音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■イタリア協奏曲にも「2度のにじみ」、「反復進行」の重みと奥深さ■

2016-05-30 23:08:20 | ■私のアナリーゼ講座■

■イタリア協奏曲にも「2度のにじみ」、「反復進行」の重みと奥深さ■
    ~ 第1回金沢「イタリア協奏曲・アナリーゼ講座」~
                2016.5.30   中村洋子

 

 


★新緑と薫風の五月もあとわずか。

風は、六月の湿りを孕んでいます。


★6月1日は、 KAWAI 金沢での「Italienisches Konzert

イタリア協奏曲」の、アナリーゼ講座です。

「イタリア協奏曲」は、東京、名古屋と講義を重ね、

今回で3回目です。

これまで第1楽章で1回、第2楽章は2回目という形で進めました。


★しかし、Bachの傑作を1回2時間半でお話するのは、

至難の技でした。

今回は、ゆっくり、じっくり、ディスカッションも交え、

第1楽章だけで2回、あるいは3回の講座を予定しています。

1日の第1回は、Bachの「和声」についてお話する予定です。


★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

(Italian Concerto)は、
「Zweyter Theil der  Clavierübung 

クラヴィーアユーブンク 2巻」の、前半の曲です。

後半は、「Ouverture nach Französischer Art

フランス風序曲」です。


★この「Zweyter Theil der  Clavierübung 

クラヴィーアユーブンク 2巻」は、1735年に出版され、

1736~37年にかけて、重版されています。

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は

「Vierter Theil der Clavierübung クラヴィーアユーブンク4巻」

のことで、 1741~42年の間に出版されています

(初版譜には、「der Clavierübung クラヴィーアユーブンク」

としか記されていません)。


★5月6日のブログで、「Goldberg-Variationen 

ゴルトベルク変奏曲」の≪2度のにじみ≫について、

お話いたしました。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20160506

 

 

 


★Bachは、イタリア協奏曲を1ページ8段、

縦長のレイアウトで記しています。

1ページ目の8段目冒頭の「42小節目」に、

“にじみ”のような「2度」が、あります。


★6段目中ほどの「34小節目」にも、同様に≪2度のにじみ≫が

ありますが、楽譜を開いた時、目に飛び込んでくるのは、やはり、

最下段8段目「42小節目」でしょう。

なぜなら、冒頭「第1小節目」の、実にシンプルな主和音に比べ、

この「42小節目」は、大変にある種の雰囲気を漂わせています。

つまり、冒頭と42小節目とを、対比させているといえます。


★この譜は、初版譜を、私が写したものです。

 

初版譜の左手下声部分は、ここではアルト記号ですので、

読者の利便性を考慮して、現在の実用譜風に書き直したものが、

この譜です。

 

★これにつきましては、5月6日のブログを詳しくお読みいただければ、

理解できると思いますが、

42小節目1拍目のテノール声部「d¹」は、

F-Durの「ドミナントⅤ」の構成音、

「c¹」に対する「倚音」です。

 

 

★その本来解決すべき「c¹」が、42小節目1拍目バス声部に

存在するため、この42小節目1拍目のバスとテノールが

「長2度」の関係で、ぶつかり合うのです。


冒頭第1小節目の、はっきりした主和音「Ⅰ」と、

好対照を成しています。

イタリア協奏曲は、 Clavierübung クラヴィーアユーブンク2巻、

ゴルトベルク変奏曲は Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク4巻として

出版され、出版年月も6~7年の間隔しかありません。

これは、Bachのその年代の様式の一端と見ることも出来るでしょう。

 

 


42小節目2拍目から45小節目1拍目の4小節間は、

「Sequenz 反復進行(同型反復)」です。

 

 

この4小節間の和声を要約しますと、このようになります。

 

4分音符2個分の和声を一つの単位とし、

それを、高さを2度上に移動しながら反復します

「Haimonische Sequenq 和声的反復進行」とも言います。


★この42小節目2拍目から45小節目の「反復進行」は、

譜に赤で括りましたように、[Ⅰ Ⅳ] [Ⅱ Ⅴ] [Ⅲ Ⅵ]

という単位で、機械的に反復しているように見えます

しかし、43、44、45小節目の上声に書き込まれたスラーに合わせて、

和声を区切りますと、緑色で括りましたように、

[Ⅳ Ⅱ] [Ⅴ Ⅲ] [Ⅵ・・・] という区切り方も、否定できません

 

 


★そこを、どのように解釈し、演奏に活かすか、

それこそが、Bachの≪counterpoint 対位法≫を理解する要諦でしょう。

講座で、詳しくお話いたします。

 

 


★「反復進行」につきましては、私の著書

≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の

Chapter5 「Chopinの幻想ポロネーズを自筆譜から読み込む」の中で、

特に、169ページで説明しています。


★この「幻想ポロネーズ」を、

フランスの出版社から出した際の自筆譜と、

その後、ドイツの出版社から出した際の自筆譜とでは、

「反復進行」が、変化しています。

後の方が進化していると、言えます。


★「反復進行」は作曲家にとって、大変に重要で、

その奥深さを垣間見ることのできるいい例であると、思います。

なぜなら、「反復進行」に扱い方により、

ディナミーク、エクスプレッション、構造まで、

すべてがガタガタを音を立てるように、変わっていくからです。

その源はやはり、Bach の「反復進行」にある、と言えます。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
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■Goldberg変奏曲の「反復」に深い意味、ケンプ「Für Elise」にその答え■

