音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ なぜ、晩年のブラームスがクラリネットの曲を書いたか? ■■

2007-12-24 16:29:40 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2007/10/4(木)

★「ブラームスのクラリネットトリオ」のお話の続きです。

なぜ、晩年のブラームスが、クラリネットの曲をたくさん書いたか?

それは、1891年3月、ブラームスが58歳の時、

マイニンゲン宮廷オーケストラの素晴らしいクラリネット奏者

「リヒャルト・ミュールフェルト」に出会ったからです。

いちどは、作曲から引退する決意をしていたブラームスに、

このクラリネット奏者が、再び作曲する意欲を、奮い立たせたのでしょう。


★レコードが存在していない時代のお話ですので、

この「ミュールフェルト」の演奏が、どれだけ素晴らしいものであったか、

残念ながら、現代の私たちは知ることができません。

しかし、真に優れた演奏家は、作曲家に、

“どうしてもこの人に演奏してもらいたい”という

熱望を湧き立たせるものです。


★それは、普段、作曲家が、フラストレーションに

苛(さいな)まれている裏返しでもあります。

“こんな風に書いた覚えはない”。

“このような演奏では、私の作曲の意図が伝わらない”などの苛立ちです。

逆に、“このような大演奏家ならば、私の曲をどんなにか素晴らしく、

自分が創作しようとした世界を越え、

それを突き破る天空に導いてくれるであろう”と、

胸躍らせるものなのです。

ブラームスは、きっと、このようにわくわくしながら、作曲したのでしょう。

ですから、このトリオは、並みの奏者では歯が立たない曲なのです。

3人のマエストロが、完璧に、息を合わせないと、不可能な曲ともいえます。


★一楽章では、16分音符の速い音階のパッセージが、

ピアノ、クラリネット、チェロとも、要所要所で多用されています。

特に、クラリネットとチェロが、ユニゾンでとても速い音階を演奏したり、

3度の重音で、同じ音階を、駆け上がったり、交差したり、駆け下りたり、

あたかも、めまぐるしく疾走しているかのようです。

凡庸な奏者では、怖くて歯が立たない音楽です。

ライスターとベッチャーの二重奏は、完璧です。

完璧なうえ、詩情が漂っています。

完璧だからこそ、はじめて、詩的な叙情が漂うのです。

それゆえ、めったにこの曲が演奏されないのです。



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