音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bachが一筆加えた装飾音で、深く心を揺さぶる音楽へと変容■

2016-09-30 01:29:45 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachが一筆加えた装飾音で、深く心を揺さぶる音楽へと変容■
  ~マルチェッロのオーボエ協奏曲をBachはどう編曲したか~
    =「金沢・イタリア協奏曲」2楽章・アナリーゼ講座=
             2016.9.30     中村洋子



 


★台風や長雨の九月も、いよいよ終わります。

KAWAI金沢の講座は、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

第1楽章を3回にわたって、学びました。

私の講座で1楽章を3回も、数か月かけてお話することは、

初めてでしたが、終わってみますと、やっと、第1楽章の扉を、

トントンとノックしたような気持です。


★それほど、この曲は奥深く広いのです。

Bachの曲はすべてそうなのですが、踏み入れば踏み入るほど、

その花園の花は益々、生き生きと輝き、色彩が増す、

ということでしょう。

次回は、第2楽章の講座となります。


第2楽章を学ぶ前提として、  Bach バッハ (1685-1750) が、

28、9歳の1713~14年頃、イタリアの作曲家 Alessandro Marcello

アレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)の、オーボエ協奏曲を、

独奏鍵盤の作品に編曲した「Concerto d-Moll BWV974」について、

解説する予定です。


★このBachの編曲作品「Concerto d-Moll BWV974」の

第2楽章「Adagio」は、そのシンプルな美しさで、

どなたも感嘆されることでしょう。

原曲であるMarcello のオーボエ協奏曲に、

Bachがどのような装飾を施し、

その“黄金の一筆”で、「Bachの作品」へと変容させたか・・・

それが、約20年後の1735年、満を持して発表出版することになる

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」にどう連なっていくかを、

「和声音の装飾の仕方」からご説明し、耳と頭と心で、

ご理解をしていただく予定です。




★BWV974の楽譜は、Bärenreiter出版の

Bach: Klavierbearbeirtungen fremder Werke Ⅰ

Keyboard Arrangements of Works by Other Composers Ⅰ

(Six Concertos after Vivaldi and Others) BWV 972-977

(BA 5221)を、ご用意ください。
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501271623


★原曲のスコア Marcello Concerto for Oboe, Strings and Basso cintnuo

Edition Schott (ANT 74)も、必要でしょう。
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501227780


CDとしましては、「20世紀の名演奏」 ≪ヴェニスの愛≫ 

~ローター・コッホ ベルリン弦楽合奏団 (BVCC 37454)~が、

特に、お薦めです。


Lothar Koch ローター・コッホ (1935-2003)は、

Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー先生と

同世代で、一緒に黄金期のベルリンフィルを支えた、

偉大なマエストロです。


★彼のMozart オーボエ四重奏も、同様に大変な名演です。

是非、お聴きください。

Tower Records Vintage Collection + plus vol.15
「モーツァルト オーボエ四重奏/フルート四重奏1、4番)
                                                           PROC-1255

このCDは、 2012年に発売されたもので、

Celloは、Boettcher ベッチャー先生です。

先生の名演も、併せてお聴きください。

CDブックレットには、相変わらず、ヴォルフガング・ベトヒャー

チェロ)と、発音が間違って書かれているのには、呆れます。


★先月の美智子さまと Boettcher ベッチャー先生との合奏では、

正しい発音で、報道されていましたが、

一度間違いが文字に書かれますと、孫引き孫引きで、

延々と訂正されないまま続くのは、

原典に当たって調べないのが理由でしょう。







Beethoven 「Für Elise エリーゼのために」 の音の誤りが、

何十年と、日本でのみ訂正されないのと、同じでしょうね。

 「Für Elise エリーゼのために」 については、私の著書

≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり≫で、

詳しく書いておりますので、お読みください。

 


★お話をアレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)の

オーボエ協奏曲とBachの編曲作品に戻しますと、

原曲のMarcello「オーボエ協奏曲」2楽章冒頭3小節は、

弦楽器による前奏です。

4小節目から、ソロのオーボエが登場します。



★これをBachは、このように編曲しました。





4小節目3拍目の「b²」を「c³」の倚音(changing note)で、

装飾したのです。





5小節目1拍目の「b²」にモルデント(Mordent)を付け、

印象深く、この音を強調します。





Marcello「オーボエ協奏曲」の6、7小節目は、

4、5小節目を、長2度下の同型反復(Sequenz ゼクエンツ)したものです。




Bachは1拍目「e²」と2拍目「g²」を、刺繍音(broderie)で、

飾ります。





8、9小節目については、 Marcelloは6、7小節を更に長2度下に、

そのまま同型反復しています。


 

