音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■シューベルト「美しい水車小屋の娘」の自筆譜を見る■

2010-10-31 23:57:51 | ■私のアナリーゼ講座■

■シューベルト 「 美しい水車小屋の娘 」 の自筆譜を見る■
                     2010.10.31 中村洋子





★名古屋・カワイで27日に開催いたしました、

第 3回 「 Bach インヴェンション・アナリーゼ講座 」 は、

熱心な皆さまが、たくさん、参加されました。


★その帰途、岐阜に赴き、

自然人類学・江原昭善先生のご自宅に、お伺いしました。

類人猿や、原人などの頭蓋骨標本に囲まれたリビングで、

楽しく、ご歓談させていただきました。

江原先生は、日本では珍しい本物の学者です。

先生については、以前、当ブログでお書きしました。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20090621


★ドイツのキールとゲッティンゲン大学での教授時代、

毎日、毎日、頭蓋骨の標本を見続けていた結果、

ある特定の部位での、表面の微妙な形状から、

サルの進化のメカニズム、道筋までを、

読み取ることが、できるようになったということです。

どんなことでも、原典に当たり、そこから学ぶべきという、

いい例であると、私は解釈しております。




★きょうは、埼玉県の 「 川口総合文化センター・リリア 」 で、

開催中 ( 11月 2日まで )の  『 3人の偉大なる楽聖たち、

モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト資料展

 ~ 自筆譜、肖像画ほか ~( ヴィーン楽友協会資料館提供 ) 』

を、見て参りました。


★モーツァルト 「 フィガロの結婚 」  (  K579 ) のアリア

「 喜びに胸は躍り 」 の自筆ヴォーカル・スコアから一葉 、

ベートーヴェン  「 交響曲第 9番 」  Op.125 のスケッチ一葉、

シューベルト  「 美しい水車小屋の娘 」  D795 より第 15曲

「 Eifersucht und Stolz 嫉妬と誇り 」 一葉が、

展示されていました。


★遠くからやってきた、 “ 恋人 ” に会いに行くように、

心弾ませ、川口に向かいました。

シューベルトとモーツァルトは、ほぼ同じ大きさの、

横書きの五線紙、ベートーヴェンは、それよりやや大きめ。

いずれにしましても、現在のものと比べますと、

小型の、小さい紙でした。

紙の端は、繊維が毛羽立ち、いかにも手作りの紙で、

貴重さが、うかがわれました。




★特に、シューベルトは、日本初公開で、

一葉に、 37小節が書き込まれていました。

現代の実用譜の 2ページ弱に、相当します。

バッハの 「 マタイ受難曲 」 などでも、同じことがいえますが、

歌詞の内容と、楽譜の譜割り  ( レイアウト )  が、

一致していることが多く、きょうのシューベルトも、

たった一葉でしたが、多くの発見がありました。


★前奏に続く歌詞 「 Wohin so schnell, so kraus und wild,

mein 」 まで 6小節が、 1段に書かれていました。

2段目は  「 lieber Bach ? 」 から、始まっています。

訳は 「 そんなに急いで何処へ、波立ち、荒々しく、 

私の愛する小川よ  」  というような感じです。


★現在、出版されている楽譜は、機械的にレイアウトしている

ものがほとんどで、1段目は 、

「 Wohin so schnell, so 」 までで、

切っているものも、見受けられます。


★自筆譜は、2段目の頭に、

「 lieber Bach ? 」 を、もってきています。

この 「 lieber 」 は、英語の  「 dear 」  に相当する語です。

2段目冒頭に 「 lieber Bach ? 」 があることは、

この言葉が大きな意味を持ち、視覚的にも、

そのことが分かるよう、強調していると思われます。




★ 「 lieber Bach ? 」 の 「 lie 」 に、

「 シ♭ 」 の4分音符、

「 ber 」 には、 「 ド 」  の4分音符、

「 Bach 」 には、 「 レ 」 の4分音符 が、

当てられています。


★8小節目のピアノ伴奏は、

4個の 16分音符  「 シ♭、ファ、ソ、ラ 」 が 1拍目、

4個の 16分音符  「 シ♭、ド、レ、ミ♭ 」 が 2拍目、

それと同時に、8小節目の冒頭の歌詞は 「 Bach 」 です。


★16分音符 8個を、ト音記号のみで、

無造作に記譜している、現代の実用譜がありますが、

シューベルトは、 1拍目  「 シ♭、ファ、ソ、ラ  」 と、

2拍目最初の 「 シ♭ 」 までを、大譜表の下段の、

へ音記号の位置に、記しています。

これは、明らかに 「 テノール声部 」 であることを、

示しています。


★2拍目 2番目の音 「 ド 」 以降、

「 ド、レ、ミ♭ 」 の 3つの音を、

大譜表の上段  「 ト音記号 」 位置に、記しています。

これは、「 アルト声部 」 と、とることができます。

