音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「第28変奏」での「第3音重複」の意味するもの、16日は「ゴルトベルク変奏曲」最終講座■

2017-09-11 14:14:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■「第28変奏」での「第3音重複」の意味するもの■
  ~16日は「ゴルトベルク変奏曲」最終の第10回講座~
                2017.9.10 中村洋子

 

 

★葛の花が咲いています。

白粉花とジャスミンを混ぜたような、良い香り。

秋の七草ですね。

七草: 萩(はぎ)・ 薄(すすき)・ 葛(くず)・ 撫子(なでしこ)

・女郎花(おみなえし)・ 藤袴(ふじばかま)・桔梗(ききょう)

 

★忙しいと本を読みたくなるのは、私だけでないでしょう。

9月16日「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

最終講座を前に、

放浪の俳人「種田山頭火(1882・明治15年-1940・昭和15年)」の

日記「行乞記」を、ちらちら読んでいます。

日記は「昭和5年」から始まります。


★昭和4年(1929年)世界恐慌が始まり、

昭和5年は、軍縮推進、緊縮財政、金本位制を復帰させた

浜口首相が狙撃され、翌6年は満州事変 、

昭和7年は満州国建国宣言、5.15事件、犬飼毅首相暗殺、

経済財政が困窮し、戦争の道へとひた走っていた暗い時代でした。


★「行乞記」書き出し。

昭和5年9月9日 熊本・八代町

「私はまた旅に出た、愚かな旅人として放浪するより外に

私の生き方はないのだ。」

句:このみちはいくたりゆきしわれはけふゆく

昭和5年10月9日

日向の国、油津、榎原、上ノ町あたりを、

行乞(ぎょうこつ)しながら歩いています。

「今日の道は山路だったからよかった、

萩が嬉しかった、自動車よあまり走るな、萩がこぼれます。」 

句:ゆっくり歩かう萩がこぼれる

 


★山頭火は、自由律俳句の俳人でした。

五七五の定型や、季語にとらわれない口語俳句です。

「咳をしても一人」、「こんなよい月を一人で見て寝る」などで有名な、

尾崎放哉(1885・明治18年-1926・大正15年)も自由律です。


9月16日(土)の「ゴルトベルク変奏曲」最終講座は、もうすぐです。

http://www.academia-music.com/new/2017-07-10-113903.html

全10回の最後で、毎回10数ページの資料を作成し、

参加者の皆さまに配布してまいりましたので、

資料だけで百数十ページになります。


★現在、ドイツで出版されます「チェロ四重奏曲」は校正の真っ只中。

「Bärenreuterベーレンライター版・平均律第1巻」に添付されます、

私の「解説書」の、最終校正がやっと、ほぼ終わったところです。

何度チェックしても、直しは出てくるものです。


★「Bärenreuter版平均律第1巻」の「解説書」は、

このような内容になります。

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★謎だった「平均律第1巻」のバッハ「序文」の意味を、徹底解明
★散りばめられた「長3度」、「ド レ ミ」、「短3度」、「レ ミ ファ」、
            「全音」、「半音」という語が意味するものとは?
★序文に込められた"構想と意図"、"どう演奏するか"がすべて分かる

■解説と翻訳: 作曲家・中村洋子

 「平均律第1巻」の自筆譜には、バッハが自ら書き記した「序文」があります。
しかし、それを逐語訳的に読み解きましても、バッハは何を訴えたかったのか、
いま一つ判然としません。戸惑うばかりです。一種の謎解きのような文章です。
今回、その謎の一語一語を自筆譜の楽譜に照らし徹底的に分析しました。
その結果、バッハが「平均律第1巻」で構想したこと、意図したこと、つまり、
"バッハが「序文」で何を言いたかったか"を、完璧に説明する解説となりました。

 従来の楽譜は、序文を漫然と逐語訳した文章を添付するのみでしたが、
このベーレンライター版添付の解説をじっくりお読みいただければ、
人類の宝といえる「平均律第1巻」が、より身近に、より理解しやすくなります。
そして、ますますバッハの音楽の豊かさを実感されることでしょう。
説明のための譜例も、豊富に添付されています。
演奏、鑑賞をなさるうえで、座右の書となることでしょう。

 ドイツ語のアルフレート・デュル(Alfred Dürr)による
「前書き Vorwort」は、
説明不足なところが大変多いため、その日本語訳
だけでなく、
個々の問題点について詳細な注釈を書き加えました。
また、楽譜の「脚注Fußnote」日本語訳も同時に収め、
総計40ページを超える解説書となっています。

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★このBACHの「序文」の意味するものは、

奥深いものがあります。

平均律第1巻」がほぼ完成した1722年から、

BACHは、序文で構想したことを、更に厳しく探求を続け、

それが実ったものが、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」である、

とも言えましょう。


平均律、 Invention インヴェンションでの変奏技法が、

「Goldberg-Variationen」で、どう進化結実していったか、

16日講座の後半「特別講座」で、お話する予定です。


今回の講座は、「Variatio 28、29、30」です。

第28変奏の冒頭は、穏やかな第27変奏から一転し、

満天の星が輝き瞬くように、アルト声部のトリル「d² e² d² e²」が、

4小節間続きます。


★初版譜は、下声がアルト譜表です。

 

