■ピアノトリオ「荒城の月幻想」が再演されました■
08.11.30 中村洋子
★最近は、バッハのヴァイオリン無伴奏ソナタと
パルティータを、CDでよく聴いております。
無伴奏チェロ組曲ですと、カザルスとデュプレ。
残念ながら、デュプレは、1番、2番しか録音を残していません。
★ヴァイオリンの無伴奏ソナタとパルティータは、
メニューインとエネスコ(1881~1955)を愛聴しています。
メニューイン(1916~1999)は、エネスコに師事していますから、
偉大なる師弟の演奏、ということになります。
★私は、メニューインがバッハを演奏したCDは、2種類もっています。
一つは、「SOLI DEO GLORIA J.S.BACH」
(Membran Music Ltd)という、10枚セットに含まれているCDです。
もう一つは、「EMI クラシックス」のものです。
★前者は、戦前の1934~36年にかけての演奏で、
パルティータの1番と3番、及び、2番のシャコンヌのみです。
EMIは、1956年と57年に、ロンドンで録音されています。
いずれも名演ですが、私は、音質が悪いとはいえ、
戦前の録音に、深く心を打たれます。
★このメニューインのバッハは、
迫り来る戦争を前にした、暗い世の中にあって、
生きるうえで、バッハを必要とし、
バッハを弾き、バッハを聴くことによってしか、
耐えることができないほど厳しい時代であった、
という印象をうける、渾身の演奏である、と思われます。
★この時代につきましては、今月に見ました
「帝国オーケストラ」というドイツの映画で、
よく察することができます。
ヒトラー政権下のベルリンフィルについて、存命中の、
当時の楽団員とその家族に対するインタビューと証言、さらに、
残された歴史的フィルムも合わせ、
音楽界の置かれていた状況を、的確に描いています。
★先ほどの10枚セット
「SOLI DEO GLORIA J.S.BACH」のCDは、
第二次世界大戦前後の、歴史的名演を集めたCD集です。
私が、それを購入しましたときの定価は、
驚くべきことに、2415円でした。
半信半疑で、求めたのですが、
≪人類が誇るべき20世紀の遺産≫と、いうべき名演ばかりでした。
このような価格で販売されるということには、
複雑な思いを禁じえません。
★例えば、9枚目と10枚目の「マタイ受難曲」(1941年録音)は、
ギュンター・ラーミン指揮の
「ライプチッヒゲバントハウス」管弦楽団、
エヴァンゲリスト(福音史家)は、カール・エルプ Karl Erb、
バリトンは、ゲルハルト・ヒュッシュ Gerhard Husch。
エルブは、日本ではほとんど知られていませんが、
最高の福音史家といわれ、その気高く、高潔で、さらに
甘美さをも備えた歌は、追随を許さないものです。
このCDで、エルプとヒュッシュの二重唱も味わえます。
★私は、エルプについて、かつて中山悌一先生から詳しく伺い、
エルプの録音があれば、入手するように心がけ、その演奏を
心から尊敬してきました。
★ヒュッシュは、戦後間もなくドイツに留学されていた
中山先生を、わざわざ車で、エルプの家まで連れて行き、
レッスンを受けさせてくださったそうです。
エルプは、ほとんど音楽の専門教育を受けずに、
世紀の大芸術家になった人です。
若いころ、声楽の個人レッスンを
数回受けただけで、先生と喧嘩をしてしまい、
それ以後は、独学だったということです。
★横道にそれましたが、3枚目の協奏曲のCDには、
バイオリン協奏曲(BWV1041、1042)を、
メニューインが、弾いております。
★このほか、カザルスの無伴奏チェロ組曲1、2、3番や、
アルベルト・シュバイツァーのオルガン、
アドルフ・ブッシュのドッペルコンチェルトニ短調、
ワンダ・ランドフスカのゴールドベルク変奏曲、
フリッツ・ライナー指揮のブランデンブルク協奏曲なども、
入っています。
★第二次世界大戦前後は、20世紀で人類が直面した
最も困難な時代、残虐な時代でした。
ところが、その時代に録音され、幸いなことに現在まで
残っているこれらの演奏は、これから、ますます光り輝き、
我々が、これからも未来永劫、大切に聴き続けていくべき、
人類の宝である、と思います。
★ベッチャー先生から、昨夜、ご連絡があり、
今夏、草津音楽祭で、サシュコ・ガブリロフ(ヴァイオリン)、
フェレンツ・ボーグナー(ピアノ)、W.ベッチャー(チェロ)の
三重奏で初演していただきました、私の作品「荒城の月幻想」が、
昨日(08.11.29)ベルリン近郊・グリニッケ Glienickeの、
お城コンサートで、再演されたそうです。
Konzerte Schloss Glienicke.
