音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「Für Elise エリーゼのために」 Henle新版に、重要な音符変更あり■

2016-12-29 21:57:21 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■「Für Elise エリーゼのために」 Henle新版に、重要な音符変更あり■
~ヤマハ銀座に「自筆譜特設コーナー」、私の著書も推薦図書として展示~

             2016.12.29   中村洋子

 



★ことしもあと2日となりました。

このところ、ベルリンのトラックテロ、糸魚川の大火、

昨日の茨城県での震度6弱の大きな地震と、

痛ましい出来事が続いています。


★ベルリン・トラックテロの現場近くにあります

「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」は、以前、Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生が

私の「無伴奏チェロ組曲第1番」を演奏してくださいました教会です
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/0aaa14093e0d4061a0750cff23504bb8

演奏後、教会の牧師さまからも、心のこもったお手紙をいただきました。

「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」は、 第二次大戦中の1943年、
ベルリン大空襲により、広島の原爆ドームのように大きく崩れました。
戦後、戦争の酷い実態を記憶に留めるため、 破壊された教会をそのまま残し、
横に、 超モダンな新しい教会を建て、二つを並立させています。
新しい教会は、青紫色のステンドグラスで覆われ、 幻想的で美しい建物です。
その対比が見事です。 繁華街クーダム(Kudamm)にあり、ベルリン市民には
「虫歯」というあだ名で親しまれ、ベルリンの観光名所にもなっています。
 教会の写真:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%A0%E6%95%99%E4%BC%9A


★テロの後、ベルリンの知人にメールで問い合わせいたしましたが、

皆さま、当然ですがご無事で、悲しい出来事を悼んでいらっしゃいました。

「Musikverlag Ries&Erler Berlin リース&エアラー社」の

社長Andreas Meurerさんのお便りは、

「事件が起きた所は、会社から3キロしか離れていません。

GEMA(ドイツ著作権協会)で名誉職の仕事をしており、そこに行くため、

月に何回も現場を通っています。犠牲者の方々を悼みます」。

皆さま、ごく身近で起きたこととして、深く悲しんでおられました。







★明るいニュース:ヤマハ銀座店3F 楽譜・音楽書売場特設コーナーで

26日から「3大作曲家特集~バッハ・モーツァルト・ベートーヴェン~」

が、始まりました。

≪自筆譜や初版譜を複製し出版したファクシミリを通してバッハ、モーツァルト、
ベートーヴェンの真髄に近づいてみませんか?≫
http://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/event/3f_fair_information/three-major-composers.html

●お薦め:ファクシミリ楽譜
J.S.バッハ:アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア練習帳
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 op.132/アンドラーシュ・シフ 序文
Beethoven:String Quartet a mainor op.132/Pre.Shiff
モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 KV504「プラハ」
Mozart:Sinfonie Nr.38 D-dur,KV504 'Prager

●お薦め:書籍
クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!
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私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫は、

Beethoven 「Für Elise エリーゼのために」の草稿ファクシミリの脇と、

さらに、もう一ヶ所にも展示されています。


★ブログではよくお話していますが、大作曲家の自筆譜のファクシミリを、

実際に手に取って、ご覧になれる機会は少ないと思います。

1月末まで、開催されています。

大作曲家のエネルギー、筆の走り、息づかいが迫ってきます。

“音楽”まで実際に、立ち昇ってくることでしょう。

銀座「山野楽器」2FクラシックCDフロア―でも、

私の新作CD、ギターによる「夏日星」が展示されています。

「銀ブラ」の途中にお立ち寄りになり、是非、ご覧下さい。



★私の著書がことし2月発売されました後、

ヘンレ版「Für Elise エリーゼのために」が改訂され、

新しい版として発売されました。


★校訂者も≪spring 2016/ Joanna Cobb Biermann≫に代わりました。

これまでの版は≪Klavierstück a-Moll WoO59(Für Elise)≫でしたが、

新版は≪Bagatelle a-Moll WoO59(Für Elise)≫

というタイトルになりました。


★新版でも、重なった音の記譜法は、相変わらず“串刺し”になっていますので、

 

 

