音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Chopinが見た「平均律アナリーゼ講座第 9回」 9番E-Durと、「 別れの曲 」の関係

2012-11-29 17:06:46 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Chopin が見た「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」
     第 9回 平均律第 1巻 9番 E-Dur ホ長調 前奏曲 & フーガ
                       ~ 9番 ホ長調 と、ショパン「 別れの曲 」の関係 ~
                                            2012.11.29      中村洋子

 


★平均律 1巻の白媚ともいえる 8番に続く 「 9番 」 は、

暖かく、明るい曲です。

前奏曲は 8分の 12拍子で、冒頭  2小節続くバスの保続音

( オルガンポイント ) に、パストラルの性格がうかがえます。

パストラルは、クリスマスと関係が深く、

この季節にふさわしい曲です。


★快活なテンポのフーガは、9番以前の 1番から 8番までの

 「  変奏曲 」 であることは、言うまでもありません。

 




★ショパンのごく若い時の作品、 「 エチュード 」 OP.10-3 ホ長調は、

「 別れの曲 」 として、親しまれています。


★ショパンは、バッハの平均律を座右に置いて、

毎日、繰り返し弾き、

このエチュード集を、作曲したことでしょう。

「 別れの曲 」 と、平均律の 1巻 9番は、

双子のように似ています。

保続音の扱い、モティーフの展開方法、反復( ゼクエンツ )進行、

半音階進行などに、それが読みとれます。

この点についても、詳しくお話いたします。


★ Chopin が持っていました平均律の楽譜には、

この9番に限りましては、残念ながら、

彼独自の記号や fingering の書き込みは、ありません。

今回は、 Chopin にとって 「 前奏曲 」 とは何であったのか、

エチュードや、彼の「前奏曲集」をもとに、お話いたします。

それは、 Bach が追求した 「 調性とは何か 」 という命題に、

行き着くのです。

 




★「 本年 」 のこの講座は、今回が最後です。

クリスマスにちなむ  “ パストラル ”  と  “ 別れの曲 ”  で、

幕を、閉じたいと思います。

平均律 9番を学ぶことで、 Chopin  「  別れの曲 」  の演奏が、

さらに、深まります。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------

■ 日時 : 2012年 12月 23日(日) 午後 2時 ~ 4時 30分

■ 会場 ワイミュージックスクール みなとみらい

        横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F

                      ( みなとみらい駅『出口1番』出て、目の前の高層ビル3F )

                       ( 要予約 )  Tel 045- 261- 7232 横浜事務所

                    Tel 045- 227- 1051 みなとみらい直通

                    

     ※All Rights Reserved, copyright Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ 9月に私の作品が、ドイツで演奏されました ■

2012-11-23 15:41:51 | ■私の作品について■

■ 9月に私の作品が、ドイツで演奏されました ■
~ 11月26日の 「 Chopin が見た平均律・アナリーゼ講座 」 は、Chopin 独特の記号について ~

                                         2012. 11. 23   中村洋子

 

 

★11月26日(月)に、KAWAI 横浜みなとみらい で開催いたします

第 8回 「 Chopin が見た Bach 平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座 」 の、

勉強をしています。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20121102


平均律第 1巻 8番 前奏曲 es-Moll 変ホ短調 に、

Chopin の書き込みは、 4ヶ所ありますが、

それは、楽譜のミスを、訂正したもので、

アナリーゼとしての意味は、ありません。


8番フーガ dis-Moll 嬰ニ短調では、

Chopin は、独特の 4種類の 「 記号 」 を、書き込んでいます。

「 × 」  は、 「 主題の開始 」  を意味しています。

「 キ 」 は、 「 反行主題の開始 」  を示しています。


★他の 二種類は、≪ 菱型正方形の中に 「 十 」 が入っている ≫ ものと、

 ≪ 横棒に縦線が 3本記されている ≫ 、彼独特の表記です。

この 二つは、主題とは関係なく、

Chopin が、この曲を演奏する際の、

「 道標 」 として、書き込んだもので、

とても、重要な記号です。

 

 


★その意味を、詳細に読み解きますと、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) が追及した、

≪ 調性とは何か ≫ 、

≪ 調性から導かれるcounterpoint ( 対位法 ) の正体 ≫ が、

自ずと、浮かび上がってくるのです。

 