Bachは、1拍目「b¹」を、連続刺繍音で装飾しています。


 

連続刺繍音とは、「b¹」の上部刺繍音「c²」  




、「b¹」の下部刺繍音「a¹」を、






和声音「b¹」の後に、連続して「b¹ c² a¹」と配置し、

その後に、和声音「b¹」に戻る

「b¹ c² a¹ b¹」連続刺繍音です。






2拍目の「d²」、3拍目の「f²」も同様に、

連続刺繍音で装飾されます。




★これは、Bachの装飾法、つまり作曲法の一端です。

Marcelloの作品も、当時はこの楽譜通りに演奏されたのではなく、

オーボエ奏者の即興による装飾に委ねている部分も、おそらく

多かったと思います。

★Bachは、 Marcelloマルチェッロが

即興に委ねた部分を、丁寧に「Bachの装飾」として、

書き込んでいます。

この手法がそのまま、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

第2楽章に、投影されていくのです。

そして、何気ない旋律が、深く心を揺さぶる音楽へと、

変容するのです。

 

 


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Bach《イタリア協奏曲・第2楽章》アナリーゼ講座

  ~美しい旋律に、非和声音が精緻に装飾されている~

日  時 :  11月18日(金)  午前10時~12時30分

■会  場 :  カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
    (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)

■予 約 :  Tel.076-262-8236 KAWAI 金沢ショップ

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 ★初版譜の2楽章冒頭に、Bachが珍しく自ら記したテンポ記号≪Andante≫は、
どのような深い意味を持つのでしょうか。
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)は、彼の校訂版で、
この第2楽章について「悲しみから滲み出る嘆きが、希望へと、そして哀願へと
移り変わっていく。最後に再び、自らの中で嘆きが消え去っていくのである。
この嘆きの歌の多彩なニュアンスは、言葉では言い尽くせないほどである」と、
注釈しています。

 

★蜘蛛の糸のように精妙に織り込まれた第2楽章の右手旋律は、
≪非和声音≫をたくさん含んでいます。この右手旋律を、
装飾音記号で書き換えることも可能です。

 

★装飾音記号で書き換えますと、旋律の骨組みが、むき出しに現れてきます。
この、主に≪和声音≫から成る「骨組み」が、どのように≪非和声音≫で
装飾されているのか・・・それを理解いたしませんと、右手が絶えず、
美しい旋律を細やかに弾いているだけの「退屈な演奏」になってしまいます。

 

★Bach は、Alessandro Marcello マルチェッロのオーボエ協奏曲を、
独奏鍵盤作品に編曲しています( Concerto d-Moll BWV974,
n
ach dem Concerto d-Moll fr Oboe, Streicher und Basso continuo
v
on Alessandro Marcello)。
マルチェッロの原曲を、どんなに美しく Bachが
装飾し編曲したかを
勉強いたしますと、第2楽章が一気に、分かりやすくなります。

 

★ピアノで Bach を演奏することの楽しみ、満ち溢れる喜びをきっと
実感できることでしょう。Marcelloマルチェッロを、
Bach編曲で弾く楽しみについても、お話いたします。

 

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講師: 作曲家  中村 洋子

 東京芸術大学作曲科卒。

200809年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15を、東京で開催。

201015年、「平均律クラヴィーア曲集12巻アナリーゼ講座」全48を、東京で開催。

             自作品「Suite Nr.16 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」
           「
10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
             ベルリン、リース&エアラー社
Ries & Erler Berlin より出版。

            「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
    「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
     チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」

     
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
                     Musikverlag Hauke Hack  Dortmund から出版。

2014年、自作品「Suite Nr. 16 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」の
                
SACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
              
disk UNION : GDRL 1001/1002)。

2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」
                 にあり
!
                 ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも
                                                            分かる~ 
DU BOOKS社)を出版。

2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
                  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」
Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
                「訳者による注釈」を担当。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント

