音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 「 エクスタシーの連続が、現代のクラシック音楽 」 と、アファナシエフの批判 ■

2013-06-30 00:38:20 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ 「 エクスタシーの連続が、現代のクラシック音楽 」 と、アファナシエフの批判 ■
                               2013.6.30  中村洋子

 

 

 

★KAWAI 名古屋で 26日に開催いたしました、

「 第 11回 Invention インヴェンション講座 」 で、

Inventio & Sinfonia Nr.11 

インヴェンション & シンフォニア 11番から、

Robert Schumann  ロベルト・シューマン (1810~1856)

Johannes Brahms ブラームス (1833~1897)

Tchaikovsky チャイコフスキー(1840~1893)、

Anton Webern アントン・ヴェーベルン(1883~1945) の作品が、

生まれ出たことを、具体的にピアノの演奏を通し、

耳と理論から、体験していただきました。


★これらは、Bach の  Inventio & Sinfonia を模倣したものではなく、

Bach を醸造発酵させ、自家薬籠中のものにして初めて、

滴り落ちてきた作品、といえます。


★Johannes Brahms ブラームス 晩年の Op.117 は、特に、

色濃く Bach が、宿っていました。


★逆に申しますと、 Schumann シューマン、Brahms ブラームス、

Tchaikovsky チャイコフスキー、Webern ヴェーベルンの作品を、

勉強する、あるいは、楽しむためには、

Bach の勉強が、必要不可欠である

ということです。

 

 


★それでは、≪ Bach の曲のどこを、どう学ぶか ≫、

ということになりますが、

それは、明確に、以下のことになります。

1)作品の構造がどうなっているか、

2)Bach の countepoint を学ぶ、

                         です。


★「countepoint 」 は、日本語訳では、「 対位法 」 ですが、

「 位 」 「 法 」 という意味は、counterpoint には、ありません。

直訳しますと、「 対 」 「 点 」 です。

すなわち、「 点 」 と 「 点 」 との関係を問うものです。

「 点 」 を、「 音 」 または 「 要素 motiv 」 と言い換えますと、

≪ 同時進行している複数の声部に存在する

 「 音 」 や 「 要素 」 の関係 ≫ ということに、なります。


上記の 2点を極めたのが、Bachで、

それ以降の作曲家の作品で、masterpiece 傑作の条件とは、

その作品にどれだけ深く、

Bach が宿っているか、です。


それは、クラシック音楽が現在のように、

荒廃する前の時代では、常識でした。

ここ数十年の間に、そうした常識は、

雲散霧消してしまったようです。

 

 


★この嘆きは、私だけなのかと思っていましたところ、

以下の本に、

同じような思いが述べられていましたので、

ご紹介いたします。


Valery Afanassiev  ヴァレリー・アファナシエフ 著

「 ピアニストのノート 」 講談社選書メチエ 大野英士訳、

2012年 12月発行。


★この本には、Afanassiev の音楽に対する思索が、

綿々と、綴られています。

その一節。


★[ あるドイツ人の友人が私に言った「 構造は破壊されてしまった。どうすれば、すべてを再構築することができるだろうか?
人びとはミスタッチしか気にしない。では、作品の構造は、解釈の密度は、感情の強さは?
いっさいお構いなしだ。構造はいたるところで腐っている 」 。

あるロシア人の友人は ( 三十五年前からフランスに住んでいるのだが ) 二ヶ月前に私に言った。
「 ぼくは芸術の再生を信じている。でも、解釈=演奏の分野はむずかしい。そして十五年、いや二十年は、状況は好転しないだろう。終わってしまったんだ。ぼくたちの知っているようなベートーヴェンは、必要とされていないのだ 」。
 
