音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ 絶対音感について ■■ 大ピアニストの音感は・・・

2007-12-24 15:57:52 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2006/12/8(金)

★<絶対音感>なるものについての認識を深めるために、

次の書物が参考になります。

「ピアノの巨匠たちとともに」=ある調律師の回想=

フランツ・モア著(音楽の友社)。

モアは、ホロビッツやルービンシュタイン、グールドなど大ピアニストのために、

ニューヨーク・スタインウェイを調律した方です。

ホロビッツについて、次のような興味深い逸話が、書かれています。

「ホロビッツは、【パーフェクト・ピッチ】をもっている、と宣言していました」

【パーフェクト・ピッチ】に関して、

モアは、本文で以下のように説明しています。

(「何の計測手段がなくても、それは、1秒間に

442サイクルで振動している真ん中のAだ」とか、

「438で振動している」などと断言できる音感をさします。

しかし、実際には、誰も、音叉との照合なしには、それは不可能である。)


★そのホロビッツですが、

ときおり「フランツ、このピアノは高すぎる」と言ったり、

時には「低すぎる」と調律に注文をつけます。

しかし、モアはいつも、ホロビッツの要求どおり440に調律していたため、

「多分、お天気のせいですよ」などと言って、決して取り合いませんでした。

そういう“注文”が多いため、「私の調律のピッチを確かめてください」と、

音叉をホロビッツに渡しました。

しかし、ホロビッツは、決して音叉を使おうとはしなかった、そうです。


★1987年5月24日、アムステルダムでコンセルトヘボウと共演した際の出来事。

リハーサルに現れたホロビッツは、

ピアノに触れる前、取り巻きの人々に向かって、言いました。

「ホテルの部屋に、素晴らしいピアノが用意されていた。

ドイツ製のスタインウェイだ。

NYのものと大差があることが分かった。どうして、そんなに素晴らしいか?。

それは、435に調律してあるからさ!」

モアは「そんなことは不可能、反対にヨーロッパは、

いつもアメリカより高く調律されている。

しかし、私は、口を開かなかった」と書いています。

スタインウェイのインターナショナル・ディレクターが、

「マエストロ、それは逆です」と、説明しかかりました。

その途端、癇癪をおこしたホロビッツは「ニューヨークに帰れ!。

あんたはピアノもピッチも全然分かってない。

車でも売ったほうがいい・・・中古車をだ!」。


★リハーサルを始めたホロビッツは、

ステージのピアノの調律に大満足して、3時間ほども弾き続けました。

そのようなことは、稀でした。

ちなみに、このピアノは、

ニューヨークから運んだ愛用のお気に入りピアノでした。


★モアは著作で、【レラティブ・ピッチ】という語も使っています。

「ある音を聴いたとき、それはD、それはAだ、と断定できる音感」としています。

日本で使われる<絶対音感>という語が示す意味に近いかもしれません。


★余談ながら、この本では、ルービンシュタインについて、

暖かい愛情あふれる記述が随所にみられます。

ルービンシュタインは、演奏旅行に特定のピアノを持ち運ばず、

地元のピアノと調律師を使いました。

大都市での演奏会は、NY・スタインウェイを運び、モアが同行しました。

「椅子の背もたれに深くよりかかって、

彼が造る音楽を心から楽しむことができた」

「ホロビッツと一緒にいるときは、

絶対にルービンシュタインの名を口にするな」と注意されていました。

ルービンシュタインは「豊かな深みのある重厚な音を好み、

打鍵したとき、鍵盤の底に抵抗を感じる」のを好みました。

ピアノの選択でも、気に入れば、最初の一台で決め、他は弾きませんでした。

その理由を「私は、ある一つの楽器と私との間に特殊な結びつきがあるか、

すぐ分かる。

楽器と私は一つにならなければならない。

その上で、自分を表現し、自分を完全に開放しなければならない。

そのようにして、私は音造りに没頭する。

そういう結びつきが感じられないときだけ、他のピアノを試してみる」


★「人は、アルトゥール・ルービンシュタインを心から愛する。

それは、彼が人を大事にするからだ」

「彼はどんなに急いでいても人と話す時間をつくり、

誠意をもって人々と話をした」

「ホロビッツは、ちょっとピアノの位置が狂っていても癇癪を起こした」

のに対し、

「彼とはとても仕事がしやすかった。たとえ些細なことでも、

他人がしてくれることにいつも、深い感謝の念を表した」

親族のほとんどをホロコーストで失うという、

筆舌に尽くせない辛酸を舐めた人であるが故だからなのでしょうか。


★G・グールドについても、「月に一度、トロントへ、ピアノの調律だけでなく、

調整と整音に行っていた」

「彼は極端に浅いタッチを要求した。それはすでに危険な領域に入っているのだ。

特に、湿度と温度が変わると非常に危険だ。

その危険とは、突然、アクションが作動しなくなることがあるのだ」


■ルービンシュタインについては、

このブログの「アナリーゼ(楽曲分析)講座」の

<ロジェ先生のお話の続き>(10月24日)でも、書いてあります。



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