音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「平均律第1巻7番」の構造こそ、1~6番の演奏を解くカギ■

2017-10-16 14:13:35 | ■私のアナリーゼ講座■

■「平均律第1巻7番」の構造こそ、1~6番の演奏を解くカギ■
  ~10月25日、名古屋 KAWAI「平均律 アナリーゼ講座」~

               2017.10.16 中村洋子

 

 

★10月も半ばを過ぎました。

私は日没前、夕陽を見ながらの散歩を日課としています。

夕暮れの空が美しいからです。

これからは、散歩の時間がどんどん早まっていきます。

秋の夜長ですね。


山くれて 紅葉の朱を うばひけり    蕪村

蕪村の句は絵画的です。

夕陽に照らされる紅葉の山が、刻々と漆黒に

その色彩を奪われていくのです。


★9月から10月にかけては、私にとりまして「大事業」が

目白押しでした。


★ドイツのHauke Hack社から出版されます

≪10 Phantasien für Celloquartett(Band 2)≫の、

スコアの校訂がやっと終わり、これからパート譜の作成、

印刷となります。


★編集者と妥協のない議論と訂正作業。

ドイツで楽譜を出版していただく時に、いつも、感じることが

あります。

その楽譜で、将来演奏する人の立場に立って、

作曲家である私に対し、容赦なく質問を投げ掛け、

曖昧さを徹底的に排除しようという、彼らの姿勢です。

私は、これを「未来に対する責任感」と思っています。


★出版された楽譜を演奏するチェリストの皆さまに、

出来る限り分かりやすく、疑問をおこさせないようにしよう・・・、

その「未来」に対する責任感です。

近頃の日本人に最も欠けているもの・・・と思われませんか?


★その厳しいやり取りの中で、ユーモアも忘れない編集者氏。

風邪気味だそうです。

Richard  Strauss ヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の

「Tod und Verklärung 死と変容(浄化)」

(トート ウント フェアクレールング)をもじって

"Tod durch Erkältung" (トート ドゥルヒ エアケルトゥング)

"死にいたる風邪"です、と語呂合わせのメール。

これは、オーケストラ団員の中ではよく交わされる

言葉遊びだそうです。

 

 


Bärenreiter平均律第1巻の「解説書」は、

お待たせいたしました。

10月23日に出来上がります。

10月25日(水)名古屋 KAWAI での

平均律第1巻「解説書」刊行記念・アナリーゼ講座に、

間に合いそうです。

http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/pdf/lecture20171025_nakamura.pdf

http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/nakamura.html

 


★名古屋の皆さまに初お目見えです。

特に今回の講座で勉強します

「1巻第7番 Es-Dur プレリュードとフーガ」は、

「解説書」の21~24ページで、詳しく説明しています。

名古屋で、ピアノを弾きながらじっくり、分かりやすくお話いたします。

バッハが書いた「序文」の内容も、説き起こします。


★私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり≫

(Du Books刊)の「第3刷」が、10月20日ごろ出来上がります。

この本は、昨年出版しましたが、皆さまに暖かく迎えて頂き、

お陰さまで「第3刷」になりました。


★この本と、上記の平均律「解説書」をお読み頂けますと、

クラシック音楽の根本の存在が「バッハ」であり、

バッハを理解し、愛する事が、とりもなおさずクラシック音楽の

大作曲家たち、

Wolfgang Amadeus Mozart モーツァルト(1756-1791)、

Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)、

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)、

Robert Schumann ロベルト・シューマン(1810-1856)、

Claude Debussy クロード・ドビュッシー(1862-1918)、

Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875-1937)・・・に、

近づく途であることが、分かるのです。 

 

 


★もう一つのお知らせです。

銀座「山野楽器」本店2階 クラシックCD売場で、

私のギター作品「夏日星」が販売されていますが、

これに続きまして、私の「無伴奏チェロ組曲3、2番」、

「無伴奏チェロ組曲4、5、6番」の二種類も、

取り扱って頂けることになりました。


★Celloの演奏は勿論、 Wolfgang Boettcher  ベッチャー先生です。

このSACD盤は、既に山野楽器さんでお取り扱い頂いていますが、

こちらは、通常の「CD」盤です。

「チェロ組曲3、2番」には、SACD盤に未収録の、私の小品集も、

含まれています。

どうぞ、銀座にお出掛けの際には、お手にとってご覧ください。

 

 

★10月25日「名古屋 KAWAIアナリーゼ講座講座」の、

平均律第1巻7番は、大変重要な曲であると同時に、

謎めいた曲でもあります。


★最も分かりにくいのは、

プレリュードが「フーガ」となっていることでしょう。

主題を、二つもつ「二重フーガ」です。

第1小節目を見てみましょう。

バッハの自筆譜を写してみました。

冒頭1小節目です。


 

