■ 中村富十郎さんのご冥福をお祈りいたします ■
2011 .1.11 中村洋子
★遅くなりましたが、明けまして、おめでとうございます。
冬空に、蝋梅が、芳しい香りを漂わせています。
ことし一年、どうか明るく、平穏な年でありますように。
★年末、年始は、ベッチャー先生に演奏していただきます、
「 無伴奏チェロ組曲 4番 」 と 「 5番 」 の作曲に、
没頭でした。
新年に、先生から頂きましたお手紙によりますと、
ベルリンは、最高気温が 0度、最低がマイナス 15度だそうです。
温暖な日本と異なり、大地は凍てつき、
花も草もない、厳しいドイツの冬。
生きる喜びが湧き上がってくるような、真の音楽が、
生活の中に、なくてはならないのでしょう。
先生は、イスタンブールでの、ブラームスの二重協奏曲、
ハンブルクでの、ドイツ人作曲家のアリベルト・ライマン、
Aribert Reimann ( 1936年~ ) の演奏会を控え、
お忙しいそうです。
★また、3月31日には、ドイツの 「 フランケンタール 」で、
お姉さまのピアニスト、ウルズラ・トレーデ=ベッチャー
Ursula Trede-Boettcherさんと、
私の、チェロとピアノのための二重奏曲、
「 Einleitung, Thema und Variationen ueber
ein Japanisches " Erntelied " 」
「 日本の収穫の歌による、序奏とテーマ、変奏 」を、
弾いてくださるそうです。
この曲については、
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20100620
をご覧ください。
★音楽が、生活に欠かせない国の作曲家 「 J. S. バッハ 」 の、
「 インヴェンション 1番・アナリーゼ講座 」 の、
追加講座を、昨日、「 横浜みなとみらい 」 で、
開催しました。
愛知、山梨、群馬、長野など、遠くからも、
わざわざ、たくさんの方が、駆けつけてくださいました。
心から、お礼申し上げます。
★「 インヴェンション 1番 」 は、バッハが精魂込めて、
作曲した、見かけの可愛らしさとは裏腹に、とても、
“ 恐ろしい曲 ” であり、 ≪ 調性とは何か ≫ という、
西洋音楽の根幹を成す、問いに対する、
真正面からの ≪ 解答 ≫ と、いうことができます。
それにつきましては、講座で十分に、ご説明しました。
★さらに、それと同時に、実にユーモアに溢れた曲でもあります。
1小節目のテーマ 「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」を、
お持ちの楽譜を、天地を逆にして、眺めてください。
それを、ト音記号で、左から読みますと、
「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」と、なることに、
お気付きでしょうか。
★この 「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 が、
3小節目に、そのままの形で、現れてくるのです。
「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」の ≪ 反行形 ≫ が、
「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 なのです。
反行形を、くどくど言葉で説明するまでもなく、
このひっくり返し作業で、一気に、
反行形がどういうものであるか、分かってしまうのです。
★バッハの息子たちが、びっくりして、
目を丸くしている光景が、目に浮かぶようです。
インヴェンションは、「 作曲の手引き 」 である、
ということが、これからも、納得できることでしょう。
★この 1番は、大きく 3部分に分かれます。
その第 3部の 15小節目の上声が、
「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 で,、始まり、
その後の 19小節目の上声が、
「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」で、始まるのは、
偶然では、ないのです。
★ 1月は、あと 2回、アナリーゼ講座を開催します。
早々に、訂正で申し訳ございませんが、
カワイ・表参道で、 1月 25日( 火 )に開きます、
≪ 第 10回 平均律アナリーゼ講座 ≫ の、お知らせが、
音楽誌 「 ぶらあぼ 1月号 」 P128に、掲載されていますが、
開始時間が、記載の「 10:30 」ではなく、
「 10:00 」が、正しい時間です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
★このアナリーゼ講座のご案内は、
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/31fe893e38ee391e7f63f49ff5c9ad4f
を、ご覧ください。
★ 1月 3日に、歌舞伎俳優の ≪ 中村富十郎 ≫ さんが、
ご逝去されました、享年81歳。
生前に何度か、楽屋にお邪魔したり、
お食事を、ご一緒したりして、
その素晴らしいお人柄に、触れることができました。
★特に、心に残こるお話は、
ジャン・コクトーが、来日された折、
富十郎さんの舞踊を見て、非常に感動されたというお話、
そして、私に、張りのある艶やかなお声で、
「 ジャンコクトーの本を、読みたいのですが、
“ 中村先生!!! ” いいご本がありましたら、
是非、教えてください 」 と、目を少年のように、
輝かせて、おっしゃっていたことです。
この問いは、逆に、私が試されたのかもしれません。
★富十郎さんは、謙虚で向学心と好奇心に、
満ち満ちた、本物の芸術家であった、と思います。
私の 「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 の、最終楽章は、
富十郎さんの舞踊が、インスピレーションの源でした。
★「 紅葉狩り 」 の中で、貴公子を籠絡した美女が、
突如、鬼女に変身するときの、富十郎さんの、
天井を突き破るような、大音声と、
生命が噴き上げてくるような、舞い。
その瞬間、神性が宿っていたのでしょう。
踊りとは、本来このようなものを指すと、
思いました。
★ご冥福を、お祈りいたします。
( 干柿&千両&柿の落葉 佐川泰正さんの漆器、蝋梅、菫 )
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