★≪ 菱形正方形の中に 「 十 」 が入っている記号 ≫ は、

6小節目ソプラノ 1拍目の ais1 と 、10小節目バス 3拍目 dis 、

14小節目バス 4拍目の Ais  音に、付けられています。

Chopin が何故、この音を重要と考えたか、

それを、考察することから、

≪ 調性から導かれるcounterpoint ( 対位法 ) の正体 ≫ が、

分かってきます。

26日の講座で、詳しくご説明いたします。


★その 3ヶ所を、 Bach の自筆譜と照らし合わせますと、

6小節目は、2段目冒頭にレイアウトされ、

10小節目については、小節の途中で段落を変え、

3段目の冒頭に、10小節目3拍目を、配置しています。

そして、4段目は、14小節目3拍目から記譜していますので、

この4拍目 Ais が、段落の初めの、

非常に目立つ位置に、置かれています。


★ Bach の自筆譜を、見ていなかったであろう Chopin が、

Bach の創作意図を、完全に読み切っていた、ということです。

天才の証明でしょう。

 

 


★書くのが遅くなりましたが Berlin ベルリンの、

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生が、

お弟子さんのコンサートのプログラムを送ってくださいました。

Susanne Meves-Rösseler さんが、

私の 「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 を、演奏してくださった音楽会です。


★コンサートのタイトルは、 「 Mit Flöte und Cello um die Welt 」  
 
英語に直訳しますと 「 With Flute and Cello around the World 」 でしょうか。

演奏会場は2ヶ所で、演奏は3回でした。

・ Belle Etage am Lietzensee 1 Setember 2012

・ Orangerie Schloss Glienicke 8/9 September 2012

 

 

 


★プログラムに掲載されています地球儀のイラストを見ますと、

地球の上に、5本の旗が立ち、

Brasilien ブラジル、 New York ニューヨーク、 Sachsen ザクセン、

China チャイナ、 Japan ジャパン と、書かれています。


★ Sachsen ザクセン は、もちろん、 Bach のことですね。

日本代表の旗を掲げていただき、とても嬉しく思いました。

 


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■「 クリスマス・アナリーゼ講座 」そのⅡ、Bachの名曲を、さらに探求する

2012-11-15 21:49:40 | ■私のアナリーゼ講座■
■「 クリスマス・アナリーゼ講座 」そのⅡ■
      ~ Bachの名曲を、さらに探求する ~
                                                2012. 11. 15       中村洋子
 
 
 
 
 

日  時 :  2012年  12月 14日(金)  午前 10時 ~ 12時 30分

会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

( 要予約 )                  Tel.03 - 3409 - 1958

 

 
★前回 11月の 「 クリスマス・アナリーゼ講座 」 では、
 
 Bach の名曲をどのように、ピアノで弾くかについて、
 
お話しました。
 
 
★今回は、その 2回目として、誰もが 「 ああ!   Bach のあの曲 !!! 」
 
とおっしゃるような、以下の曲を取り上げます。
 
 
 
 
 
・眼を覚ませと呼ぶ声が聞こえ Wachet auf, ruft uns die Stimme
  ( カンタータ BWV 645, オルガン-コラール前奏曲 BWV 140 ) 
 
・シチリアーノ Siciliano ( フルートソナタ BWV 1031 )
 
・心から私は望みます Herzlich tut mich verlangen  
( BWV 727 マタイ受難曲でたびたび歌われる最も重要なコラール ) 
 
 
★これらのオルガンやフルート、合唱のための曲を、
 
ピアノでどう弾くか、どのように編曲すると、
 
より Bach の世界に近づくことができるか、分かりやすく解説いたします。
 
 
★レコードが無かった時代に、ヨーロッパでは、
 
交響曲などの大編成の曲は、ピアノ連弾用などに編曲され、
 
家庭で楽しむことが、多かったそうです。
 
 
★最近は、派手に音を加えたり、
 
極端に簡略化しているような編曲も多いようですが、
 
講座では、なるべく Bach の作曲した音のみで、
 
彼の音楽を損なわず、どのように弾いたらよいか、
 
についても、お話します。
 
 
★ “ 厳格に、指定された楽器でしか演奏してはならない ”
 