★これを現代の実用譜の様式で書きますと、

このようになります。






★二重フーガの最初のテーマは、これです。






★10小節目に2番目のテーマが提示されます。

バッハの自筆譜は、このように書かれています。

二番目のテーマを赤い線で示してみました。






★現代の実用譜ではこのようになります。





★2番目のテーマはこれです。

 

 

 

★この「テーマⅡ」は、テノール声部で提示された後、

直ぐに、カノンによりバス、アルト声部に提示されます。

 

 

★そればかりか、何と12小節目には、ソプラノ声部にも、

この「テーマⅡ」が、提示されます。

 

 

★まるでフーガの「ストレッタ」です。

それも四声の各声部に、主題を次々と提示させるという、

実に緊迫した「ストレッタ」です。


★バッハは何故、全70小節のこのプレリュードの、

まだ始まったばかりとも言える10~13小節目にかけて、

こんなに緊迫した「カノン」を、置いたのでしょうか?


★「ストレッタ」とは、フーガの中で使われる「カノン」の一種です。

「カノン」という大きな範疇の一部に属しているのが「ストレッタ」です。


この謎の第7番を理解するためには、全24曲の中で、

「1~6番」がどのような位置を占めているのかを、

まず、理解する必要があります。


★平均律第1巻から、10数年後の作品「ゴルトベルク変奏曲」は、

全30の変奏曲から構成されています。

「3曲1セット」として、10セットの変奏曲集です。

平均律第1巻は、「6曲1セット」と言えます。

「ゴルトベルク変奏曲」は、主調のある「G-Dur」からほとんど離れず、

限定された調性の中で、作曲されています。

これに対し、平均律第1巻は、24種類すべての調性で作曲された、

その当時では人類未踏、現在でも凌駕する作品は見当たりません。


★話を戻しますと、6曲1セット最初の「1~6番」は、

コンクール課題曲に指定されることも多いのですが、

この6曲を理解するためには、この7番の理解は、欠かせません。

言い換えれば、この7番を理解して弾く、あるいは聴くことができれば、

「1~6番」をより鮮明に、バッハの構想通りに演奏できると言えます。

講座で詳しくお話いたします。

 

 

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■1月20日、「平均律第1巻」1番の新しいアナリーゼ講座を開催■

2017-10-06 22:07:18 | ■私のアナリーゼ講座■

■1月20日、「平均律第1巻」1番の新しいアナリーゼ講座を開催■
 ~ 特別講座≪Bachが「序文」で何を言いたかったのか≫~

            2017.10.6    中村洋子

 


 

★9月16日の「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

最終講座から、3週間近くたちました。

当日、東京に台風が接近していましたが、飛行機や新幹線で、遠くから

お出で頂きました方も多く、大変うれしく思っております。


★最終講座は4時間半と長時間でした。

Bachに対する尊敬と愛情を共通項とする、親密な講座となりました。

それまでの講座、即ち、変奏曲3曲ずつのアナリーゼに加え、

「ゴルトベルク変奏曲」の変奏技法は、実は、「平均律第1巻」と、

それを凝縮した「インヴェンションとシンフォニア」から、

一本の線でつながっている、ということをお話しました。


★「Goldberg-Variationen」アナリーゼ講座は、

昨年2016年4月から10回にわたり、全30変奏曲を勉強しましたが、

その間、私は、Bärenrieterベーレンライターから出版されています

「平均律第1巻」楽譜に添付する「解説書」を、執筆しておりました。


★特に、Bachが自ら書き記した「序文」について、Bachがそこで

何を言いたかったかを、解明し得たと思っております。

 

 


★その「序文」は、謎解きのような文章で、そのまま訳しただけでは、

Bachが主張したかったことが、直接伝わってきません。

核となる論点は、≪「ド レ ミ」の長3度≫、≪「レ ミ ファ」の短3度≫

という、Bachが畳み掛けるように記している用語を、

どう解釈するかに尽きます。


★それにつきましては、近く刊行されます

≪日本語解説付き・Bärenreiter「平均律第1巻」≫楽譜に添付の

≪解説書≫を、是非お読みください。


★「ゴルトベルク変奏曲」が「平均律」、 「インヴェンション」と、

一本の線でつながっている、と申しましたが、その理由は、

「ゴルトベルク変奏曲」を、一言で表現しますと、

≪「ソ ラ シ」の長3度≫である、と言えるからです。


★≪「ド レ ミ」の長3度≫、≪「レ ミ ファ」の短3度≫が

指し示している「平均律第1巻」1~6番 Prelude & Fugaの

延長線上が、

「ゴルトベルク変奏曲」の主題Ariaの冒頭≪「ソ ラ シ」の長3度≫

だからなのです。

 

 