■イタリア協奏曲の3度motifは、反行、逆行に変幻自在■

2016-09-22 19:47:18 | ■私のアナリーゼ講座■

■イタリア協奏曲の3度motifは、反行、逆行に変幻自在■
~「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」1楽章第3回アナリーゼ講座~

                         2016.9.22   中村洋子

 

 


★台風が多い秋ですが、

うるさいくらい賑やかでした蝉の鳴き声が

すっかり、秋の虫に変わりました。

今日は「秋分」です。


★私の「無伴奏チェロ組曲」第4番の第5楽章は、

ドイツの詩人ヘルダリンに「Andenken 追想」に、

インスピレーションを受けました。

 

★≪Zur Märzenzeit, wenn gleich ist Nacht und Tag

     三月 昼と夜が等しい時・・・≫という曲名です。

ここでは、「春分」を意味します。

 

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501728333

 

http://www.audiounion.jp/ct/detail/new/111552/

 

★先月の草津音楽祭から Berlin ベルリンにお帰りになった

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生から、

お便りが届き、violinヴァイオリンのSaschko Gawriloff

サシコ・ガブリロフ先生と、16日にコンサートをなされたそうです。

お忙しい毎日だそうです。

 

★私も多忙ですが、先日、山の中を車で通り過ぎた際、

曲がりくねった道のガードレールに稲藁、

刈り取ったばかりのまだ青みが残る稲藁が、

行儀よく一列に並んで、掛けてありました。

白いガードレールも、意外な使い道があったのですね。


★なんとも微笑ましく、美しくもある風景でした。

懐かしさも感じました。


★来週9月28日(水)は、金沢KAWAIで、

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」第1楽章の3回目

アナリーゼ講座を、開催いたします。

 

 

★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」には、

自筆譜は残っていません。

しかし、 Johann Sebastian Bach バッハ (1685~1750) の生前、

1735年、「Clavierübung クラヴィーアユーブング」2巻の、

前半の曲として、出版されています。

(後半は、Ouverture nach Französicher Art フランス風序曲 )
 

★このため、第1回講座では、その初版譜ファクシミリを読み解き、

Bachの「作曲意図」と、その斬新な「和声」の正体を探りました。


★第2回では、それを更に発展させ、1楽章の一見単純に見えながら、

実に複雑な「形式」を、ご説明しました。


★そして、来週の第3回では、偉大なpianist のEdwin Fischer

エドウィン・フィッシャー(1886~1960)の校訂版を、

道標としながら、
どのように演奏すると、

Bachが望んでいたイタリア協奏曲に近づけるかを、

お話する予定です。

 

 

第1楽章1小節目に、Fischerは、

このようなFingeringを付けています。

 

 

★例えば、2拍目の上声「a¹ b¹」に「2 3」を指定しますと、

通常ですと、内声はあえて「1 1」と記さないでしょう

「a¹」に対する「f¹」は、「1」しかありませんし、

「b¹」に対する「g¹」も、常識的には「1」でしょう。

 


記載する必要のないFingeringをなぜ、書いたのか?

 

 

 

この音が「とても重要な motif モティーフを形成している」

ということを意味し、「見落とさないように」と、

注意喚起しているのです。

 

 


1小節目の2拍目、それに続く2小節目1拍目の

上声「a¹ b¹ c¹」の内声「f¹ g¹ a¹」は、

 

 

 

決して、「f¹ a¹」、「g¹ b¹」、「a¹ c²」の

≪3度の重音≫の連続ではなく、

 

 

上声(soprano ソプラノ)と(内声 alto アルト)の

≪二声部の counterpoint 対位法である≫という考え方です。


★それでは、この独立した3度 motif モティーフ である

上声(soprano ソプラノ声部)「a¹ b¹ c²」と、

内声(alto アルト声部)は、どのように展開していくのでしょうか。


★例えば、Fischerは8小節目に、

このようなFingeringを記しています。

 

 

8小節目2拍目の上声「c²」の「3」は、ごく当たり前の

指遣いです。

あえて書く必要がないほどです。

しかし、1小節目のFingeringの指示により、

注意深く研ぎ澄まれた感覚をもってすれば、

この「3」の指で始まる「c² b¹ a¹」の motif モティーフが

 


 


1~2小節目 soprano ソプラノ声部の「a¹ b¹ c²」の、

縮小された「反行形」または「逆行形」であることに、

容易に気付かされます。

 

 