2016-05-21 23:19:05 | ■私のアナリーゼ講座■

■Goldberg変奏曲の「反復」に深い意味、ケンプ「Für Elise」にその答え■
   ~アマゾンに素晴らしいブックレビューが投稿されました~

            2016.5.21   中村洋子

 

 

★前回の「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座の、

アンケートに、次のようなご質問が書かれていました。

『Ariaだけでなく、すべてのVar.にリピート記号が付いてます。
第一括弧 、第二括弧の曲もありますので、
単に形式的なものではないと思いますが、
何か意味があるのでしょうか』


★ゴルトベルク変奏曲のテーマであるAria(全32小節)は、

前半16小節を反復し、後半16小節も反復しますので、

実は64小節のテーマです。


★講座で既にお話いたしました第1~6変奏につきましても、

第1、3、5変奏は、Ariaと同じように、前半16小節、後半16小節を

反復します。


第2、4、6変奏は、前半と後半で各々、「第1括弧」と「第2括弧」が、

指定されています。

そして、第7変奏以降15変奏まで、ずっと規則正しく前半を反復し、

後半もまた反復します。


★しかし、それは本当に「規則正しい」反復なのでしょうか?

凡庸な変奏曲でしたら、規則的な反復ですが、

この「ゴルトベルク変奏曲」は、親しみやすい外見とは裏腹に、

強固な構造、構成で聴かせる曲です。

 

 


★その各変奏も、一般的な変奏曲とは、全く異なります。

ゴルトベルク変奏曲の、ある変奏の出だしは、

その前の変奏の最後に、接続します。

そして、その変奏の前半を弾き終え、反復に移る際は、当然のことですが、

前半の変奏の最後の部分に接続して、弾き始められます。


★それが意味することは、同じ部分の反復でありながら、

音楽の流れから見ますと、

全く異なった構成上の位置、つまり、結果的に異なった意味となるのです。

当然、演奏も同一のものでは、あり得ません。


★それにつきましては、まず、私の著書

≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫Chapter 1

「エリーゼのために」の7小節目「ミドシ」は誤り、「レドシ」が正しい>を、

よく、お読みください。


★特に、P18に記しました

Wilhelm Kempff ヴィルヘルム・ケンプ(1895-1991)の

「第1括弧と第2括弧の解釈」を熟考され、それをヒントにして、

「ゴルトベルク変奏曲」での「反復」の意味を、お考えください。

 

 

 


Kempffは、「エリーゼのため」の単純な反復部分での、

第1括弧と第2括弧の意味の違いを、読み取ることにより、

驚くような解釈と演奏を実現させています。


★上記原稿は、1964年のハノーファーでの演奏を基にして書きました。
                                                                   CD(POCG 90112)

Kempffは実は、その約10年前の1955年にも「エリーゼのために」を、

録音しています(DECCA 480 1288)。
       

1955年の古い録音では、Kempff は7小節目 「レドシ」を、

「ミドシ」で弾いています。

Beethoven 自筆のDraftを知る以前だったのでしょう。


この演奏も優れていますが、

1964年録音の 私は反復をこのように解釈しました” という

確固たる演奏と比べますと、やや単調です。


聴く側の印象としましては、

後の演奏は、自由自在に Beethoven の世界に羽ばたき、

遊んでいるという、楽しさを感じさせるのですが、

その楽屋裏では、思考に思考を重ね、

彫刻家が塑像を彫琢していくようにして、

たどり着いた結論と言えます。

 

 


★反復記号一つ取りましても、それをどう扱うかにより、

演奏家の力量が問われるという具体例でしょう。 


Sviatoslav  Richterスヴャトスラフ・リヒテル(1915-1997)が、

Franz  Schubert(1797~1828)シューベルトの

長大なピアノソナタだけでなく、

作曲家が書いた反復記号は、すべてその通り弾くべきであると、

たびたび言及してますが、その意味をかみしめるべきです。


★ところで、私の本に対する、アマゾンのブックレビューが、

新しく投稿されました。

以下がそのレビューです。

深く理解していただき、喜んでおります。

 

 

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■本物とは何か。本当に音楽を愛するとは
             投稿者  abicat  投稿日 2016/5/19
 
1980年~クルトホフマンとの対談の中で、F.Guldaはスピード競争化した
社会の中で音楽もまた本来持っていた豊かさや愛情などが置き去りされてしまったと
指摘している。

21世紀を16年過ぎた今状況はさらに深刻だ。

本書の中で紹介されているアファナシエフの『ピアニストのノート』
(講談社選書メチエ)
からの言葉―『今や音楽は内側からも外側からも破壊されている。
アーティストが内側から。
聴衆が外側から破壊する』
これは著者自身の嘆きでもあるだろう。

