■「月刊ショパン」2月号に、Bachなどの自筆譜について寄稿■
~Mozart を学ぶことはBachを学ぶこと、
幻想曲とソナタ K475、K457は、対位法の宝庫と精華~
2019.1.16 中村洋子
(川に流れる大根葉)
★≪易水に根深流るる寒さ哉≫ 与謝蕪村(1716-1784)
易水は中国の河、「風蕭蕭として易水寒し。壮士ひとたび去って
復(ま)た還(かえ)らず」。
史記「刺客列伝」が下敷きになっているようですが、
これは、日本の冬景。
★冷たく流れる小さな川に、根深(葱)が流れていく、という
もの寂しい風景。
寒さが伝わり、身に沁みます。
決して富貴な暮らしの活写でなく、貧しい庶民の生活風景。
そこはかとない暖かさと、おかしさを感じさせてくれる
蕪村ならではです。
★明17日(木)は、冬の「土曜入り」です。
立春まであと18日です。
土用とは、「立春、立夏、立秋、立冬」の前の18日間を指します。
次の季節へ移る前の準備時期、季節の変わり目で、
四季に合わせて4回あります。
20日(日)は、大寒、寒さも底です。
★雑誌「月刊ショパン」2月号に、私の原稿が掲載されます。
タイトルは≪大作曲家の自筆譜から見えるもの≫
副題:《大作曲家の自筆譜を勉強すれば、
その曲の構造、演奏法まで分かります。
実用譜から抜け落ちた作曲家の意図、息遣いまで描かれた、
大作曲家の自筆譜に迫ります》
★内容は、Bachの Invention、ゴルトベルク変奏曲の第25変奏、
平均律1巻第3番Cis-Dur、Chopinの前奏曲集第15番Des-Dur
(ニックネーム、雨だれ)についてです。
★1月18日発売、48~51ページに掲載されています、どうぞお読み下さい。http://www.chopin.co.jp/month.html
★フランスの出版社「フュゾー Fuzeau」の「ファクシミリ叢書」に、
絶版となる楽譜が大量にあることを、
アカデミアミュージック様から教えて頂き、
慌てて、何冊か求めました。
★なかでも、入手出来てつくづくよかった、と思いましたのは、
Mozart の「Fantasie et Sonate Pour le Forte-Piano
幻想曲とソナタ K475、K457」の
初版譜です。
★Fantasie et Sonate Pour le Forte-Pianoは、1785年に、
ヴィーンの Artaria社から出版されました。
自筆譜は失われていますので、この初版譜で勉強すればするだけ、
この初版譜の貴重さが、身に沁みて分かります。
★Bach「ゴルトベルク変奏曲」の初版譜の勉強(これも自筆譜は不明)
と同じことが言えましょう。
★Fantasie K475の初版譜を、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー
(1886-1960)校訂版を道標に、読み解いていきますと、
この曲が、「Counterpoint 対位法 」の宝庫と精華であることに、
驚かされます。
★Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)のパトロンであった
Karl Lichnowsky カール・リヒノフスキー侯爵(1761-1814)の弟である
Moritz Lichnowsky モーリッツ・リヒノフスキーは、
Bach作品の筆写譜を数多く持ち、
コレクションとしていました(1784年頃)が、
Mozart はそれを見て、勉強しています。
★Mozartが、「Fantasie K475」を作曲した原動力は、
この筆写譜の勉強が基になっていることは、間違いないでしょう。
これにつきましては、機会がございましたら詳しく説明いたします。
★Mozart の「Fantasie et Sonate Pour le Forte-Piano
K475、K457」に、話を戻しますが、
横長の楽譜にFantasie(Phantasia KV475)は、2~9ページに、
Sonata KV457 は、10~23ページに収録されています。
1ページ目は、表紙です。
★Fantasie(Phantasia KV475)は、≪Adagio-Allegro-Andantino-
Più Allegro-Tempo primo≫と、変遷していきますが、
冒頭ページ(2ページ)は、Adagio の1小節目から22小節目が、
1ページ5段のレイアウトで、書かれています。
1段目冒頭は、もちろん第1小節目
2段目冒頭は、6小節目です。
★2段目は、5小節目から始めたほうが、几帳面で整ったように
みえますが、何故、6小節目から始めたのでしょうか。
★1段目バスの、各小節冒頭音をつないでいきますと、
見事な、下行半音階が現れます。
★それに対し、2段目6小節に配置されている6~9小節目までの
4小節間の bass バス は、「As-As-A-B」の上行半音階。
それでは3段目に書かれている10~16小節目2拍目までは、
どんな意味をもっているのでしょう(4段目は、16小節目3拍目から記譜)。
★3段目バスは、「H-Ais-A-As-G-Ges-Fis」と、下行半音階。
「Ges」と「Fis」は、異名同音です。
10小節目は、1小節目の「c-Moll」に対し、「H-Dur」から始まっています。
しかし、この下声の冒頭三つの音「H-dis-fis」を、
異名同音で書き直しますと、
「Ces-es-fis」の「es-fis」は、1小節目「c¹-es¹-fis¹」と共通です。
そして、この重要な motif モティーフ「H-dis-fis」は、このページの
最後の小節、即ち、5段目右端の22小節目下声に、
見事な「h-Moll」となって、展開されています。
★このページのレイアウトが、そのまま1~22小節の≪アナリーゼ≫に
なっているのです。
何とも、見事な楽譜です。
これにFischerの Fingering を解読しながら、楽譜を読み込んでいきますと、
Bachの「Counterpoint 対位法」 が、厳かにその真髄を現してきます。
★ Mozart を学ぶことは、Bachを学ぶことです。
★楽譜収集は、なかなかに費用がかさみますが、
≪Bachは「給料と副収入で楽に大家族を養い、貯金する余裕もあったが、
敢えてそうはしなかった。その代わりに、楽譜や楽器を買い、さらに、
野心作を演奏するための資金にしていたに違いない」≫
(ヨハンセバスティアン・バッハ クリストフ・ヴォルフ著)
(日本一美味しいパン屋さん)
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