 現在、誕生しつつあるスターたちの大部分、また死に瀕しつつあるスターたちの一部は、曲の小さな構造さえ、フレーズさえも尊重しない

ビーフストロガノフを作る時の肉片ででもあるかのように、ずたずたにそれらを、切り刻んでしまっている。その結果、生まれるのは、
細切りのエクスタシーの連続だが、聴衆はそれでうっとりとしている。エクスタシーがあればあるほど、演奏は評価される。かくして構造はすべて破壊される。音楽も同じ。

 ピアニストたちは、1小節 1小節と演奏する。小節が数百もあることを忘れ、
音符の数は言うに及ばず、どんな曲も、彼らにとっては長すぎる。]

 

 


現在のクラシック音楽界に対する、

痛切な批判、

見事な比喩です。

 

★前々回の当ブログで書きました、

Lifschitz リフシッツの演奏と、 

現代のクラシック音楽に対する、

私の考えと、

共通する認識です。

 


★ほとんどの、スターとされる演奏家たちは、

音楽の構造を尊重せず、構造としてとらえず、

細切れにされたビーフストロガノフの肉片のように、

細切れのエクスタシーの連続として演奏。

そうすると、聴衆はうっとり、

エクスタシーを感じれば感じるほど、演奏が評価される。

かくして、構造はすべて破壊される。


★この本は、示唆に富む内容が多く、

当ブログでまた、ご紹介いたします。

 

■ KAWAI 名古屋での 次回  「 第 12回インヴェンション講座 」 は、

10月 30日 ( 水 ) 午前 10時~12時 30分 です。 

 


 

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■チェロ組曲第 6番の演奏、 Brahms間奏曲Op.117、Bach の自筆譜発見■

2013-06-21 13:12:15 | ■私の作品について■

■チェロ組曲第 6番の演奏、 Brahms間奏曲Op.117、Bach の自筆譜発見■
                                      2013.6.21  中村洋子

 

                            ( Dorfkirche 1777 in Damsdorf, Triptychon von Peter Schubert )


★6月2日(日)、ドイツ北部 Schleswig-Holstein州 Damsdorf の教会で、

私の作品 「 Suite für Violoncello solo Nr.6 無伴奏チェロ組曲 第 6番 」 が、

Wolfgang Boettcher 先生により、演奏されました。

Damsdorf の教会は、現代ドイツの画家 Peter Schubert の「Triptychon」

( 祭壇背後の 3枚折り画像=三連祭壇画 )で、有名です。

三連祭壇画は、教会の祭壇を飾るための 3枚 1組の聖画像で、

中央パネルの両側に翼パネルがあり、折り畳めるようになっています。


★演奏曲目は、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の 

Suiten für Violoncello solo Nr.1、Nr.3 無伴奏チェロ組曲 1番、3番、

それに、私の Suiten für Violoncello solo Nr.6、

他に、Kirchner Adnan Saygun、Ernst Toch、Pablo Casals の小品でした。


★このような素晴らしい教会で、

Maestro の重厚で、妥協のないプログラムによるコンサート。

生活と音楽(芸術)とが乖離せず、寄り添っているのですね。

 

 


★Triptychon - Triptych ( 英語 )といえば、

ブラームス Johannes Brahms (1833~1897)晩年の作品

「 Drei Intermezzi  Op.117  3つの間奏曲 作品117 」 も、

一種の Triptych トリプティック のような作品である、

というのが、私の感想です。


★この「 Drei Intermezzi Op.117 」 (1892年作曲)の 第 2曲 b-Moll

( 変奏曲ロ短調 ) は、Bachの Sinfonia Nr.11 g-Moll と、

共通点が、たくさんあります。


★「 共通点 」 というより、 Chopin の Preludesが、

Bach の平均律クラヴィーア曲集から、生み出されたものであるのと

同様に、Sinfonia Nr.11 を、完全に咀嚼吸収した Brahms の、

心の中の泉から、湧き上がってきた音楽である、といえます。


★6月 26日( 水 )に  KAWAI 名古屋 で開催します

「 第 11回 Invention 講座 」 では、 Inventio & Sinfonia Nr.11 

11番 g-Moll と、Brahms の  「 Drei Intermezzi Op.117 」 (1892年作曲)の、

第 2曲 b-Moll との関係についても、お話いたします。

 