★「反行形」または「逆行形」と、書きましたが、

その違いは・・・、

反行形」とは、

例えば、元の motif モティーフが「2度上行」したら、

反行形は「2度下行」するというように、

同じ音程だけ「上行したら、下行」、「下行したら、上行する」、

正反対の動きをすることを、意味します。

 

 

★「逆行形」は、その motif モティーフを最後の音から、

逆に辿っていくことを意味します。

「a¹ b¹ c²」でしたら、最後「c²」から逆に

「c² b¹ a¹」と進行します。

 

 

★「逆行形」は、逆にたどる動きが、

蟹の横歩きに似ていることから、

ドイツ語では「Krebsgang 蟹の進行」とも、言います。

Krebs クレプスは蟹です。

 

 


★譜例で示しましたように、「a¹ b¹ c²」の反行形と逆行形は、

「c² b¹a¹」という、同じ形になります。


★それでは、1小節目内声の alto アルト声部

「f¹ g¹ a¹」は、どう展開されていくのでしょうか?

10、11小節目を見てください

 

 

10小節目内声(tenor テノール声部)の 「a¹ c¹」の「4  2」は、

1小節目 soprano ソプラノ声部「a¹ c²」に、対応しています。

 

 


★そして、11小節目下声「a f」の「a」に、

「4」の指示があることは、

1小節目内声( alto アルト声部)「f¹ a¹」の、

逆行といえます。

 

 

Fischerは、この11小節目までの各小節すべてに、

「詳細なFingering」を、施しています。

それをすべて、じっくり解明していきますと、

Bachの構築した音楽が、徐々に姿を現してきます。

壮大さに、感動します。

 

★それを解明していくことが、

Bachの真の演奏に近づく第一歩となります。

講座では、上に書きましたように

≪3度の重音≫
として弾く奏法と、

≪2声部の counterpoint 対位法≫として弾く奏法とが、

どう違うか
を始めとし、さらに、

Bachの 「counterpoint 対位法」 の演奏法を、

具体的に音で、お示しいたします。

 

 

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■中村洋子「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」
                    アナリーゼ講座

~第3回イタリア協奏曲の和声、構造を理解したうえで、
                   どう演奏に活かすか~

   

●日  時 :  9月28日(水) 午前10時~12時30分

 ●会  場 :  KAWAI金沢 金沢市南町5-9 
      (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 
              有料駐車場をご利用下さい)

 ●予 約:  Tel.076-262-8236 KAWAI金沢ショップ

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講師: 作曲家  中村 洋子

 東京芸術大学作曲科卒。

200809年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15を、東京で開催。

201015年、「平均律クラヴィーア曲集12巻アナリーゼ講座」全48を、
                                                                                        東京で開催。

          自作品「Suite Nr.16 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」
         「
10 Duette fur 2Violoncelli
チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
           ベルリン、リース&エアラー社
Ries & Erler  Berlin より出版。

2014年、自作品「Suite Nr. 16 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第16番」
         の
SACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で
                 発表
disk UNION : GDRL 1001/1002)。

2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した 
        
クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!
       ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
      (
DU BOOKS社)を出版。

2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
       バッハ「ゴルトベルク変奏曲」
Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
     「訳者による注釈」を担当。

 

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ゴルトベルク変奏曲の13変奏は、15変奏の≪受難の motif≫を孕む■

2016-09-10 04:39:48 | ■私のアナリーゼ講座■

■Goldberg-Variationen13変奏は、15変奏の≪受難の motif≫を孕む■
  ~Botticelli ボッティチェリ「書物の聖母」の主題に似る~
    ~前 孝さんの「Goldberg-Variationen」リサイタル~

                2016.9.10 中村洋子

 

 

 

★9月3日、第5回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

アナリーゼ講座を開催いたしました。

これで、アリアと前半の15変奏をすべて勉強いたしました。

暫く、休憩をとり、また後半を始めたいと思います。


★今回の13-15変奏は、前半の白眉ともいえ、特に、

13変奏と15変奏は、静謐な曲ですが、

内面は火山のマグマのように、強烈な力でみなぎっています。

13変奏は、揺り籠を優しく揺らすようであり、そして、

その中に愛と愁いとを秘めている曲であると、思います。


★なぜ、揺り籠なのでしょうか。

1小節目1拍目にソプラノ2、3、4番目の音「c² h¹ a¹」の

motif モティーフが、3拍目で小さな波が寄せて返すように、

もう一度、奏されます

 