やはり、自筆譜の草稿(Für Eliseは草稿の一部しか残っていませんが)を見て、

じっくりと勉強する必要があることは、変わりません。

“串刺し”表記は、幾つか重なった音の符尾の方向をまとめ、

一つの方向に揃えてしまいます。

その結果、重なった音は「一つの和音」として、とらえられてしまいます。

しかし、Beethoven(に限らず、大作曲家は皆そうですが)は、

重なった音の各音ごとに符尾を付けています。

それは、単なる和音ではなく、ソプラノ、アルト、バスなど、

各声部の流れの一環としての音である、ということを、

各々の符尾で表現しているのです。





★この新版で注目すべき点があります。

旧版では、29小節目左手の部分が




でしたが、新版では



と、改訂されています。

 

 


旧版では、8分の3拍子の1、2拍目の左手は、

C-Durの「Ⅰ」の第2転回形、

右手1、2拍目も「c²」の4分音符ですから、

すべて「和声音」となり、小奇麗にまとまっています。






3拍目下声は「g f¹」、上声は「d² h¹」で、これを全部合わせますと、

「C-Dur ハ長調」の「属七」となり、

まことに明確で、分かりやすい和声でした。






★しかし、2016年改訂ヘンレ版は、

下声4番目の音が「e¹」から「f¹」に変更されています。

そうしますと、この29小節目1、2拍目の、前述しました分かりやすい

「主和音の第2転回形」の中に「非和声音」が入り込むことになります。

これにより、どのようなことが起きるのでしょうか?


左手の「f¹」が打鍵された時、それまでの調和が破れるような、

何か大きなエネルギーを感じます。

この「f¹」の音は、不協和音で「anticipation 先取音」といいます

次に続く和音の音を先取りする音です。






★即ち、次に現れる3拍目「属七の和音」の第7音「f¹」を

先取りした音になります。

この「f¹」は、第7音ですから、2度下の「e¹」に解決(進行)しようとする

大きな方向性をもっています。






音を一つ変えるだけで、

調和した和声音のみの音楽であった29小節目から、

大きなエネルギーが沸き上がり、先へ向かって突き進む音楽へと

変貌します。

 

 


★それでは何故、「f¹」にしたのでしょうか?

「Für Elise エリーゼのために」は、1小節目から29小節目までは、

絶え間なく「16分音符」の動きが続いていますが、

この30小節目からは、

右手上声がさらに細かい「32分音符」に変わります。

29小節目下声6番目の音(最後の音)「f¹」と、

30小節目下声冒頭音「e¹」によって形成されるモティーフは、

30小節目下声2番目の音「f¹」と、3番目の音「e¹」によるモティーフで、

反復されます。






★これは一種の「canon カノン」であるとも、言えます。






この「f¹」→「e¹」のカノンにより、29小節目までの「16分音符の流れ」と、

30小節目で突如出現する「32分音符の動き」が、

唐突ではなく、無理なく、理にかなってつながれていく、

とも言えます。

その「f¹」→「e¹」のモティーフの前触れとしての

anticipation先取音」「」は、重要な音です。




★言葉を換えますと、

「非和声音」が29小節目に入り込むことで、

この「32分音符の動き」を、唐突に始めるのではなく、

ある意味で、理にかなった演奏に成り得ます。

29小節目から30小節目への動きが、

途絶えることのない大きな流れの中に、位置付けられるからです。

 



★現在の実用譜のほとんどは、ヘンレ旧版と同じです。

小奇麗な和声音から、急に「32分音符に移行」する楽譜では、

29小節目と30小節目の間が断絶しかねません。

事実、29小節目の後に、ごく僅かな間を置いて、30小節目から

また新しい音楽の始まりのように弾く演奏も、時々聴かれます。

しかし、Beethoven の意図はそうではなかったのでしょう。

音が一つ変わるだけで、こんなにも“音楽の風景”が変わる、

という、いい具体例です


★この「Für Elise エリーゼのために」は、

Beethovenが生前に出版した曲ではありませんので、

作品番号も付けられていません。

「WoO」は「Werk ohne Opuszahl= 作品番号なしの作品」の意です。


★ヘンレ新版のPrefaceには、残念ながら、

「e¹」から「f¹」に変更された理由については、書かれていません。

脚注に、

≪according to all sauces:changed to e¹ in most later editions≫
 
と記されているだけです。

 
なお、私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり≫
Chapter1 では、

1) 「エリーゼのために」の7小節目「ミドシ」は誤り、「レドシ」が正しい
2) 「エリーゼのために」がなぜ名曲か& ケンプの名演
3) 「エリーゼのために」の手書き草稿は、声部ごとに符尾の方向を変えている
4)  ベートーヴェンの自筆譜は、指摘されているように乱雑なのでしょうか?
 
