音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■スイスのチェリストが私の作品をレパートリーに、「もがみ川」が9月、山形で演奏■

2017-05-30 02:45:52 | ■私の作品について■

■スイスのチェリストが私の作品をレパートリーに、「もがみ川」が9月、
山形で演奏■

             2017.5.30    中村洋子

 

 


★アヤメ(菖蒲)やハナショウブ(花菖蒲)も咲き、

梅雨間近です。

5月30日は、旧暦の「端午」です。

なるほど五月の節句(端午)のゆかりの花が、

菖蒲である訳ですね。


★スイスやドイツ、日本から嬉しいお便りやお知らせが、

続いています。


★スイスのチェリストから、お手紙をいただきました。

実は二年前にも、ご丁寧なお手紙を頂いていたのですが、

差出人のお名前が、達筆な筆記体で書かれていましたので、

判読できず、残念ですがお返事できないままでした。


★日本でも、昔はお年を召した方の草書体が読めずに、

困ったことがよくありましたが、

いまは、その草書体をお書きになる方も珍しくなっていますね。

 

 


★2015年4月23日付けのスイスからの、そのお手紙には、

≪・・・先週、私はあなたの六曲の「無伴奏チェロ組曲」を、

楽譜を手にして、ミスター・Boettcher ・ベッチャーのCDで、

聴きました。

おめでとう、あなたは extrordinarily に作曲しましたね。

この音楽はとても fascinatedly 魅力的です。

・・・・・・私は、今週末フランスに行き、この秋の二つの異なった

コンサートプログラムの準備をします。

その後、私はあなたの音楽に集中します。

私はそれを、私のレパートリーにし、

次のシーズンに演奏するつもりです・・・・・・≫

という内容でした。


★お返事を出すことができませんでしたので、

さぞ、がっかりされていたことでしょう。


★二回目の2017年5月6日付けのお手紙には、

≪・・・もし、あなたが私のお手紙を受け取っていないのでしたら、

あなたの美しい音楽に、もう一度お礼を言いましょう・・・≫

という、心のこもったものでした。


★このように、自分の分身である作品が、異国で、

素晴らしい音楽家と「対話」し、「真の友」を得ていることは、

心からの喜びです。

 

 

 

https://twitter.com/ochaclassic/status/569805986912804864

 

 

ベルリンで4月、二人のギタリストのための「もがみ川」を、

「チェロとギター」で、演奏していただいたこともあります

このようなプログラムでした。

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Konzertsaal Platanenallee 16 Donnerstag,
 20. April 2017 Berlin

Crossover für Cello und Gitarre
        (チェロとギターのためのクロスオーバー)

■Heitor Villa-Lobos (1887-1959)
Bachianas Brasileiras No. 5
 Aria

■Robert de Visée (um 1660 -1732)
 Suite D-Dur

■Radamés Gnattali (1906-1988)
 Sonata

*Pause 休憩 *

■Walter Thomas Heyn (*1953)
 Drei Impromptus

■Guilherme Castro (*1956)
 Carioca Andaluz

■Antje Rößeler (*1989)
 En Dans

Yoko Nakamura
 Der Mogami Fluss(もがみ川)
 ・ Thema Lento Barcarolle(舟歌 レントで)
 ・ Var.1 fließend(第1変奏 流れるように)
 ・ Thema mit Ruhe(テーマ 安らいで)
 ・ Var. 2 (第2変奏)
 ・ Zwischenspiel(間奏曲),
 ・ Var.3 Wiegenlied(第3変奏 子守唄)
 ・ Var. 4 Furioso Vivo(第4変奏 荒々しく、生き生きと)

●Susanne Meves-Rößeler(ズザンネ・メーフィス・レセラー)
                           Violoncello

●Christian Kulke-Vandegen(クリスティアン・クルケ・ファンデゲン)
                           Gitarre

*アンコール*
★Yoko Nakamura
Choco Chip Cookie(チョコチップクッキー)

