■2月5日(日)東京で、「モーツァルト」について講演会を開きます■
~Mozart 「きらきら星変奏曲」の四声体が分かると、
その美しさが更に解る~
2023.1.17 中村洋子
★来月のことですが、2月5日(日)に東京で、
「日本モーツァルト協会」主催の講演会に招かれ、
「Mozart モーツァルト」に、ついてお話します。
講演の題は
≪Mozart の音楽を理解し、楽しむための最良の手引きは、
Mozart の「自筆譜」≫です。
https://www.mozart.or.jp/event/2140/
https://www.mozart.or.jp/event/
当ブログでご紹介の「ピアノ・ソナタK333」、
「きらきら星変奏曲」などを、取り上げます。
★前回は、ピアノソナタ「KV333」の「自筆譜」について
書きましたが、≪「自筆譜」を通して「Mozart」を学ぶ≫
シリーズ No.2の今回は、
「12 Variationen über ein französisches Lied
きらきら星変奏曲 KV265/K.300e」です。
★幼稚園の、お遊戯で習う「きらきら星」"Twinkle, Twinkle,
Little Star" は、モーツァルト(1756-1791)の没後に作られた歌詞
ですから、モーツァルトのあずかり知らない「お歌」です。
フランスの俗謡「Ah!vous dirai-je, maman」を主題とした
ピアノ独奏用の「12の変奏曲」です。
★この曲は、Mozart モーツァルトが、1778年4~9月まで
滞在していたパリで、作曲されたと考えられていましたが、
現在の研究では、それより後のモーツァルト20代半ば、
1781~82年頃の作曲、1785年ウィーンで初出版されました。
★「Ah!vous dirai-je, maman」の訳は、いろいろ
ありますが、典型的な翻訳調で、いまひとつ
面白味がなく、意味不明の所もあるため、
私が、意訳してみました。
★「Ah!vous dirai-je, maman ママ、言っていい!」
「恋に落ちた羊飼いの乙女の切ない思い」の変奏曲。
その切なさが分かりますと、演奏に深みが増すことでしょう。
★ママ! 言っていい?
私のずっと悩んでることを
それはね、シルヴァンドルがやさしい目で
じっと私を見つめているのに、気付いてからなの
好きな人なしで生きていけるのかしらと
思うようになっちゃったの
ある日、森の中で彼は花束を作って
羊を追う杖に飾ってくれたの
そして私にこう言ったのよ
「可愛いブルネット(茶髪)ちゃん
フローラ(花と春の女神さま)は、君ほどキレイじゃないよ
アムール(愛の神さま)は、僕ほど優しくないよ」
私は真っ赤になり、困ったことには
耳元で囁かれたので
思ってもみないことになっちゃた
気絶して彼の腕の中に落ちちゃったの
近くに身を守る杖はなかった 犬もいなかった
アムール(愛の神さま)はきっと私の敗けを
望んでいたのよ
でもなんて甘くて幸せなんでしょう!!!
