音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bachがゴルトベルク変奏曲第22変奏で使った禁則「直行5度」の衝撃度■

2017-04-28 23:56:16 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachがゴルトベルク変奏曲第22変奏で使った禁則「直行5度」の衝撃度■
   ~5月13日「Goldberg-Variationen」アナリーゼ講座~

             2017.4.28     中村洋子

 

 

★「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」

アナリーゼ講座・全10回は、5月13日(土)の第8回を含め、

あと3回となりました。


第9回は、7月8日(土)です。

そして、9月16日(土)の第10回最終会は、会場が変わり、

時間も拡張します。

会場は、JR神田駅近くの「エッサム本社ビル 4階こだまホール」

時間も「午後1時半~午後6時(休憩あり)」です。

この3回のアナリーゼ講座のため、勉強に全力投球です。


5月13日の第8回講座は、「第22、23、24変奏」です。

第21変奏は、憂愁に閉ざされた「ト短調」でした。

第22変奏は、再び光を取り戻すのですが、

一目見ましても、この第22変奏と第18変奏とが、

よく似ていることに、気が付かれるでしょう。

 

 


バッハは何故、このよく似た二曲を、

第18と第22に配置したのでしょうか。

それを解くカギは、以前に当ブログでご紹介しましたが、
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20170325

第17、18、19変奏に存在している「ある音」によって

形成される「大四角形」にあるといえましょう。

それについては、講座で詳しくお話いたします。

 

 


★この第22変奏では、その「和声」について、分かりやすく

ご説明いたします。

例えば、28小節目の上声二分休符の後に続く「d²」の二分音符。

 

 

これは、大変に重要な音です。


★その重要な音を、バッハはどのような手法で、弾く人、聴く人に対し、

“これは、重要ですよ”と、訴え、

理解してもらおうとしているのでしょうか?


28小節目のバス声部は、「fis、g」の二分音符です。

 

 

バスの「g」音と同時にソプラノの「d²」音が、奏されます。

この瞬間、いきなり「完全5度」が両外声(ソプラノとバス声部)に、

聴こえます。

この完全5度音程は、耳には衝撃的です。






★「g」と「d²」の「完全5度」(正確には、1オクターブ+完全5度)の

バス「g」が、「fis」から上行して「g」音に達しているのも

その「衝撃」の一因です

 

 


★この「fis」を、例えば、「a」に取り替えてみます

「a」から下行して「g」に到達するとしますと、

それほど衝撃的ではありません。




★是非、ピアノや身近な楽器で音を実際に出し、体験してください。

バッハの書いた第22変奏28小節目は、

「直行5度」(または、並達5度、隠伏5度)hidden fifth に、

極めて似た効果があります。


★「直行5度」とは、両外声が同じ方向に進行し、

ソプラノは跳躍進行であり、

到達した音程が「完全5度」であることを指します。

「直行5度」の例を一つ挙げます。

 

 

★ソプラノが下行、バスが上行して形成された「完全5度」は、

「直行5度」とは言いません。

効果が穏やかだからです。



 

★第22変奏に戻りますと、ソプラノ1拍目は、

二分休符で休止しています。

しかし、私たちの耳は、アルト声部の「d¹」をあたかも、

上声のように聴いていますので、

ソプラノ声部は休止であると、認識しつつも、

 


 

まるで、ソプラノ声部が上行して「d²」に到達したように

錯覚します。


★当然ながら、「直行5度」は、「和声学」では≪禁則≫です。

和声=harmonyの意味である「調和、諧調」を乱すからです。


★バッハは、その≪禁則≫つまり、ルール違反を、

重要な音を強調する手段として、実に巧みに、

使っています。

 

 

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第2期第3回「ゴルトベルク講座・アナリーゼ講座」第22、23、24変奏

■日時:2017.5.13(土) 13時30分~16時30分
■会場:文京シビックホール 多目的室(地下1F)

■予約:アカデミアミュージック・企画部 03.3813.6757
 http://www.academia-music.com/new/2017-02-21-142146.html
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★バッハの音楽はなぜ美しく、私たちの心をとらえて離さないのか・・・
人類の宝「ゴルトベルク変奏曲」が、どういう構造で成り立っているか、
一見、単純に見えながら、複雑に絡み合っているその「和声」と対位法を、
 ピアノで実際に音を出しながら、詳しく分かりやすくご説明いたします。