      など、「Für Elise エリーゼのために」を、詳しく分析しています。

 
★是非、ピアノで音を出してご自分で体験してください。

皆さまにとって、2017年がよいお年でありますよう、

お祈り申しあげます。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ゴルトベルク変奏曲Ariaの写譜が、 Annaのためのクラヴィーア小曲集にあり■

2016-12-19 00:31:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■ゴルトベルク変奏曲Ariaの写譜が、 Annaのためのクラヴィーア小曲集にあり■
~冒頭3小節目の有名なトリルの向きは、ゴ変奏曲とは異なり上昇トリル~
            2016.12.19   中村洋子

 

 

★12月16日、 KAWAI 金沢で、

第5回「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」アナリーゼ講座

開催しました。

第1楽章を3回にわたり、第2、第3楽章を各1回の計5回にわたる

長丁場でした。


★次回の KAWAI 金沢講座は、1月13日(金)、

「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725

アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」から、

皆さまにお馴染のペッツォルトのメヌエットや、ミュゼットなどを

取り上げる予定です。


★「Clavier-Büchlein vor Anna Magdalena Bachin, Anno 1722

アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集 1722」は、

Bachと Anna が結婚式を挙げた1721年12月の翌年から、

Bachが作曲して自分で書いた曲をまとめたものです。

Annaがクラヴィーアなどをより上手に演奏できるようになって欲しい、

と思って作曲した鍵盤楽器曲や、Bachが自分で演奏して

彼女を楽しませるための曲などが収録されており、

Bachから妻 Annaへの“愛の捧げもの”曲集です。


★しかし、この曲集は破損が激しく、70数ページあったうち、

残っているのは25ページ分だけで、全容は詳しく分かりません。





1725年から書き始められたもう一冊の

「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725」小曲集は、
 
1740年代初めまで書き加えられ続きました。


★その中に、1741年ごろ、Annaアンナによって写譜された

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」のAriaアリア

含まれています。


★1725年の小曲集では、新婚間もないAnnaの稚拙な写譜と、

後になって夫Bachの楽譜と見紛うような、流麗な筆致となった写譜の

両方を、ファクシミリで、見ることができます。


★現在は「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」として知られる

「Clavierübung クラヴィーアユーブンク」第4部は、

1741~42年にかけて出版されています。

ベーレンライター社の

「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」の楽譜に添付されている、

私の「序文訳」と、序文に対する私の「訳者注」を、お読みください。

そのいきさつを詳しく書いております。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733634

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733635







★「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」に

収録されている「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

主題であるAriaに戻しますと、

このクラヴィーア小曲集が、1725年から書かれていることにより、

「Goldberg-Variationen」初版譜よりずっと前に、Annaにより書き写された

「Goldberg-Variationen」の初稿ではないかと、考えられていた時期も

あったようです。


★現在は、この1725年版はfacsimileで全部を見ることができます。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=0008906063

それによりますと、このAriaは、

≪ Anna Magdalena Bach, later handwriting≫

に分類されていますので、

1)「Goldberg-Variationen」の初稿なのか、

2)「Goldberg-Variationen」の異稿なのか・・・確定できません。


★「Goldberg-Variationen」初版譜と、 Annaの写譜を詳しく見比べますと、

12か所で、相違があります。

なかでも最も興味深いのは、3小節目上声2拍目「g¹」の、

付点四分音符に付けられた装飾音です。


★初版譜では、

3小節目2拍目 

11小節目2拍目 


17小節目2拍目 

 は、

すべて≪下降トリル descending trill(英)、Triller von oben(独)≫

となっています。


3小節目2拍目の奏法は、

トリルのついた「g¹」の2度上の「a¹」から「g¹」に進行し、

その後、2度下の「fis¹」から「g¹」に戻り、「a¹ g¹a¹ g¹・・・」

というトリル音となります。


「下降トリル」は、英語の「descending trill」を訳した語です。

この装飾音の形通り、「a¹」から下降して、この装飾音が付いた「g¹」に、

たどり着きます。

 