クラシック音楽を勉強(演奏)する意味をみつけたい人、
あるいは音楽と関係なく今の社会に言いようのない息苦しさを感じる人に
本書は最適な道案内となるのではないか。

この本は『本物とは何か。本当に音楽を愛するとは』という主題のもとに編まれた
9章64編の変奏曲のようだ。
各章末には著者の身辺所感が書いてあり、それらは全てテーマと無関係ではない。

西洋音楽を学ぶということは誰かの真似ではなく、思考した結果自分の音楽を作ること、
その為の必要な二つの柱、和声と対位法を学ぶにはバッハの音楽を
自筆譜から丹念に読み込む以外道はないとある。
そこで勘違いしてはならないのはタイトルの意味するところであろう。
自筆譜には当然ながら当時の演奏習慣(例えばリズムなど)を含め全てが
書かれているわけではない。
それらは自ら学んで身につけるものだ。
著者が言うのは、自筆譜及びメモを含めた関係書全てを読み取り、
理解した上で作曲家と作品に対する自分のスタンダードを確立せよ
ということではないか。

ではなぜバッハなのか?

それはどんな偉大な作曲家も先人から学ばなかった作曲家はなく、
音楽の長い歴史の中でバッハから真のレパートリーが始まったからであろう。
演奏はその時代に応じて時々に変化するがバッハの音楽自身は普遍にあらゆる面で
圧倒的な強さを持って迫ってくる。

この本には音楽を読み込む為の具体例として豊富な譜例と考察、校訂版の紹介、
練習方法に至るまで幅広く網羅されている。
優しく語りかけるように綴られた本書は、入門書の形を取っているが
極めて高度な専門書というべきであろう。
著者が読者に向ける眼差しは温かいが、学ぶ姿勢に対する要求は非
常に厳しいものがある。

なにもそこまでしなくてもよいではないか、
その時の心境、雰囲気に応じ気軽に音楽を楽しみたいという人も、
もちろん多くおられることだろう。否定するものではない。

でも、本物とは何かを知りたい、
自分の演奏に確かな手応えを感じたい、生きる意義(味)や喜びを
見出したい人には
本書を強くお勧めする。
特に私のようにレビューを参考にこれから購入しようとする人は、
直接自分の目で読んで判断することが大切だと思う。
この本は読むことが必ずやひとつの豊かさになる、
肯定するにしろ批判するにしろ読んだ経験のあるのと知らずに終わるのでは
全く違う、
そんな本である。

 

 

ここで著者と複数の方の名誉の為に一言申し述べたい。
本書を繰り返し読んでみたが、あるレビュアーが書いているように
個人名を挙げ
批判するような文章はどこにも見当たらなかった。
実名を挙げられた方も困惑することだろう。
確かに日本におけるバッハ演奏、専門書の問題点には触れている。
が、このレビュアーが書いていることは根拠のないものである。
事実に反することは控えるべきできである。
個人的な感想を書くのは勝手だが、公にする以上自身の文章には
責任が伴うことを自覚されたい。

いつの時代も真面目に書かれた作品、演奏は真面目に
受け取られるべきである。

どんな最良の言葉も読み取る力のない者には虚しくひびくだけ、
とは誰の言だったか。
真意が伝わらないことは残念なことである。

ショーンバーグはかつてその著書で『どんな芸術を鑑賞するにしても、
鑑賞者が作者の精神過程と一体化することが鍵となる。
音楽の持つ微妙なニュアンスはバッハ時代の教会や精神生活と
一体化できる人でなければ完全に理解できない』と書いた。

伝記を読むとバッハは音楽を神性のものとして、
音楽の目的とその最終的存在理由は『神の栄光をたたえ精神を
再創造すること』だと
信じていたそうである。
『単に音を弾くだけでなく、その作品の意味、感情に訴える点など情緒を
表現しなければならない(弟子への言葉)』

本書には大バッハに対する愛と尊敬、敬謙さが溢れている。
著者はまぎれもなくバッハの系譜に連なる人だろう。

現在の効率主義的社会の中で、我々はグルダの言った
『失われた喜びや愛情』を
取り戻すことができるのだろうか。
それに対するアファナシエフの答えは悲観的だ。

『ローマは一日にしてならず』
しかしそれを建てようとした人達がいたことも事実。

この本と共に希望を持って学んでいきたい。

続編を期待するものである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★私の本を、ここまで深く読み込んで頂きますと、

本当に、苦労して出版した甲斐がありました。

とても嬉しいです。

 

 


※copyright © Yoko Nakamura
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■Bachの後期は「近親転調」「限定した和声」を使い、最大限の自由を獲得■

2016-05-17 13:02:05 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachの後期は「近親転調」「限定した和声」を使い、最大限の自由を獲得■
    ~第3回ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座のご案内~

                2016.5.17        中村洋子

 

 


5月14日の第2回「ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座」では、

1720年代初期と、1740年前後のBachの様式の相違について、

お話いたしました。


1720年代初期とは、

1722年「Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻」 、

1723年「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」が、

完成された頃です


1740年前後とは、

「Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第2巻」、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」が、

完成された時期です。


1740年前後の Bach の様式は、

「近親転調」と、「限定した和声」を使うことにより、

最大限の≪自由≫を獲得することにありました。


平均律1巻の Fuga フーガは、「2声」、「3声」、「4声」、「5声」と、

四種もあり、多彩です。

一方、平均律2巻は、転調も近親調が多く、あっと驚く転調はありません。

2巻の Fuga も、「3声」と「4声」のみです。

※(平均律2巻の和声につきましては、私の著書
≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫
                Chapter4をご覧下さい)

 


★華やかな転調や和声が無いとしましたら、その曲の魅力は一体、

どこにあるのでしょうか?


