■世界で大人気の映画「 最強のふたり Intouchables 」は、“仏版寅さん その1■
2012.12.5 中村洋子
★フランス映画「 最強のふたり Intouchables 」を、見てきました。
脊椎損傷で、首から下が完全麻痺になり、全く動けない白人の超大金持ち、
40代後半とおぼしき、この白人への介護人として、
偶然に雇われた、スラム街出身のアウトロー黒人青年。
この二人による、楽しく暖かい、心の通い合い物語です。
★弓のようにしなやかな肉体をもち、ビート音楽と美人へのちょっかいが楽しみ、
権威、地位、肩書き、教養、芸術、法、社会秩序には、一切無関心で無知、
何ものにも囚われず、気ままに生きることに徹している“ 完全自由人”の青年。
その打算のない “ 無垢のおせっかい ” により、二人の心が熱く通じ合います。
体は動かなくとも、大金持ちも、一緒に自由に羽ばたくことができた、
というハッピーエンドの物語です。
★≪ Intouchables ≫
Realisateur / Scenario : Eric Toledono / Olivier Nalache
監督 / 脚本 : エリック・トレダノ / オリビエ・ナカシュ
Cast Philippe : François Cluzet Driss : Omar Sy
キャスト フィリップ:フランソワ・クリュゼ、ドリス:オマール・シー、
★≪ フーテンの寅さん、こと車寅次郎 ≫ を、フランス版に焼直したら、
このような立派な作品が生まれた、という見本である、と思います。
これを作った二人の監督は、 決して“ 白状 ” しないとは思いますが、
≪ 寅さん ≫ を学び尽くしたのでしょう。
素晴らしい作品の手法を、徹底的に学ぶ、まさに作曲と同じですね。
この作品を、作曲のようにアナリーゼしてみました。
★ストーリーは、練りに練られています。
飽きさせず、最後まで一気に引っ張られ、
見終わると 「 幸福感 」 を、共有していました。
★冒頭のシーン
真っ黒、精悍なスポーツカーのハンドルを握る黒人 Driss ドリス、
助手席には、無精髭が伸び放題、憔悴気味の Philippe フィリップ。
ブンブーン、咆哮する狼のようにアクセルをふかす。
時速200㌔を越える猛速、高速道を走っている車たちを蹴散らすように、
追い抜き追い抜き、小気味よく疾走します。
しかし、遂にパトカーに挟み撃ちにされ、
Driss は短銃を突きつけられ、危うく逮捕されそう。
「 身障者が発作を起こしているんだ、早く病院に運ばないと死ぬぞ。
お前たちも、責任を問われるぞ!!! 」と、
Driss の恫喝 インプロビゼーション。
フィリップも、激しい咳き込みと涎ダラダラ、瀕死を装います。
二人とも、見事な役者です。
危機を脱したふたりは、明け方の海を目指し、軽やかに走り去ります。
★次のシーンは、Chopin の夜想曲が美しく流れる Philippe の大邸宅。
いままさに、介護士の面接をしています。
「 応募の動機は? 」と、尋ねる美人秘書。
「 お金・・・、人間に・・・、身障者の自立と社会参加に・・・ 」など、
もっともらしいことを言う、白人の応募者たち。
小役人に見えます。
★一人だけ安物のズック靴を履いたドリスが、順番を無視し、
「 不採用の印鑑を押してくれ、三件不採用なら、失業保険が下りるからだ 」と、
ずけずけ、面接室に入り込みます。
Driss の言葉は、家族や親しい仲で使う、馴れ馴れしい言葉使い。
それまで、しかめっ面をして面接をしていた Philippe は、ニコニコ顔に。
「 明朝、9時に来てください。」と、紳士的に Vous を使います。
★それまで、ほとんどの介護士が気難しい Philippe と合わず、
2週間ともたずに辞めていった、と後になって分かるのですが、
あくまで契約として働き、他人行儀で間違いがないように、
事務的な介護に徹する人たちに、
Philippeは、吐き気がしていたのでしょう。
心の触れ合いが、なかったからです。
★自分勝手で、回りに配慮せず、言いたいことを臆面も無く言う、
地位も階級も肩書きも通用しない、そんな Driss の天衣無縫な人格に、
Philippe は直感的に、惚れたのだと思います。
実は、これは、寅さんの性格そのものでもあるのです。
★一ヶ月の試用期間を与えられた Driss は、
Philippe を、身障者とはみずに普通に接します。
Philippe の外出は、それまで、
車椅子を固定できるワゴン車を、使っていました。
まるで、囚人護送車。
Driss は、シートを被せられたままの車を、目敏く見つけます。
めくり上げると、真っ黒なスポーツカー、怪しく光るエンブレム。
すぐさま、Philippeを抱きかかえ、助手席に。
ホーホーと喜びの奇声を発して、走り出します。
電動車椅子も、マラソン並みにスピードが出るように、
改造してしまいます。
★この映画では、フランスの富豪のお金持ち具合が分かります。
道路に面した通用路を車で入りますと、
美しい中庭があり、園丁が働いています。
その奥に、広大な邸宅があります。
外側からでは、全く分かりません。
秘書だけでなく、50代の女性執事もいます。
コックもいます。
Driss 用の広い部屋も肖像画が飾られ、隣の浴室は、本当に一部屋あり、
真ん中に大きなバスタブが、据えられています。
salle de bain の由来が、納得できます。
★それはさておき、寅さん同様、Driss は汚い下品な言葉も頻繁に使います。
お下の世話もすることになるのですが、≪●●取りなんぞ出来ねーよ≫・・・。
Philippe の親戚が訪ね、
「 法務省に尋ねたら、Driss は、宝石強盗で6ヶ月も服役していた。危険だ 」と、
忠告に来ます。