ドイツ語の「von oben」は、「上から」という意味です。

上から(a¹)装飾音の付いた「g¹」に、たどり着くという意味です。


★同じことを意味するのですが、英語では「下降」、

ドイツ語では「上から」のトリルと言います。

紛らわしいので、お気を付けください。


★さて、「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725」では、

11、17小節は、「下降トリル」なのですが、

3小節目は「上昇トリル ascending trill, Triller von unten」

なっています


初版譜Ariaの3回現れる下降トリルは、一度聴いたら忘れない程、

印象深い装飾音です。

初版譜のこの3回の下降トリルは、Bachが所持していました初版譜

(Bach自身が誤植を訂正したり、書き加えをした初版譜)facsimileを

見ましても、3回とも下降トリルですのでBachの決定稿と言えます。

 

 


Annaの写譜の3小節目の上昇トリルが、

もし、 Annaの書き誤りではなく、

Bachの「初稿」あるいは「異稿」であったとしますと、

≪Ariaの風景≫は、この≪上昇トリル≫によって、

ドラスティックに一転してしまいます。

実に、驚きです。


この分析につきましては、1月21日(土)に開催します、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座で、

詳しくお話いたします。

https://www.academia-music.com/academia/m.php/20161026-0


★この講座は、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

後期講座の第1回です。

第16、17、18変奏を主に解説いたしますが、前期講座の復習を

しながら、進めていきますので、初めて参加されてもご理解頂けます。

今回は、アリアと第1、2、3変奏の復習もいたします。


★後期2回目アナリーゼ講座は、3月18日で、

第19、20、21変奏と、第4、5、6変奏の復習を予定しています。

 



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次回の「KAWAI 金沢アナリーゼ講座」は、

《アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集》アナリーゼ講座
~Bachを勉強するための第1歩となるこの小曲集に、Bach演奏のエキスが凝縮~

★Bachは1720年、最初の妻Maria Barbaraを亡くします。翌年に迎えた妻Anna Magdalena(1701-1760)は、宮廷歌手でした。Bachは、 Annaアンナのために、1722年と25年に小曲集を二回編纂しました。1722年の曲集については、全容は分かっていませんが、1725年版は手稿譜ファクシミリが出版されていますので、全貌を見ることが出来ます。

★1725年版小曲集には、Bachの作品はわずかで、息子たちの作品やクープラン、ペッツォルト等、Bachが選択したであろう曲を、アンナやBachの家族が書き写した「家庭音楽帳」です。

★この小品集は現在、ピアノのレッスンでBach作品への導入曲として、盛んに演奏されています。講座では、その中で特に有名なペッツォルト Christian Petzolt(1677-1733)の、G-Durとg-Mollのメヌエットや、作者不明のD-Durのミュゼット(BWV Anh.126)等、数曲についてじっくりお話いたします。

★Bachの作品でなくても、Bachの眼識で選ばれた曲ですので、どれも大変優れており、Bachの作品に対するのと同様の勉強方法を要求されます。

★これらの作品を読み解くカギは、Bartók Béla バルトーク(1881-1945)の校訂版にあります。講座では、手稿譜ファクシミリとバルトーク校訂版を元にして解説いたします。
楽譜につきましては、お手持ちの「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」で結構ですので、ご持参ください。

 

 


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■日  時 :  1月13日(金)  午前10時~12時30分
■会  場 :  カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
     (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
■予  約 :  Tel.076-262-8236 金沢ショップ

■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表 (disk UNION : GDRL 1001/1002)。

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~(DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行したバッハ「ゴルトベルク変奏曲」 Urtext原典版の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■Reincken ラインケンの Hortus Musicus(音楽の花園)は、Bachの源流の一つ■

2016-12-11 23:57:34 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Reincken ラインケンの Hortus Musicus(音楽の花園)は、Bachの源流の一つ■
~ラインケンを編曲したBachは、そこでも縦横に禁則を破り傑作を創る~
             2016.12.11    中村洋子

 

 


★冬至が近づき、寒い寒い毎日です。

朝はベッドから離れるのもつらいのですが、

ベートーヴェン「音楽ノート」岩波文庫≫にあります、

ベートーヴェンの言葉を思い起こします。


★『毎日5時半から朝食まで勉強すること』 P38

ヘンデル、バッハ、グルック、モーツァルト、ハイドンの肖像画が

私の部屋にある。-それらは、私が求める忍耐力を得るのに助けと

なるだろう P37


★ベートーヴェンは、過去のマエストロが日々積み重ねていた努力を、

我がものとするため、肖像画に励まされていたのですね。


★私も、仕事部屋に「Wilhelm Backhausバックハウス(1884-1969)

