音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■賢治:言葉の宝石、Bach:和声の宝石、「第2回平均律アナリーゼ講座」は3月24日■

2018-01-24 12:29:05 | ■私のアナリーゼ講座■

■賢治:言葉の宝石、Bach:和声の宝石、
          「第2回平均律アナリーゼ講座」は3月24日■

       2018.1.24 中村洋子  Yoko Nakamura

 

 


★この1月は、日本全国が記録的な大雪になっております。

≪笄は白骨作り雪女≫ 鈴木真砂女

「笄(こうがい)」は、江戸時代に女性が髷(まげ)に挿した

長い飾りのことです。

吉原の花魁が挿している金や銀、水晶や瑪瑙、鼈甲の「笄」を、

雪女は、白骨で作っている


★恐ろしいと同時に、どこかユーモラスで、

そこはかとない艶っぽさもあります。

雪女も、お洒落がしたい、しかし、その材料が・・・

ゴッホも、遊女の髪飾りには、興味津々だったようですね。

 

 

★雪が降りますと、思い出すのは、宮沢賢治の、

「水仙月の四日」という童話です
              (ちくま文庫 宮沢賢治全集8)。


★「水仙月」が何月か、について

賢治は、明らかにしていません。

1月なのでしょうか、2月でしょうか。

家への帰りを急ぐ一人の子供、

赤い毛布(ケット)にくるまった子供が、吹雪に遭います。


★雪婆んご(ゆきばんご)、雪童子(ゆきわらし)、雪狼(ゆきおいの)。

この妖怪たちが、雪の世界を支配しています。

雪婆んごは、「猫のような耳をもち、ぼやぼやつめたい白髪は、

雪と風とのなかで渦になります」。


★雪婆んごの子分が雪童子、雪童子の従僕が雪狼。

雪狼は、「べろべろまっ赤な舌を吐きながら、

一ぺん風に狂い出すと、大地のはづれの雪の上から、

すぐぼやぼやの雪雲をふんで、空をかけまはりもします」。


★雪婆んごは、雪童子に、

「おや、をかしな子がゐるね。さうさう、こっちへとっておしまひ」と、

"命を奪っておしまい"という命令を下します。

しかし、雪童子は命にそむき、行き倒れた子供に、

わざと大量の雪を吹きつけ、雪に埋め、

その上に、赤い毛布を掛けます。

気を失った子供は、雪のあたたかい毛布に守られ、

翌朝お父さんが来ると、目を覚ますことができるのです。

 


★このお話の眼目は、何でしょうか?

雪童子がなぜ、子供を救おうとしたのでしょうか。

これは、雪婆んごを長とする3人の雪童子、

9疋の雪狼という縦組織の中で、組織の長の命令に、

面従腹背して「子供の命を救う」という、善なる行動をとる。

賢治は、童話の形式でそれを書いたとも言えます。


★その子供を救おうと雪童子が思ったのは、

雪童子が子供に投げ与えた「やどりぎ(宿木)」の毬(まり)を、

子供が手に持って、一生懸命歩いていたからです。

子供は気がつきませんが、雪童子と子供には、

心の交流が芽生えていたのです。


★冬枯れた樹木の幹に宿り、唯一青々と、

葉を繁らせている小さな"毬"が、宿木です。

生命、希望の象徴です。


★≪「あのこどもは、ぼくのやった やどりぎ をもっていた」

雪童子はつぶやいて、ちょっと泣くようにしました≫

この文章が、この短い童話の前半のクライマックス。

そして、かんじきを履き、毛皮を着たお父さんが、

一生懸命に走ってくるのが、後半のクライマックスでしょう。


★粗筋は、以上のようですが、賢治の文章には、

"言葉の宝石"が散りばめられています。

 

 


★先週の1月20日に「アナリーゼ講座」で、お話いたしましたように、

平均律第1巻「1番プレリュード&フーガ」の和声は、

≪音の宝石≫と言えましょう。

1番のみならず、全24曲が"宝石箱"です。

その宝石の真価を楽しむのには、

Bachの意図に沿った勉強法が必要でしょう。


★平均律1番の"粗筋"が、どのように構想され、作曲されたかを、

この講座のために作成した16ページにわたる詳細な資料を基に、

4時間かけて、お話いたしました。


★この講座への皆さまのお申込みが、とても多く、

キャンセル待ちでも、ご受講できませんでした皆さまには、

心苦しく思っております。

心よりお詫び申し上げます。


★さて、次回の「第2回平均律アナリーゼ講座」は、
                                                           3月24日です。

 

 

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■「第2回平均律アナリーゼ講座」
https://www.academia-music.com/new/2018-01-22-110738.html

・2番 c-Moll プレリュードは、1番 C-Dur プレリュード&フーガの発展形
・2番 c-Moll フーガは、インヴェンションと平均律1巻の"掛け橋"
              
■日時:2018年3月24日 (土) 14:00~18:00
■会場: エッサム本社ビル  4階 こだまホール
                東京都千代田区神田須田町1-26-3