★第8回(第2期第3回)の講座では、
 ・光を再び取り戻し、四声の合唱を髣髴とさせる第22変奏
 ・ユーモアのジェットコースターに乗る第23変奏
 ・優しさに満ちた1オクターブカノンの第24変奏
                の3つの変奏曲を掘り下げていきます。
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深い愁いに満ちた第21変奏、
 Bachによってしか表現しえない悲嘆の極致の第25変奏、
 この二つのト短調の変奏曲に挟まれた第22、23、24変奏は、
 五月の薫風のようなト長調です。

第22変奏は、豪奢な四声体です。
 ソプラノ、アルト、テノール、バスが長調に復帰した喜びを
 力強く歌い上げます。

第23変奏からは、Bachのおおらかな笑いが聞こえてきそうです。
 ヴィヴァルディも朗らかな横顔を覗かせます。
 一見単純な3度の重音と思われる16分音符の音階にも、
 対位法は厳然として存在します。

★第24変奏は1オクターブのカノンです。
 第3変奏の1度のカノンに始まり、第6変奏の2度のカノン、
 第9変奏の3度・・・と、順に音程の幅を広げ、
 遂にオクターブのカノンに辿り着きました。
 穏やかで満ち足りた情感に包まれたカノンです。

 

 

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■講師: 作曲家  中村 洋子
 東京芸術大学作曲科卒。

・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
  「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
     自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
     「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

      「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
     「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
       チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
       ドルトムントのハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
       から出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                disk UNION : GDRL 1001/1002)

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
   ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
          演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
  「訳者による注釈」を担当。

    CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
    ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や
  全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■銀座・山野楽器とヤマハで、私の著書とCDが大きく展示販売されています■

2017-04-19 23:58:32 | ■私の作品について■

■銀座・山野楽器とヤマハで、私の著書とCDが大きく展示販売されています■
~ドイツのハウケハック社から近く、私の「チェロ四重奏曲第2部」が出版~

                2017.4.19  中村洋子

 

 

★昨日は大風が吹き、花の嵐、まるで夏のような暑さでした。

春は穏やかなイメージが強いのですが、

実は、随分と不安定ですね。


★銀座の二つのお店で、

私の著書とCDを、大きく展示販売して頂いております。

銀座・「山野楽器本店」の2F クラシックCD売場では、

私のCD「夏日星」に、以下の立派な解説が添えられています。

 

 

★≪『無伴奏チェロ組曲』のSACD盤で、レコード芸術特選盤を獲得した
中村洋子氏による、ギター作品集。

情景描写に優れた『10のデュエット』から楽しく、のどかな愛らしさが香ってくる
『チョコチップクッキー』、風に乗って並んで走る様が爽快な『2台の自転車』と、
冒頭2曲から引き込まれます。

原曲はチェロのために書かれた作品ですが、
爪弾くギターならではの音色がどの楽曲でも活かされています。
『暑くけだるいインドの午後』では、ゆったりとした舞踊を想起させる世界観が
広がっている点も聴き所。

続いて、アルバムの題名にもなっている『夏日星』は10弦ギターのために
書かれた大作で、宮沢賢治の童話『双子の星』に触発されたもの。

全般的に1台のギターが紡ぐ壮大な宇宙のようでもあり、
“個”を見つめる厳粛さもあり、作曲者の『無伴奏チェロ組曲第5番』の原曲
でありながら、また異なる魅力を放つ屹立した佳品。

斎藤明子氏のソロが光っていて、2回登場する『赤目の蠍星』が印象深く、
この作品の核となっているような趣。

『最上川』では、『10のデュエット』同様、
2台のギターが醸す風合と響きが心地良く、川のうねりや囁きが
聴き手の身体に浸透してきます!≫


★曲を大変良く理解され、このような心温まるご紹介文を書いて頂き、

本当にうれしいことです。

 


★なお、山野楽器本店」3F 輸入楽譜売場では、

私の「伴奏チェロ組曲 第 1~6番」全6曲と、

「夏日星」の原曲である

「10 Duette fϋr 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」

(ともに「 Musikverlag Ries & Erler Berlin リース&エアラー社 」)