 Wilhelm Kempff ケンプ(1895-1991)、

Artur Schnabel シュナーベル(1882-1951)」の肖像写真が掲載された

来年のカレンダーを飾りました。

 

 


★今朝は、NHKラジオ第1放送「音楽の泉」で、

Beethoven のピアノソナタ「告別」と「熱情」を放送していました。


★「告別」Es-Dur Op.81a は、 Wilhelm Kempff ケンプ、

「熱情」f-Moll Op.57 は、Emil Gilels、エミール・ギレリス(1916-1985)

の演奏でした。


★久しぶりに Kempffの演奏を聴きました。

このソナタが完璧に分析され、そのうえに、各々のmotif モティーフが

全く異なる色彩で歌われ、「何とカラフルな演奏か」と、驚きました。

 Kempff という指揮者により、motifが百花繚乱、立体的に配置されます。


Gilelsギレリスの演奏は、 Kempff とは違うアプローチでした。

確かに驚くばかりの技巧ですが、もしそれに対して「ブラボー」を叫びましても、

イタリアオペラのAriaへの大声の「ブラボー」にも似ているような思いです。


★それは、Beethovenの作曲の方法に対し、それを演奏によって解釈し、

再構築する、という演奏行為とは少し異なるようです。

あまり、楽しめませんでした。


★しかしながら逆に、対照的な二人のピアニストのBeethovenを

聴き比べることにより、より鮮明に、Beethovenのソナタの本質を理解する

手掛かりにもなりそうです。

 

 


★Beethovenが過去の大作曲家を尊敬し、創作の源泉としていたように、

Bachも当然のことですが、先輩の大作曲家から深く学んでいました


★その一人が Johann Adam Reincken ラインケン(1643-1722)です。

ラインケンはハンブルグの聖カタリーナ教会を拠点にして活躍した、

作曲家であり、オルガンやチェンバロなど鍵盤音楽の大家でした。

Dieterich (Dietrich) Buxtehude ディートリヒ・ブクステフーデ
                        (1637頃-1707)

とともに、北ドイツでのオルガン音楽の隆盛を支えた人でした。

聖カタリーナ教会には、当時最も有名な素晴らしいオルガンが

据えられていました。


15歳だったBachは、ラインケンのオルガンを聴くため、

当時住んでいましたリューネブルクから、ハンブルグまで

何度も、歩いて行ったほどです。

約50キロの道のりをものともせず、歩いて聴きに行く少年Bachの熱意。

それだけ、ラインケンの音楽と演奏が、天才少年Bachを魅したのでしょう。

帰る途中、お金が無くなり空腹でフラフラとなって歩いているBach少年に、

貴族が金貨を恵んだという逸話もあるそうです。

 

 


★Bachは後年1722年(平均律第1巻が完成した年)にも、

ハンブルグに赴き、Reincken ラインケンや名士の前で、

オルガン演奏を披露しています。

コラール「An Wasserflüssen Babylon バビロンの流れのほとりで」を基に、

要望に応え、30分以上も即興演奏を続けたそうです。

自身が即興演奏の名人であったラインケンは、

「この技はもう死んでしまったものと思っていたが、あなたの中に

それがまだ生きていることが分かります」と、絶賛したそうです。

嫉妬するタイプの人であったラインケンが賛辞を評したことは、

予想外のことと周囲は受け止めました。

さぞ感動的な演奏だったのでしょう。


Bachは、Reincken ラインケンのトリオソナタ集
https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Reincken%2CJ.A.&gname=%BC%BC%C6%E2%B3%DA

<Hortus Musicus 音楽の花園 1687年>を、

独奏チェンバロ作品に編曲しています。

楽譜は<Klavierbeabeitungen fremder WerkeⅢ

バッハ以外の作曲家の作品に基づく鍵盤編曲作品第3巻
                  ベーレンライター BA5223>
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501275041


Sonata a-Moll BWV965 は、Hortus MusicusⅠをほぼ全曲編曲

Sonata C-Dur BWV966 は、Hortus MusicusⅢの
              Prelude、 Fuga、Adagio、Allemandeを編曲