 


★Brahmsの自筆譜と並行して、没後50年の Alfred Cortot

アルフレッド・コルトー(1877~1962)の校訂版の、研究をお薦めいたします。

Cortot といいますと、 Chopin 作品の校訂が有名ですが、

それは、 Debussy の校訂版に多くを負っていますので、

源泉の Debussy 版を、まず学ぶ必要がありそうです。


★Cortot のBrahms校訂版の fingering は、曲をどのように、

アナリーゼするか、曲がどのような構造をもっているかを、

指し示しています。


★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーや、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945)校訂の Bach 作品、

Debussy 校訂の Chopin 作品と、共通しているといえます。

 

 


★6月7日の夕刊に、 「  Bach 直筆の楽譜発見 」 という記事が、

掲載されていました。

東京新聞によりますと、

『 ライプチヒのバッハ資料財団が公開した。

Bach が55歳の時に、イタリア人作曲家のミサ曲を筆写したもので、

「晩年の創作に影響を与えた重要な作品」と、考えられるという。

楽譜はワイセンフェルスの資料館「ハインリッヒ。シュッツ・ハウス」で

見つかった。30枚あり、イタリアのフランチェスコ・ガスパリーニが

1705年に作曲した「ミサ・カノニカ」だった。

バッハ資料館が鑑定し、紙の透かし模様や音符の書き方の特徴から、

1740年にバッハが筆写したと特定した。晩年に作曲した「フーガの技法」

「ロ短調ミサ」などに影響を与えたとみられる。

 財団の高野昭夫国際広報部長は「紙を節約するため音符を詰めて書き込んだ

バッハの特徴がよく分かる」と話している。

楽譜は7月14日までシュッツ・ハウスで公開される 』


★Bach の直筆譜が発見されることは、

大変に、喜ばしいことですが、

私は、この直筆楽譜というものを、直接見ない限り、

なんともいえません。


★Francesco Gasparini フランチェスコ・ガスパリーニ (1661~1727)は、

ローマの教会オルガニストで、当時の大作曲家。

弟子に、Domenico Scarlatti ドメニコ・スカルラッティ(1685~1757)や、 

Benedetto Marcello ベネデット・マルチェッロ(1686~1739)などがいます。

 

★重要なことは、Bach が若いころ、

Marcello マルチェッロ や Antonio Lucio Vivaldi

アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)の協奏曲を、

たくさん、独奏鍵盤作品に編曲していることです。

当ブログでも、たびたび紹介しています。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/26a72c1f404eabe584783874f1eefb23


★Bach は、ライプチヒ時代、公費ではなく、

自費で、お金を惜しむことなく、膨大な楽譜を買い集めた、

といわれています。

多分、若いころからそうだったのでしょう。

集めた楽譜を、徹底的に学び吸収した人でした。


★晩年の Beethoven ベートーヴェン (1770~1827)も、

貴族の個人ライブラリーに、楽譜を借りに行ったところ、

身なりが粗末だったため、門番に追い返された、

という話を、彼自身の手紙で、書いています。

Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) も晩年になるまで、

ウィーンの図書館から、たくさんの楽譜や資料を借り、

勉強を、続けています。


★Bach が、Marcello の師匠にあたる Gasparini ガスパリーニの作品を、

ずっと注視し、写譜して勉強したのは、

当然のことでしょう。

 

 

 