目もくらむような転調や、華麗な和声に加え、

複雑な構造が加わりますと、

奏者は、その構造をどう表現するかまでは、神経が行き届かなくなります。

さらに、聴く側も、Bachの素晴らしい転調、和声に気を取られ、

その構造を聴き取ることにまで、集中できなくなります。

結果として、かえって散漫な印象を与えかねない、ということになります。


★逆に、和声、転調を、≪切り詰めた狭い世界≫の範囲で動かすことにより、

構造が明確に浮かび上がります。

これが、Bachの後期の様式です。

Bachの音楽が分かりやすく、誰が聴いても美しいと感じるのは、

そこにある、とも言えるのです。

 

 


そのような視点から、ゴルトベルク変奏曲を見ますと、

実に、分かりやすく、新鮮に見えます。

最後の30変奏が「quodlibet クォドリベット」である意味も、

如実に分かってきます。


★そのような流れもあり、昨日は一日中、

Bachが1707年頃に作曲しました≪Hochzeitquodlibet 結婚クォドリベット≫

BWV524の、「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜」を、

眺めて楽しんでいました。


★この曲は、1929年に発見され、当時はセンセーショナルに、

大きな話題となったそうです。


★Bachは、1707年に Maria Barbara マリア・バルバラと結婚しましたが、

この曲が、Bach自身の結婚式に使われたものか、あるいは、

近親者のために書かれたものかは、不明です。


★しかし、この曲を見ますと、通奏低音による伴奏のもと、

ソプラノ、アルト、テノール、バスの四声が、当時流行っていた俗謡、民謡などを

 “ きわどく”、陽気に、ごった煮のように歌い飛ばし、

楽しんだ様が髣髴としてきます。

 

 


★≪農民カンタータ≫に現れる 「quodlibetクォドリベット」もそうですが、

私たちはいま、単に“面白おかしい歌”ととらえていますが、

その“ごった煮”の中に、当時の体制や社会を鋭く批判する言葉を、

忍ばせていることも、多いのです。


封建領主に支配された当時の厳しい社会は、多分いまの私たちが

想像できない、過酷な世の中だったことでしょう。

最高の知性のBachが、いかに憤っていたかは、

想像に難くありません。

Bachは後に、領主様の意に添わなかったとして、

一ヵ月も、牢屋に入れられていたこともあったのです。


★歴史上、大作曲家で牢屋につながれたことがあるのは、

Bachぐらいかもしれません。


★この≪Hochzeitquodlibet 結婚クォドリベット≫は、

残念なことに、曲の最初と最後の部分が見つかっていません。

曲の中間部分だけしか、見ることができません。


★そのため、 「Manuscript Autograph  自筆譜 」で見ることができる、

最初の小節は、あるフレーズが終わった最後の音から、始まっています。

この最後の音に付けられている歌詞は≪Steiß≫、

上品ではないのですが、≪お尻≫の意味です。

 

 


★現存する自筆譜の最後の部分は、

「Ei, was ist das für eine schöne Fuge !」

「あー、何と美しいフーガ」です。

 

 


その間にある歌詞も、捧腹絶倒、音楽も最高の内容ですので、

「ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座」で、30変奏に触れる際、

この≪Hochzeitquodlibet 結婚クォドリベット≫についても、

お話したいと思います。

 

 


★この≪Hochzeitquodlibet 結婚クォドリベット≫ 自筆譜は、

Bachのものとされていますが、私がいつも眺めています1720年代の

自筆譜の雄渾な筆運びとは少し異なるような印象を受けます。

しかし、結婚をひかえたBachの若々しい筆使いかもしれません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■第3回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」は、変奏曲 第 7、8、9 番
■日時: 2016年6月25日(土)  14:00~16:30
■会場: 文京シビックホール、 練習室1(地下1階)
※本講座は、初版譜ファクシミリ(Fuzeau出版社)を基にして進めます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

★バッハの音楽はなぜ美しく、私たちの心をとらえて離さないのか・・・
人類の宝「ゴルトベルク変奏曲」が、どういう構造で成り立っているか、
一見、単純に見えながら、複雑に絡み合っているその「和声」と「対位法」を、
ピアノで実際に音を出しながら、詳しく分かりやすくご説明いたします。

★第3回の講座では、
・鳥の羽のように軽やかなジーグの第7変奏
・はじけるように明るく豪壮な第8変奏
・心に沁み入る平行調(e-Moll)転調を繰り返す第9変奏
                  の3つの変奏曲を掘り下げていきます。

