音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■1小節目から突如転調する第11変奏、属調への急激な傾斜ーゴルトベルク変奏曲■

2016-07-28 00:00:00 | ■私のアナリーゼ講座■

■1小節目から突如転調する第11変奏、属調への急激な傾斜■
 ~前半クライマックスへ向けて爆走する前の「助走」~
ー第4回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座ー
               2016・7・28   中村洋子

 

 

★7月30日の第4回「ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座」では、

第10、11、12変奏曲を、勉強いたします。

ゴルトベルク変奏曲全30曲は、15曲ずつで前半と後半に分かれています。

前半最後の三曲セットの13、14、15変奏は、一度聴きましたら

忘れられないほど華やかで美しい曲です。


★その前の三曲が、今回の講座の曲ですが、一見しますと、

後に来る三曲に圧倒されているような印象をもたれがちですが、

この曲は、ゴルトベルク変奏曲の全体構想の中で、

やはり、肝心要の曲であると、私は感じております。

 

 


★前回ブログで「Variatio10」について、触れましたが、

ここでは、「Variatio11」の和音について、少し書いてみます。


G-Durト長調「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

冒頭の、主題「Aria」の1小節目は、主和音です。

 

 

 

 


★それに対し、G-Durト長調16分の12拍子の「Variatio11」は、

1小節目7拍目と9拍目に、G-Durの音階音ではない「cis¹」が、

唐突に、登場します。

この「cis¹」は、登場した瞬間は、「ドッペルドミナント」という横顔を、

見せています。

 

 

 

「ドッペルドミナント」につきましては、

私の著書「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の、

Chapter 4、123ページで、詳しく説明しております。

 


★面白いことに、この「Variatio11」までで、

1小節目に「cis」が登場しますのは、「Variatio1」のみです。

 

 

 

★「Variatio11」の1小節目7拍目で「ドッペルドミナント」が登場した、

と書きましたが、その場合、2小節目冒頭和音が「ドミナント」と

なります。

 

 


★しかし、その後の流れを追いますと、

2、3、4小節目の7拍目までは必ず「cis¹」となっています。

 

 

「cis¹」は、G-Durの音階音ではありませんので、

2小節目以降をG-Durとみなすのは、無理があります。

主調G-Durの属調である≪D-Dur≫と見るのが、妥当となります。


★結論から申しますと、1小節目の後半、即ち、

7拍目から「主調」を離れ、急激に「属調」に傾斜していくのです。


★これは「Variatio11」に限ったことでしょうか?

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」初版譜を見ますと、

「Variatio11」は、実は、見開き左ページの

3段目ほぼ真ん中から、始まっているのです。

その前の3段目前半は、「Variatio10」の最後の31、32小節目です。

 

 


★これは、通常ではないレイアウトです。

ゴルトベルク変奏曲全体を見ますと、このような変則的な始まり方を

しているのは、他に二つの変奏があるのみです。

その他の変奏は、各段の左端1段目から始めています。


★これは、大変に意図的なレイアウトで、

“「Variatie10」と「Variatie11」とが、がっちりと手を組んでいますよ”

というシグナルです。


★どうしてそのようにしたのか、「Variatio10」を子細に見ましょう。

25小節目の「cis」音が、カギです。

 

 

「Aria」から「Variatio9」までの当該箇所(小節)の音は、すべて、

「c」=ド♮であるのに対し、この「Variatio10」のみ、

「cis」=ド♯に、なっています。


★この「cis」音は、主調G-Durト長調の音階には、

存在しない音です。

 

 

しかし、ト長調の属調であるD-Durニ長調では、

 

 

「cis」は第7音(導音)として、燦然と輝く音なのです。

 

 

第7音(導音)は、次に来る音、

即ち主音を導く、大変に性格がくっきりとした音です。

ここに「cis」が突如出現することは、主調という強い引力から

ポンと飛び出そうとする強い遠心力が働いている、と言えます。

 

 


★この属調D-Durへの、急激な傾斜は、

「Variatio10 Fugetta」から、始まっていると言えます。

前回ブログで書きましたように、

「Subject 主題」と、「Answer 応答」というものが、

互いに≪5度の関係≫にあるということと、決して無縁ではない、

ということができると思います。

主調の≪5度上の調≫は、「属調」です。

11変奏は、10変奏から投影された曲なのです。

 