本日(11・30)も同じ演奏会があるそうです。
★今回は、ベッチャー先生のご姉妹の
マリアンネ Marianne Boettcherさん(ヴァイオリン)、
ウルズラ・トレーデUrusula Trede-Boettcherさん(ピアノ)の
「トリオ・ベッチャー Trio Boettcher」です。
「Also my sisters love the piece」とおしゃっており、
ご姉妹も、「荒城の月幻想」を気に入られたようです。
★また、ベッチャー先生は、今週の12月5日にも、
私の「無伴奏チェロ組曲1番」を、
オスナブリュック Osnabruck という町で、
演奏してくださるそうです。
★ドイツ西部のメルヘン街道にほど近い
ニーダーザクセン州にあるこの町は、
17世紀の30年戦争(1618~48)に、終結をもたらした
ウェストファリア条約が締結された町です。
30年戦争は、ドイツだけでなく、全ヨーロッパも巻き込み、
ドイツは「3千万人だった人口が半分になった」と、
いわれるほど、破壊尽くされました。
このため、オスナブリュックは『平和の町』ともいわれます。
「西部戦線異状なし」の作者・レマルクは、この町で生まれました。
★バッハは、30年戦争の復興期である1685年に生まれ、
教会が再建されたり、オルガンが据え付けられ、
ドイツが立ち直っていく時代に、育ちました。
きっと、バッハは幼いころ、30年戦争の悲惨さを、
聞かされたことでしょう。
★今週は、ドイツで3回も、私の作品が演奏されます。
9月の、ベルリン「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」といい、
今回のオスナブリュックといい、平和を祈念する場で、
演奏していただくことを、うれしく思っています。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
08.11.30 中村洋子
★最近は、バッハのヴァイオリン無伴奏ソナタと
パルティータを、CDでよく聴いております。
無伴奏チェロ組曲ですと、カザルスとデュプレ。
残念ながら、デュプレは、1番、2番しか録音を残していません。
★ヴァイオリンの無伴奏ソナタとパルティータは、
メニューインとエネスコ(1881~1955)を愛聴しています。
メニューイン(1916~1999)は、エネスコに師事していますから、
偉大なる師弟の演奏、ということになります。
★私は、メニューインがバッハを演奏したCDは、2種類もっています。
一つは、「SOLI DEO GLORIA J.S.BACH」
(Membran Music Ltd)という、10枚セットに含まれているCDです。
もう一つは、「EMI クラシックス」のものです。
★前者は、戦前の1934~36年にかけての演奏で、
パルティータの1番と3番、及び、2番のシャコンヌのみです。
EMIは、1956年と57年に、ロンドンで録音されています。
いずれも名演ですが、私は、音質が悪いとはいえ、
戦前の録音に、深く心を打たれます。
★このメニューインのバッハは、
迫り来る戦争を前にした、暗い世の中にあって、
生きるうえで、バッハを必要とし、
バッハを弾き、バッハを聴くことによってしか、
耐えることができないほど厳しい時代であった、
という印象をうける、渾身の演奏である、と思われます。
★この時代につきましては、今月に見ました
「帝国オーケストラ」というドイツの映画で、
よく察することができます。
ヒトラー政権下のベルリンフィルについて、存命中の、
当時の楽団員とその家族に対するインタビューと証言、さらに、
残された歴史的フィルムも合わせ、
音楽界の置かれていた状況を、的確に描いています。
★先ほどの10枚セット
「SOLI DEO GLORIA J.S.BACH」のCDは、
第二次世界大戦前後の、歴史的名演を集めたCD集です。
私が、それを購入しましたときの定価は、
驚くべきことに、2415円でした。
半信半疑で、求めたのですが、
≪人類が誇るべき20世紀の遺産≫と、いうべき名演ばかりでした。
このような価格で販売されるということには、
複雑な思いを禁じえません。
★例えば、9枚目と10枚目の「マタイ受難曲」(1941年録音)は、