 が、展示販売されています。


 

 


★また、銀座・ヤマハ店の3階「楽譜・音楽書売場」では、

「アナリーゼ特集」が開催されており、

私の著書「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり」を、

平積みに、置いていただいております。


★この著書につきましては、読まれた方が、それをきっかけに、

作曲家の“生の叫び”とも言える「自筆譜」に、興味をもたれ、

勉強を深められる方が多いと、聞いております。

 

 

★例えば、Bach「平均律クラヴィーア曲集」の自筆譜にしましても、

大きな丸で黒々と書かれた全音符を見ますと、

その迫力は、現在の印刷された実用譜から、

決して伝わってきません。

実用譜では、全音符の符頭も、8分音符の符頭も、

同じ大きさに成らざるを得ません。


★自筆譜での、一番分かりやすい例として、

フーガやプレリュードの最後の音符は、全音符であることが多く、

その黒々とした大きな丸を見ますと、どれだけ力強く、

持続する音であるかが、一目で実感できるのです。


★また、Chopinのとても小さな音符で書かれた、

繊細な自筆譜を見ますと(それは、Schumannにも言えますが)、

この大天才がまだまだ若く、「老眼」とは無縁だった、

最盛期を迎えていた頃の作品であった、即ち、

本当に若くして亡くなってしまった、という感慨を、

覚えざるを得ません。

 

 


★そのようなことを思っていましたら、

ドイツのDortmund ドルトムントにあります音楽出版社

「Musikverlag Hauke Hack Dortmund ハウケハック社」から、

近く出版されます、私の「チェロ四重奏曲」第2部についての

ゲラ刷りと、それについての細かい質問が、舞い込みました。


★私の「Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello

無伴奏チェロ組曲 第 1、2、3、4、5、6番」と、

上記「夏日星」に収録されています二重奏の原曲「チェロ二重奏曲」は、

ベルリン「Musikverlag  Ries & Erler  Berlin  リース&エアラー社」

から、出版されていますが、この「ハウケハック社」からも、

既に、「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」と、

「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)

チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」が、

出版されています。

この曲につきましては、ドイツのSchott社のホームページでも

紹介されています。
http://www.schott-musikpaedagogik.de/de_DE/material/instrument/um/current/showarticle,32865.html

https://www.google.co.jp/webhp?nord=1&gws_rd=ssl#q=Hauke+Hack+Yoko+Nakamura&nord=1&start=0&spf=1

 


 

今回の出版は、「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)

チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」に続く

「チェロ四重奏曲6~10番」です。


★Dortmund ドルトムントと言いますと、この間、

そのサッカーチームへのテロ事件があり、心を痛めていますが、

クラシック音楽がとても盛んな都市です。


★この「チェロ四重奏曲6~10番」は、2010年の作品ですので、

7年前になります。

きょう送られて来ましたゲラ刷りを眺めますと、

ここで、いつも私が講座や当ブログで問題にしています、

作曲家の意図は、自筆譜にあるのか、初版譜にあるのか、

あるいは、現在の実用譜が最も具現しているのか・・・

という問題が、私自身に降り掛かってきています。


★Hauke Hack ハウケハック社からのゲラ刷りを見ますと、

やはり、現在の私は、二つの点で直したい所が出て来ています。

一つは、当然ですが、単純ミスの訂正、

あるいは、向こうのエディターが提案してきました修正、

具体的には、「このテノール記号をバス記号の方が見やすいのでは?」

などです。


★その修正により、より良いものになりますので、当然、受け入れます。

やっかいなのは、もう一つの“現在の私が7年前の作品を推敲したい”