★前回の第4、5、6変奏の三曲セットは、第6変奏「2度のカノン」の
≪2度音程≫に支配されていました。
次の三曲セットも同様に、第9変奏「3度のカノン」の≪3度音程≫に依って、
構想されています。

★その≪3度音程≫は、Bachが「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の序文で、
高らかに宣言していますように、≪調性≫を決定する最も重要な音程です。
その最重要≪3度音程≫に支配された第7、8、9変奏が、
ゴルトベルク変奏曲前半(第1部)15曲のちょうど真ん中に位置しているのは、
偶然ではありません。

★Bachは、鳥の羽のように軽やかな第7変奏に
≪al tempo di Giga ジーガの速さで≫と、自ら初版譜に書き込み、
テンポを指定しています。
Bachは≪組曲≫を作曲する際には、その最後にジーグ(イタリア語でジーガ)を
配置していますが、ここで何故ジーグとしたのでしょうか?

★はじけるように明るく豪壮な第8変奏は、オーケストラ作品を髣髴とさせます。
どのような色彩を施し、立体的に弾くべきなのでしょうか。

★「3度のカノン」は、1度(第3変奏)、2度(第6変奏)のカノンほどは作曲上の
制約がありません。≪3度音程≫は、無理なくカノンを設定できるのです。
第9変奏は、主調「G-Dur」の平行調「e-Moll」を、“心に染み入るような和声”で
何度も登場させます。
「G-Dur」と「e-Moll」が3度の関係にあることと無縁ではありません。
その和声について分かりやすく解説いたします。

 

 

■中村洋子・プロフィール

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、
東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10Duette fur 2Violoncelliチェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler  Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表 (disk UNION : GDRL 1001/1002)。

・2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
(DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版など、
バッハ鍵盤作品楽譜の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。


■アナリーゼ講座・バッハ「ゴルトベルク変奏曲」 今後の予定
日時:7月30日(土)、9月3日(土)  各回 14:00~16:30
会場:文京シビックホール 練習室1(予定)

■申し込み・お問い合わせは、 アカデミアミュージック 企画部
Tel. 03-3813-6757
E-mail. fuse@academia-music.com
(お申込みの際、お名前、住所、電話番号を明記してください。)
※定員になり次第、締め切らせていただきます。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
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■「禁則」&「ぎこちない」和声こそが、ゴルトベルク変奏曲の「要の役割」■

2016-05-13 01:05:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■「禁則」&「ぎこちない」和声こそが、ゴルトベルク変奏曲の「要の役割」■

    ~金沢アナリーゼ講座は6月1日、イタリア協奏曲を「初版譜」を基に~

                   2016.5.13    中村洋子

 

 


5月14日の第2回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」を前に、

第4、5、6変奏を勉強していますが、

本当に短い曲でありながら、分析すればするほど、

まるでダイアモンドのように、美しく光り輝いてきます。

驚きと喜びの毎日です。

唯一の心配は、二時間半の講座時間ですべてを

お伝えできないのではないか、ということです。

それだけ、豊かな内容なのです。


★前回のブログで、第4変奏での横紙破りの禁則和声について、

述べましたが、もう少し、その続きです


和声学の世界では奨励されない和音の配置や、

禁則とまではいかないまでも、“ぎこちない”と、

とられかねないような和声進行を、Bachは何故、数多くの場所で、

意図的に、散りばめているのでしょうか?


★しかし、その和声配置こそが、全30変奏から成る「ゴルトベルク変奏曲」を、

一つのまとまりある曲として、連関させていくために要の「役割」を

果たしていると言えるのです。

講座では、それについて、詳しくお話いたします。

 

 


★その具体的な一例として、第4変奏の8小節目2拍目の、

ソプラノとバスの音の部分について、見てみましょう。

7小節目は属七の和音、そして、8小節目2拍目で主和音に、

解決しますが、その時、ソプラノは主和音の第3音「h¹」です。

バスも主和音の第3音「H」で、このソプラノとバスは、

2オクターブ離れていますが、同じ「シ」の音です。

 

 


★そして、8小節目バス1拍目は、8分休符ですので、

この2拍目で現れるバスの「H」と、ソプラノの「h¹」は、

非常に目立った、際立った音に聴こえます。

同じ音であるために際立つのですが、もう一つの理由は、

三和音の第3音は「性格音」と言われ、その和音の性格を、

決定づけるものだからです。

 
G-Durの主和音「g¹ h¹ d²」で、「g¹」を根音、「d²」を第5音といいます。

もし、根音と第5音だけですと、その主和音が長三和音(G-Dur)か、

短三和音(g-Moll)かは、分かりません。

この「h¹」によって、G-Durが決定され、

もし第3音が「b」ならば、g-Mollとなります

 

 


このように8小節目2拍目のソプラノとバスに、

「第3音」が置かれているということは、非常に“目立つ”のです。

和声学上では“ぎこちない響き”と、なります。

 

 


同じことが、26小節目2拍目にもいえます

 

 