★「Variatio10 Fugetta」では、

Subject主題とAnswer応答の関係は、間隔が4小節ごとになっています。

それに対し、「Variatio11」は、1小節目冒頭に主和音が置かれるや否や、

1小節目後半で、気ぜわしく「属調」に転調します。

何かに向かって爆走しようとする前の「助走」と言えます。

それは、このうえなく華やかで美しい13、14、15変奏への

「序奏」でもあり「助走」でもあるのです。

ゴルトベルク変奏曲が、大きな構想によって、

全体が形作られているそのでもあるでしょう。

 

 


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■Bachはなぜ、ゴルトベルク変奏曲第10変奏を「Fugettaフゲッタ」にしたのか?■

2016-07-17 18:01:59 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachはなぜ、ゴルトベルク変奏曲第10変奏を「Fugettaフゲッタ」にしたのか?■
 ~嬉遊部もストレッタもないフゲッタは、神品に比すべき盤石な Fuga ~
 ー第4回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座ー
                2016・7・17       中村洋子

 

 

 


★Bachの「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

三曲ずつ1セットになっています。

各セットの3曲目はカノンです。

これにつきましては、私の訳しましたBärenreuterベーレンライター版

「Goldberg-Variationen」の「序文」と「訳者注」を、お読みください。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733634
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733635


各セットの1曲目を見ますと、「Goldberg-Variationen」の、

全体像が浮かび上がります。

例えば、第3番目のセットの最初は「第7番 Gigaジーグ」です。

なぜ、7番がジーグなのかにつきましては、

前回、第3回目のアナリーゼ講座で、詳細にご説明しました。


★さて、第4回のアナリーゼ講座は、第10、11、12変奏です。

Bachは、第10変奏に「Fugetta フゲッタ」というタイトルを、

自分で書いています。


Fugetta とは、小規模なフーガ、または「小フーガ」という

意味でしょう。

 

 


★この第10変奏では、4小節の主題が全32小節の中で、

8回次々と、登場します。

いつもどこかの声部で、主題が奏せられていることになります。

ということは、フーガの緊張感を和らげる効果をもつ

「episode 嬉遊部」が、全く存在しないことになります。

さらに、フーガの華である「stretta ストレッタ」も、ありません。


★この「episode 嬉遊部」と

stretta ストレッタ」につきましては、私の著書

「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」

Chapter 2、 41ページで解説しております。

 

 


★小規模なフーガであるため、「episode 嬉遊部」も

「stretta ストレッタ」もなくて当たり前・・・とも、

思われ勝ちですが、もし、そのような小さいだけのフーガ

であったならば、わざわざ全30変奏の、

ちょうど三分の一に当たる、極めて重要な「第10変奏」に、

Bachはわざわざ、小さく、ある意味で“不完全なフーガ”を、

配置しなかったでしょう。


★7月30日の第4回アナリーゼ講座では、

この4小節のフーガの主題を用いて、

型通りのフーガを作曲しましたら、どうなるかを、試みます。

 


実際に、私が作曲しましたフーガと、Bachの偉大な、

「第10変奏 Fugetta」とを、比較してみます。


★それにより、この「Fugetta」が、盤石なばかりか、

どこからも揺るぎない、あたかも、双葉山の「土俵入り」、

神品に比すべき「土俵入り」のような作品であることが、

分かってきます。


双葉山の「土俵入り」の素晴らしさにつきましては、私の著書

「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の

Chapter 3、91ページで書いておりますので、ご覧ください。


★この「Fugetta」を理解するための、前段として、

Fugaフーガの主題である Subject と 応答Answer について少々、

解説します。


フーガ曲頭にあります主調の主題「Subject」

 

 

を、そのまま「5度」高く移動しますと、

「Answer 応答」は、このようになります。

これを「real Answer 真正応答」と、呼びます。

 

 

 


★しかし、Bachは、このように作曲しています。

 

 

 

★これは、「alteration 変応」の技法を使った応答、つまり、

「調的応答 tonal Answer」とも、異なっているのです。

 

 


★アナリーゼ講座では、まず、

Fugaでの「alteration 変応」の由来と、その意味をご説明をし、

Bachがなぜ、「real Answer 真正応答」も、

「調的応答  tonal Answer」も、採用しなかったか?