という気持ちです。

その「推敲」つまり「変更」が、7年前のオリジナルと比べ、

優れたものであるかどうか、この判断は容易にはつけられません







★そこで、皆さまから講座などでよく頂くご質問、

「自筆譜、初版譜、あるいは現在の実用譜のどれを、

採用すべきでしょうか?」に、行き当たります。


★その回答は、ケースバイケースとしか言いようがないのですが、

勉強方法としましては、取り組まれる曲の「自筆譜」ファクシミリが

あれば、まずは必ず入手します。

さらに、可能な限り「初版譜」とそれに類する譜にも、

目を通し、また、現在の定評ある「ベーレンライター版」、

「ヘンレ版」、「ヴィーン原典版」なども参照する・・・

最低限、これだけのことはするべきでしょう。


★上記の勉強をされた後、やはり、作曲家の自筆譜に則り、

演奏したいという欲求が、“沸々と”湧き上がりましたら、

プログラムにその旨を記載して演奏会を開くことは、

十分可能です。


★“権威ある出版社の楽譜に書かれてあるから、

その通りに弾きます”しかし“私は納得がどうもいきません”

と、不本意ながら演奏されるより、よほど説得力のある、

正直な演奏ができるのは、間違いないでしょう。

聴衆がすぐにそれを、感じとり、そして、何よりも、

喜んでいるのは、作曲家本人であろうと、思います。


★ゴールデンウイークも近づいて来ました。

銀ブラの折には、是非、山野楽器とヤマハを訪れ、

手に取って、ご覧になってください。

 






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■平均律1巻6番、バルトーク版のペダルにより、曲の構造が解明できる

2017-04-05 02:44:23 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律1巻6番、バルトーク版のペダルにより、曲の構造が解明できる
~ KAWAI 名古屋平均律アナリーゼ講座1巻6番d-Moll  Prelude & Fuga~

              2017.4.5       中村洋子

 

 

★昨日は清明。

空気が明るく、清らかに感じられます。


5月13日は「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の
アナリーゼ講座です
http://www.academia-music.com/new/2017-02-21-142146.html


6月14日の KAWAI 名古屋「平均律アナリーゼ講座」は、

「第1巻6番d-Moll」です。

その勉強をしていますが、屈指の名曲です。

学んでも学んでも、尽きることがありません。


★今日は「Bartókバルトークの校訂版」を勉強しました。

Bartók版は、平均律1巻と2巻の全48曲を、

彼独自の順番で、並べ替えています


★各曲をどのように配列したか、という観点からだけでも、

分析の秀逸さと見識がうかがえます。


★「1巻6番d-Moll」は、Bartók版では「1巻の第2曲目」となっています。

Bartók版の巻頭第1曲は、Bach「平均律第2巻15番G-Dur」です。

Bach原曲の番号で言い換えますと、

「第2巻15番G-Dur」を第1曲として、その「G-Dur」を主調とした場合、

属調の「D-Dur」の同主短調「d-Moll」である1巻6番を

「第2番」にした、ということになります。


★次の「第3番」は、「1巻21番B-Dur」です。

この調は、第1番=「2巻15番G-Dur」から見ますと、

主音同士は≪短3度≫の関係です。


★第2番=「1巻6番d-Moll」から、3番=「1巻21番B-Dur」の

主音同士を見ますと、「B」と「d」は≪長3度≫の関係になります。

 


★まとめますと、

Bartók版の2番と3番の主音は、≪長3度≫の関係、

Bartók版の1番と3番の主音は、≪短3度≫の関係となります。

Bachが「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の

自筆譜冒頭に書きました“序文”(前回ブログ参照)と、

深い関係にありそうなことが、分かってきました。


★6月14日の「名古屋平均律アナリーゼ講座」では、

そのBachが書いた“序文”の意味を、

詳しくご説明いたします。

(なお、講座は資料の都合上、予約の上、ご来場ください)


