曲家  中村 洋子

  東京芸術大学作曲科卒。

 200809年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15を、東京で開催。

 201015年、「平均律クラヴィーア曲集12巻アナリーゼ講座」全48を、
                                                                                              東京で開催。

              自作品「Suite Nr.16 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」
           「
10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
             ベルリン、リース&エアラー社
Ries & Erler Berlin より出版。

             「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
    「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
     チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」

     
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
                     Musikverlag Hauke Hack  Dortmund から出版。

 2014年、自作品「Suite Nr. 16 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」の
                
SACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
              
disk UNION : GDRL 1001/1002)。

 2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
            
クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!
                 ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、
                                 曲の構造、演奏法までも分かる~ 
DU BOOKS社)を出版。

 2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
                  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」
Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
                「訳者による注釈」を担当。

 


★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や全国のCDショップ、
ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

  

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■マリナー&ベッチャーによる Brahmsダブルコンチェルトの名演■

2016-10-04 23:17:56 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■マリナー&ベッチャーによる Brahmsダブルコンチェルトの名演■
~Academy of St. Martin-in-the-Fieldsのネヴィル・マリナー逝去~
            2016.10.4  中村洋子

 

 

★Academy of St. Martin-in-the-Fieldsの指揮者

「Sir Neville Marrinerネヴィル・マリナー死去」が、

報道されました。

-------------------------------------------------------
Sir Neville Marriner 
15 April 1924 - 2 October 2016
     http://www.asmf.org/sir-neville-marriner/
The Academy of St Martin in the Fields is deeply saddened to announce the death of Sir Neville Marriner, Founder and Life President of the Academy of St Martin in the Fields.

Sir Neville Marriner passed away peacefully in the night on 2 October.

Born on 15 April 1924 in Lincoln, Sir Neville Marriner studied at the Royal College of Music and the Paris Conservatoire. He began his career as a violinist, playing first in a string quartet and trio, then in the London Symphony Orchestra. It was during this period that he founded the Academy, with the aim of forming a top-class chamber ensemble from London’s finest players. Beginning as a group of friends who gathered to rehearse in Sir Neville’s front room, the Academy gave its first performance in its namesake church in 1959. The Academy now enjoys one of the largest discographies of any chamber orchestra worldwide, and its partnership with Sir Neville Marriner is the most recorded of any orchestra and conductor.

Honoured three times for his services to music in this country – most recently being made a Companion of Honour by Her Majesty The Queen in June 2015 – Sir Neville Marriner has also been awarded honours in France, Germany and Sweden.

As a player, Sir Neville Marriner had observed some of the greatest conductors at close quarters. He worked as an extra under Toscanini and Furtwängler, with Joseph Krips, George Szell, Stokowski and mentor Pierre Monteux. Sir Neville began his conducting career in 1969, after his studies in America with Maestro Monteux. There he founded the Los Angeles Chamber Orchestra, at the same time as developing and extending the size and repertoire of the Academy. In 1979 he became Music Director and Principal Conductor of both the Minnesota Orchestra and the Südwest Deutsche Radio Orchestra in Stuttgart, positions he held until the late 1980s. Subsequently he has continued to work with orchestras round the globe in Vienna, Berlin, Paris, Milan, Athens, New York, Boston, San Francisco and Tokyo. In 2011 Sir Neville was appointed Honorary Conductor of the newly formed I, Culture Orchestra which brings together the most talented young musicians from Eastern Europe. Sir Neville was Music Director of the Academy from its formation in1958 to 2011 when he became Life President and handed the baton of Music Director to violinist Joshua Bell.

Academy Music Director, Joshua Bell said: “I am deeply saddened by the news of Sir Neville Marriner’s passing. He was one of the most extraordinary human beings I have ever known. I will remember him for his brilliance, his integrity, and his humor, both on and off the concert platform. Maestro Marriner will always be the heart and soul of the Academy of St Martin in the Fields, and we musicians of the orchestra will miss him dearly.”

Chairman of the Academy, Paul Aylieff said: “We are greatly saddened by today’s news. Sir Neville’s artistic and recording legacy, not only with the Academy but with orchestras and audiences worldwide is immense. He will be greatly missed by all who knew and worked with him and the Academy will ensure it continues to be an excellent and fitting testament to Sir Neville.”