★≪「 紙を節約するため音符を詰めて書き込んだバッハの特徴がよく分かる 」≫

というコメントは、相変わらずの擦り切れた蓄音機のようなコメントです。

コメントすべきならば、

この写譜は、原作通りの写譜なのか、あるいは、

Bach の解釈が入った独自の配列に書き直している部分があるのか・・・

などを、分析してコメントすべきと、思います。


★Bach は、自分の作品を書く際、紙を節約したことはないのです。

楽譜上で、大胆に余白のままに残しているところは、

たくさん、あります。

節約のように見えるところは、作曲の構成上、必要なレイアウトなのです。

決して、紙を惜しんだのではありません。

逆に言えば、紙を惜しんだようにみえるところこそが、

その作品で、もっとも重要な要素を含んでいる、といえます。


★当ブログでも、例えば、「 ロ短調ミサ 」の核心部分での見事なレイアウト、

紙を節約するどころか、大きな余白を残したレイアウトを紹介しています。

是非、ご覧下さい。

≪■平均律 1巻 24番は、 Messe in h-Moll ロ短調ミサ へと向かう■
                         2012.6.11 
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/fa0081d5547e69d4d674b32dc83a1388

≪■Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 2番アナリーゼ講座■

~London original manuscript が発する強烈なメッセージ~
                           2013.6.7        
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20130607     ≫

 


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■ Lifschitz リフシッツによる Schönberg、 Webern ピアノ作品の名演 ■

2013-06-16 15:25:23 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ Lifschitz  リフシッツによる Schönberg、 Webern ピアノ作品の名演 ■
                                              2013.6.16   中村 洋子

 

                                      ( 紫蘭 )

★6月 13日の「 平均律 第 2巻 3番アナリーゼ講座 」 を終えて、

ほっと一息。

いま、Konstantin Lifschitz  リフシッツ

「 Bach: Klavier Konzerte 」 の、C D( OREFEO C 828 112A )

を、楽しんでいます。

アナリーゼ講座の会場、KAWAI 表参道 「 コンサートサロン・パウゼ 」 で、

Lifschitz  リフシッツ( 1976~)がまだ 10代で、 “ 天才少年 ” 

といわれていた頃、彼の演奏会を、開いたそうです。

彼のピアノ協奏曲は、とても素晴らしく、何度聴いても飽きません。


★  “ 権威 ”  や  “ スター ” などとして、マスコミで喧伝されている

演奏家の中には、瞬間瞬間にはとても美しく、

幻惑的な音色を出す人もいますが、

曲を全体として、どのように演奏しようとしているのか、全く不明で、

陽炎のように、脆弱な骨格の音楽、あるいは、

骨格すら見当たらないような音楽に、なっているものが、

多いようです。

聴いている最中、集中して聴こうと懸命に努力しても、

まるで雲の中を彷徨っているような状態となり、

頭は音楽から離れ、

よそ事に、思いを巡らしている自分に気づくことが、よくあります。


★しかし、 Lifschitz  リフシッツ は、自分の設計図をもって、

Bach の音楽を、構築していきます。

それゆえ、飽きずに何度も聴きたくなるのです。

名演とは、そういうものを指すのでしょう。

クラシック音楽の名曲の条件は、

その曲が、 Bach に立脚しているかどうかです。

立脚が分かる演奏が、名演です。

この C D には、「 Bach: Klavier Konzerte 」 の 1番 ~ 7番 が、

収録されています。

 

                                                         ( 柏葉紫陽花 )