というのではなく、現代の家庭でも、
 
昔のように、 Bach の名曲の数々を弾き、
 
家族やお友達がみんなで一緒に、楽しむ、
 
そのような音楽の本来の喜び、あり方を、
 
取り戻したいものです。
 
 
 

 ■ 講師 : 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チ ェロ、室内楽など作品多数。

2003年~05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

07年:自作品「無伴奏チェロ組曲第1番」などをチェロの巨匠W.ベッチャー氏が演奏したCD『W.ベッチャー日本を弾く』を発表。

08年:CD「龍笛&ピアノのためのデュオ」、CDソプラノとギターの「星の林に月の船 」を発表。

08 ~ 09年:「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を開催。

0910月:「無伴奏チェロ組曲第2番」が、W.ベッチャー氏により、ドイツ・マンハイムで初演される。

09年: 「  無伴奏チェロ組曲第 1番 」 が、ベルリンの リース&エアラー社   Ries & Erler Berlinから出版される。

10年: CD 『 無伴奏チェロ組曲第3番、2番 』 W.ベッチャー演奏を発表。

「 レーゲンボーゲン・チェロトリオス(虹のチェロ三重奏曲集)」が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社Musikverlag Hauke Hack社から出版される。

101月~126月:「バッハ・平均律クラヴィーア曲集第1巻の全曲アナリーゼ講座」(全24回)を、カワイ表参道で開催。
 
20114月:「10 Duette für 2 Violoncelliチェロ二重奏のための10の曲集」が、「 ドイツRies &Erler Berlin 、リース & エアラー社 」 から出版される。

スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

 

 

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■ 観世寿夫さんの歴史的名演 「 邯鄲 」 が、日本で初公開 ■

2012-11-12 12:01:28 | ■伝統芸術、民俗音楽■

■ 観世寿夫さんの歴史的名演「邯鄲」が、日本で初公開 ■
 ~ お能の新雑誌 ≪ 花もよ ≫ の付録 CDで ~

                2012.11.12 中村洋子

 

 


15日に、KAWAI表参道で開催する 「 クリスマス・アナリーゼ講座 」

の準備で、忙しい毎日です。

http://shop.kawai.co.jp/omotesando/news/pdf/lecture20121115_nakamura.pdf

先月 10月は、28日( 日 )に横浜みなとみらい、

31日(水)は、名古屋でアナリーゼ講座がございましたので、

終わった後の息抜きで、11月 1日( 木 )に、

国立能楽堂へ、「 11月公演 」 を見に参りました。

秋の月が美しい、夕べでした。


★演目は、小舞 「 海道下り 」 山本東次郎 と、

観世流能 「 三井寺 」 でした。


★「 三井寺 」 は、秋の能です。

人さらいに、我が子を奪われた駿河の女が、

京に上がり、清水寺に参詣します。

観世音菩薩から、夢で 「 子供は三井寺 」 と、告げられます。

狂女と化した女は、三井寺へと飛びます。


★三井寺は、「 中秋の名月 」 の観月会。

狂女は、制止を振り切って鐘楼に上り、

取憑いたように、鐘を撞きます。

しんしんと更ける秋の夜。

月明かりに映える狂女の横顔。

寺の稚児となっていた我が子 「 千満丸 」 は、

“ もしや、自分の母ではないか ” と、

問い質します。

正気に戻った母は、再会の喜びにひたり、

手を取り合い、故郷へと戻ります。

 

 


★捜し求めた我が子が亡くなっていた 「 隅田川 」 とは異なり、

このお能は、幸せな結末です。

八人の地謡 ( 浅見真州、藤波重彦・・・ ) と、

笛、小鼓、太鼓が、緊密に絡み、劇的に緊張感を高めます。

地謡が、一糸乱れぬすさまじい迫力で、

女の運命を、突き動かしていきます。


★ことに素晴らしかったのは、アイ/能力の山本則俊さん。

「 海道下り 」 でも、地謡をつとめましたが、

「 三井寺 」 では、名鐘を撞く場面で登場し、

鐘の音を、声で 「 ノオーン、ノオーン 」 と表現します。


この 「 ノオーン 」 の中に、どれだけ豊かなリズムが、

息づいていることか・・・、

痺れるように、感動しました。

なるほど、鐘の霊力とはこのようなものか、と分かります。

これだけの感動は、最近聴いたクラシック音楽で、

果たして、あったかしら? と思います。

 