そのことにより、この「稀有なFugetta」が、現出したか、

それを、どなたでも納得のいくご説明をいたします。

  

 

   
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■イタリア協奏曲1楽章、ゼクエンツが美しさをより明るく輝かす■

2016-07-09 18:37:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■イタリア協奏曲1楽章、ゼクエンツが美しさをより明るく輝かす■
~第2回イタリア協奏曲・アナリーゼ講座、構造を初版譜から読み解く ~


                2016.7.9  中村洋子

 

 

 

★これまでのブログで、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」第1巻3番に見られる、

Bachの「Sequenzゼクエンツ」について、分析してきました。


★それでは、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」はどうでしょうか?

第1楽章をみますと、Bach特有の美しいSequenz ゼクエンツが、

すぐに、見つかります。


★例えば、42小節目後半から43、44、45小節目にかけての

Sequenz ゼクエンツです。

 

(注:第1楽章の主調はF-Dur ですが、ここでは属調のハ長調
C-Durに転調しています。)

 

 

42小節目後半「Ⅰ」、43小節目「Ⅳ Ⅱ」、44小節目「Ⅴ Ⅲ」、

45小節目「Ⅵ ドッペルドミナント」という和声です。


各小節の1拍目だけ見ますと、[ Ⅳ - Ⅴ - Ⅵ ]の順になり、

2拍目だけ見ますと、[ Ⅰ - Ⅱ - Ⅲ - ドッペルドミナント]

になります。

ここでもし、機械的に割り振りますと、

[ Ⅰ - Ⅱ - Ⅲ - Ⅳ ]となります。

その場合は、このようになります。

 

 

 

Bachが書いた通りの、42小節目2拍目~45小節目にかけての

Sequenz ゼクエンツの和声要約をしますと、このようになります。

 

 


★もし、45小節目2拍目の和音を「Ⅳ」の和音にした場合、

和声要約は、このようです。

 

 


★この四つの譜例を、ゆっくりと弾いてください

45小節目後半の和音が、「Ⅳ」で「f²」であっても美しいのですが、

そこをもう一工夫し、Sequenz の「fis²」にしたことで、

さらに、絶妙な美しさとなります。

明るい中に、太陽の光がギラッと差し込むかのようです。

 

 


★この「ドッペルドミナント」という和音の詳しい説明は、

私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の、

Chapter 2 の Page 35~36 「ワルトシュタインと月光ソナタの

冒頭を和声分析すると・・・」に、詳しく説明されています。

 

 


★「ワルトシュタインソナタ 」第1楽章冒頭2小節目4拍目~

3小節目にかけての、

「ドッペルドミナント」から「ドミナント」への和声進行が、

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

第1楽章45~46小節目にかけての和声進行と、

全く同じであることが、よくお分かりになると思います。


★イタリア協奏曲はこうです。

 


  

ワルトシュタインの該当箇所は、ここです。

 

 

そこを和声要約しますと、

 

 

全く同じになります。

 

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■中村洋子 Bach《イタリア協奏曲》アナリーゼ講座
        
~第2回:イタリア協奏曲の 「構造」を、初版譜から読み解く~

・日  時 : 8月10日(水) 午前10時~12時30分
・会  場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
       
(尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
・予  約: Tel.076-262-8236 金沢ショップ

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★イタリア協奏曲アナリーゼ講座の第1回目では、
Bachの「後期和声様式」についてご説明し、

その和声をどう演奏に活かすかを、具体的にピアノで音にしながら、
耳と頭(理論)で体験していただきました。

第2回は、イタリア協奏曲第1楽章がどのような「構造」で成り立っているか・・・
第3回は、演奏するうえで、これまでの分析をどのように活かすか・・・
についてお話いたします。


★≪tutti(総奏)は強く、soloは弱く弾く・・・≫という、
固定観念に囚われていませんか?