これは、明らかにBachが意図的に書いたものです。

その意図を読み取るには、ゴルトベルク変奏曲の第3、4、7変奏を、

すべて見る必要があり、そうしますと、

明確にその理由が、浮かび上がってきます。

それにつきましても、講座でお話いたします。


「ゴルトベルク変奏曲」は、実は、「Clavier Übungクラヴィーアユーブンク」

第4巻の別名なのですが、

有名な「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」 は、

「Clavier Übungクラヴィーアユーブンク」第2巻の前半です


暫くお休みしておりました「金沢アナリーゼ講座」を、

6月1日(水)に再開いたします。

「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」 を、

じっくりと丁寧に、回数を定めず、「初版譜」を基に、

ゆっくり勉強していきたいと、思います。

 

 

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■中村洋子 Bach《イタリア協奏曲》アナリーゼ講座
~第1回: 第1楽章の“正体”は、華麗で豪奢な管弦楽協奏曲~

日  時 :  6月1日(水) 午前10時~12時30分
会  場 :  カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
        (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
予 約 :   Tel.076-262-8236 金沢ショップ

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★初版譜を基にして、「イタリア協奏曲全3楽章」を、これから何回かに分け、
 アナリーゼいたします。バッハ (1685-1750)の作品で、生前出版された曲は、
 あまり多くありませんが、その一つが
「Italienisches Konzert ( Concerto nach Italienischen Gusto
 イタリア趣味に基づくコンチェルト )イタリア協奏曲」です。
 「Zweiten Teil der Klavierübung クラヴィア練習曲第 2巻」全27ページの、
 前半(1~13ページ)が、「イタリア協奏曲」で、
 後半は「Overture nach Französischer Art フランス風序曲」です。

★ Bachの自筆譜は失われていますが、Bachは生前この出版譜を手元に置き、
 訂正も加えていますので、この初版譜は≪ Bach公認 ≫と見ていいでしょう。
「平均律クラヴィーア曲集第 1巻 」 ( 1722 )、
「インヴェンションとシンフォニア 」( 1723 ) の上声はともに 「 ソプラノ記号 」で
 記譜されています。
 しかし、このイタリア協奏曲の上声は、私たちに馴染み深い≪ト音記号≫ で
 一貫して記されており、下声は≪アルト記号≫と≪バス記号≫が、交互に現れます。
 その意味を読み解きますと、イタリア協奏曲の骨格が、明確に浮かび上がってきます。

★一見、明快単純に見えます第 1楽章の和声は、実は大変に複雑で、
 平均律 1巻ではあまり見られない、Bachの典型的な後期の和声です。
 この和声を、正確に理解いたしませんと、tutti(総奏)とsoloが交互にまじわる、
 単なる華やかな曲として演奏されてしまいます。
 事 実、そのような浅薄な演奏も多く聴かれます。

★ Bachの対位法と和声とが、固く手を結びあった究極の曲が、
 この「イタリア協奏曲」なのです。
 Bachが若き日に学び尽くしたAntonio Vivaldi(1678-1741)、
 Alessandro Marcello(1669-1747)の「Concerto」や、
 Bach自身の「Brandenburg Concerto ブランデンブルグ協奏曲」についても、
 じっくりと触れていきたいと思います。

★Bachの広大無辺な世界は、狭い「古楽」の世界には入り切りません。
  ピアノで、それをどう演奏していくかを、やさしくご説明いたします。
 また、偉大なEdwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の
  Fingeringから、
彼が何をこの曲から汲み取り、
  構築していったかについても詳しくお話します。

 

 

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■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
    自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
  「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
   ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler  Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」の
   SACDを、Wolfgang Boettcherヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                                                    (disk UNION : GDRL 1001/1002)。
・2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
    ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫
    ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
                                                                        (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
    バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
   「訳者による注釈」を担当。

 

 

 


※copyright © Yoko Nakamura
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■「Goldberg-Variationen」Var.4、「2度音程」の追及と美しい「禁則破り」■

2016-05-06 17:21:32 | ■私のアナリーゼ講座■

■「Goldberg-Variationen」Var.4、「2度音程」の追及と美しい「禁則破り」■
    ~第2回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座~

             2016.5.6   中村洋子

 

 

 

★ゴールデンウイークは、5月14日に開催いたします

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」 analyze

アナリーゼ講座勉強を、じっくりとしていました。


★そんな中、ベルリンのWolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が参りました。

先日発表しましたギターのCD「夏日星」の感想もありました。

「Thank you for the lovely guitar-CD
 I listened with my wife the whole CD and we enjoyed your music
and
the sensitive guitarplayers. I especially like the duets
and the Mogami river.Suite nr.5・・・
very well played on the guitar.
Thank you again and best wishes,Wolfgang

繊細ないい演奏である、と楽しんでいただけました。


第二回目の「ゴルトベルク変奏曲」のアナリーゼ講座は、

Var.(Variatio)4、5、6の三曲です。

一見、とてもシンプルな楽譜に見えます。


★しかし、主題である「Aria」と、どのような関係を保っているか、

この4、5、6番がお互いにどのような関係にあるか、

さらに、Bach がそこでどのような「変奏」の意図をもっていたか・・・

それらを読み取ることが、中心的課題となります。


★「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」は、

 Inventio1番を主題とする29曲の変奏曲と言えますが、

ゴルトベルク変奏曲は、この Inventionenの変奏原理を、

さらに、展開したものです。


★「Inventionen und Sinfonien 」をどれほど深く分析し、

理解しているかが、

「Goldberg-Variationen」のアナリーゼで、問われます。

 