この 8つの音が、単一声部ではなく、

「 テノールとアルト 」 という  「 二声 」  と、

みることも、可能です。


★さらに 「 ド レ ミ♭ 」 が、独立して見えることにより、

先ほどの 「 lieber Bach ? 」 については、

 4分音符 「 シ♭、ド、レ 」 の、 3度順次上行進行の、

「 縮小カノン 」 であるとも、自筆譜から、読みとれます。


★シューベルトの音楽は、一見、単純に見えるかもしれませんが、

このように、「 多声部 」 や、「 対位法 」 が、

縦横に、張り巡らされているのです。


★自筆譜を読むことにより、彼が作曲した時の、

思考方法が、手に取るように、分かるのです。


★このほかに、シューベルトの一葉から、

たくさんのことを、発見し、学びました。

モーツァルトもシューベルトも、

そのように読み込みこんで、初めて、

優れた演奏ができる、と思います。


★彼らの同時代の作曲家で、

シンプルで美しい作品を書いた作曲家は、たくさん、

いたはずですが、なぜ、モーツァルトやシューベルトだけが、

現代にいたるまで、燦然とますます、輝きを増しているのか、

その理由が、ここにあるのでしょう。


★モーツァルトの音楽に、 「 多声部 」 や  「 対位法 」 を、

見出す方法を、私は、「 エドウィン・フィッシャー 」 校訂の、

「 モーツァルト・全ピアノソナタ集 」 から、学んでいます。

これについては、これからもブログで、

述べていきたい、と思います。


★名古屋・カワイでの、次回アナリーゼ講座

「 インヴェンション&シンフォニア 第 4番 」 は、
 
2011年 2月 23日 ( 水曜日 )です。



     ( 資料展のパンフ、自然耕房のナメコ・舞茸・椎茸、 唐辛子)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■カワイ・名古屋での≪バッハ・インヴェンション講座≫のお知らせ■ 

2010-10-26 11:43:20 | ■私のアナリーゼ講座■

■カワイ・名古屋での ≪ バッハ・インヴェンション講座 ≫ のお知らせ■             
                                            2010.10.26 中村洋子





★短い秋も終わりを告げ、冬がそこまでやってまいりました。

カワイ・名古屋で始めました 「 インヴェンション講座 」 は、

明 27日に、第  3回目を迎えます。


★前回 第 2回講座の後、以下のようなご質問が、ございました。

「 インヴェンション 2番の 8小節目には、右手 2拍目の

ソ と ファ を繋ぐ ≪ スラー ≫ がありますが、

あるのはそこ 1ヶ所のみです。

これは、どのように扱えばよいのでしょうか 」


★大変に、的確なご質問です。

バッハが自ら、≪ スラー ≫  を記入したということは、

「 必要があるから、記入した 」 ということです。

「 必要であるから 」  とは、「 誤解されないため 」 です。


★この 「 スラー 」 の解釈により、

この 「 インヴェンション 2番 」  を、どのように演奏するか、

それが決定されるほど、重要な 「 スラー 」 です。


★それのみか、同様に、

「 インヴェンション 3番  」  をどのように弾くか、にも、

深く、関わっているのです。

その点を、今回の講座でご説明いたします。





★ 「 インヴェンション 3番 」 は、 2番と異なり、

バッハ自身が、多数のスラーを記入しています。

その各々が持つ意味も、詳しく説明いたします。

その意味を知るためには、この 3番と 1番、2番との関係を、

もう一度、じっくり見直す必要があります。


★それは、「 インヴェンション&シンフォニア 1、 2、 3番 」 の、

計 6曲が、 1番インヴェンションから、どのように

紡ぎだされていったか、ということでもあります。


★バッハのインヴェンションや平均律は、

何もないところから、突然、打ち上げ花火のように、

出現したのではありません。

バッハは、少年時代、一世代前の 「 フィッシャー 」 という

作曲家の作品を、熱心に写譜して勉強しました。

それは、「 音楽の小さな花束 」 など4曲集で、

どれも短く、魅力的な作品です。

インヴェンションを始める前の 「 導入曲 」 として最適です。

この 「 フィッシャー 」 の曲集についても、ご紹介いたします。


★この講座は、音楽をバッハを、

心から愛している方々のためのものです。

難しいことはやさしく、

分かりやすいことは、さらに深くご説明いたします。





■日時:2010年 10月 27日(水)10:00~12:30
■会場:カワイ名古屋 2F コンサートサロン「ブーレ」
■受講料カワイ講師・音研会 ¥2500
                   楽譜会員¥3000
                   一般   ¥3500
■問い合わせ先 : カワイ名古屋  
         〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15
          Tel 052-962-3939   Fax 052-972-6427