 


★ロビーで、久しぶりに 「 檜書店 」 の出店に顔を出しました。

懐かしい出店。

お亡くなりになった椙杜茂正さんが、生前、

“ 鴨捕り権兵衛さん ” を、なさっていたところです。

そこで、最近、発刊されました雑誌 

≪ 花もよ ≫ の 4号を、求めました。

≪ 花もよ ≫ は、「 能と狂言総合誌 」 と銘打たれ、

直近の能楽評から、今後の公演予定などが、満載、

今号は、キーン・ドナルド Keene Donald  さんの

 「 大果報者でござる 」 という、

興味深いインタビューも、掲載されています。


★1953年、京都大学に留学して直ぐ、茂山千之丞さんから直接、

狂言を習った、という逸話などが、面白おかしく書かれています。

外国人で、狂言を習った最初の人だそうです。

その後、1960年代には、桜間道雄さんから謡もお習いに。

まさに、「 大果報者 」 ですね。


★キーンさんは、10代からニューヨークのメトロポリタン歌劇場に、

通いつめたオペラファンでもあり、全盛期のマリア・カラス

Maria Callas (1923~1977) も、体験されたそうです。

そのカラスに匹敵するような舞台は、1950年代に活躍された、

先代の喜多六平太さんの 「 鷺 」 だった、そうです。

思い出すだけでも、背中がぞくぞくする、

人間が演じているとは思えないような、名演だったそうです。

 


★この雑誌 ≪ 花もよ ≫ の、最大の特徴は、付録の CDです。

今回は、驚くべきことに、観世寿夫さんの 「 邯鄲 」 が、

入っていました。

1959年、アメリカでのみ発売され、日本では未発表だった

LPレコードを、CD化したものです。

シテ:観世寿夫、 ワキ:宝生弥一、 アイ:野村万作、

地頭:観世静夫(八世銕之丞静雪)、 笛:寺井政数、

小鼓:三須錦吾(幸正影)、 太鼓:安福春雄、

太鼓:観世元信 という、

空前絶後の、大マエストロたちによる饗宴です。


★帰宅後、すぐに聴き、また感動。

歴史的な名演です。

「 ノオーン、ノオーン 」 と同じリズム、

心地よいリズムが、52分間のCDに、満ち満ちていました。

 

 


最近、日本でのクラシック音楽の演奏会に、

あまり足が向かなくなったのは、

観世寿夫さんや山本則俊さん、フルトヴェングラー 

Wilhelm Furtwängler (1886~1954) の、

湧き上がる ≪ リズム ≫ が、

感じられないからです。

 

★それが、どこからくるのか、

そこを、考えているところです。


★≪ 花もよ ≫ は、隔月刊で、定価750円。

購読は、檜書店まで。

電話:03-3291-2488、 FAX : 03-3295-3554

http://www.hinoki-shoten.co.jp/

 


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■名古屋 「 亀末廣 」 が突然閉店、なんと悲しいことでしょう■

2012-11-05 23:55:05 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■

■名古屋 「 亀末廣 」 が突然閉店、なんと悲しいことでしょう■
                       2012.11.5  中村洋子

 

                        ( 亀末廣・茶三昧 )

★ことしは、夏から一気に初冬へと、滑り落ちたような気がします。

スリーブを風になびかせ、軽やかに心地よく歩く秋が、

とても短かかったように、感じます。

それでも、先週は橙色に輝く、大きな大きな満月を、

輪郭から溢れ出るような 「 秋の名月 」 を、楽しみました。


★10月 31日は、名古屋でのアナリーゼ講座でした。

名古屋へ行きますのは、講座以外に、

実は、密かな楽しみがあるからなのです。


★お笑い芸人によって、テレビなどで、

面白おかしく、誇張して語られる 「 名古屋弁 」 は、

本当の名古屋弁ではない、ようです。

旧城下町の老舗には、上品な、言葉遣いが、

まだまだ、残っているのです。

 

