音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律1巻6番フーガ、8小節目から始まる謎のテーマ■

2018-11-03 20:02:40 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律1巻6番フーガ、8小節目から始まる謎のテーマ■
~謎のテーマが解明できれば、平均律の核心にまた一歩迫る~
  ~平均律1巻6番d-Moll アナリーゼ講座のご案内~
          2018.11.3  中村洋子

 

 


★霜月11月になりました。

来週11月7日は、いよいよ立冬です。

≪寒菊や日の照る村の片ほとり≫   蕪村

郊外に車で行きますと、よくこのような風景を目にします。

農家の庭の片隅に、素朴な小菊。

決して、品評会に出すような大輪の菊ではありません。

菊に暖かく、陽の光が当たっています。


★前回のブログ「平均律1巻6番前奏曲の半音階進行は、

指の練習曲にあらず」で、蕪村について書きました。

画家であり、詩人でもある蕪村の句は、絵画的です。

文学の世界に、絵画が侵入しています。


★まだ、学校に通っていた頃、画家「香月泰男遺作展」を、

国立近代美術館で見ました。

シベリアシリーズ(シベリアでの抑留体験を絵画に昇華したもの)

中で、見る者の魂が凍るような作品がありました。


★真っ黒な背景に、点々と雪を象徴した白い点が、

ポトリポトリと、落とされているだけです。

しかし、そのモノクロの世界に、シベリア抑留の凄まじい体験、

言葉ではかえって伝えられないような、恐ろしい戦争の現実が、

凝縮されていました。

 

 


★同じように、一見モノクロにしか見えない蕪村の60歳過ぎての

絵画「夜色楼台図(やしょくろうだいず)」

静かに寝静まった家々。

ほんのり暖かみのある墨色の空。

そこに、なんとなく楽しくなるような、こころときめくようなボタ雪、

大きさも、降る方向も異なるボタ雪が、舞っています。

ボタ雪は、胡粉をまき散らしただけです、見事です。

遠くに雪で覆われた山々。

それすらも寒の辛さより、優しさを感じさせる柔らかい稜線です。

 

★私は、この作品「夜色楼台図」に触発され、

チェロ独奏のための小品を作曲しました。

私のCD「無伴奏チェロ組曲3、2番」に、集録されています。


★このCDは、銀座・山野楽器2階クラシックCD売場と、

アカデミアミュージックで、お求めいただけます。

残念ですが、SACDの無伴奏チェロ組曲には集録されていません。

 

 


★香月泰男の極限の悲しみを描いた雪。

その悲しみの「雪」が、再び"降る"ようなことがなく、

蕪村の、心に春の暖かさを予感させる「雪」が、

この冬も、穏やかに降って欲しいものです。

 

★前回ブログでは、11月17日のアナリーゼ講座の

「平均律第1巻」6番 d-Moll のプレリュードについて、書きました。
https://www.academia-music.com/news/74


★17日の講座では、初めに「プレリュード」の和声と、

その和声が形成していく 「counterpoint 対位法」のご説明をします。

その後、何故 Bachのフーガが、他の作曲家のフーガを

寄せ付けない高みにあり、傑出しているのかについて、

お話しいたします。


★具体的に、一音一音、一小節一小節を、じっくり検討し、

味わっていきます。

その過程を経ますと、

Bachのフーガが、「調性」そのものを解明していく手段であることも、

難なく分かっていきます。

 

 


★それでは、どこにそのポイントを絞って、フーガを見ていけば

よいのでしょうか。

フーガとソナタの決定的な違いは、フーガはテーマが一つ、

ソナタはテーマが二つあることです。

フーガのテーマ(主題と応答)の、主題と応答との関係は、

次のようになります。

「主題(主唱)Subject」 がまずあり、そのSubjectを5度上

(または4度下)で模倣した「応答(答唱)Answer」が、

出現する、ということです。


★一般的に、「2声のフーガ」では、冒頭で主調によるSubjectが

提示された後、 Answerが出てきます。

Subject1回、Answer1回の計2回です。

「3声のフーガ」では、冒頭の主調によるSubjectの後、

Answerが続き、もう一度 Subjectが提示されます。

Subject→Answer→Subjectの計3回です。


★「4声のフーガ」では、これに更にもう一回Answerが提示されます。

同様に、「5声のフーガ」は、更にSubjectが追加されます。

このように、フーガの声部の数と、冒頭の主調提示部の主題の

提示回数は一致します。

これを第1提示部 1st Exposition といいます。

Subjectの「声部」と、Answerが提示される「声部」は、

同じではなく、すべて異なります。


2声のフーガの例として、「平均律第1巻」10番e-Moll を挙げますと、

冒頭Subjectは「上声」で提示され、Answerが「下声」で出現します。

これが第一提示部です。

4声のフーガの例として、「平均律第1巻」5番D-Dur では、

まずバス声部にSubject、次にテノール声部にAnswer、

そして、アルト声部のSubjectが続き、最後にソプラノ声部の

Answerが奏せられます。

バス→テノール→アルト→ソプラノの各声部が網羅されています。

 

 


★では、この6番d-Moll フーガは、どうなっているのでしょうか。

6番は、3声のフーガですから、Subject→Answer→Subjectと、

3回の提示があるはずです


★まず、上声(ソプラノ)で、Subjectが提示されます。

 

 

次に、内声にAnswerの提示があります。

 

 

そして、下声(バス)にSubjectが登場し、

 

 

★これで、第1提示部は終了していいはずですが、

8小節目上声に、主調のSubject(レから始まる)でもなく、

主調のAnswer(ラから始まる)でもないテーマが、配置されます。

 

 

このフーガの場合、AnswerはSubjectを逐一正確に

5度上(4度下)に模倣するreal Answer(真正答唱)ですので、

 

 

この8小節目から始まるテーマが、SubjectかAnswerかを、

その旋律の形の上から、判断することはできません。


★しかし、この8小節目から始まる不思議なテーマが、

「Subject」か「Answer」か、どちらかであるかを解明できますと、

この6番が、1番から6番までを総括するエネルギーに満ちた曲

であることすら、分かってくるのです。

さらに言いますと、この不思議なテーマの解明で、

平均律の核心に、また一歩迫ることができるのです。

この点について、講座でじっくりとご説明する予定です。

 

 


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