                                             ( お茶の花、草花、柿、重陽の月 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■「 インヴェンション新講座 」を、「 横浜・みなとみらい 」で始めます■

2010-10-19 14:46:21 | ■私のアナリーゼ講座■

■「 インヴェンション新講座 」を、「 横浜・みなとみらい 」で始めます
                      2010.10.19 中村洋子





★現在、カワイ・表参道で、 「 平均律全曲 アナリーゼ講座 」 を、

開催中です。

昨年、 「 インヴェンション・アナリーゼ講座、全曲15回 」 を、

終了いたしましたが、その後も、

「 聴き逃したので、もう一度、開催してほしい 」  という声が、

数多く、寄せられてきました。


★ご要望にお応えして、新たに、

11月 25日から、カワイ横浜 「 みなとみらい 」 で、

「 インヴェンション&シンフォニア・アナリーゼ講座 」 を、

開催することに、なりました。


★ ≪ インヴェンション全曲講座 ≫ を終了し、その結果、

私には、「 平均律クラヴィーア 」  と  「 インヴェンション 」 を、

ひとまとめにした、 ≪ バッハの大きな構想 ≫  が、

より一層、鮮明に、見えてきました。


★どの  「 バッハ解説本 」  にも、当然のことながら、

書いてないことばかりです。


★ ≪ バッハの大きな構想 ≫  を理解することが、

演奏をするうえで、さらに、バッハを聴くうえで、

具体的に、役立つものでなくてはなりません。

難解で晦渋、意味不明な翻訳語による、分かったようで、

分からない “ 分析もどき ”  や、 “ 机上の理論 ” を、

学ぶのは、時間の無駄です。


★この 「 新しいインヴェンション講座 」  は、

再度、受講されましても、

新たな発見が、きっと、たくさんあることでしょう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『第1回 インヴェンション・アナリーゼ講座 』
     1番インヴェンション ハ長調、1番シンフォニア ハ長調

  日時:11月25日 ( 木 ) 午前10時 ~ 12時30分

■  会場:カワイミュージックスクール みなとみらい
        横浜市西区みなとみらい 4 - 7 - 1、ミッドスクエア 3F
                           (045-227-1051)
  
■ 
申込先: カワイ・横浜  電話: 045 - 261 - 7323
          
■ 会費:  3000円  ( 要予約 )




★感性に頼るだけの演奏では 「 何かが足りない 」 と、

お思いになったことはございませんか?

アナリーゼで、曲の骨格・構成を分析することによって、

はじめて細部と全体像が把握できます。

その結果、より演奏しやすく、また、訴えかける演奏が可能です。


★インヴェンションの 1番は 22小節、シンフォニア 1番も

22小節という、極端な短さです。

この 1番の中に 「 インヴェンション&シンフォニア 」

全 30曲の基本モチーフ・展開方法の全てが、凝縮されています。

全 30曲を一つの大きな楽曲として

捉えることが、インヴェンションを演奏する上で不可欠です。


★この手法を徹底的に学んだのが、ベートーヴェン、ショパン、

ドビュッシー・・・その後の大作曲家たちです。

クラシック音楽の世界では、バッハを十分に理解しなくては、

ショパンもベートーヴェンもシューマンもドビュッシーも真に理解し、

優れた演奏をすることは、到底できません。


★楽譜の選択も、とても重要な要素です。

原点版、校訂版も含め、どのような楽譜を選ぶべきか、

さらに、各版の意図と演奏法についても、お話いたします。






           ( 韮の花、団栗、アウスリーベ:チョコレート )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■「ベートーヴェンと女性作曲家のマスターワーク」コンサート■ 

2010-10-11 17:18:31 | ■私の作品について■


■「ベートーヴェンと女性作曲家のマスターワーク」コンサート■                                               2010.10.11  中村洋子






★平均律アナリーゼ講座から、帰宅しましたら、

チェロのヴォルフガング・ベッチャー先生から、

ドイツでのコンサートの、「 プログラム 」 入りの、

お手紙が、届いておりました。


★≪ ベートーヴェンーと、女性作曲家のマスターワーク ≫

というテーマで、

10月2日はベルリン、3日はブランデンブルク州グランベックで、

開催されました。



★ベートーヴェンとクララ・シューマンの 「 ピアノ三重奏曲 」、

L. A. ルボーの「 ヴァイオリンソナタ 」、そして、

私の 「 無伴奏チェロ組曲第1番 」 が、プログラムです。



★以前、先生は、「ベートーヴェンが、女性作曲家たちに

囲まれたプログラムだよ 」 と、冗談でおっしゃっていました。







★ピアノは、お姉さまのウルズラ・トレーデ・ベッチャー、

ヴァイオリンは、妹さんのマリアンネ・ベッチャーさん。

お姉さまは、以前、ご紹介しましたが、

妹のマリアンネさんは、ミッシェル・シュヴァルベ

Michel Schwalbeや、
ヘンリック・シェリング

Henryk Szering などのもとで学び、

ベルリン芸大で、ヴァイオリンの教授を、

務めていらっしゃいます。



★この3人で、「 ベッチャートリオ 」 を編成して、

演奏活動を、続けていらっしゃいます。

2年前、私のピアノトリオ作品も、演奏してくださいました。



★早速、先生にお礼を伝えましたところ、

「 Many people still speak about your 1.Suite.