★このため、本来は「平均律第1巻」を皆さまにご説明した後、

「ゴルトベルク変奏曲」の講座を開催するという

順番であったかもしれません。

しかし、平均律第1巻の完成後に、Bachが次に書こうとしていた

「ゴルトベルク変奏曲」を、先に学ぶことにより、逆に、

平均律第1巻の実像が、明確に眼前に迫ってきた、

とも言えましょう。

 

 

★皆さまのおかげで、「ゴルトベルク変奏曲」講座は、好評のうちに

終えることができました。

主催者のアカデミアミュージック様から、さらに講座を継続して欲しい、

という要望を頂きました。


★私は過去に、東京、横浜で「平均律第1巻」の全曲アナリーゼ講座を

開きました。

東京では、まずBachの自筆譜がこんなにも素晴らしいものである、

その自筆譜を勉強しさえすれば、Bachの音楽の真髄に到達しうる

という私自身の発見と感動を、お伝えしました。


★横浜では、天才Chopinショパンが、Bachの平均律をどう解釈し、

自分の作品に投影していったかを、詳しくお話いたしました。


★ここでもう一度、今度は

1)Bachの「序文」で、 Bachが主張したかったこと、

2)平均律曲集の構造とは何か、

3)平均律を演奏する際や、鑑賞する際、

「序文」でBachが言いたかったことを、どう咀嚼するか・・・

などを探求する講座を、開くことにしました。


★まず、平均律第1巻の核心となる「第1~第6番」を、

6回に分けて勉強します。

第1回は、2017年1月20日(土)午後2時~6時。

神田のエッサム本社ビル「こだまホール」です。


★第1回では、9月の「ゴルトベルク変奏曲」最終講座のように、

「第1番 Prelude & Fuga」を和声や対位法の観点から、

どなたでもお分かりになるよう説明し、その後、特別講座として、

≪ Bachは「序文」で何を言いたかったか≫を、詳しく解説します。


 

 


★私の近日刊行されます平均律1巻の「解説書」の中で、

曲の構造について、特に詳しく書きましたのは、

「第7番 変ホ長調 Es-Dur」です。


★ Bachが「序文」で、鋭く光りを当てている曲は、

「第1~6番」ですが、その6曲1セットが終わった次の「第7番」、

これをどのように開始し、第7番以降の扉を開いていくか・・・

という視点から見ますと、非常に重要な曲といえます


★この「第7番」のプレリュードは、何故か、

≪長大な二重フーガ≫となっています。

これは、「ゴルトベルク変奏曲」の第10番Fugettaの発想と、

同じなのです。

 

 


★Bachがなぜ、そのような変則的な構造にしたのかを

理解できますと、

Bachが平均律1番全24曲や、

「ゴルトベルク変奏曲」全30曲とAriaを、

どのような大きなアウトラインで描いたか、

それがよく分かってきます。


★平均律第1巻「第7番」を深く理解することが出来ますと、

逆に、第1~6番までが、非常に弾きやすくなる、

鑑賞の際、どこをどう聴くべきかが分かり、

その演奏家の Bachへの理解度を判別する尺度とも

なるのです。

 

 


★私の平均律「解説書」刊行の記念講座として、

 KAWAI 名古屋「平均律第1巻」アナリーゼ講座で、

「第7番」を取り上げます。

日時 : 2017年 10月 25日(水) 10:00 ~ 12:30
会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/nakamura.html
http://shop.kawai.jp/nagoya/lecture/pdf/lecture20171025_nakamura.pdf


★9月の「ゴルトベルク変奏曲」最終講座では、この曲が後世の作曲家に

与えた影響として、 Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875-1937) の

「Ma Mère l'Oye マ・メール・ロワ」について、

実際にピアノで音を出しながら、ご説明しました。


★作曲家の直観ですが、

Ravelが「Ma Mère l'Oye マ・メール・ロワ」を作曲した際、

「ゴルトベルク変奏曲」が念頭にあったのであろうと、

思います。

 

 


★「Ma Mère l'Oye マ・メール・ロワ」は、

やはり、夜の幻想の中の音楽である、と言えましょう。

「ゴルトベルク変奏曲」は、巷間言われるように、

貴族の不眠を癒すためは、後世の推測でしかないでしょう。


★この28、29、30変奏曲を、言葉で表現しますと、

28、29は超新星がスパークしているような猛烈なエネルギー、

30変奏曲の夜明けを思わせるような、懐かしく、

穏やかなクォドリベットに収斂していく様は、

「Ma Mère l'Oye マ・メール・ロワ」最終曲の

「妖精の庭」のイメージと、似ています。

 

 

 


★また、「Ma Mère l'Oye マ・メール・ロワ」第1曲と、

「ゴルトベルク変奏曲」の主題Ariaが、

舞曲としての共通点をもつことは、言うまでもないでしょう。

 

 

 


★普通では、お気づきになることは難しいでしょうが、

Ravelも"地下水脈"で、 Bachという"小川"に

つながっている、ということができます。

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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