★山形県の置賜地方に在住のお友達から、素敵な秋の恵みを頂きました。
天然のナメコです。
包み紙の地方新聞をゴソゴソとほどき、ビニール袋をあけますと、
生命力で弾けそうなナメコたちが、押し合いへし合い、こぼれんばかり。
大きなものはシイタケと間違うほどです。
黄、茶、黒、白、透明な粘液までが、キラキラと光り、
自己主張しています。
秋の色、秋の森の色です。
陳腐ですが、宝石より輝いています。
★不思議なことに、森の底知れない静けさ、そう!、魂を包み込んでくれる
あの静けさまで、ナメコの饗宴を見つめておりますと、聞こえてきました。
ナメコの根っこにくっ付いている腐葉土からは、
森奥に踏み分けて入っていったような、錯覚を覚えるほど、
心休まる土の匂い、森の冷気が伝わってきます。
自然の森はなんと豊かなのでしょう。
★お手紙によりますと、彼女は、小国町の森を七時間ほど、
友人とさまよってナメコを採ってきたそうです。
一句添えられていました『きのこ汁 椀に盛らるる 木霊(こだま)かな』
さまよいながら、山の精たちのおしゃべりや歌声、溜息が、
きっと木霊となって聞こえたのでしょう。
★お手紙の続きです。
『今秋は、雨が少なくてきのこは不作です。でも、人の入らないところでは、
一本のブナの倒木から、二キロぐらいもナメコが採れたりします。
今回の収穫は、六キロでした。
ナメコは、ブナにしか生えません。』
彼女は、開発の手からブナの森を守る活動も一生懸命なさっています。
歯に滲みるような美味しい日本酒の里として、東京ではつとに有名ですが、
この置賜地方は、溜息の出るような美しい山里です。
どの季節でも素晴らしい。
イザベラ・バードという英国人女性が1885年に出版しました
「日本奥地紀行」(平凡社ライブラリー)という本でも、
置賜を『実り豊かに微笑む大地。美しさ、勤勉、安楽さに満ちた魅惑的な地域。
アジアのアルカデヤ(桃源郷)』と書いています。
★彼女の「ベッチャー、日本を弾く」を聴いての感想です。
『まるでチェロの音色に、土産神が宿っているかのようです。
村の文殊堂のお祭り、外では祭囃子の笛、太鼓、耳元ではチェロ。
なかなかの調和でした。
次は、夏から晩秋までの二番を作っておられるのでは、と想像しています。
素敵な季語の組曲を楽しみにしております』。
そうです、組曲の二番を作り始めています。
しかし、これは、夏から晩秋ではありません。
それは、組曲三番で、存分に書くことになりそうです。
★二番の内容については、まだ内緒ですが、
出来ました部分を、ベッチャー先生にお送りしましたところ、
とても気に入っていただけました。
★彼女と一緒に、ブナを守る運動のリーダーをなさっている男性からも、
心温まるお便りを頂きました。
『葉山(地元の美しいブナの森)も紅く色づき、
間もなく落ち葉とともに、長い冬が訪れます。
光り輝く春のための眠りです。
組曲一番は、雪国のブナの山々を表現した珠玉のチェロ曲です。
“葉山讃歌”として、大切に聴かせていただいております』
★また、都内にお住まいのご高齢の女性からも、
「ベッチャーさんの、低く、深い、祈りの様な旋律を味わい、
美しく、懐かしく、素敵なうたに満ちた日本を、
しみじみと感じております」というお便りを頂きました。
★このように、熱心にお聴きいただき、そして心より喜んでいただけることは、
作曲家冥利に尽きます。
私のほうこそお礼を申し上げます。
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