Fuga B-Dur  BWV954 は、Hortus MusicusⅡのAllegroを編曲


Reincken ラインケンは、17世紀ドイツの最高の作曲家の一人です。

このヴァイオリンⅠ、Ⅱ+ヴィオラ・ダ・ガンバ+通奏低音のソナタも、

とても美しい曲で、Bachの先駆的作曲家としての位置付けだけで

とらえるのは、誤りです。


★Beethovenが室内に Händel、Bachの肖像画を

掲げていましたのと同様に、

Bachの心の中に、Reincken ラインケンの肖像が大きく

掲げられていたのは、間違いありません。


★そして、Reincken ラインケンの<Hortus Musicus 音楽の花園>と、

Bachの編曲作品は、各々独立したマスターピースとして、

扱われるべきでしょう。

 

 


★Reincken ラインケンへの入門として、格好のCDは、

<バッハ以前のドイツ室内楽集 ムジカ・アンティクヮ・ケルン>
                         (PROC 1103/5)です。

このCDには、ムジカ・アンティクヮ・ケルンの演奏による、

ラインケンの<Hortus Musicus Ⅰ 音楽の花園>Sonata a-Moll

ソナタ イ短調と、それをBachが編曲した Sonata a-Moll BWV965 が、

並べて収録され、原曲と編曲作品とを聴き比べることができます


★<Hortus Musicus Ⅰ 音楽の花園>Sonata a-Moll の、

冒頭1小節目は、ヴァイオリンⅠ、Ⅱとヴィオラ・ダ・ガンバ及び通奏低音で

このように開始されます。

 

 

★このAdagioは、ノーブルにして緻密な構成、

憂愁に閉ざされた花園のような、とても美しい曲です。

Bachは、これを独奏鍵盤楽器(おそらくチェンバロ)のために、

このように編曲しました。

第1楽章です。

 

 


★Reincken ラインケンの19小節のシンプルなAdagioを、

Bachは技巧を凝らし、華やかに華やかに、装飾しています。

ラインケンの第1小節目は、a-Moll の主和音(トニック)だけです。

Bachの第1小節目は、ソプラノ声部を

「このようにも装飾できるんですよ!」といえるような好い例です。


★先月の KAWAI 金沢でのアナリーゼ講座

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲第2楽章」で、

お話いたしましたことと、深く関連付けられます。

Bachは、イタリア協奏曲の第2楽章で、装飾音で表記できる音もすべて、

細かく音符で書き込んでいます。

この Sonata a-Moll BWV965 も同じように、Bachは書き込んでいます。


★これは、当時の慣習に則った凡庸な装飾で演奏されますと、

作品がダメージを受けますので、それを避けるとともに、

装飾によって生まれる旋律を、新しく motif モティーフとしてとらえ、

曲全体の構造を作っていく役割を持っています。

 

 


★12月16日の KAWAI 金沢「Italienisches Konzert イタリア協奏曲

アナリーゼ講座、第5回最終会」では、

第2楽章の装飾された旋律を、新たな motif モティーフとして、

どんな輝かしい「第3楽章」が生まれ出たかを、詳しくお話いたします。


★もう少し、Bachの編曲について書きますと、

第2曲目の「Fuga」 冒頭16小節目くらいまでは、それなりに、

“おとなしく”Reincken ラインケンの Fugaに則って編曲されています。


★17、18小節目で、Bach独自のアイデア「バス声部のh音の保続音」が、

出現した後は、もうBachの筆が止まりません。

 

 

Bachの“スポーツカーのような Fuga”が、疾走します。

Chopinが、誤りの多いチェルニー校訂「平均律クラヴィーア曲集」の楽譜に、

自ら訂正を書き加えているうち、思わず、 Chopin独自の音楽を創り、

書き込んでしまったのと同じです。


★「16小節目までは、おとなしくラインケンを編曲した」と、書きましたが、

そうではありませんでした。

もう8小節目では、決してReincken ラインケンが書かないような

「gis¹とg²の対斜(false relation 又はcross relation)」を、

わざわざ、作っています。




★「対斜 false relation」は、「counterpoint 対位法」 の教科書では、

禁則、掟破りなのです。

Bachの面目躍如です。

37小節目の「対斜 false relation」も、とても素敵です。



★編曲の元の素材が素晴らしいと、

“どうにも止まらない・・・”ように、縦横に、

Bachの技法、能力が爆発していきます。


★皆さまも是非、楽譜を手に、この両者の深い音楽を

味わってください。

 

 