 


★結論から言いますと、「Goldberg-Variationen」Var.4、5、6は、

「2度音程」をどう変奏していくかという、命題の下に、

作曲されています。


第4変奏Var.4は、譬えて言いますと、

ヨーロッパの古い街、澄み切った大気の中で、

響きわたる鐘の音を、思い起こさせます。

どうして“鐘の音”のように聴こえるか、

それをずっと、考えていましたが、ようやく納得のいく

答えが得られました。


★日本の梵鐘のように、ヨーロッパの鐘は一つだけでなく、

それぞれが音高をもったたくさんの鐘が吊るされ、鳴らされます。

それらの鐘が響き続け、こだましていますと、

たとえ個々の鐘が調律された音であり、

一種の旋律として、整然と鳴らされたとしても、

音は持続して鳴り、かぶさり合い、混じってきます。

そうしますと、そこに「不協和音」が、現出してきます。

 

 


第4変奏で見てみますと、14小節目第1拍がそのいい例です。

 

 

13小節目1、2拍目は、D-Dur 主和音の第一展開形、

13小節目3拍目は、その和音に「c²」が加わることにより、

D-Durの「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇ 属七」と、なります。

 

 

(この「Ⅳ」に進行するための「Ⅴ₇」につきましては、著書
≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の
Chapter4、126ページで詳しく説明しています)


★この流れで行きますと、14小節目第1拍目は、

D-Durの「Ⅳ」の和音構成になるはずです。

 

 

しかし、ソプラノの「c²」、テノールの「a」は、

一体何なのでしょうか?

 

 

ソプラノの「c²」は、「h¹」に解決する掛留音(suspention)、

テノールの「a」は、「g」に解決する掛留音(suspention)

なのです。

 

 


★もし、このソプラノの「c²」、テノールの「a」が、

掛留音(suspention)でなければ、14小節目1拍目は

このようになっているはずです。

 

 


★この場合、掛留音(suspention)は、タイにより、

和声音より2度上方の音が、その前の音と連結されます。

その後、2度下方の和声音で、解決します。

 

 


★しかしながら、掛留音(suspention)を使う際には、

重要な≪禁則≫が存在します。

それは、≪2度下方で解決する場合、解決すべき音を、

2度真下には置かない≫という規則です。

 

 

この≪禁則≫を犯しますと、掛留音(suspention)と

和声音の両方が、「2度音程」で同時に奏され、

「2度音程」、即ち不協和音の音程が出現します。

聴く側にとって、音の輪郭がぼやけ、

にじんで聴こえてきます。

 

 

 ★私が、Var.4 第4変奏の印象として、

「澄んだ大気の下での鐘の音」と、書きましたのは、

まさに、この≪禁則≫の音だったのです。

重なり合った鐘の音は、≪禁則≫の音色に似ています。


澄み切った空のように、シンプルに見える「Var.4」が、

豊かな色彩をもって迫ってくるのは、

この Bachの≪偉大な禁則破り≫の効果でしょう。


★しかし、その禁則破りが効果をもつためには舞台、

つまり、「澄み切った空」が必要です。

そのためのBachによる、さらなる仕掛けがありました。

「Var.4」の和声を、主題「Aria」より、

さらに≪単純化≫していたのです。

それにより、「透明感ある大気」という舞台が生まれます。


★もし、複雑な和声の下で禁則破りをしますと、

装飾過多の厚塗りの、一種の不快さを与えてしまいます。

美しくないのです。

この一点だけでも、Bachの構想の底知れない奥深さに、

触れることができると、思います。


★このVar.4には、もう一ヶ所、このような美しい禁則破りが

隠れています。

是非、ご自分で探し出してください。


★講座では、上記のような分析を詳しく、

分かりやすくお話いたします。

 

 

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■日時:2016年5月14日  14:00~16:30
■会場: 文京シビックホール
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■平均律1巻3番は当時の革新的な調性、 異名同音調Chopin「雨だれ」の源泉■

2016-05-02 23:59:16 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律1巻3番は当時の革新的な調性、 異名同音調Chopin「雨だれ」の源泉■
  ~第3回KAWAI名古屋「平均律第1巻アナリーゼ講座」3番Cis-Dur~
                                        2016.5.2  中村洋子

                      

 