★寅さんは、的屋とか香具師(やし)と呼ばれる大道露天商、
広義ではアウトローの仕事。
いつも文無し、財布には五百円札が一枚だけ。
家族は叔父さん家族と妹のみ、妻も家庭もなく、住所不定の放浪生活。
トランク一つの寅さんに対し、Driss はズタ袋一つ。
中身は、飛び出しナイフとヌンチャクだけ。
環境設定を、似せています。
★Philippeは、親類に「 Je ne veux aucune pitié いささかも同情されたくない
Driss はそのように自分を扱ってくれる 」と、忠告に取り合いません。
Driss の仕事の一つは、たくさん届く手紙類の仕分けです。
弁護士に渡すもの、ゴミ箱行き、親書など・・・。
ブルーの封筒、女性からの手紙に気付きます。
ペンパルのようです。
★風俗の宣伝レターを、ゴミ箱に捨てません。
Driss は早速、自室にいかがわしい女性を招き寄せています。
遠慮もなく、Philippeに「 あっちのほうは? 」と尋ねてしまいます。
Philippe は正直に「 首から上は感じることができる、特に耳が 」と、
恥ずかしそうに、打ち明けます。
次のシーンは、
東洋風の美女から、耳マッサージを受けている二人の、楽しそうな顔。
マリファナも、吸っています。
寅さん映画は、セックスについては厳格に、俎上にのせませんが、
ここは汚い言葉の延長線、発展型か、
ヨーロッパでは、映画の要素として、本質的に必要なのかもしれません。
★次々と、ブルジョワ階級の生活を見せてくれます。
画廊で、抽象絵画を1時間以上も眺める Philippe に、
「 鼻血ブーのように、赤いインキがこびりついているだけじゃないか 」と Driss 。
しかし、買い気を示す Philippe 。
敵もさるもの引っ掻くもの、「 先ほどお知らせしました価格は、間違っていました、
3万フランでなく 4万 1500フランでした 」。
意に介せず、 Philippe は購入します。
★「 芸術は何か 」 という Philippe の問いに、Driss は「 商売だ 」と一言。
「 自分の跡を残すことである 」 と、 Philippe 。
★雪が降ると、公園に Philippe を車椅子で連れ出し雪合戦、
「 お前も、オレに雪をぶつけてみろよ 」と Driss 。
未明に Philippe が激しい息づかい。
Driss は、車椅子で外に出し、早朝のパリ、河畔を散歩させます。
「 午前 4時に散歩するのは、本当に久しぶり、ああ気持ちいい !!! 」。
職業としての介護では、思いつかない、出来ない行為でしょう。
★ Philippe はどうやら、自家用小型ジェットも保有しているようです。
ある夜、突然、夜間飛行に誘います。
地上では勇猛な Driss ですが、ちょっとした騒音にも怯え、震え上ります。
ハングライダーが趣味だった Philippe は、その事故で麻痺になったのですが、
補助付きで、あえてまた、挑戦します。
Driss はといえば、滑稽なほど怯えまくり、足をばたばた抵抗します。
これも、寅さんそっくり、以外に臆病なのです。
★ Philippe に「 最大の悲しみは何か?」と、 Driss が問いかけます。
「 最愛の妻を、病気でなくしたことである 」。
子供がいないため、 Philippe は女の子を養子にしています。
ティーンエイジャーの彼女には、 Driss は、最初からまるで、
親のようにズケズケと話し、ボーイフレンドのことで、
叱りつけたりもします。
使用人という意識は、まるでないのです。
★文学にも教養の深い Philippe は、青の封筒の女性に、
詩について、薀蓄を傾けた抽象的な手紙を代筆させ、せっせと出します。
「 いつから出してんだい?、6ヶ月前からだって。手紙だけか。
あれ!、電話番号が書いてある。≪・・・≫ という印もあるぞ。
その気があるんだ 」。
Driss は、強引に携帯電話を掛けます。
渋る Philippe も遂に、意を決して話し始めます。
「 絶対、体重を聴くんだぞ 」 と、横からチョッカイを出す寅さん Driss。
女性から「 写真が欲しい 」、「 近く、ダンケルクからパリに出かけます 」、
次々と、進行していきます。
★Driss は、ありのままの写真を出すべきだ、と主張して譲りません。
しかし、 Philippe は最後のところで、元気な時代に写真にすり替えます。
そして、パリのレストランでのデートに、漕ぎ着けます。
しかし、執事と一緒の Philippe は、女性が現れる直前、
逃げ出してしまいました。
障害者であることを、知らせていなかったことに忸怩たる思いがあったのでしょう。
★ Driss は、画廊でみたような抽象絵画は「 オレでも描ける 」と、
ペンキを塗りたくり、それらしい作品に仕上げます。
「 ロンドンとベルリンで個展を開いた新進画家の絵だ 」 と、
Philippe は、金持ちの親類に売り込みます。
「 有名になってからでは高くなっているかもしれないし・・・」と、
親類は迷った末、遂に 1万 2000フランで買ってしまいました。
Philippe と Driss は、一緒に悪ふざけをする、対等の親友になっています。
★しかし、破局が訪れます。
Driss の弟がやってきました。
顔に殴られた跡があり、やっかいなことに巻き込まれているようです。
Driss はやっと、身の上話をします。
本名は別、母親は実母でない、子供がいない叔母の養子になったが、
その後、叔母に子供がたくさんでき、いまでは家から追い出されていること。
「 弟たちのために、帰ったほうがいい。ここは一生の仕事ではない 」 と、
Philippe は、自分から別れを告げます。 ( 続 )
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