It was a really great success and

I had to send our CDs to some Nakamura-Fans.

Also my sisters both love your music.」

という、お返事がきました。



★「 たくさんの人たちが、いまだに、あなたの

無伴奏チェロ組曲1番のことを、話題にしています。

この演奏は、本当に大成功でした。

あなたの曲を録音した CDを、

何人かの、中村洋子ファンに、

お送りしなければならないほどでした。

また、私の姉と妹も、あなたの音楽を愛しています」




★私は、先生に「 日本の暑かった夏も、やっと終わり、

実りの秋を、迎えました 」という返事を、

三十六歌仙の一人、藤原敏行 の歌

「 秋来ぬと、目にはさやかに見えねども、

風の音にぞおどろかれぬる 」 を添えて、

差し上げました。



★先生からは、「 木陰でも、40度を超すトルコの音楽祭や、

イタリアのマスタークラスを終え、2か月ぶりに、

ベルリンに戻ってきましたが、朝はなんと 5度しかなく

( “さやか”ではなく ) Sehr deutlich spiuerber!

実に はっきりとした秋を、感じています。

早朝の自転車での散歩も、少々寒くなってきました 」






★また、先生の今後の予定として、11月には、

国際的なチェロコンクール「エマヌエル・フォイアマンコンクール」

「 Grand Prix Emanuel Feuermann 2010 」16 to 21 November

の審査委員を務め、

来年、北京で開かれる「 弦楽四重奏コンクール 」 でも、

審査委員長をするため、

委員 jury の選定から始めなければならず、

大変忙しい、とのことです。


★余談ですが、「エマヌエル・フォイアマンコンクール」で、

ことしの、2次選考に残った 12人のうち、

中国が2人、韓国が1人です。

日本はゼロで、この分野でも、中国は目覚ましいですね。

また、私の 「 無伴奏チェロ組曲第1番 」 の楽譜は、

ベルリンの リース&エルラー社 ( Ries&Erler Berlin )

から、出版されています。





★コンサートのプログラム

So, 03.10.2010 
"Ludwig van Beethoven und -  Meisterwerke von
                                Komponistinnen"

 Erntedanksonntag
Die international bekannten Musiker und Geschwister Marianne und Wolfgang Boettcher und Ursula Trede-Boettcher finden sich in Glambeck erstmalig als Trio zusammen. Sie präsentieren Musik von Beethoven und von drei völlig unterschiedlichen, hoch begabten Komponistinnen. Es sind Clara Schumann (1819-1896), Luise Adolpha LeBeau (1850-1927) und die japanische Komponistin Yoko Nakamura (*1957). Die Suite für Cello Solo (2007) ist für Wolfgang Boettcher geschrieben und ihm gewidmet. Sie erlebt nun während des Glambecker Clavierfestivals eine Brandenburgische Erstaufführung.

★ Clara Schumann (1819-1896)  
                    Klaviertrio g-Moll,op.17

   Luise Adolpha LeBeau (1850-1927)
                Sonate fuer Violine u.Klavier c-Moll,op.10

  Yoko Nakamura          
               Solosuite Nr. 1 fuer Violoncello                       
                               Wolfgang Boettcher gewidmet

  Ludwig van Beethoven (1770-1827)
                   Klaviertrio B-Dur,op.11
                                           “Gassenhauertrio”

Ausfuehrende
 Ursula Trede-Boettcher - Klavier
 Marianne  Boettcher    - Violine
 Wolfgang  Boettcher    - Violoncello

★2010年10月3日 日曜日
ルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンと、
女性作曲家の傑作集

感謝祭の日曜日
国際的に知られている音楽家のマリアンネ、ウルズラ、そしてヴォルフガング・ベッチャーが、グランベック音楽祭に、トリオとしては初めて登場します。ベートーヴェンと、3人の全く異なった非常に才能がある女性作曲家の作品を、演奏します。3人とは、クララ・シューマン ( 1819~1896 )、ルイーズ・アドルファ・ルボー ( 1850~1927 )、そして、日本の作曲家・中村洋子です。
中村の「 無伴奏チェロ組曲第1番 」 ( 2007 ) は、ヴォルフガング・ベッチャーのために書かれ、献呈されている。ブランデンブルクでの初演となります。