★同じように、2小節目2拍目のソプラノで、「d² e² fis² g²」が

3拍目ではすぐに逆行形として「g² fis² e² d²」で、奏されます。

寄せては返す波、あるいはそっと揺らす揺り籠が、

ゆっくりとまた、返ってくるイメージです。

 

 


★Bachは、明らかにイエスの生誕を心に描いていたのでしょう。

明るく穏やかな曲です。

しかし、そこに15変奏の motif モティーフが、

巧みに刷り込まれています。

15変奏の motif モティーフは、≪イエスの受難≫です。


 

 

★32小節から成る13変奏前半の、最後の小節である

16小節には、このような motif モティーフがあります。

 

 

★この motif モティーフは、実は、

15変奏の1小節目と共有 motif モティーフなのです。

13変奏の26小節目2拍目にも、

この motif モティーフが、顔を出します。

 





★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」初版譜は、

1ページ7段で記譜されていますが、

この26小節目は、5段目の右端に2拍目までを記譜し、

3拍目は、下の6段目から始まっています

 
小節が、分断されています。

Bachの強い意図があるのです。

即ち、この「g¹ g¹ f¹」が、視覚的に目に飛び込んでくるよう、

意図的にレイアウトにされているのです。


★そして、最後の32小節目のソプラノ1拍目は、

「h¹ fis¹ fis¹ g¹」ですが

これを逆に読みますと「g¹ fis¹ fis¹ h¹」となり、

5段目右端=26小節目2拍目と、対応させているのは、

明白でしょう。

32小節目の位置は、7段目右端、

26小節目2拍目のほぼ真下にあります。

眩暈がするような見事なレイアウトです。

 

 

 

幼子イエスの≪子守唄≫の中に≪受難≫を孕ませていると、

言えます。

これは、実は、Bachの独創というよりは、西洋絵画の世界で、

しばしば用いられて来た手法なのです。

 


 


★ことしは「日イ国交樹立150周年」で、イタリアの名画が

次々と来日しました。

なかでも、東京都美術館での「Botticelli ボッティチェリ展」は、

秀逸でした。

初来日のBotticelli(1444-1510)

「La Madonna del libro 書物の聖母」は、特に、

示唆に富んだ作品です。


★一般的に、西洋名画での幼子イエスを抱くマリアの顔は、

一抹の愁いを漂わせています

嬰児を出産した母の、溢れんばかりの喜びは、

不思議なことに、ほとんど表現されていません。

何故でしょうか。

その答えは、「La Madonna del libro 書物の聖母」

あります。

 

 

★「La Madonna del libro 書物の聖母」を詳しく、

見てみましょう。

幼子イエスの左手首には、荊(いばら)の大きな丸い冠が、

数珠のように、掛けられています。

金色に輝いています。


イエスの手に添えられたマリアの左手からは、

金色の鋭く尖った釘が三本、のぞいています。

イエスが生まれたこの時点で既に、将来、

イエスが人々の罪を担い、荊の冠をかぶせられ、

尖った釘で十字架に打ち付けられ、

受難する運命にあることを、強く暗示しているのでしょう。


★それを予知しているマリアの清楚な美しい顔。

抗いがたい運命を前に、

諦観にも似た、静かな悲しみに満ちています。


★Bach「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

13変奏は、「La Madonna del libro 書物の聖母」の

“主題”を、音楽で表現しているとも言えるでしょう。

15変奏の厳しい≪受難 motif モティーフ≫を、 

既に孕んでいます。


★「聖母マリア」につきましては、当ブログで以前、

Michelangelo ミケランジェロ(1475-1564)の傑作

「La Madonna della Scala 階段の聖母」の

感想を書いております。

大理石に彫られたとても小さなレリーフですが、

その万力のような構成は、

Bach
の音楽に通じるものがあるでしょう。

≪ミケランジェロ展、「階段の聖母」の緊密な構成、
       
動物的母性がにじみ出る  2013.10.20≫
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/8dcb9838a5991ebd591fea807cd7abd5


Botticelli ボッティチェリ(1444-1510)の

「La Madonna del libro 書物の聖母」は、1480年頃の作、

Michelangelo ミケランジェロ(1475-1564)