                                       ( 亀末廣・寒具 )


★私は、大の和菓子党なのです。

名古屋に行く度、中区錦にある 「 亀末廣 」 さんを訪ね、

存在感溢れるお干菓子や、生菓子を眺め、

その歴史の厚みが伝わる美しさに、感嘆の声を上げながら、

お店の奥様やご主人と、取りとめのないお話をするのが、

とっても、楽しみでした。

 
★そして、私用には “ これ ” 、あの人のためには “ これ ” 、

お世話になった方には “ あれ ” と、少しずつ、

美しく包装して頂きます。

それを初めてお召し上がりになる方の、喜び、感動されるお顔を、

想像しては、いつも、微笑んでいました。


★そんな思いで、KAWAI での講座を終え、いそいそと、

「 亀末廣 」 さんまで、たどり着きました。

硝子戸の貼紙を見て、衝撃をうけました。

 

                                                       ( 亀末廣・雛祭りのお菓子 )


★≪お客様各位  
お知らせ
日頃は格別のお引き立てを賜り厚くお礼申し上げます。
さて、突然ですが、
明治 29年 京都亀末廣より名古屋分家として独立以来
約 115年余にわたり、ひとかたならぬご愛顧を戴いて
まいりましたが、
この度、諸般の事情により本年 7月 31日(火)をもって
閉店し、京都本店に暖簾と看板をお返しすることに致しました。
お客様ならびに関係各位には大変ご迷惑をおかけすることを
謹んでお詫び申し上げますとともに、
これまでのご愛顧に対し、心より、お礼申し上げます。
           平成 24年 7月  
              名古屋亀末廣  敬白  ≫


★このお店は、ビルに挟まれ、外見は質素、

「 亀末廣 」 という、雄渾な字体の看板を見落としますと、

行き過ぎてしまうような店構えです。

しかし、一歩、足をお店に踏み入れますと、

見えない魂柱が屹立しているような、厳しさが伝わってきます。

最高の味を、粋を、知り尽くした茶人との、

“  真剣勝負の空間  ” だったのです。

  

 

 


★お味の素晴らしさについて、ここで書くのは、

野暮かもしれません。

しかし、かつて仄聞しました話を一つ、

不正確なところがあるかもしれませんが、

思い出しながら、記します。

 


★「 亀末廣 」 の、最も有名なお茶菓子が、「 茶三昧 」 です。

硬く固めた漉餡を、黍粉の焼物で上下に挟んだお菓子です。

軽く羽のような舌触りの焼物、餡はどっしりとした重い歯応え、

腐葉土色の餡を、淡い土色の衣で包みます。

変容する大地の色合いです。

まさに、名品です。


~四十年前のことだそうです。

「 黍の味が変わった 」 という、苦情が、

ご贔屓の方々から、寄せられたそうです。

「 黍に漂っていた仄かな苦味が消え、

味が、単調になった 」 。


★お店は、徹底的にお調べになったそうです。

直ぐに、その理由が判明しました。

それまでは、杵を使って、黍を手で搗いていたそうですが、

それを、機械搗きに変えた直後から、味に変化が・・・。

しかし、何故 「 仄かな苦味が消えた 」 のか。


★もう一度、杵で搗きましたところ、同じ苦味が蘇りました。

変わったのは、杵を使わなくなったことしかありません。

「 杵で搗くことにより、杵の木の成分が、ごくごく微量ながら、

黍に混じり、それが苦味という絶妙な風味を醸しだす 」 、

という結論に。

それ以来、手による杵搗きに、戻されたそうです。

 

★目で色彩を、舌で感触の変化を、

そして最後に、味わいを心ゆくまで楽しむ。

どこまでも奥ゆかしい甘み。

これが 「 雅 」 です。

伝統の味は、一朝一夕には出来ないようです。

 

                                                              