演奏
ウルズラ・トレーデ・ベッチャー  ピアノ
マリアンネ・ベッチャー      ヴァイオリン
ヴォルフガング・ベッチャー    チェロ






                ( プログラム、赤トンボ、藪蘭 )
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■平均律クラヴィーア曲集 8番の前奏曲とフーガは、なぜ異名同音調か?■

2010-10-10 01:25:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律クラヴィーア曲集 8番の前奏曲とフーガは、なぜ異名同音調か?■
             2010.10.10 中村洋子


★10月8日開催の 「 バッハ・平均律アナリーゼ講座 」 は、

いつにも増して、たくさんの方がご参加くださいました。

みなさま、それぞれの疑問をおもちになって、

ご来場されたと、思います。


★バッハが、なぜ 8番を

≪ 前奏曲は変ホ短調、フーガを嬰ニ短調  ≫ で、書いたか?

これは、平均律を学ぶ方にとって、誰しもが抱く疑問ですね。

それについて、日本で出版されている、

最も有名な“ 平均律クラヴィーア曲集解説本 ”は、

マックス・レーガーの弟子だった、

Helmann Keller ヘルマン・ケラー( 1885~1967 )という、

ドイツの音楽学者の説を、引用して、

次のように書いているだけです。


★『 バッハは、このフーガを、まず d moll で作曲し、

それを、半音高い dis moll に書き改めた。

しかし 15、16小節 上声の上行する8分音符行の頂上音

( 16小節最初の音 )の際、当時の楽器の音域の制約のため、

タイで結ばれた現今のように処理せざるをえなかった。

こんにちのわれわれにとっては、この操作がもはや価値を

有していないので、上述の箇所を本来のままで再生しても

差支えない 』。

 ( 日本語が、変なことはさておき )、

これでは、全く説明になっていませんね。


★この前奏曲とフーガが、たとえ、既にあった曲を使って、

作曲し直したとしても、バッハはなぜ、

平均律の他の曲のように、「 変ホ短調 」 に統一するか、

あるいは 「 嬰ニ短調 」 に統一する、

ということをしなかったのか・・・?、

そういう疑問が、当然のこととして、沸々と湧き上がります。

しかし、それに対する答えは、解説書には、ありません。


★講座では、この問題について、私が考え抜いた

本当の理由を、詳しく、解説いたしました。

皆さま、きっと、ご納得されたことでしょう。





★平均律クラヴィーア曲集を、一つの大きな

≪ 変奏曲 ≫ として、眺めますと、当然、

≪ 前奏曲は変ホ短調、フーガを嬰ニ短調 ≫ と、

なるべくして、なっているのです。

逆に、言えば、

≪ 前奏曲は変ホ短調、フーガは嬰ニ短調 ≫ でなければ、

≪ 一つの大きな 変奏曲 ≫ には、ならないのです。

その意味で、平均律 1巻における 7番、8番、9番の、

関連性を、さらに、詳しく検証する必要があります。


★次回、11月16日の 「 講座 」では、

この異名同音調をもつ、≪ 第 8番 の調性 ≫ について、

≪ 第 9番からの視線 ≫ で、

もう一度、分かりやすくお話いたします。


★これが、 ≪ 「調性」や「調号」とは、一体何なのか ≫、

という疑問に対する、

根源的な説明にもなると、思います。

「 ああ、そうだったのか! 」 と、驚かれ、その結果、

バッハを、よりいっそう、身近に、

感じることが、できるようになるでしょう。


★私は大学で、フランス音楽を専門とする、

学者の授業を、取りました。

「 ラヴェルのオーケストラ曲 RAPSODIE ESPAGNOLEを、

一年間かけて、考察する 」 ということでした。

大いに期待して、教室に出かけました。

が、次のような、内容でした。


★ 1曲目「 Prelude a la nuit 」 4小節目 1拍目の、

「 Dをチェロとコントラバス、F をヴィオラとヴァイオリン、

GisとB をハープ、AsとB をクラリネット、

F をオーボエ、AsとB をフルート 」と、

オーケストラスコアを、子細に見れば分かることを、

黒板に、書き写すだけでした。

それを延々と続けることだけが、授業でした。


★どの音を、どの楽器が担当しているかは、

スコアを見れば、誰でも、分かることです。

しかし、それが 「 授業 」 として成り立ち、

昔から、延々と続いているのが、現在の、

日本の一流音大の、実態なのです。


★≪ なぜ、ラヴェルが、Dをチェロとコントラバスで弾かせ、

Fをヴィオラとヴァイオリンで、弾かせたか?

その逆は、なぜ駄目なのか?