★そのBartók版に話を戻しますと、

1巻6番d-Moll」の Preludeには、素晴らしいペダルが、

全小節に書き込まれています

ただし、それは、巷間に満ち溢れているピアノ演奏のための

「how to」では決して、ありません。







★巷の「how to」は、さももっともらしく

“こうすれば、ピアノは上達する・・・”というような、

手や腕、指の使い方、打鍵の方法、ペダリングを、

こと細かく、教授するようなものですが、

それらの知識、情報で頭を一杯にしましても、

Bachはもとより、Mozartモーツァルト(1756~1791)、

Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)、

Chopin ショパン(1810-1849)・・・、

クラシック音楽の大作曲家の神髄に肉薄することは、

まず無理です。


★譬えて言えば、大きな象の鼻を触ったり、足をなでたり、

耳に手を触れるようなものでしょう。

長かったり、丸かったり、薄かったりいろいろと、

感じられはします。

しかし、「象」という大きな動物の全体像は、

頭には入らないでしょう。

鼻の触り方をいくら学んでも、象の骨格は理解できないでしょう。

霧の中です。


★作曲家は、和声と対位法を駆使し、巨大な「作品」という建造物を

構築するのですが、その構造に焦点を当てず、

聞きかじりの小手先の技法や奏法を、継ぎ接ぎで貼り合わせましても、

紙でできた張りぼての「象」さんです。

徒労に終わるでしょう。


★日本から、クラシック音楽で歴史に残る大ピアニストが

いまだに、一人も出ていない所以でしょう。

 

 


★また、上記の「how to」だけが取り柄で、Bachも理解できず、

Bachを愛してもいない“先生方”が審査員となったコンクールで、

音楽に目覚め、Bachが好きになった子供たちの演奏について、

≪Bachらしくない!≫などと、頭から断罪し、

子供たちの心に、癒しがたい深い傷を刻み

子供たちから「Bachを奪い」、

“もう、クラシック音楽は嫌”と、

クラシック音楽から遠ざかってしまうように、

結果的に、仕向けている例を、

私はたくさん、聞いております。


★滑稽であり、かつ、とてつもない悲劇です。

Bachを自分の解釈で、思うように弾いて、

どこが悪いのでしょうか、

逆に、その“先生方”の≪Bachらしい演奏≫とは何なのか、

実際に、聴いてみたいと思います。

往々にして、子供さんたちの演奏のほうが、直観により、

「“先生方 ” のBach観より、
Bachの音楽を的確にとらえている」

ことも多いようです。

これからのクラシック音楽を担おうとする世代を、わざわざ、

追放するような犯罪的な行為を、

無自覚的にやっているのです。

その意味で、罪は深いのです。

 

 曲の構造が理解できれば、自分がどのように弾きたいかが、

 自ずと、分かってきます。

 その場合、自分の欲する音を明確に発想できます。

 その音を追及していきますと、自分の骨格や指、手、

 筋肉の強さに合わせ、自分の身体に沿った奏法、

 オリジナルな奏法が出来上がっていくのです。

 私たち日本人とは大きく異なる、

 海外の大きな体躯の人たちの奏法を、

 形だけ模倣しても、意味はないでしょう。

 まず、曲の構造を分析し、理解することです。

  





★「6番d-Mollプレリュード」では、

全小節で書き込まれていたバルトークのペダルが、

6番 Fuga(全44小節)では、

わずか、4ヶ所でしか書かれていません。


★36小節目の最後の音の打鍵直後から、37小節目にかけて、





37小節目の最後の音の打鍵直後から、38小節目にかけて、

そして、43小節目と44小節目です。


★36小節目の左手最後の音「fis-a」から

37小節目冒頭の「G-g」にかけてのペダルは、




「fis-a」の和音と、「G-g」の和音をレガートでつなげるための

ペダルのように、思われます。


★しかし、そのためだけでしょうか。

なぜなら、31小節目もかなり似たケースなのですが、

 

 

31小節目左手3拍目の「e-g」から、

32小節目の左手「F」にかけて、「e(3指)」と「F(5指)」による

レガートを、Bartókは、ペダルを用いずに、

指だけによるレガートを要求しています


★「e-F」の「長7度」を、「3-5指」のレガートでとるためには、

かなり、大きな指と手を要求するでしょう。

その大きな指と手の人にとって、

36小節目最後の音の「f-a(2-1)」と、「G-g(5-1)」を、

ペダル無しのレガートでとることは、可能ともいえます。

 

 

★結論を申しますと、Bartókは、

この36~37小節目のペダルと、

37~38小節目のペダルとによって、

この4つの和音「fis-a、G-g」、「gis-h、A-a」の、

構造上での重要性を、強く訴えているのです。

 

 