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■イタリア協奏曲3楽章、ゴルトベルク変奏曲16変奏、平均律1巻5番フーガは、緊密に通底■

2016-12-01 21:35:03 | ■私のアナリーゼ講座■

■イタリア協奏曲3楽章、ゴルトベルク変奏曲16変奏、平均律1巻5番フーガは、緊密に通底■
  ~ KAWAI 名古屋 平均律 第1巻 5番D-Dur Prelude&Fuga アナリーゼ講座~

               2016.12.1   中村洋子

                            

 

 

★今日から師走。

11月は、関東地方で記録的な雪。

この12月はどんな月になるのでしょうか。


12月16日、 KAWAI 金沢で開催の「Italienisches Konzert

イタリア協奏曲」第3楽章の勉強をしています。

第2楽章は、灯されていた明かりがふっと消えるように

終っていきます。

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の

言葉を借りますと、

・・・最後に再び、自らの中で嘆きが消え去っていく

(verlöschen)のである






★その後、爆発するかのような喜びの第3楽章が始まりますが、






この第2楽章の終結から第3楽章への移り変わりを見て、

気付きました。

まさに、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の、

後半冒頭・第16変奏と、それを導き出す前半最後・第15変奏との

関係にピタリと当てはまるのです

 

 


★ちょうど1月21日(土)、東京で

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」

第2期第1回(16~18変奏)を、開催いたします。

https://www.academia-music.com/academia/m.php/20161026-0


第15変奏は、悲嘆の内に虚空をじっと見つめるような、

g-Moll ト短調の上行音階で、静かに幕を閉じます。





第16変奏は、躍動する新しい命を、

天使のファンファーレが祝福するかのように、

G-Dur ト長調の上行音階で、幕が切って落とされます。







★玄冬の後の復活を意味するのかもしれません。

その「Goldberg-Variationen」第16変奏は、

フランス風序曲の付点リズムを、特徴としています。




★このフランス風序曲の性格は、なんと来年3月8日(水)、

 KAWAI 名古屋で開催いたします

「Wohltemperirte ClavierⅠ平均律クラヴィーア曲集 第1巻

アナリーゼ講座・第5番 D-Dur ニ長調 Prelude & Fuga」の、

 Fuga の性格そのものなのです。

 

 


12月金沢「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」、

1月東京「Goldberg-Variationen」、

3月名古屋「Wohltemperirte ClavierⅠ」、

これはBach先生のご配慮としか思えませんね。

“ようやく、私の作品を少しばかり理解してきたようですね”

という声が、天国から降ってくるようです。


★12月は、降誕祭の月でもあります。

今月が皆さまにとって、良い月になりますように。

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■KAWAI 名古屋
Bach 平均律 第1巻5番 
D-Dur Prelude&Fuga アナリーゼ講座

春の陽光のように明るく軽やかな前奏曲とフランス風序曲のフーガ
~「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」舞曲から~

http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/nakamura.html

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日時 : 2017年 3月 8日(水) 10:00 ~ 12:30
会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
           〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15
予約 : Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427

 

 

★明るい春の陽光を浴び、ミツバチが花から花へと飛び回っているような軽やかな
「5番前奏曲」は、無味乾燥な指の練習曲では決してありません。上声の16分音符に目を奪われ勝ちですが、それを支えている下声の8分音符との有機的関係を詳しく分析していきますと、Bachの豊かな和声と対位法が絵画のように浮かび上がってきます。

★「クラヴィーアユーブング第2巻・フランス風序曲」と「同第4巻・ゴルトベルク変奏曲・第16変奏」、そしてこの「平均律1巻5番フーガ」は、ともに、≪フランス風序曲≫の性格を宿しています。オーケストラ作品のような豪奢な響きが聴こえてきます。

★この「5番前奏曲&フーガ」はどう弾くべきか・・・
大変参考になりますのは「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」の有名な舞曲です。それを手掛かりに、分かりやすくご説明いたします。

★この輝かしい「5番前奏曲&フーガ」が、生き生きと心から湧き上がるような音楽として演奏できることでしょう。
  
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 ■講師:中村洋子プロフィール

  東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
  「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
         自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
       「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。  
      「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
   「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5) チェロ四重奏のための
   10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・ドルトムントの
   ハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund から出版。

 ・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                disk UNION : GDRL 1001/1002)

 ・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
   ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
          演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

 ・2016年、ベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
  「訳者による注釈」を担当。

 

 

 

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