ラヴェルの意図は、どこにあるのか? ≫ を、

学生に説明したり、ヒントを与えるのが、

本来の授業であると、思いますが、

それは、全く、ありませんでした。

ラヴェルの個人的なエピソードや、海外の文献などには、

お詳しくても、

ラヴェルの音楽そのものが、どのようなものであり、

どのように、出来ているかは、分析できないのでしょう。





★日本で有名な、もうひとつの、対談式

“ 平均律クラヴィーア曲集解説書 ”には、

 8番について、以下のように評価しています。


★『 このプレリュード、フーガは、

平均律全48曲中一番の傑作だとか、 崇高な音楽だとか

哲学的であるとか言われているけれども、私はどうも

過大評価されているんじゃないかという気がします 』、

『 このフーガは書き込みすぎていてね ・・・』、

『 このフーガの魅力は主題だけです 』、

『 このフーガの弱点は、ストレッタが長すぎることと、

   和音のヴァラエティーが少ないことです 』、

『 一種独特のしつこさみたいなものを、

 おぼろげながら感じてた・・・ 』。


★バッハ 「 直筆譜 」 を広げ、

「楽譜の段落分け ( レイアウト ) 」 を、

つぶさに見ますと、

私は、このフーガが、なんと緻密で、整然と構成され、

若いお弟子さんや子供たちが、作曲の技法を学ぶうえで、

教材として、申し分なく、

さらに、視覚的にも、分かりやすく書かれていることか・・・、

と、見るたびに、いつも感動しております。


★少し、例を挙げますと、

フーガ 1ページ目の 1段目と2段目は、主題の 「 提示部 」 が、

「 ピッタリと 」と、2段で納まるように、書き込まれています。

しかし、次の 3段目は、なんと、10小節目の

 「 真ん中 」 の場所から、始まっています。

それは、 ≪ 3段目冒頭、つまり、10小節目 後半のバスが、

11小節目バスのアウフタクトである ≫ ということを、

視覚的に、一目瞭然で分かってもらえるよう、

敢えて、常識はずれの場所から、3段目を始めていたのです。


★換言すれば、

≪ここから、バスの半音階下行形進行が、始まるよ! ≫と、

バッハ先生は、楽譜を見ただけで分かるように、

本当に親切に親切に、合図しているのです。


★4段目も、14小節目の 「 真ん中 」 から、始まっています。

これも、同様に、常識外れの場所です。

アウフタクトであることを、示すことにより、

ソプラノに 、

≪ ここから、全音階の上行進行が始まるよ! ≫  と、

知らせているのです。


★3段目と 4段目は、半音階と全音階という、

対極的な音階を並べ、対照させています。

演奏するうえでも、作曲技法を学ぶうえでも、

平易で分かり易く、最良の道標と、いえます。


★5段目は、今度は、19小節目の 「 初め 」 から、

開始します。

この小節は、前半が 「 嬰ニ短調 」 の属調である

「 嬰イ短調 」 のカデンツです。

後半は、「 嬰イ短調 」 のバスで始まるテーマを、

「 ストレッタ 」 により、

4分音符の2拍分遅れで、

ソプラノのテーマ ( 20小節目 ) が、

追い掛けていきます。


★奏者は、3段目、4段目の出だしで意表を突かれたため、

次の、≪ 4段目は、何が来るのかしら? ≫

という心理に、なっています。

バッハは、ここでも、「 レイアウト 」 により、一目で、

≪ 新しく始まるのは 「 ストレッタ 」 だよ ≫ と、

分かるよう、親切に、教えているのです。





★バッハの死後、19世紀ごろ ( 定説なし ) に、

学校で教える典型的なフーガの、「 雛型 」 として

≪ 規範フーガ ( 学習フーガ )≫ という形式が、

ほぼ、確立されたようです。


★上記の対談方式の解説書の著者は、

「 規範フーガ 」 に、当てはまらない、という理由から、

この平均律 8番や 1番のフーガを、

単純に、否定しているようです。


★「 規範フーガ 」 では、

ストレッタは、フーガがほぼ 3分の 2以上、

進行したところから始めるべき、とされています。

曲の前半で、登場させるべきものではない、

というのが、決まりです。

そして、ストレッタの初めは、

テーマとテーマが重なる部分(オーバーラップ)を、

少なくし、ストレッタの回数を重ねた後 、

オーバーラップを、多くしていき、

緊迫感を、盛り上げていく・・・。

これが、“ 規範フーガの理想 ” と、されています。


★ 8番や、1番のように、曲の前半からいきなり、

オーバーラップの多い、緊密なストレッタが、

登場するのは、 “ 許しがたい ”  ことのようです。


★しかし、「 規範フーガ 」 は、バッハの後に生まれたもので、

8番、1番 にこそ、バッハの天才が、

見事に発露されていると、思います。


★エドウィン・フィッシャーや、ヴィルヘルム・ケンプの、

珠玉の演奏を、CDで聴きますと、

≪ この曲が終わらないで、無限に続いて欲しい ≫

 とまで、思います。

どうして  “ ストレッタが長すぎる ”

 という言葉が、出るのでしょうか?