心が愛にくるまれると
(中村洋子訳)
★「Deutsche Mozart-Gesellschaft Augsburg
ドイツ・モーツァルト協会 アウグスブルク
(Kommissionverlag Henle verlag ヘンレ社
委託出版 2001年)の「自筆譜」ファクシミリに、
以下のような解説がなされています。
★モーツァルトは、このような旋律の変奏曲を4曲作曲。
①La belle française (KV353/300f)
②Ah!vous dirai-je, maman(KV265/KV300e)
③La Bergère Célimène(for violin and piano
KV359/374a)
④Hélas, j'ai perdu mon amant
(for violin and piano KV360/374a)
ほとんどの場合、曲や文章の作者は匿名であり、
「Ah!vous dirai-je, maman」も同様である。
このシャンソンは、1760年代の手稿や印刷物に初めて登場。
そして、その人気は瞬く間に広がり、1770年には、この曲は
大流行し、その結果、多くの楽器による変奏曲を生み出す
ことになった。
★1781年6月20日、Mozart はザルツブルクの父宛の
手紙に、 「弟子のために変奏曲を作曲しなければ
ならないので、ひとまず終えますね」と書いています。
この変奏曲が、どの曲を指しているのか、不明のようですが、
貴族の夫人方が是非モーツァルトに習いたい、
と思っていたことは、間違いないようです。
★それでは、「自筆譜」を見てみましょう。
http://www.academia-music.com/products/detail/23501
「主題」の7小節目右手上声はこうです。
★第一変奏(Var.1)と第三変奏(Var.3)で、
モーツァルトは、「主題」の7小節目右手上声を、
このように、変奏しました。
この小節の最後の「h¹」は、五線紙の第3線にある音で、
符尾は「上向き」でも「下向き」でも、かまいません。
事実、「初版譜」から現代の「実用譜」まで、この小節の
音符の符尾は、すべて「下向き」に整えられています。
★初版譜は、更にご丁寧に、スラーまで勝手に変えています。
7小節目の四つの音すべてを、一つのスラーでくくって
しまっています。
★この例でもお分かりのように、初版の譜面でさえも、
Mozart の「自筆譜」通りには、記譜されていない、
というのが、楽譜出版の通例なのです。
逆に言えば、「自筆譜」どおりに記譜されている
楽譜は、稀なのです。
それゆえ、「自筆譜」の勉強が、絶対に不可欠です。
★何故、モーツァルトはそう書かなかったのか?
「上向き」に書いたのでしょうか?
Var.1だけでしたら、何かの偶然かもしれませんが、
Var.3も、同様の書き方をしているのですから、
モーツァルトの深い意図が込められている、と
見るべきです。
★その理由を、Var.1を例にしてご説明します。
「d² a² g² h¹ c²」の、「a² g²」 と「h¹ c²」は、
≪声部が違います≫と、モーツァルト先生は
おっしゃっています。
★「初版譜」や、現代の「実用譜」のような記譜の
楽譜を使いますと、貴族のお嬢様たちの、
ピアノレッスンにとって、進歩の妨げになります。
現代でも同じく、レッスンの妨げになります。
「自筆譜」の記譜、4声体を意識して、演奏しますと、
Mozart の意図した音楽が流れます。
★この曲の「主題」は一見単純な、右手の「単旋律」と、
左手の「単旋律」に見えます。
しかし、Mozart は、鋭く「四声体」で構築しています。
Bach の「ゴルトベルク変奏曲」が、単純な庶民の歌を
主題としながら、その主題を展開し、目も眩むような、
大宇宙にも比すことができる世界を、創っていったことを、
まざまざと思い起こさせます。
この 主題は、そうした「主題」です。
★「声部」とは何かと言いますと、「part」即ち「部分」です。
この曲の右手部分は「女声」と解釈してもよいでしょう。
「女声」は大きく分ければ、「ソプラノ」と「アルト」です。
声部が違うということは、「ここはソプラノ」「ここはアルト」
という違いです。
★もう少し細かく、「ここはメゾソプラノかな?」などと、
絶えず、考えることが重要です。
Var.1の、4~8小節の「スラー」の位置に、着目しながら、
右手部分を見てみますと、
Mozart が何を言いたかったか、分かります。
★各小節の「スラー」の掛かっている「モティーフ」を
拾って、つなげるとこうなります。
「a² g²」 、「g² f²」、 「 f² e² 」 、「d²」 まで
一つの声部でした。
あえて言えば、「ソプラノ声部」でしょう。
★それが、このVar.1の7小節で、枝分かれします。
「a² g²」は「ソプラノ」、「h¹ c²」は少々音域が高いですが、
「アルト」と考えると、解りやすいかもしれません。
このことだけからも、Mozart もやっぱり Bach先生の
まごうことなき「お弟子さん」であったことが、
よく分かります。
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