The Marriner family are very touched by all the messages of sympathy from people reminding them how much fun it was to be with Neville.
(Sir Neville Marriner、 1924年4月15日 - 2016年10月2日)

 

 


★ Marriner マリナーが指揮した曲の中で、

私は、Brahms Doppelkonzert + Weber Fagottkonzertを、

よく聴きます(Brahmsは1980年録音)
                (CAPRICCIO 10496)


★Brahmsの Doppelkonzert ダブルコンチェルト

「Cocerto for violin, cello and orchestra Op.102」の独奏チェロは、

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生が、

弾かれています。

ヴァイオリンは、Ulf Hoelscher さんです。


★Johannes Brahms ブラームス (1833-1897)が1887年に作曲し、

同年10月初演の作品です。

規模の大きなオーケストラ作品としては、この曲が最後です。


★第2ピアノ協奏曲が、1881年作曲初演、

第4交響曲が1884~5年に作曲され、85年初演。

この二作品に続く曲です。


★この曲の第1楽章冒頭4小節は、オーケストラの前奏です。

前奏といいましても、冒頭4小節間に、この曲の全ての要素が含まれる、

という手法は、Bach、Beethoven と同じです。

それが ≪名曲の要件≫とも言えます。

 


 


★この4小節間を Piano reduction

(オーケストラの総譜を一人で演奏できるよう、ピアノ用楽譜に編曲すること)

してみましょう。


★1、2小節は、一番上の音を「e³ d³ h²」 「c³ h² e²」とする

ユニゾンの tutti(総奏)です。


3、4小節は、フルートと第1、第2ヴァイオリンがユニゾンです。

 

フルートと第1ヴァイオリンの3小節目は、

「fis² gis² a² gis² a² h²」、

4小節目は「a² h² c³ d³ e³ f³」です。





ともに、大地に足を踏みしめるような3連符です。





5小節から25小節までの21小節間、

オーケストラはピタリと鳴り止みます。

4小節目後半の「d³ e³ f³」を、5小節の独奏Celloが、

「D E F」のカノンで引き継ぎ、

低く、深く、朗々と 歌い始めます。



★5小節目の「D E F」は、8小節目に1オクターブ高い「d e f」で、

カノンを形成します。





その8小節目は、「d e f」を下声とする二声です 。

その上声は「f¹ e¹ d¹」となり、「d e f」の反行形(逆行形も同じ)です。


★独奏Celloの15小節目「e¹ d¹ h c¹ h e」は、





冒頭1、2小節目の、

オーケストラのユニゾンの中で、Fagott、Viola、Celloで奏される

「e¹ d¹ h c¹ h e」の変形です。





(このe¹ d¹ h c¹ h eは、最初の掲載譜に赤字で書かれた声部です)


★更に、16小節になりますと、「e¹ d¹ h」は、縮小形となり、





畳み掛けられてきます。

これが、Brahmsの 「counterpoint 対位法」 です。







★前回のブログ「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」1楽章で、

ご説明しました技法と同じであることに、お気づきでしょう。


★ Boettcher ベッチャー先生と Marriner マリナーの演奏を

CDでじっくりと聴きながら、Brahmsの作品に宿る Bachについて

考えることができました

それは、演奏が素晴らしいからです。


★この曲 Doppelkonzert ダブルコンチェルト

「Cocerto for violin, cello and orchestra」は、

1楽章はいま分析した通りですが、

3楽章も、独奏Celloがオーケストラの伴奏を伴って、

冒頭から11小節目まで軽やかに歌います。

11小節目から、独奏Violinが、その旋律を2オクターブ高く

模倣します。

ここでもCelloが主導しています。


★Brahmsの師とも言える Robert Schumann 

ロベルト・シューマン(1810-1856)の晩年の傑作

「CelloConcerto Op.129」が、彼の脳裏に焼き付いていた

のであろうと、私は思います。

 

 

★このように、深く考察できますのは、

演奏が、楽曲のもつ 「counterpoint 対位法」を、

明確に、指し示しているからでしょう。


★音楽に集中しますと、絵画の本を読みたくなります。

いま、Henri Matisse アンリ・マティス(1869-1954)の、

「マティス 画家のノート」(みすず書房)を、再読しています。


★学生時代、何度も読んだ本ですが、当時、図書館で

借りて読んでいました(みすず書房の本は高価すぎました)。

近年、「書物復権」企画として、再び出版されました同書を

求めました。


★特に、印象に残った所を一部ご紹介します。

マティスは「セザンヌを尊敬している」とインタビューアーに、

正直に語りました。

インタビューアーは「それを言うのは危険ではないか」と、問いただしました。

マティス「それに堪えられるだけの力を持たない人たちには気の毒だが、

仕方ない。影響にめげずに堪えられるだけの逞しさがないというのは、

無能の証拠です」(91ページ)


★これは、BachとBrahmsの関係と同じですね。

Brahmsの中に、いくらBachの影響を読み取りましても、

それは100パーセント Brahmsの音楽であり、

Bachの音楽ではないでしょう。

どんなに深く、Bachから影響を受けていても、

Brahmsの個性は、Bachを咀嚼し、Brahmsにしか書けない

Brahmsの音楽を作曲したのです。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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