■イタリア協奏曲にも「2度のにじみ」、「反復進行」の重みと奥深さ■
~ 第1回金沢「イタリア協奏曲・アナリーゼ講座」~
2016.5.30 中村洋子
★新緑と薫風の五月もあとわずか。
風は、六月の湿りを孕んでいます。
★6月1日は、 KAWAI 金沢での「Italienisches Konzert
イタリア協奏曲」の、アナリーゼ講座です。
「イタリア協奏曲」は、東京、名古屋と講義を重ね、
今回で3回目です。
これまで第1楽章で1回、第2楽章は2回目という形で進めました。
★しかし、Bachの傑作を1回2時間半でお話するのは、
至難の技でした。
今回は、ゆっくり、じっくり、ディスカッションも交え、
第1楽章だけで2回、あるいは3回の講座を予定しています。
1日の第1回は、Bachの「和声」についてお話する予定です。
★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」
(Italian Concerto)は、「Zweyter Theil der Clavierübung
クラヴィーアユーブンク 2巻」の、前半の曲です。
後半は、「Ouverture nach Französischer Art
フランス風序曲」です。
★この「Zweyter Theil der Clavierübung
クラヴィーアユーブンク 2巻」は、1735年に出版され、
1736~37年にかけて、重版されています。
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は
「Vierter Theil der Clavierübung クラヴィーアユーブンク4巻」
のことで、 1741~42年の間に出版されています
(初版譜には、「der Clavierübung クラヴィーアユーブンク」
としか記されていません)。
★5月6日のブログで、「Goldberg-Variationen
ゴルトベルク変奏曲」の≪2度のにじみ≫について、
お話いたしました。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20160506
★Bachは、イタリア協奏曲を1ページ8段、
縦長のレイアウトで記しています。
1ページ目の8段目冒頭の「42小節目」に、
“にじみ”のような「2度」が、あります。
★6段目中ほどの「34小節目」にも、同様に≪2度のにじみ≫が
ありますが、楽譜を開いた時、目に飛び込んでくるのは、やはり、
最下段8段目「42小節目」でしょう。
なぜなら、冒頭「第1小節目」の、実にシンプルな主和音に比べ、
この「42小節目」は、大変にある種の雰囲気を漂わせています。
つまり、冒頭と42小節目とを、対比させているといえます。
★この譜は、初版譜を、私が写したものです。
初版譜の左手下声部分は、ここではアルト記号ですので、
読者の利便性を考慮して、現在の実用譜風に書き直したものが、
この譜です。
★これにつきましては、5月6日のブログを詳しくお読みいただければ、
理解できると思いますが、
42小節目1拍目のテノール声部「d¹」は、
F-Durの「ドミナントⅤ」の構成音、
「c¹」に対する「倚音」です。
★その本来解決すべき「c¹」が、42小節目1拍目バス声部に
存在するため、この42小節目1拍目のバスとテノールが
「長2度」の関係で、ぶつかり合うのです。
★冒頭第1小節目の、はっきりした主和音「Ⅰ」と、
好対照を成しています。
イタリア協奏曲は、 Clavierübung クラヴィーアユーブンク2巻、
ゴルトベルク変奏曲は Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク4巻として
出版され、出版年月も6~7年の間隔しかありません。
これは、Bachのその年代の様式の一端と見ることも出来るでしょう。
★42小節目2拍目から45小節目1拍目の4小節間は、
「Sequenz 反復進行(同型反復)」です。
この4小節間の和声を要約しますと、このようになります。
4分音符2個分の和声を一つの単位とし、
それを、高さを2度上に移動しながら反復します。
「Haimonische Sequenq 和声的反復進行」とも言います。
★この42小節目2拍目から45小節目の「反復進行」は、
譜に赤で括りましたように、[Ⅰ Ⅳ] [Ⅱ Ⅴ] [Ⅲ Ⅵ]
という単位で、機械的に反復しているように見えます。
しかし、43、44、45小節目の上声に書き込まれたスラーに合わせて、
和声を区切りますと、緑色で括りましたように、
[Ⅳ Ⅱ] [Ⅴ Ⅲ] [Ⅵ・・・] という区切り方も、否定できません。
★そこを、どのように解釈し、演奏に活かすか、
それこそが、Bachの≪counterpoint 対位法≫を理解する要諦でしょう。
講座で、詳しくお話いたします。
★「反復進行」につきましては、私の著書
≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の
Chapter5 「Chopinの幻想ポロネーズを自筆譜から読み込む」の中で、
特に、169ページで説明しています。
★この「幻想ポロネーズ」を、
フランスの出版社から出した際の自筆譜と、
その後、ドイツの出版社から出した際の自筆譜とでは、
「反復進行」が、変化しています。
後の方が進化していると、言えます。
★「反復進行」は作曲家にとって、大変に重要で、
その奥深さを垣間見ることのできるいい例であると、思います。
なぜなら、「反復進行」に扱い方により、
ディナミーク、エクスプレッション、構造まで、
すべてがガタガタを音を立てるように、変わっていくからです。
その源はやはり、Bach の「反復進行」にある、と言えます。
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