 

現代の大譜表に書き換えますと、こうなります。

 

 


★次いで、5度下のテノール声部「g¹ a¹ g¹ a¹」に引き継がれ、

8小節目まで、キラキラと輝き続けます。

初版譜では以下の様です。

 

 

大譜表では、


 


★そして、13~15の3小節間は、アルトとテノール声部で、

超新星が爆発したかように、この二声部が同時に力強く光ります。

 

 


講座では、第28変奏の「和声」について、詳しく、

分かりやすくご説明いたします。

第1小節目の和声を要約しますと、このようになります。

 

Ⅰ Ⅴ Ⅵ₇ の和音です。

 

 

★ここで注目すべきは、1拍目と3拍目の「第3音重複」です。

1拍目の主和音「Ⅰ」の第3音は、「h²」と 「h¹」で、重複します。

 

 

★和音の第3音は、それが長三和音なのか、短三和音なのかを、

決定する、カギとなる音です。

和音の根音と第5音のみでは、

 

 

長三和音か短三和音か、分かりません。

 

 


★逆にいいますと、重要な音であるため、

性格が強過ぎ、目立ってしまいます。

なるべく重複を避ける傾向があります。


★では、BACHはなぜ、1拍目と3拍目に、

この「第3音重複」を、意図的に配置したのでしょうか。


何を際立たせたかったのでしょうか。

1拍目は「h¹ h²」、3拍目は「g¹ g²」、

 

 

そうです!

「Goldberg-Variationen」の主題である

Aria「g² a² h²」の、「g²  h²」を思い起こさせるのです。

 

 


30もの変奏曲を、次々と繰り出してきた

"オデュッセウス"の大冒険、

故郷「Aria」への帰還は、間近です。


 

 

 

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■Bach「ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座・最終回

 

第1部 ≪第28、29、30変奏≫
第2部 ≪「ゴルトベルク変奏曲」の源泉は、「平均律1巻」と
        「インヴェンションとシンフォニア」にあり≫

 

■日時:2017、9月16日(土) 13:30 ~ 18:00

 

■エッサム本社ビル4F 「こだまホール」 (※従来と会場が異なります)
 東京都千代田区神田須田町1-26-3 電話:03-3254-8787
 (JR神田駅北口 徒歩3分 ※エッサム1、2号館ではありません)
■予約:アカデミアミュージック企画部 電話:03-3813-6757

 <http://www.academia-music.com/new/2017-07-10-113903.html>

 

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 バッハの音楽はなぜ美しく、私たちの心をとらえて離さないのか・・・
人類の宝「ゴルトベルク変奏曲」が、どういう構造で成り立っているか、
一見、単純に見えながら、複雑に組み合っているその「和声」と「対位法」を、
ピアノで弾きながら、詳しく分かりやすくご説明いたします。

 

第10回(第2期第5回)の講座では、
第1部 *・未来へと無限に開かれ、その予言のようにトリルが煌めく第28変奏
   ・オーケストラ的着想が、剛毅に次々と繰り出されていく第29変奏
   ・長い旅路の後、懐かしい主題(アリア)へと回帰していく第30変奏
          の3つの変奏曲を掘り下げていきます。

 

(休憩)

 

第2部 ・特別講座
 『ゴルトベルク変奏曲の源泉は、
    平均律1巻と、インヴェンションとシンフォニアにあり』

 

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・第28変奏
満天の星が一斉に輝き始めました。煌めくトリルは、アルト、テノール、
そして後半はソプラノにまで広がります。同時に、8分音符による神秘的な
半音階モティーフが現れます

 

 ・第29変奏
28番と一対になってこの偉大な変奏曲の大団円を迎えます。
左右交互に激しく奏される三和音や分散和音によるパッセージ。
駆け上がり駆け下りる音階。真夏の夜の壮大な花火のようです。

 

 ・第30変奏 バッハは「クォドリベット(滑稽な俗謡などを混ぜ合わせた曲)」
と書いています。
当時の通俗的な歌を二曲混ぜています。
うち一曲は「君のそばに、長い間いなかったね・・・」、
あまりお上品とはいえない曲ですが、バッハの手に掛りますと、
こんなに気品に満ちた曲に変貌します。
「君」即ち「Aria アリア」にやっと帰りつきました。

 


第2部特別講座は、「ゴルトベルク変奏曲」全曲の総まとめです。

 

バッハは、「ゴルトベルク変奏曲」全30曲をどのような構想と意図により
作曲したかを、分かりやすくお話いたします。そ
の源泉は、ほぼ20年前に完成された「平均律1巻」と
「インヴェンションとシンフォニア」に、さかのぼることができます。

 

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 ■講師: 作曲家  中村 洋子
                           東京芸術大学作曲科卒。

 

・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
  自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
  10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

 

 「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
 「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
     チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
     ドルトムントのハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
       から出版。

 

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
              (disk UNION : GDRL 1001/1002)

 

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
    ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
      演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

 

・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
 バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
 「訳者による注釈」を担当。

 

   CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
     (アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)

 

・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
 平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の
    ≪「前書き」日本語訳≫
    ≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
    ≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
    ≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、
     詳細な解釈と解説≫を担当。
                       (近日発売)

 

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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