■平均律1巻1番 Preludeの冒頭第1小節目には、バス声部が不在■
~ KAWAI 名古屋「平均律1巻1番アナリーゼ講座」~
2015.10.27 中村洋子
★Bachの 「Manuscript Autograph 自筆譜」を勉強しますと、
「曲の構造」、「どのように演奏すべきか」が、
すべて表現されていることに、気付きます。
つまり、≪記譜≫により、それらが説明されているのです。
★あとは、個人がそれをどのように解き明かすか、
ということになります。
例えば、平均律1巻1番 Preludeの「1小節目」を見ますと、
音の出現順序は「 c¹ e¹ g¹ c² e² g¹ c² e² 」です。
★現在の実用譜はほとんど、大譜表であるため、
バス記号(ヘ音記号)上に、「 c¹ e¹ 」が記譜されています。
ト音記号上には、「 g¹ c² e² g¹ c² e² 」が記譜されています。
★こうしますと、2分音符の「c¹」は、≪バス声部≫の音に
なってしまいます。
符点4分音符と4分音符がタイで結ばれた「e¹」は、
一見、≪テノール声部≫のように見えます。
しかし、 Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜」は、違います。
★2分音符の「c¹」は、バス記号上に記譜されています。
「e¹」は、ソプラノ譜表上に、記譜されています。
即ち、この「e¹」はテノール声部ではないのです。
★それでは「c¹」は、どの声部なのでしょうか?
これは、≪テノール声部≫なのです。
何と、この冒頭第1小節目には、バス声部が不在なのです。
★では、どこからバス声部が登場するのでしょうか。
この点が、この曲の肝心要、要諦なのです。
講座で詳しく、ご説明いたします。
★答えを言いますと、10小節目の「d」音で、
やっと、バスが出現するのです。
1小節目~9小節目までは、バスがありません。
四声が出揃うのは、10小節目以降となりますので、
この曲を弾く際には、声部構成を明確に提示した演奏を、
目指すべきです。
★しかし、テノール、バスを特定できたとしても、
その上声を、大雑把なソプラノとアルトに分離するだけでは、
単調な演奏となるでしょう。
★平均律1巻1番の Fuga C-Durも、神秘に満ちた曲です。
アルト声部の「c¹」から始まる Subject 主題は、
「 c¹ 」から 「 d¹ e¹ f¹ 」と、しっかりとした足取りで、
音の階段、音階を登っていきます。
★続く2小節目後半から始まる Answer 応答 の冒頭音は「g¹」です。
これも、「g¹」から「 a¹ h¹ c²」と、音の階梯を
朝日が昇っていくように、上昇します。
★1小節目の Subject「 c¹ d¹ e¹ f¹ 」と、
この Answer を合わせますと、
何と、「C-Dur」の音階「 c¹ d¹ e¹ f¹ g¹ a¹ h¹ c²」に、
なるではありませんか。
これは、この曲の最終27小節目の上声
「 c² d² e² f² g² a² h² c³ 」に対応し、
互いに呼応します。
★しかし、驚きはそれだけではありません。
2小節目アルト声部の2拍目からは、
「 a¹ g¹ f¹ e¹ f¹ e¹ d¹ c¹ d¹ c¹ h a」ですが、
これを要約しますと、
「 a¹ g¹ f¹ e¹ d¹ c¹ h a 」となります。
「a-Moll」 の下行自然短音階なのです。
★同じように、4小節目上声にも、
「 g¹ a¹ h¹ c² d² e² fis² g² 」、
つまり、「G-Dur」上行音階が隠れています。
★「a-Moll」 は、主調「C-Dur」の平行短調です。
「G-Dur」は、主調「C-Dur」の属調です。
どちらも「C-Dur」の最も緊密な近親調です。
★「C-Dur」という王者のような音階が、
右大臣、左大臣を従えて、しずしずと厳かに
登場します。
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■バッハ 平均律 第1巻 1番 C-Dur Prelude& Fuga アナリーゼ講座
・日時 : 2015年 10月 28日(水) 10:00 ~ 12:30
・会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
・予約: Tel 052-962-3939
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■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
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