「La Madonna della Scala 階段の聖母」は、

15歳頃つまり1490年頃の作、

天才が天才から、きっと深く学んだことでしょう。

               
Chopinには、この≪受難の motif モティーフ≫が、

そのまま出て来る作品があります

調は異なります。

講座で、私がそれを15変奏と同じ「g-Moll」に移調して弾き、

皆さまに、納得していただきました。


★その場合、「g-Moll」の思慮深く、ある種の暖かみがある、

「♭」二つの調性と、 Chopinの「♯」系の繊細でありながら、

やや鋭角的な調性の性格とは、やはり随分違うものであると、

実感しました。

 

 


★私の講座にご参加いただきました pianist

「Takashi Mae  前 孝」さんが、9月26日(月)19時、

東京文化会館小ホールで、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

recital リサイタル
を、
開かれます。


★私は、前さんから program note プログラムノート

依頼されました。

いま私が抱いています「Goldberg-Variationen像」を、

心を込めて、書きました。

自分でも納得のいく内容であると、

満足しております。

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■ゴルトベルク変奏曲15変奏に、Bachの音楽、思想のすべてがある■

2016-09-02 10:46:34 | ■私のアナリーゼ講座■

■ゴルトベルク変奏曲15変奏に、Bachの音楽、思想のすべてがある
  ~ Boettcher ベッチャー先生と久しぶりに蕎麦ディナー~

            2016.9.2      中村洋子

 

 

Bach「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

30の変奏曲の一つ一つが役割を担っており、

優劣をつけるものではありません。


★3日の「Goldbergアナリーゼ講座」で勉強いたします

13、14、15変奏は、前半15曲の最後の3曲という

重要な位置を占めています。

今週はずっと、その3曲の分析に集中しておりました。

敢えて申しますと、

「かくも偉大な作品を、人類が持ちえたこの幸せ」

と、心の底から喜びを感じております。


★「Variatio15」の「和声」につきましては、

21世紀の現在に至るまで、私の知る限りでは、

これほど高度な技法が駆使された曲はございません。

調性を用いるか、用いないかにかかわらずです。


★この「Variatio15」の中に、Bachは「Bachの音楽」、

「Bachの思想」のすべてを込め、そして表現した、

とも言えると、思います。


★その思想を読み解き、血肉化することが

できるような講座となるよう、願っております。

 

 


★今回は、この重量級の3曲を勉強するために、

講座の時間を30分、拡大しました。

それでも足りるでしょうか?


★講座の一端をお知らせいたしますと・・・

第15変奏1小節目上声に、Bachに親しんでいる方には、

「ああ、あのmotifモティーフ」とすぐにお分かりになる、

≪2度の嘆きのmotif≫が奏されています。

 

 


★そして、Bachには珍しく≪andanteアンダンテ≫=歩くような速さで、

という速度記号が、記されています。

「Wohltemperirte Clavier Ⅰ平均律クラヴィーア曲集 第1巻」の終曲、

第24番 Prelude(Bach自身はPraeludiumと書いています)にも、

≪andante≫が記され、速度を指定しています。

 

 


★この「Goldberg-Variationen」15Variatioと、

「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」24番h-Moll ロ短調の

andante(walking pace)は、ゴルゴダの丘へと引かれる、

十字架を担いだイエスのイメージがあるかもしれません。


★そして、「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」24番 Fuga には、

≪Largoラルゴ(英訳ではbroad)≫、つまり、

幅広くゆっくりとしたテンポが、記されています。

このテンポは、15Variatioと異なりますが、

使われているmotifは、15Variatioと同じ「2度motif」です。

 

 


★「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」の中で、この24番h-Mollは、

特別な位置を占めています。

まず、 Preludeと Fugaにテンポの表示があるのは、

平均律1巻24曲の中で、たった1曲、この24番だけです


★ Preludeは、前半17小節を奏した後、もう一度、

1小節目から17小節目までを反復します。

後半18小節目から最後の47小節目までも、

一度奏した後、もう一度反復します。

「binary form」です。


平均律1巻で、「binary form」の Preludeは、

この24番だけです。

平均律2巻になりますと、

2番c-Moll  5番D-Dur  8番dis-Moll 9番E-Dur

10番e-Moll 12番f-Moll 15番G-Dur 18番gis-Moll

20番a-Moll 21番B-Dur と、

全24曲中、10曲の Preludeが、binary formです。


★「binary form」は、平均律第2巻 Preludeの、

特徴とも言えます。

 