★どうぞ、日本語の解説本や、CDのブックレット解説、

さらに、インターネットにはびこる、

したり顔の解説や孫引きに、惑わされ、

振り回されないでください。

ご自分の感性を信じ、ご自分で、

バッハの本質に迫る方法を、

切り拓いていくしか、ないのです。

有名大学や書籍などの権威を、盲信しないでください。

そうすれば、親切なバッハ先生が、あなたに、

やさしく直接、手を差し伸べてくれるのです。




                                        
                          
( キノコ、トンボ、朝顔、萱釣り草、アウスリーベ・テーゲベック )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

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■ 第 9回 バッハ 平均律アナリーゼ講座のお知らせ 9番 ホ長調 ■

2010-10-09 00:12:16 | ■私のアナリーゼ講座■

■ バッハ 平均律  1巻  9番 ホ長調 と、ショパン「 別れの曲 」の関係 ■
                                                     2010. 10. 9   中村洋子









▼平均律アナリーゼ講座 第 1巻 第 9番  ホ長調 前奏曲 & フーガ

≪ 平均律 9番を学ぶことで、ショパン「 別れの曲 」の演奏が、さらに深まります ≫




講師:中村洋子

日時:2010年 11月 16日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

会場:カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

会費:3,000円  ( 要予約 )  Tel.03-3409-1958 
 

★平均律 1巻の白媚ともいえる 8番に続く「9番」は、暖かく明るい曲です。

前奏曲は 8分の12拍子で、冒頭2小節続くバスの保続音

 ( オルガンポイント )に、パストラルの性格がうかがえます。

パストラルは、クリスマスと関係が深く、この季節にふさわしい曲です。


★快活なテンポのフーガは、

9番以前の 1番から 8番までの「 変奏曲 」であることは、

言うまでもありません。


★ショパンのごく若い時の作品、

「 エチュード 」OP.10-3 ホ長調は、

「 別れの曲 」 として、親しまれています。


★ことし生誕 200年のショパンは、バッハの平均律を座右に置いて、

繰り返し弾きながら、このエチュード集を、作曲したことでしょう。

別れの曲と、平均律の1巻 9番は、双子のように似ています。

保続音の扱い、モティーフの展開方法、反復( ゼクエンツ )進行、

半音階進行などに、それが読みとれます。

この点についても、詳しくお話いたします。


★「本年」のこの講座は、今回が最後です。

クリスマスにちなむ “ パストラル ” と “ 別れの曲 ” で、

幕を、閉じたいと思います。






● 今後のスケジュール
第 10回 2011年 1月 25日(火) 第 10番 ホ短調 前奏曲&フーガ
第 11回     2月 18日(金) 第 11番 へ長調 前奏曲&フーガ
第 12回     3月 30日(水) 第 12番 へ短調 前奏曲&フーガ
    午前10時~12時30分 
    会費:3,000円

■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、ギター、声楽、雅楽、
室内楽などの作品を発表。

2003年~ 05年: アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。
07年: 自作品「無伴奏チェロ組曲第 1番」などを、
        チェロの巨匠 W.ベッチャー氏が、
        演奏したCD『W.ベッチャー 日本を弾く』を発表する。

08年: CD「龍笛&ピアノのためのデュオ」と、
       ソプラノとギターの「星の林に月の船」を発表。

09年10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」が、
        W.ベッチャー氏により、ドイツ・マンハイムで初演される。

08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座 」 全 15回を開催。

10年: 「 無伴奏チェロ組曲第 1番 」が、ベルリンの
         リース&エルラー社 Ries & Erler Berlin から出版される。

      CD 『 無伴奏チェロ組曲第3番、2番 』 W.ベッチャー演奏 を、発表。

      「レーゲンボーゲン・チェロトリオス ( 虹のチェロ三重奏曲集 )」が、
 
      ドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack 社
  
      から出版される。


*ブログ:「音楽の大福帳」
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko

■カワイ表参道
 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-1 
 Tel.03-3409-1958 
 
http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
 omotesando@music.kawai.co.jp





                                   ( サンシュユの実、金木犀の花、柿の実 )
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■バッハの分散和音を、どのように解釈し、演奏すべきか ■

2010-10-06 14:56:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■バッハの分散和音を、どのように解釈し、演奏すべきか ■
              2010・10・6 中村洋子
  