それでは誰が弾いても、同じ単調な演奏となってしまいます。
Bachの豊潤な後期和声様式は、決して貧弱に縮こまったものではないのです。


★「盤石な構成」と「色彩豊かな和音」、
この二つが互いに照らし合うような演奏こそが、

この傑作の真価を発揮できる演奏といえます。
107小節目から110小節目にかけての、

美しい反復進行(Sequenz)を見てみましょう。

★和声進行を支えているバスのみを抽出してみますと、
旋律線を形成します。
これは、実は曲の構造の要であるmotifでもあるのです。

★Bach生前1735年に出版された初版譜を勉強することにより、
作曲家の意図した構造が、しなやかに
浮かび上がってきます。

 

 

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■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、
   東京で開催。

 自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
 「10 Duette fur 2Violoncelli
チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
  ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler  Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」の
  SACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
   (disk UNION : GDRL 1001/1002)。


・2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫

  ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
 (DU BOOKS社)を出版。


・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
   バッハ「ゴルトベルク変奏曲」
Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
 「訳者による注釈」を担当。

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第3回 イタリア協奏曲第1楽章 9月28日(水) 10:00~12:30 金沢ショップ
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※copyright © Yoko Nakamura    
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■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■

2016-07-03 23:52:10 | ■私のアナリーゼ講座■

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■
 ~名古屋・平均律アナリーゼ講座1巻4番cis-Moll のご案内~
           2016.7.3       中村洋子

 

 


★七月に入ったばかりですが、既に猛暑です。

今日は、蝉の初鳴きを聞きました。

先週6月29日は、名古屋で第3回平均律アナリーゼ講座、

「第1巻3番 Cis-Dur  Prelude & Fuga」を、開きました。


★名古屋は年3回ですので、講座のたびに、

久しぶりにお会いします受講生の方と「お元気でしたか」と、

和やかなご挨拶が飛び交います。


★毎回欠かさずに参加されますある方は、欧州旅行をされ、

BonnボンのBeethoven Haus ベートーヴェンハウスに、行かれたそうです。

「エリーゼのために の自筆譜facsimileを求めて参りました」と、

顔をほころばせていらっしゃいました。

「Für Elise エリーゼのために」 につきましては、私の著書

「クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!」で、

詳しく論じておりますので、是非、お読みください。

 


★この講座では、Bachの源流の一つである、

Johann Pachelbel ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)の

作品の解説と、平均律第1巻3番を源泉とした

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の「雨だれ」、

Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)の「月光ソナタ」が、

成立していく過程を、ピアノで音にしながら、お話しました。

 

★名古屋の次回10月26日(水)、

第4回平均律アナリーゼ講座でも、第1巻4番cis-Moll 嬰ハ短調を

基に、引き続き「月光ソナタ」や「雨だれ」について、

すべて 「Manuscript Autograph 自筆譜」facsimile により、

ご説明いたします。

 

 


平均律第1巻4番cis-Moll は、何か大変に深淵で、

容易に取り上げてはいけない、と思い込まされていませんか?


Preludeは、短調でありながら、とても親しみ易い舞曲です。

Pachelbel パッヘルベル由来の、心をとろかすような

Sequenzゼクエンツも、満載です。

Bachが、10歳になるかならないかの長男フリーデマンに

この曲を弾かせたのも、納得です。


★Chopinも、このPreludeを≪ Andante con moto ♩=92≫ で

弾いていました。

 

 

Andante con motoは、直訳しますと「動きをもったアンダンテ」。

おどろおどろしく、もったいぶった曲ではないのです。

Chopinは、Czernyチェルニー版の平均律第1巻で弾いていました。

このCzernyチェルニー版は、間違いが多い版でもありますが、

そこに、 Chopinはたくさんの書き込みをしています。


4番 Preludeは、冒頭を「」で始めています。

Chopinの自作品と同様、音楽が始まる前の拍子記号の

真下(真上)に「」を、書き込んでいます。


打鍵する前に「」を作りなさい、心の中で準備しなさい、

という意味でしょう。

slurスラーも、拍子記号の真上から始まっています。

ピアノで冒頭第1音が鳴らされる前から、

“既に、音楽は始まっていますよ!”という合図です。

 

 


★何故、 Chopinがこうしたのかということですが、

彼は、その前の第3番の Fugaを ♩=104 Allegro に設定しています。

そして、最終小節の55小節目の最後の音に、

sforzandoスフォルツァンド(その音を特に大きく)を、

記入しています。

 