 


★では、どうしてBachは平均律1巻24番だけ、

2巻の性格を宿すように、作曲したのでしょうか


★私の考えでは「Bachは1巻を作曲中、すでに、

2巻を作曲する構想があった、あるいは、

2巻の構想が出来ていた」、そして、

「1、2巻合わせて全48曲のちょうど前半最後の曲が、

1巻24番である」ということです。


★これを「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」に、

当てはめて考えますと、

15Variatio第15変奏は、ちょうど前半最後の曲で、

平均律1巻の24番に対応する曲である、と

結論付けることができます。


★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

初版譜は、もちろんengraver彫師のミスも散見されますが、

Bachが所持していた初版譜には、

Bach自身による貴重な「書き込み」があります。


★例えば、15Variatio第15変奏の1小節目は、

譜例で書きましたように、「2度motif」に、

スラーが書かれています。

しかし、2小節目にはスラーはありません。

 

 


★しかし、「Bärenreiterベーレンライター版」では、

この2小節目に点線でスラーが、書き加えられています。

「Henleヘンレ版」では、スラーは書かれていません。


★ここでの「和声」の意味を考えますと、

スラーがないのが、正しいのです。

Bachが初版譜にスラーを書いていないのには、

当然のことながら、深い理由があるのです。

講座で詳しく、ご説明いたします。

 

 


★私は、このところとても忙しい毎日ですが、

30日まで開催された「草津音楽祭」のために、

来日されていたCelloのWolfgang Boettcher 

ヴォルフガング・ベッチャー先生に、お会いするため、

草津まで行ってまいりました。


★久しぶりの再会でしたが、とてもお元気で、

いつも通り、明るく、矍鑠とされていました。

音楽に集中するために無駄なことは一切しない、

自らを厳しく律する生活を、貫かれていらっしゃいます。

あらためて、その生き方に打たれました。


★先生は「お蕎麦」がことのほかお好きです。

「蕎麦」という日本語が出ますと、顔をほころばせ、

「ゾバ、ゾバ」とドイツ語訛りで言い返されます。

台風の接近で、篠突くような雨でしたが、

草津温泉の中心「湯畑」まで行き、一緒に、

美味しいお蕎麦屋さんに入り、

蕎麦ディナーと歓談を楽しみました。

「私はolder and olderになる」と先生、

「しかし、先生の心は、毎日若くなりますね」と、

申しますと、先生は「その通り」とにっこり。

 

 


★今回の草津音楽祭では、Empress Michiko皇后美智子さまとの

合奏を、ことのほか楽しみにされていました。

TV newsでは、SchubertのPiano、Violin、

Celloによる三重奏の様子が放映されましたが、

美智子さまと一緒に演奏された何曲かのうち、

最も力を注がれたのが、

ChopinのCello Sonata, Op.65 でした。

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■皇后さまがピアノ披露、静養先で 群馬・草津
 
2016年8月27日 17時37分

 長野県軽井沢町で20日から静養中だった天皇、皇后両陛下は27日、群馬県草津町に移り、引き続き静養された。皇后さまは同町で開催中の音楽祭「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」に参加するため来日した海外の音楽家とワークショップに臨み、ピアノの演奏を披露した。

 課題曲に選ばれたのは、シューベルトのセレナーデなど数曲。皇后さまはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で首席チェロ奏者を務めたウォルフガング・ベッチャーさんらと共演し、「まだ弾き方を理解できていない部分があるので教えてくださいね」などと英語で話しながら、約1時間20分にわたって練習に励んだ。(共同)
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(中村洋子作曲「無伴奏チェロ組曲」1~6番Wolfgang Boettcher 演奏
 GDRL 1001,1002  :disk UNION
)

 

★TV画像を見ながら、

先生のチェロを弾く姿に感動している自分に、

気付きました。


★あらゆる動きが、しなやかにして伸びやか、軽やかで美しい。

溜息が出ます。

Boettcher ベッチャー先生は、美智子さまと同い年です。

先生の口癖「毎日毎日が勉強、勉強、努力、努力」、

それが昇華され、演奏中のどの断面からも、

滲み出てきます。

それが先生の音楽です。

私も先生を一つの規範として、音楽を学んでいきたいと、

思っております。

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20160827-00000036-ann-soci

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2854912.html

 

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