■第2回のお申込みは、1月26日10:10より受付いたします。
    お申込み・お問い合わせは、アカデミアミュージック企画部
      :03-3813-6757、kikaku@academia-music.com
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1番 C-Dur フーガは、眩しく目がくらむ程の光の世界でした。
その最終小節は、息詰まる緊迫感で、C-Dur上行音階をかけ上ります。
一転して、 2番c-Moll プレリュードは、悲哀に駆り立てられ、
疾走している
かのようです。この曲だけを単独で見ましても、
素晴らしい完成度です。

 しかし、私の著作≪ベーレンライター平均律第1巻楽譜・添付解説書≫の【注31】で
ご説明しましたように、この2番プレリュードは、1番フーガから発展
したもので、
相互が蔦のようにがっちりと絡み合っています。平均律1巻の
24曲を、巨大な1曲とする
構想の一環なのです。その観点から2番を勉強しますと、
どう弾くべきか、
どう解釈すべきかが、自然に分かってくるでしょう。

2番フーガは、軽やかな舞曲を連想させます。その主題は、インヴェンション15番 h-Moll の
主題冒頭2拍分と、全く同一のモティーフです。
これは単なる偶然ではありません。
2番フーガとインヴェンション15番 とを対比させることで、バッハの作曲意図を明らかにします。

「インヴェンション&シンフォニア」と「「平均律第1巻」を、バッハがどのようなサークル
(円環)の中で構想し、作曲したかを分かりやすくお話いたします。

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・プレリュード
全38小節のプレリュードは、28小節目にpresto、34小節目にadagio、
35小節目
にallegroと、平均律1巻の中では異例のtempo記入が3個所もなされています。
2番プレリュードは、1番プレリュードの意表を突いた「変奏」と見ることも可能です。
冒頭から24小節まで続く16分音符音型の解釈の仕方により、演奏が金色にも銀色にも輝きます。

・フーガ
バッハの自筆譜では、左頁1段目から主題が「一声」で始まります。「二声」になるのは、
やっと3小節目からです。全く同じその主題を、右頁1段目では二つの対主題
を伴って「三声」で
展開します。"ここをよく勉強しなさい"という、バッハ先生の声が
聞こえてきそうです。
このフーガの眼目は、「3度音程」の集合体である「音階」にある
といえそうです。

 

 


■講師: 作曲家  中村 洋子
                           東京芸術大学作曲科卒。

・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
 「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
  自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
  10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

  「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
  「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
     チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
     ドルトムントのハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
       から出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
              (disk UNION : GDRL 1001/1002)
                      「レコード芸術特選盤」

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
    ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
            演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
 バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
 「訳者による注釈」を担当。

    CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
     (アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)

・2017年「チェロ四重奏のための10のファンタジー(第2巻、6~10番)」を、
  ドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
  から出版。

・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
   平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の
     ≪「前書き」日本語訳≫
     ≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
     ≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
     ≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、
                          詳細な解釈と解説≫を担当。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★次の3月講座では、「1番C-Dur」 でお話しました

"プレリュードは counterpoint 対位法、フーガは和声"

の意味を、さらに深めて参ります。

 

 

  ※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■お正月、放哉と青空、Bachカンタータと四声体コラール、ジョン・ケージ■

2018-01-07 13:29:39 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■お正月、放哉と青空、Bachカンタータと四声体コラール、ジョン・ケージ■
 
                  2018.1.7      中村洋子

 

 

★穏やかな「2018年」の年明けでした。

≪針の穴の青空に糸を通す≫ 尾崎放哉

私の好きな放哉の句です。

季語の無い自由律俳句ですから、季節は分かりません。


★放哉の句によく見かけられる「空」は、哲学的な意味を

含んだ語かもしれません。

しかし、私は、この小さな針穴から、広大無辺な青空に一本の

細い意図を通すという行為、

心が開放され、かつ収斂する様は、

新年にこそ相応しいという、気持ちがします。

 

 


★かつて、新春は「フーテンの寅さん」の新作映画が、

毎年、封切られていました。

美しい女性にまたもや失恋し、淋しい旅の空の寅さん。

故郷の葛飾柴又では、妹のサクラの手に、寅さんからの葉書。

寅さんの懐かしい声が、ナレーションで流れてきます。

柴又の江戸川河川敷では、無心に凧揚げに興じる子供たち。

正月休みでスモッグも無い、青く澄んだ冬の、東京の空です。


★今年も広大無辺な音楽の青空に、妥協することなく、

極小の針穴に、糸を通す努力、営為を続けていきたいと、

願っております。


★お正月休みにいただいたお便りです。

私のCD「無伴奏チェロ組曲3、2番」(Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー演奏)に、収録されています、

小品二曲のご感想が書かれていました。



『冬の庭』は、誰も足を踏み入れていない静謐な、
白一面の庭を想起させてくれます。
冷えた地ではあるけれど、その奥底には確かなエネルギーが
息づいているようでもあり…。

 『夜色楼台図』は、ベッチャー先生のうなりが
所々入っているのもあり、峻厳さや孤高といったものを
より強く感じます。
鳥となった蕪村が漆黒の雪雲を、
その小さな身体で懸命にまとっている、
そんな画も浮かんできます。