 ★このお話一つからでも、「 亀末廣 」 というお店と、

それを支え続けてきた茶人たちの、洗練度が分かります。

日本の伝統文化の粋とも、言えるでしょう。


★最近は、有名なお店でも、和菓子、洋菓子に限らず、

トレハロースなど食品添加物、保存料、旨み調味料などを、

平然と、混入しています。

添加物まみれ、と言っていいほどです。


★私は、過敏症気味ですので、そうした食品を摂取いたしますと、

半日は、体調が不良になってしまいます。

本物の嗜好品を、求めることが、

ますます、困難な時代になりつつあります。

「 苦味 」 が、美味の必須要素であることすら、

知らない方が、増えているかもしれません。


★京都 「 亀末廣  」 のお干菓子も、何度か味わいましたが、

私には、名古屋 「 亀末廣 」 のほうが、より洗練され、

妥協のない、凛とした味のように思われます。


★「 亀末廣 」 さんの閉店は、突然の訃報にも似ています。

私はこれまで、当たり前のように、 “ 綺麗、美味しい ” と、

無邪気に、味わってきましたが、

その最高の水準を維持されてきた陰には、さぞかし、

窺い知れないようなご努力、ご苦労が山のように、

おありになったことでしょう。

 

★「 暖簾と看板を返却 」 しての、突然の閉店は、

寸毫たりとも、質を落としたくない、

という 「 矜持 」 の、表れなのでしょう。

見事な、散り方です。

本当に、ご苦労さまでした。

掛け替えのない文化が消滅し、寂しく、

悲しい思いで、一杯です。

 

 

                                   ( 亀末廣・茶三昧 )


        ※copyright Yoko Nakamura  All Rights Reserved
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■Chopinが見た 「平均律アナリーゼ講座第 8回」 のご案内 11月26日(月 )

2012-11-02 17:32:19 | ■私のアナリーゼ講座■

第 8ショパンが見た「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」 

                    平均律第 1巻 第 8番 前奏曲 変ホ短調& フーガ 嬰ニ短調

 ~前奏曲 8番アルペッジョと、ゴルトベルク変奏曲のテーマとの関連~

                                                                 2012. 11. 2              中村 洋子

 

1巻 全 24曲 のちょうど 3分の 18番に、到達しました。

≪前奏曲が変ホ短調 es-Moll ≫ 、 

≪フーガが嬰ニ短調 dis-Moll ≫ という、

革命的な異名同音調です。

ここに、壮年期 Bach の気迫に満ちた意気込み

伝わってきます。

 

前奏曲のアルペッジョが、

後年のクラヴィーア・ユーブンク 第 4巻 

ゴルトベルク変奏曲  174142年に出版 )  へと、

どのように繋がって行くのか、詳しくご説明いたします。

 

前奏曲の三拍子は、

マタイ受難曲  ( 1727 or  1729年に初演 )  の 

Aus Liebe アウス・リーベ と、深く呼応しています。

 

フーガの主題と応答の関係、すなわち、

Real Answer 真正答唱 と、

Tonal Answer 調的答唱 についても、

分かりやすく、ご説明いたします。

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------

日時 : 2012年 11月 26 (  ) 午前10:00 ~ 12:30

 会場 : カワイミュージックスクール みなとみらい

       横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F

                          ( みなとみらい駅『出口1番』出て、目の前の高層ビル3F )

                         ( 要予約 )  Tel 045- 261- 7232 横浜事務所

                     Tel 045- 227- 1051 みなとみらい直通

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー講師 : 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チ ェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

07年:自作品「無伴奏チェロ組曲第 1番」などをチェロの巨匠W.ベッチャー氏が演奏したCD『 W.ベッチャー日本を弾く』を発表。

08年: CD「龍笛&ピアノのためのデュオ」、CD ソプラノとギターの「星の林に月の船 」を発表。

08 ~ 09年:「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を開催。

0910月:「無伴奏チェロ組曲第 2番」が、W.ベッチャー氏により、ドイツ・マンハイムで初演される。

09年:「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 が、ベルリンの リース&エアラー社 Ries &Erler Berlin から出版される。

10年: CD 『 無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』  W.ベッチャー演奏を発表。

「 レーゲンボーゲン・チェロトリオス(虹のチェロ三重奏曲集)」が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社Musikverlag Hauke Hack社から出版される。

101月~126月:「バッハ・平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリーゼ講座 」 (全24回) を、カワイ表参道で開催。
 
2011 4月:「 10 Duette für 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」が ドイツ Ries &Erler Berlin 、リース & エアラー社 」 から出版される。

スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

 

 

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