★初夏の早朝、飛び立っていくハミングバード(蜂雀)の羽音のような

「平均律クラヴィーア曲集第1巻3番 Prelude Cis-Dur 嬰ハ長調」は、

調号に「♯」が7つある、Bach の時代には極めて珍しい、

革新的な調性です。


★しかし、難解な曲ではなく、生きていることの愉悦を

表現しているような曲です。

Bachは、「フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」で、

平均律1巻の前半(7番を除く)11曲の Preludeを、

当時9歳を過ぎたばかりの長男のレッスン用に、まとめています。


★そのうち、5、6、10番は平均律の前半のみですが、

3番はほとんど省略せずに、フリーデマンに与えています。

子供にも、3番 Preludeを楽しみながら弾いて欲しかったのでしょう。


★子供でも容易に弾けるようにするために、

どのように勉強したらよいのか、そのカギは、やはり、

Bachの「Manuscript Autograph  自筆譜」にあります。

★心が躍るような軽やかな曲想は、途切れることなく、

3番 Fuga に引き継がれていきます。

この曲を理解し、容易に弾くためには、和声の理解が、欠かせません。

講座で、分かりやすく詳しくご説明いたします。


 

 

Frederic  Chopin ショパン(1810-1849)と、

Bartók Béla バルトーク(1881-1945)の両天才が、

この曲につけた Fingering を見ますと、

両者が Fingering で意図しようとしたことが、驚くほど似ています。

天才を知るのは、天才だけなのでしょうか。


★そのFingering の意図を理解いたしますと、

霧の中から建物が浮かび上がってくるように、

演奏が、立体的に表現されます。


Chopin ショパンの「雨だれ」(前奏曲Op.28-15)は、

「Des-Dur 変ニ長調」です。

「Cis-Dur 嬰ハ長調」と異名同音調です。

「雨だれ」と、平均律1巻3番 Preludeとは、

非常に多くの共通点をもっています。


★「雨だれ」の源泉は、実は、Bachの平均律1巻3番なのです。

その点につきましても、

Chopinの「Manuscript Autograph 自筆譜」を、

参照しながら、お話いたします。

( Chopin 「自筆譜 」の読み方につきましては、

私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫

の「chapter 5」に詳しく解説しておりますので、

どうぞ、ご覧ください)

 


★それでは、 Chopinはどのようにこの「平均律1巻3番Prelude」

を弾いていたのでしょうか。

冒頭1~32小節目までは一見、「8小節単位」の構造にみえます。

1~8小節までの「8小節間」は、右手上声が“ハミングバードの羽ばたき”

のような分散和音で、Cis-Dur (主調)です。

 

 


★次の9~16小節の「8小節間」、羽音は左手に移り、

Gis-Dur(嬰ト長調 属調)となります。

 

 

17~24小節の「8小節間」は、ハミングバードがもう一度、

右手に舞い下ります。


★17~24小節は、1~8小節に対応し、

1~8小節の「Cis-Dur」を「dis-Moll(嬰ニ短調 下属調の平行調)」

に、移調しています。

 

 

25~32小節の「8小節間」も、9~16小節の「Gis-Dur」を、

「ais-Moll(嬰イ短調 平行調)」に移し替えただけのように、

見えます。

 

 


★1~8小節の「Cis-Dur」、9~16小節の「Gis-Dur」は、

二つの長調が連続しています。

同様に、17~32小節までは二つの短調です。


★見方を変えれば、1~16小節の長調部分を、17~32小節で2度高く移調し、

短調としたとも言えます


★この調の変化は、ただ機械的に演奏しだだけでも、

それだけで、十分に美しいです。


★しかし、 Chopinはこの部分を類稀な洞察力で読み込み、

演奏しました。

彼の所持していた平均律クラヴィーア曲集の楽譜への≪書き込み≫が、

それを、如実に物語っています

 

 


1小節目は、8分の3の拍子の真下に「」が記され、

1小節と2小節を分ける小節線を、またぐようにして「cresc.」が、

始まります。


この冒頭8小節の頂点である4小節目の1拍目は、「」。

しかし、2拍目が始まるや否や、「dim.(diminuendo)」となり、

7小節目で「」に戻ります


★1~8小節に対応する9~16小節につきましては、

9小節目には何の強弱記号も付けられてはいません。

それは、7小節目の「」が、そのまま有効だからです。


10小節目(2小節目に対応する)に、はっきりとした

「cresc.」が記されています。

頂点の12小節目(4小節目に対応)は、1拍目に、

」を記し、12小節と13小節を区切る小節線上から、

「dim.」が始まります。

12小節目は4小節目に比べ、forteの持続時間が長くなります。

 

 

次の「8小節」の始まる「17小節目」は、早くも冒頭17小節目に

「cresc.」が現れ、頂点の20小節目(4、12小節に対応)は「ff」。


★このように観察し、 Chopinの Fingeringを解明しますと、

ほぼ Chopinがどのように、Bachを演奏していたかが、

類推できます。


★これが貴重な ChopinのBachに対する≪アナリーゼ≫

であると同時に、 Chopinの曲を演奏する際の≪要諦≫ともなります。

もちろん、1~8小節に対応する、

譬えようのなく美しい再現部「55~62小節」への書き込みも、

さらに注意深く観察すべきなのは、言うまでもありません。

講座では、それらの分析を詳しく、ご説明いたします。

 

 


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■日時 2016年6月29日(水)10:00 ~ 12:30

■会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

■予約・お問い合わせは・・・  
  〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15 カワイ名古屋
   Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427

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