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実に立派なプログラムです。

この「もがみ川」「Choco Chip Cookie」は、

CD「夏日星」に収録されています。


★CDで、「もがみ川」を演奏されています尾尻雅弘さんが、

9月2日(土)に山形県にあります最上川美術館・真下慶治記念美術館で、
http://www.massimo-k.org/p_murayama/

やはりチェロとギターの二重奏で、「もがみ川」を、

演奏されることになりました。

詳しいことが分かりましたら、お知らせいたします。


★「もがみ川」の滔々と流れる様は、

チェロの深々とした音を連想させるのかもしれません。

『五月雨を集めて早し最上川』

 

 

★このCD「夏日星」は、以下で購入できます。

●アカデミア・ミュージック
http://www.academia-music.com/
http://www.academia-music.com/html/page1.html?q=%E5%A4%8F%E6%97%A5%E6%98%9F&sort=number3,number4,number5&searchbox=1
Tel.03-3813-6754  Fax.03-3818-4634

●銀座山野楽器 2Fクラシックフロア
http://www.yamano-music.co.jp/a/shops/ginza/

 


★6月14日、名古屋KAWAIで、

「平均律1巻6番 d-Moll アナリーゼ講座」を開催します。
http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/pdf/lecture20170614_nakamura.pdf

きょうは、その勉強をしていました。


★「Bärenreiter 平均律第1巻」の「前書き」の翻訳(中村洋子訳)と、

訳者・中村洋子による注釈が、近く出版予定ですが、

ここで、Bachが自分で書きました「序文」の意味を、

詳しく、解説しております。


Bachの「序文」は、スフィンクスの謎のように、

“分かりそうで分からない”存在でした。

その言わんとすることが、前回の名古屋アナリーゼ講座で、

≪平均律第1巻5番D-Dur≫の説明をしていますとき、

立ち込めていた霧がサーッと晴れていくように、

氷解していきました。

 

 


★東京、横浜に続く三度めの講座ですが、

今回は、テキストも一新し、Bachの「序文」を常に念頭におきつつ、

この素晴らしい6番d-Mollを、

“干からびた練習曲とフーガ”ではなく、いかに、生きた音楽として

演奏するかを、お話いたします。


★大作曲家Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845-1924)が

校訂しました平均律第1巻にも、

「本当のBach」を弾く提案(サジェスション)が、満ち満ちています。

それをどう解き明かし、演奏に結び付けるかです。


スイスの未知のチェリストが、地球の裏側で、

私の音楽を暖かく迎え入れて下さいました。

音楽には、国境も時空も、軽く飛び越える力があります。


★Bachの音楽は、永遠に消えない、燃える生命体ですね。

 

 

 


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■第9回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座第25、26、27変奏のお知らせ■

2017-05-16 01:45:09 | ■私のアナリーゼ講座■

■第9回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座第25、26、27変奏のお知らせ■

             2017.5.16  中村洋子

 

 

★夏祭りの季節です。

先週5月12日~14日は「神田祭」でした。

≪神田川 祭りの中を ながれけり≫ 久保田万太郎


★私の幼い頃の「神田祭」は、縁日に集う子供たち、

お神輿を見る家族連れ、道は人、人、人。

立錐の余地もありませんでした。

万太郎の句は、高見から俯瞰したような、

絵画的な表現でお祭りをとらえています。


★5月13日に第8回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

アナリーゼ講座を開催いたしました。

次回第9回講座は、7月8日(土)文京シビックホールです。


★最終回の第10回講座は、会場が変更となります。

JR神田駅近くの「エッサム本社ビル 4階こだまホール」で、

時間も「午後1時半~午後6時(休憩あり)」です。


 

 


★5月12日(金)の夜、エッサム本社ビルの下見も兼ねて、

神田を散策しました。

神田祭の宵祭り、宵宮の日です。

町はどことなく浮き浮き湧き立つ印象です。

「そろそろ、帰りましょう」と、JR神田駅に着きますと、

なんと、構内の改札口前で、お神輿がひとしきり掛け声とともに、

上に下にと、ゆっさゆっさ揺れていました。

粋な計らいですね。

 