★10月 8日のカワイ・平均律アナリーゼ講座にむけて、勉強中です。

今回は、平均律1巻 8番

変ホ短調・前奏曲、嬰ニ短調・フーガ )です。

この 8番が、バッハの 「 ゴルトベルク変奏曲 」 や、

マタイ受難曲 」 と、どのような関係にあるか、

また、前奏曲とフーガが、

なぜ、異名同音調の「 変ホ短調 」と、「 嬰ニ短調 」であるか、

詳しく、ご説明する予定です。

  
★8番の前奏曲とフーガを、どうして

「 異名同音調 」 に、しなければならなかったか、

その理由は、平均律クラヴィーア曲集を、

≪ 大きな変奏曲 ≫ と、とらえますと、

一目瞭然に、分かります。


★また、ゴルトベルク変奏曲と 8番との関係で、

重要な要素、となるのが、

≪ 分散和音( アルぺッジオ )≫ です。


★≪ 分散和音 ≫ については、インヴェンション講座で、

「 シンフォニア 5番 」 を、勉強しました際に、

ご説明しましたことを、まず、復習してみます。





★シンフォニア 5番 変ホ長調 ( 3声 ) について、

大ピアニストの、エドウィン・フィッシャーは、

この上 2声を、フルートとヴァイオリンの

Duett のように、出来る限り美しくフレーズで、

美しく歌うべきである 」と、指示しています。


★この言葉に、インスピレーションを受け、

私のインヴェンション講座 5回目では、

ヴァイオリニストをお招きし、弓もバロックボウを使い、

ソプラノ部分を 「 ヴァイオリン 」 で、

内声とバスを、私の 「 ピアノ 」 で、

演奏してみました。


★豪華に、チェンバロとピアノとの、

弾き比べも、いたしました。

ここで、 「 大発見 」 をしました。


★34小節目のソプラノの C、B、 35小節目の As、

36小節目の G、 37小節目の Fが、主要な旋律ラインですが、

「 C、B、As、G、F ( ド シ♭ ラ♭ ソ ファ ) 」と、

進行した場合、最終小節の 38小節目は、どうしても、

≪ Es ミ♭ ≫ が、欲しくなります。

ミ♭ があれば、 ド シ ラ ソ ファ ミ と、

美しい、6度の順次下行進行が、できるのです。


★最終小節・38小節目は、バスが  Es (ミ♭) 、

内声も Es (ミ♭) ソプラノが、G (ソ) の、

付点2分音符の和音です。


★この和音に、バッハは、アルぺッジオを付けてはいませんが、

ヴァイオリンとピアノで、演奏することにより、

欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ が、内声であるにもかかわらず、

はっきりと、聴き取れました。

ピアノで担当している 2つの声部のうち、 上の声部 ( ソプラノ )が、

まさに、欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ であったからです。




★そこで、私たちが次に考えましたのは以下のことです。

最終楽章である38小節目、付点2分音符の和音を、

分散和音とする、さらに、ヴァイオリンが担当していた、

G ソ に、前打音 ( langer Vorschlag ) として、

As ラ♭ を付け、

ソプラノを担当するヴァイオリンは、

ピアノの Es ミ♭ を、聴いてから、穏やかに、

ゆっくりと As G ラ♭ ソを、演奏することでした。


★これは、大変にいい効果を生み出しました。

38小節目の最終和音が、ぶっきらぼうに、

ただ1回だけ、奏されるのではなく、

余韻を残して、美しい 6度の順次進行を聴かせながら、

終わることが、できるのです。


★この方法は、ピアノだけで弾く場合でも、

もちろん、使うことができます。

是非、お試しください。


★この経験から分かったことは、

バッハの和音は、必要であれば、

バッハが分散和音の記号を、付けていなくても、

アルぺッジオにすることも、可能である、ということです。


★その必要性とは、

その曲をアナリーゼし、バッハが意図したモティーフや、

フレーズが、分散和音により、より分かりやすく、

出現するかどうか、です。


★これは、分散和音を、

高い音から、低い音に向けて弾くか、

あるいは、低い音から高い音に向けて弾くか、

にも、応用できます。


ヴィルヘルム・ケンプによる、極め付きの名演 C D

「 ゴルトベルク変奏曲 」 の アリア 2小節目で、

バッハが記したソプラノの前打音 2つを、弾いていない理由も、

まさに、ここにあるのです。


★ケンプが、≪インヴェンション、シンフォニア、

平均律、ゴルトベルク変奏曲≫  を、大きく俯瞰し、

≪ 一つの巨大な変奏曲 = バッハそのもの ≫  と、

とらえて、演奏していることを、私は実感しました。


★バッハの  ≪ 装飾音、分散和音 ≫  の、演奏方法は、

どれだけ深く、バッハをアナリーゼできているか、

それに、依ります。





                               ( 藪蘭、紫蘇、洋種山牛蒡  )

▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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