■Bachがゴルトベルク変奏曲第22変奏で使った禁則「直行5度」の衝撃度■
~5月13日「Goldberg-Variationen」アナリーゼ講座~
2017.4.28 中村洋子
★「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」
アナリーゼ講座・全10回は、5月13日(土)の第8回を含め、
あと3回となりました。
★第9回は、7月8日(土)です。
そして、9月16日(土)の第10回最終会は、会場が変わり、
時間も拡張します。
会場は、JR神田駅近くの「エッサム本社ビル 4階こだまホール」、
時間も「午後1時半~午後6時(休憩あり)」です。
この3回のアナリーゼ講座のため、勉強に全力投球です。
★5月13日の第8回講座は、「第22、23、24変奏」です。
第21変奏は、憂愁に閉ざされた「ト短調」でした。
第22変奏は、再び光を取り戻すのですが、
一目見ましても、この第22変奏と第18変奏とが、
よく似ていることに、気が付かれるでしょう。
★バッハは何故、このよく似た二曲を、
第18と第22に配置したのでしょうか。
それを解くカギは、以前に当ブログでご紹介しましたが、
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20170325
第17、18、19変奏に存在している「ある音」によって
形成される「大四角形」にあるといえましょう。
それについては、講座で詳しくお話いたします。
★この第22変奏では、その「和声」について、分かりやすく
ご説明いたします。
例えば、28小節目の上声二分休符の後に続く「d²」の二分音符。
これは、大変に重要な音です。
★その重要な音を、バッハはどのような手法で、弾く人、聴く人に対し、
“これは、重要ですよ”と、訴え、
理解してもらおうとしているのでしょうか?
★28小節目のバス声部は、「fis、g」の二分音符です。
バスの「g」音と同時にソプラノの「d²」音が、奏されます。
この瞬間、いきなり「完全5度」が両外声(ソプラノとバス声部)に、
聴こえます。
この完全5度音程は、耳には衝撃的です。
★「g」と「d²」の「完全5度」(正確には、1オクターブ+完全5度)の
バス「g」が、「fis」から上行して「g」音に達しているのも
その「衝撃」の一因です。
★この「fis」を、例えば、「a」に取り替えてみます。
「a」から下行して「g」に到達するとしますと、
それほど衝撃的ではありません。
★是非、ピアノや身近な楽器で音を実際に出し、体験してください。
バッハの書いた第22変奏28小節目は、
「直行5度」(または、並達5度、隠伏5度)hidden fifth に、
極めて似た効果があります。
★「直行5度」とは、両外声が同じ方向に進行し、
ソプラノは跳躍進行であり、
到達した音程が「完全5度」であることを指します。
「直行5度」の例を一つ挙げます。
★ソプラノが下行、バスが上行して形成された「完全5度」は、
「直行5度」とは言いません。
効果が穏やかだからです。
★第22変奏に戻りますと、ソプラノ1拍目は、
二分休符で休止しています。
しかし、私たちの耳は、アルト声部の「d¹」をあたかも、
上声のように聴いていますので、
ソプラノ声部は休止であると、認識しつつも、
まるで、ソプラノ声部が上行して「d²」に到達したように
錯覚します。
★当然ながら、「直行5度」は、「和声学」では≪禁則≫です。
和声=harmonyの意味である「調和、諧調」を乱すからです。
★バッハは、その≪禁則≫つまり、ルール違反を、
重要な音を強調する手段として、実に巧みに、
使っています。
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●第2期第3回「ゴルトベルク講座・アナリーゼ講座」第22、23、24変奏
■日時:2017.5.13(土) 13時30分~16時30分
■会場:文京シビックホール 多目的室(地下1F)
■予約:アカデミアミュージック・企画部 03.3813.6757
http://www.academia-music.com/new/2017-02-21-142146.html
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★バッハの音楽はなぜ美しく、私たちの心をとらえて離さないのか・・・
人類の宝「ゴルトベルク変奏曲」が、どういう構造で成り立っているか、
一見、単純に見えながら、複雑に絡み合っているその「和声」と対位法を、
ピアノで実際に音を出しながら、詳しく分かりやすくご説明いたします。
★第8回(第2期第3回)の講座では、
・光を再び取り戻し、四声の合唱を髣髴とさせる第22変奏
・ユーモアのジェットコースターに乗る第23変奏
・優しさに満ちた1オクターブカノンの第24変奏
の3つの変奏曲を掘り下げていきます。
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●深い愁いに満ちた第21変奏、
Bachによってしか表現しえない悲嘆の極致の第25変奏、
この二つのト短調の変奏曲に挟まれた第22、23、24変奏は、
五月の薫風のようなト長調です。
★第22変奏は、豪奢な四声体です。
ソプラノ、アルト、テノール、バスが長調に復帰した喜びを
力強く歌い上げます。
★第23変奏からは、Bachのおおらかな笑いが聞こえてきそうです。
ヴィヴァルディも朗らかな横顔を覗かせます。
一見単純な3度の重音と思われる16分音符の音階にも、
対位法は厳然として存在します。
★第24変奏は1オクターブのカノンです。
第3変奏の1度のカノンに始まり、第6変奏の2度のカノン、
第9変奏の3度・・・と、順に音程の幅を広げ、
遂にオクターブのカノンに辿り着きました。
穏やかで満ち足りた情感に包まれたカノンです。
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■講師: 作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
disk UNION : GDRL 1001/1002)
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や
全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
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