★初夏も過ぎ、夏祭りの頃は、

いつも少し蒸し暑く、

湿度が上がって来るように感じます。

田園地帯の秋祭りは、収穫の喜びと、

それを感謝することに起源があるのに対し、

町の夏祭りは、医療が進んでいなかった時代、

疫病が最も発生しやすい夏に健康でいられるように、

との願いから、この季節になったと、読んだ記憶があります。

 

 


★第8回「Goldberg-Variationen」アナリーゼ講座は、

篠突く雨でしたが、たくさんの方が熱心に

ご参加くださいました。


第22変奏で、新たに出現した四角形が、第17、18、19変奏での

「大四角形」と、どのような関係にあるのか、

次回7月8日(土)の第9回講座で、その姿を更にはっきりと、

現していくことでしょう。


★第9回は、七夕の翌日です。

「Goldberg-Variationen」の天空に輝きわたる星々を、

どのように発見するか、それを演奏や鑑賞の手引きとする方法を、

どう編み出すか、ご一緒に勉強いたしましょう。


Bachの音楽は、干からびたような、些末な“データ”で

頭を一杯にした研究者や学者のものでは、ありません。

燦然と輝くその音楽そのものに心を奪われ、一歩でも二歩でも

音楽の真実に近づき、触れてみたいと希求する皆さまのための

音楽なのです。

 

 

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■第9回(第2期第4回)「ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座
     第25、26、27変奏

 ・ゴルトベルク変奏曲の「頂点」であり、イエスの受難を悼む第25変奏

 ・サラバンドに小鳥のさえずりのようなパッセージが絡みつく第26変奏

 ・二声カノンの究極の簡潔さを示している第27変奏


第25変奏は、ゴルトベルク変奏曲の白眉と言える曲です。
第15、21変奏に続くト短調です。
全30変奏で、ト短調は3曲のみです。ゆっくりとした半音階のバスは、
重い十字架を担いで歩むイエスを象徴するかのようです、
その上に覆いかぶさるように、受難を悼む悲しみのアリアが歌われます。


第26変奏は、ゆったりと満ち足りたサラバンドが二声部で奏され、
それに絡まるように、16分音符の速いパッセージが、
軽やかに小鳥のさえずりを聴かせます。


第27変奏は、ゴルトベルク変奏曲の中で最後のカノンです。
全30変奏の中でカノンは9曲ありますが、唯一の二声カノンです。
超新星の爆発のように光り輝く第28、29変奏の前の、
簡潔な心安らぐインテルメッツォと言えましょう。

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■講師: 作曲家  中村 洋子
 東京芸術大学作曲科卒。

・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
  「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
     自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
     「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

      「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
     「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
       チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
       ドルトムントのハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
       から出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                disk UNION : GDRL 1001/1002)

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
   ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
          演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
  「訳者による注釈」を担当。

    CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
     (アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
    ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や
  全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。

-------------------------------------------------
■日時:7月8日(土)13:30~16:30

■会場:文京シビックホール 多目的室(地下1階)

■お申込み:アカデミア・ミュージック企画部 ☎03-3813-6757、   
             ✉fuse@academia-music.com

 

 


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■「ゴルトベルク変奏曲」の白眉「第25変奏」は、同じg-Mollの第15、21変奏で準備されている■

2017-05-11 01:56:03 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■「ゴルトベルク変奏曲」の白眉「第25変奏」は、同じg-Mollの第15、21変奏で準備されている■
  ~5月13日、第8回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」~
           
             2017.5.11   中村洋子

 

 

 

★≪ちりてのち おもかげにたつ 牡丹かな≫

与謝蕪村の名句です。


★満開だった牡丹の花が、花びらを一枚一枚

散らしていきます。

結実した雌蕊が盛り上がっています。


★あの豪華だった花が、幻影のように、

浮かんでいます。

 