★ここで、Bachの自筆譜を見てみましょう。

Fugaは、見開き左のページに6段27小節目2拍目まで、

記譜されています。

右ページは、上3段が27小節目3拍目から最後の44小節目まで。

残りの下3段は、 「第7番Prelude Es-Dur」の1小節目から、

9小節目までが、記譜されています。


★36、37小節目は、2段目右端に記譜されています。

38小節目から44小節目までは、3段目までに記されています。

38小節目冒頭の「A-a」は、3段目左端に位置することになります。


★そして、その3段目右端に42、43、44小節が配置されています。

 

 

37小節目最後の「gis」は、2段目右端、

38小節目冒頭「A」は、3段目左端。

それによってできるmotif モティーフは、

42小節目上声2拍目の「gis²-a²」に対応していることが、

レイアウトによって、実によく分かります。

 

 

42小節目の「gis²-a²」は、

この曲全体で何回か出現する頂点のうちの、最後の頂点です。

それを、「gis-A」によって、準備しているのです。

バルトークは、ここにペダルを記すことにより、

奏者、聴く人に、曲の構造を理解させようとしているのです。



★同じく、36小節目最後の「fis」と、37小節目冒頭の「G」が、

2段目の右端にレイアウトされていますが、

そのほぼ真下、3段目の右端43~44小節目にかけ、

「g¹-fis¹」が2回、繰り返されます。

 




★「fis-G」の転回音程は、「fis-g」になります。

転回音程とは、譜で書きましたように、

「fis-G」の「G」を1オクターブ上行させた時に、

できる音程です。 

いずれにしましても、聴いている人にとっては、

「fis-G」と「fis-g」が同じmotif モティーフとして、

認識できます。

 

 


★それだけ、この最後の44小節目「fis¹」が、

重要であるということです。

では、「d-Moll」の音階音ではない「fis¹」は、

何なのでしょうか?


★「d-Moll」の主和音は、「d-f-a」の短3和音ですが、

短調の曲の最後は、第3音を半音上げて「fis」とし、

「長3和音」にすることが、

平均律クラヴィーア曲集で、多く見られます。

これを「ピカルディの3度」、または「ピカルディのⅠの和音」

と、言います。


 

★まさに、この「3度」こそが、

Bachの“序文”が言わんとしていたことなのです

 

 

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中村洋子 バッハ 平均律 第1巻 6番 d-Moll Prelude&Fuga
                         アナリーゼ講座■ 
 ~Bachの“序文”は演奏法までも示唆しています~

 

★Bachは「平均律クラヴィーア曲集」を、6曲ごとに「1つのまとまり」として
 作曲しています。第1巻6番d-Mollの Prelude & Fugaは、その最初の1セッ トを締めくくる重要な曲です。そのどこが重要なのか・・・
今回は、Bachが自筆譜の巻頭に自ら記した≪序文≫を基に、解き起こしたいと思います。それこそが、この6番を、どう演奏したらよいのかの、答えとなるからです。

★幸いなことに、平均律第1巻は、Bachの自筆譜が存在するだけでなく、
偉大な作曲家バルトーク、フォーレ、レントゲンの校訂版があります。
さらに、ショパンが所持していた平均律1巻の楽譜に、ショパン自身の書き込みも残されています。これらを総動員しますと、この曲の真価が明確に分かってきます。

★前回の講座で、5番 Preludeとコラールとの関係をお話いたしました。
これを更に深め、6番 Preludeのご説明をします。この曲は、決して干からびた“指の練習”ではないことは、言うまでもありません。

★1ページ6段で記譜されています自筆譜の Fuga16小節目上声「c³」は、このページの真ん中に“高々と”記されています。
そのようにしたBachの意図を理解しますと、何故Bachが平均律クラヴィーア曲集そのものを作曲したか、という謎が氷解するとともに、Bachを弾くことが、楽しくてたまらなくなるでしょう。

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■日時 : 2017年 6月 14日(水) 10:00 ~ 12:30
■会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■要予約 : Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427
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■講師: 作曲家  中村 洋子

 東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

  「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。

     自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
      「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。 

      「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
     「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
        チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
        ドルトムントの
ハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
        から出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
                disk UNION : GDRL 1001/1002)

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
   ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
          演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
  バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
  「訳者による注釈」を担当。

     著書『クラシック音楽の真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』(DU BOOKS)
     を出版。





     CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
    ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や 全国のCDショップ、
    ネットショップで、購入できます。

 

 


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             All Rights Reserved
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