 


3番Fugaフーガを弾き終え、続けて4番Preludeを

演奏する場合、4番をいきなり弾き始めるのではなく、

第1音の前に、「p」を心のの中でつくり、第1音「gis¹」を、

あたかも、その前から続いていた流れるように、

静かな旋律の途中の音のように、

アタックではなく、柔らかく弾き始めていた、ということでしょう。

 

★3番 Fuga 55小節目のチェルニー版は2拍目のdis¹の

音価(音の長さ)が間違っていますので、

Bachの自筆譜から正しい楽譜を写譜しておきます。

 

 

Chopinの自筆譜の読み方は、私の著作 Chapter 5 の166ページ

≪Chopin の幻想ポロネーズを自筆譜から読み込む≫

を、どうぞお読みください。

 

 

 

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中村洋子 バッハ 平均律 第1巻 4番 cis-Moll Prelude& Fuga アナリーゼ講座

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■
      ~Beethoven 月光ソナタは、4番が源泉~

日時 : 2016年 10月 26日(水) 10:00 ~ 12:30
会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

予約  : カワイ名古屋
 〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15
 Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427


★憂愁の霧に閉ざされたような、メランコリックな平均律第1巻

「4番前奏曲」は、実は、Bachの Französische Suite

フランス組曲の優美な舞曲と深く、関連しています。

この4番前奏曲と表裏一体の関係にある「3番フーガ」は、

明るく、軽やか、屈託がありません。


★このことからも、「4番前奏曲」を深刻に、重々しく弾く必要がない、

ことが分かります。

Bachは、この前奏曲 を、当時10歳前後だった長男のフリーデマンに

弾かせるため、1720年

「フリーデマンバッハのためのクラヴィーア小曲集」に、

この前奏曲を、ほぼそのまま収録しています。


★軽やかにして繊細な、この4番前奏曲は、

子供さんにこそ、弾いていただきたい曲です。
 
演奏法についても、分かりやすくお話いたします。
 
 
★解説書などには、“4番フーガの主題は、十字架の形をしている”

などと、もったいぶって“あなたには難しすぎる”と言わんばかりの、

衒学的な解説がなされているようです。

しかし、それに囚われる必要は全くありません。


★Bachの意図を理解するために、自筆譜の勉強が欠かせません。

また、Beethovenの月光ソナタ「Klavier sonate cis-Moll Op.27 Nr.2」は、

この平均律1巻4番を源泉としています。

月光ソナタの繊細な美しさこそ、この4番フーガの魅力の一面でもあるのです。

月光ソナタの自筆譜から読み取れることを、4番フーガに逆照射いたしますと、

さらに両曲の理解が、深まります。

■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数を発表。


2003年~05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。
07年:自作品「Suite Nr.1 fϋr 無伴奏チェロ組曲 第1番」などを
チェロの巨匠Woiggang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が
演奏したCD

『 W.Boettcher Plays JAPAN ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』
を発表。


08年:CD『龍笛&ピアノのためのデュオ』、CD『星の林に月の船』
(ソプラノとギター)を発表。

08~09年:「Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien   Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、
 KAWAI表参道で開催。

09年:「Suite Nr.1 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第1番」を、
 ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

10~12年:「Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ Analysis   平均律クラヴィーア曲集 第1巻 アナリーゼ講座」全24回を、KAWAI表参道で開催。

10年:CD『Suite Nr.3 & 2 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番、2番』Wolfgang Boettcher演奏を発表。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」をドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年:「10 Duette fϋr 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」を、
 ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

12年:「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)を Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版」
13年:CD『Suite Nr.4 & 5 & 6 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第4,5,6番』Wolfgang Boettcher演奏を発表。
「Suite Nr.3 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番」を、ベルリン・リース&エアラー社「 Ries & Erler Berlin」から出版。
 14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」の楽譜を、ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。 SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

16年:ドイツの「ベーレンライター出版社」が刊行した J.S.バッハ(原典版)「ゴルトベルグ変奏曲」など、バッハ鍵盤作品の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。

著書『クラシック音楽の真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』
(DU BOOKS)を出版。
 CD『 Mars 夏日星』を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/


 

 

 

 

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