 


★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

主題である「Aria」の後、30の変奏曲が繰り広げられます。

一抹の淋しさを漂わせた最後の第30変奏「Quodlibet」の後に、

静かにもう一度、「Aria」が奏されます。


★私は、この「Aria」が終わりますと、

静寂の中に、幻のように、

「Aria」と30の変奏曲の全体像が、浮かんできます。

ちょうど、蕪村のこの句のように。


★5月13日の「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」は、

第22、23、24変奏です。

この第24変奏で、遂に1オクターブのカノンに辿り着きました。


★ゴルトベルク変奏曲では、曲の番号が3の倍数に当たる変奏は、

すべて「カノン」です。


★それも、

第3変奏は、1度(同度)のカノン、




 

第6変奏は、2度のカノン、


 

  

第9変奏は、3度のカノン、







第12変奏は、4度のカノン、






 

 第15変奏は、5度、ト短調g-Mollの反行カノン、

 



第18変奏は、6度のカノン、第22変奏と相関関係にあります、

 





第21変奏は、7度のカノン、2回目のト短調、

 




第24変奏は、8度(1オクターブ)のカノン、

 

 


第27変奏は、9度のカノンです。

 

 

★第30変奏は「Quodlibet」は、二つの民謡を基にした、

二重対位法ですから、第6~27変奏の厳格なカノンとは、

性格を異にしています。


第12と21変奏は、1段鍵盤か2段鍵盤か、

指定されていませんが、1段鍵盤が妥当でしょう。

はっきりと「a 2 Clav. 2段鍵盤で」と書かれているのは、

第27変奏だけです。


それ以外の第6、9、15、18、24変奏の5曲は、

「a 1 Clav. 1段鍵盤で」と指定されています。


★第27変奏以外は、1段鍵盤で演奏する、ということは、

どういう意味でしょうか?


★それは、音色の異なる2段鍵盤での、豊かな色彩感を

Bachは要求したのではない、ということです。

言い換えますと、音色に頼らず、カノンを弾き分けなさい、

ということでしょう。

 

 


★第24変奏を例にとりますと、

ソプラノと内声のカノンに、バス声部がプラスされている・・・

というとらえ方では、Bachの意図に迫ることはできないでしょう。


★ソプラノだけの1声部に見えます上声を、

本当にソプラノ1声部なのか?・・・と、

考えることから、本当の演奏は始まります。

この点につきましては、講座で詳しくお話いたします。

 

★ゴルトベルク変奏曲の中で、

その三分の一を占める「カノン」が、大きな柱であることは、

間違いありません。


★また、ト長調(G-Dur)の曲集でありますが、

ト短調(g-Moll)が、3曲あります。

それは、第15、21、25変奏ですが、

そのうちの2曲、第15、21変奏がカノンであることも、

見逃せません。


★詰まるところ、

このゴルトベルク変奏曲の白眉である

「第25変奏 ト短調(g-Moll)」を、

第15、21変奏で準備しているとも、言えましょう。

  

★アナリーゼ講座は、

http://www.academia-music.com/new/2017-02-21-142146.html

 

 

  

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■連続した「3度音程」は「3度の重音」にあらず、ゴルトベルク変奏曲講座第22、23、24変奏■

2017-05-08 18:25:16 | ■私のアナリーゼ講座■

■連続した「3度音程」は「3度の重音」にあらず■
~Bachはチェルニーのような「3度重音」を決して書かなかった~
~第8回「ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座」第22、23、24変奏~

          2017.5.8   中村洋子

 

 


★金雀枝(エニシダ)の花が盛んに咲いています。

“黄金色の雀たち”が、新緑の枝にとまって囀っているかのようです。


★前回ブログで指摘しました「第22変奏」28小節目の「完全5度」

つきましては、Bachの「Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア」との関係も見逃せません。

また、この第22変奏は、平均律クラヴィーア曲集やコラールとの関係も、

同様に勉強する必要があります。


★わずか32小節ですが、この小さな変奏曲の扉を開けますと、

広大無辺の世界が広がります。

 