ギュンター・ラーミン指揮の
「ライプチッヒゲバントハウス」管弦楽団、
エヴァンゲリスト(福音史家)は、カール・エルプ Karl Erb、
バリトンは、ゲルハルト・ヒュッシュ Gerhard Husch。
エルブは、日本ではほとんど知られていませんが、
最高の福音史家といわれ、その気高く、高潔で、さらに
甘美さをも備えた歌は、追随を許さないものです。
このCDで、エルプとヒュッシュの二重唱も味わえます。
★私は、エルプについて、かつて中山悌一先生から詳しく伺い、
エルプの録音があれば、入手するように心がけ、その演奏を
心から尊敬してきました。
★ヒュッシュは、戦後間もなくドイツに留学されていた
中山先生を、わざわざ車で、エルプの家まで連れて行き、
レッスンを受けさせてくださったそうです。
エルプは、ほとんど音楽の専門教育を受けずに、
世紀の大芸術家になった人です。
若いころ、声楽の個人レッスンを
数回受けただけで、先生と喧嘩をしてしまい、
それ以後は、独学だったということです。
★横道にそれましたが、3枚目の協奏曲のCDには、
バイオリン協奏曲(BWV1041、1042)を、
メニューインが、弾いております。
★このほか、カザルスの無伴奏チェロ組曲1、2、3番や、
アルベルト・シュバイツァーのオルガン、
アドルフ・ブッシュのドッペルコンチェルトニ短調、
ワンダ・ランドフスカのゴールドベルク変奏曲、
フリッツ・ライナー指揮のブランデンブルク協奏曲なども、
入っています。
★第二次世界大戦前後は、20世紀で人類が直面した
最も困難な時代、残虐な時代でした。
ところが、その時代に録音され、幸いなことに現在まで
残っているこれらの演奏は、これから、ますます光り輝き、
我々が、これからも未来永劫、大切に聴き続けていくべき、
人類の宝である、と思います。
★ベッチャー先生から、昨夜、ご連絡があり、
今夏、草津音楽祭で、サシュコ・ガブリロフ(ヴァイオリン)、
フェレンツ・ボーグナー(ピアノ)、W.ベッチャー(チェロ)の
三重奏で初演していただきました、私の作品「荒城の月幻想」が、
昨日(08.11.29)ベルリン近郊・グリニッケ Glienickeの、
お城コンサートで、再演されたそうです。
Konzerte Schloss Glienicke.
本日(11・30)も同じ演奏会があるそうです。
★今回は、ベッチャー先生のご姉妹の
マリアンネ Marianne Boettcherさん(ヴァイオリン)、
ウルズラ・トレーデUrusula Trede-Boettcherさん(ピアノ)の
「トリオ・ベッチャー Trio Boettcher」です。
「Also my sisters love the piece」とおしゃっており、
ご姉妹も、「荒城の月幻想」を気に入られたようです。
★また、ベッチャー先生は、今週の12月5日にも、
私の「無伴奏チェロ組曲1番」を、
オスナブリュック Osnabruck という町で、
演奏してくださるそうです。
★ドイツ西部のメルヘン街道にほど近い
ニーダーザクセン州にあるこの町は、
17世紀の30年戦争(1618~48)に、終結をもたらした
ウェストファリア条約が締結された町です。
30年戦争は、ドイツだけでなく、全ヨーロッパも巻き込み、
ドイツは「3千万人だった人口が半分になった」と、
いわれるほど、破壊尽くされました。
このため、オスナブリュックは『平和の町』ともいわれます。
「西部戦線異状なし」の作者・レマルクは、この町で生まれました。
★バッハは、30年戦争の復興期である1685年に生まれ、
教会が再建されたり、オルガンが据え付けられ、
ドイツが立ち直っていく時代に、育ちました。
きっと、バッハは幼いころ、30年戦争の悲惨さを、
聞かされたことでしょう。
★今週は、ドイツで3回も、私の作品が演奏されます。
9月の、ベルリン「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」といい、
今回のオスナブリュックといい、平和を祈念する場で、
演奏していただくことを、うれしく思っています。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