★このように深く聴き込んで頂き、感謝しております。

なお、このCDは、アカデミアミュージック

銀座・山野楽器銀座本店で、お求め頂けます。


★私の年末年始は、いつもの日常と変わらず、

淡々と仕事を続けていました。

その間、一曲仕上げることができました。

 


★ここ数日は、Nikolaus Harnoncourt
              ニコラウス・アーノンクール(1929-2016)指揮の、

Bach「J.S.Bach: Great Cantatas 」という、
https://wmg.jp/artist/harnoncourt/PKG0000018970.html

カンタータをたくさん集録したCDを、毎日、聴いていました。

大変に納得のいく、優れた演奏と思います。


★このカンタータボックスは、7枚組ですが、

1枚目に、教会カンタータ「Es erhub sich ein Streit BWV19

戦いが起きた(教会暦 聖ミカエル祭 1726年9月29日初演)」

が、集録されてます。


★≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫の初演が1727年。

その一年前の曲です。

このカンタータの最後の曲である「コラール」を、聴いてみてください。

1~5小節目の合唱部分は、こうです。

 

 


★これを大譜表に書き直しますと、こうなります。

 

 

★続く6~9小節目も、大譜表では、こうです。

 

  

★10小節目以降もソプラノだけ書き写しますと、

 

Bachが、異なった四声体和声をつけた「コラール」は、

Bachの没後、息子の「C.P.E Bach」と、「Johann Philipp Kirnberger

ヨハン・フィリップ・キルンベルガー(1721-1783)によって編纂された

≪371 vierstimmige Choräle für ein Tasteninstrument
                                                    (Orgel,  Klavier, Cembalo) 
  371 Four-Part Chorales for one Keyboard Instrument
                                                   (Organ, Piano, Harpsichord)
 鍵盤楽器(オルガン、クラヴィーア、チェンバロ)のための
                    371の四声体コラール≫

https://www.academia-music.com/shopdetail/000000052660/

にも、掲載されています。

 

 

 この371曲の「四声体和声」を弾き、学ぶことは、

Bachの和声を身につけるために、とても役立ちます。

お薦めいたします。

 

 


Robert Schumann ロベルト・シューマン(1810-1856)も、

子供たちに、幼い頃から「四声体和声」を身につけて欲しいと、

願っていました。

 

 

★「Album für die Jugend Op.68 ユーゲントアルバム」の

第4番が、実は、このコラールです。


★この「Album für die Jugend ユーゲントアルバム」につきましては、

現在、大変幸せなことに

①初稿 Klavierbüchlein für Marie
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030094/

②自筆譜浄書譜
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030258/

③初版譜ファクシミリ
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000031072/

④大作曲家Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
                            の校訂版
https://www.academia-music.com/html/page1.html?q=%EF%BC%A6%EF%BD%81%EF%BD%95%EF%BD%92%EF%BD%85%E3%80%80%EF%BC%B3%EF%BD%83%EF%BD%88%EF%BD%95%EF%BD%8D%EF%BD%81%EF%BD%8E%EF%BD%8E&sort=number3,number4,number5&searchbox=1&o=0

の4種類が、易々と入手可能です。


★これ以上は、もう必要ないのではないか、と思うくらい、

この「ユーゲントアルバム」については、

私たちは恵まれた状況にあります。


フォーレの校訂版は、読み込み方を理解しますと、

曲の構造と演奏法が、しっかりと身につきます。

 

 

それにつきましては、また、稿を改めてお話いたします。

 

 


1月20日(土)に、「平均律第1巻第1番」アナリーゼ講座
https://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html

開催いたします。

今回は、休憩を含めて4時間の講座ですので、

じっくりお話が出来ると思います。


Bachにとって、「Prelude」 とはなんであったのか?

それを、「無伴奏チェロ組曲」の「Prelude」 と、

「平均律第1巻 C-Dur Prelude」との対比から、

解き起こします。


★その影響は、アメリカの作曲家 John Cage

ジョン・ケージ(1912-1992)にまで、深く浸透していることも、

ご説明する予定です。


ケージは、Arnold Schönberg アルノルト・シェーンベルク

(1874-1951)の下で、20代に、

Bachの 「counterpoint 対位法」を、学んでいるからこそ

大きな革新を打ち出せた、ともいえます。

シェーンベルクの「12音技法」とは、

バッハの対位法を、拡大発展させた作曲技法です。


★そのケージの作品を、形だけ真似しましても、

フワフワとマシュマロのような「現代」音楽しかできないでしょう。

実体がないのです。


★それを理解しますと、Bachを弾くこと、学ぶことが

更に楽しくなります。


Cello チェロのマエストロ、Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、新年のお便りを頂きました。

「Enjoy life and music !」と、先生はおっしゃっています。

「life」を、どう訳しましょう。

「人生と音楽を楽しんでください」でしょうか。

この言葉を、皆さまへの新年のご挨拶といたします。

「Enjoy life and music !」

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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