 

 


5月13日の第8回講座「第22、23、24変奏」で、ゴルトベルク変奏曲は、

<大団円>を迎えつつあります。

それはどういう意味かと申しますと、

「Goldberg-Variationen」全30変奏の特に、後半15曲は、

常に「このモティーフ、この和声、この旋律は、

“どこに由来し”、“どこにつながっていくか”を、

考えなければいけない、ということです。


★このため、今回の「第22、23、24変奏」は、

それ以前の21曲の変奏曲を凝視し、

第25変奏以降の燃えるような音楽を、見渡すという役割

担っています。

ここを理解いたしますと、Bachが「Goldberg-Variationen」を、

どのように構想し、どう組み立てたかが、理解できます。

 

 


★しかし、大半の方は、そのような理解や勉強がなくても、

ゴルトベルク変奏曲を一度でも聴きますと、

その魅力に心奪われるのではないでしょうか。


★例えば、第22変奏の20~24小節目の「e-Moll ホ短調

(G-Moll ト短調の平行調)」は、胸がキュンと締め付けられる

ような哀感を帯び、センチメンタルです。

 

 


★特に、21小節目後半から始まる上声「3度音程」の、

同時同方向進行は、ソプラノ二人によるアリアのようにも聴こえます。

第22変奏の頂点といえます。

 

 


★ただし、この部分を「3度の重音」ととらえるのは、

根本的に誤りです。


Bachは、チェルニーの練習曲などに使われているような意味での、

「3度の重音」を、全く使わなかった作曲家です。

練習曲の「3度の重音」は、ある旋律に機械的に3度上、

または3度下の音程の旋律を、重ねたものです。


★しかし、Bachの「3度」は、異なります。

例えば、平均律第2巻16番g-Moll フーガの59~61小節目も、

「上声も下声も3度の重音である」と、とらえるのは、間違っているのです。

 

 

★皆さまは、ゴルトベルク変奏曲第23変奏を、

3拍子で単純な3度の重音の音階と、
とらえて演奏したり、

鑑賞したりしていませんか?

 



第23変奏は、一見「3度の重音」に見えますが、

これはBachが頭に描いていたであろう「四声体」に、

再変換いたしませんと、理解しづらいかもしれません。

講座では、私が作成しました「四声体化した楽譜テキスト」により、

どのような counterpoint 対位法 から構築されているかを、

詳しく、ご説明する予定です。

 

 


★この2第3変奏の「3度音程」は、唐突に出現したものではありません

第22変奏での周到な準備の元で、満を持して表現されたものです。


★分かりやすい例として、

第22変奏最後の「32小節目」を見てみましょう。

 

 

ソプラノ声部「c² h¹ a¹ h¹」と、アルト声部「a¹ g₁ fis¹ g₁」によって

形成される、連続した「3度音程」です。

それが直ちに、第23変奏の冒頭1小節目2拍目の、

上声「h² a² g² fis²」と下声「g² fis² e² d²」によって形成される

連続した「3度音程」へと、発展していくのが分かります。

 

 


★この第22変奏「32小節目」は、「どこから来て、どこへ行くか」の

「どこへ行くか」は、判明してきましたが、

「どこから来て」が、大きな課題となります。


★それこそ以前、当ブログで取り上げました、

≪第17、18、19変奏に存在している「ある音」によって

形成される「大四角形」≫が、燦然と輝いてくるのです


★ゴルトベルク変奏曲は、貴族の不眠症を癒すための曲、

というやや眉唾のお話がよく出されますが、

「天空に輝く星々をどう束ねるか」という命題を解く曲である

と定義するならば、不眠はさておき、

不眠症の貴族も眺めていたであろう星々と、

あながち無関係ではないかもしれませんね。

 

 

 

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