★ Lifschitz のもう一枚のお薦め C D は、

Chopin 「 24 Preludes 24の前奏曲 」 Op.28 です。

この C D には、 Chopin のほかに、

Arnold Schönberg アルノルト・シェーンベルク (1874~1951)、

Anton  Webern アントン・ヴェーベルン(1883~1945) の曲も、

入っています。

Schönberg 、 Webern の作品は、殊の外、素晴らしい演奏です。

何故なら、 Schönberg、Webern の音楽が、 Chopin と同様に、

Bach を源泉とした、正当な後継者であることが、

実に、よく分かるからです。


★「 現代音楽 」 を、その源泉にまで辿って、理解しようとせず、

ただ、その音響をムードの素材としてのみ、

とらえ勝ちなのが、日本です。

効果的な音響を拾い、骨格なく寄せ集めた作品が、

 「 現代音楽 」 とされてきたことが、

今日のように、クラシック音楽が荒廃してきた真相です。


★「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」を、

勉強していますと、いたるところで、

Chopin の音楽が、顔を覗かせてきます。

 13日の KAWAI 表参道での 「 平均律 第 2巻 2番 」 アナリーゼ講座では、

 Chopin  の 「 24 Preludes 」 を例に、 Chopin の和声、

さらに音楽そのものが、いかに、Bach の和声を土壌として育ち、

豊かに結実していったかを、お話いたしました。

そして、その Chopin の音楽が、20世紀の Sergei Rachmaninov 

セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943) の音楽に、

脈々と流れ注いでいることも、ご説明しました。


★Rachmaninov ラフマニノフ だけでなく、

Claude  Debussyクロード・ドビュッシー (1862~1918) の音楽も、

Chopin があったからこそ、生まれ出た、と言えます。


★ Debussy が、Durand 社から出版しました 

Chopin 「 ピアノ作品全集 」 の校訂版 と Fingering を見ますと、

如実に、それが分かってきます。

この Fingering には、 Debussy 音楽の神髄が滲み出ています。

Debussy の音楽は、一般に流布しているように、

曖昧模糊としたムードを漂わせた、「 印象派 」 の音楽とは、

実は、対極的な音楽です。


★Chopin は、Bach 平均律に詳しい書き込みをし、

Debussy は、 Chopin のピアノ作品全集を校訂しました。

Bach ー  Chopin ー  Debussy ー が、

ヨーロッパ・クラシック音楽の、本流なのです。

Chopin の勉強には、 Debussy 版が不可欠です。

Debussy の音楽には、一点の曖昧さも、「 ムード 」 だけの音響も、

ありません。

そこが、いま一番誤解されているところかもしれません。

 

                                                              ( 柏葉紫陽花 )


★ Chopin の 「 24 Preludes 」 は、彼が結核のため、

寒い Paris を離れ、地中海のマジョルカ島に、

ジョルジュ・サンドと滞在した前後に、完成しています。

No.15 「 雨だれ 」 の有名な、もっともらしいエピソードは、

曲以上に、よく知られているかもしれません。

しかし、本当に重要なことは、彼がマジョルカ島に持参した、

極くわずかの楽譜の一つが、Bach 平均律だったことです。


★私は、平均律を学べば学ぶほど、 Chopin がより深く、

どんどん理解できるようになってくる自分に、驚きます。

7月 9日の KAWAI 表参道 「 平均律 第 2巻 3番 」 アナリーゼ講座でも、

引き続き Chopin の 「 24 Preludes 」 と、

Bach の 「 3番 Cis-Dur  prelude & fuga 」 との関係を、お話します。

Bach を理解することが、 Chopin を知ることになり、

Debussy を、解明することになるからです。

Chopin のこの 24曲が、 「 Preludes 前奏曲集 」 という、

タイトルでしかあり得ないことが、切実に分かってくるのです。


★ そして、あの大ピアニスト Arthur Rubinstein 

アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982) が、

“ どうしたら、ピアノが上達しますか ” という問いに対し、

「 Bach を弾きなさい」 と答えた理由も、本当によく分かってくるのです。

私の想像では、彼は自宅で、来る日も来る日も Bach を学び、

Bach を弾いていたのではないでしょうか。

それなくしては、 Rubinstein のあの素晴らしい Chopin は、

あり得ないのです

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) が、朝起きるとまず、

「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 を、弾いたのと、

同じ理由です


★この二人の天才は、毎日が勉強、発見の日々でしたので、

絶えず、解釈が深まり、定まることがなかったのでしょう。

それゆえ、

Rubinstein ルービンシュタイン は、Bach のレコーディングを残せなかった、

Pablo Casals パブロ・カザルスは、  Bach 「 6 Suiten fur Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 の Casals 校訂版を、残せなかった。

 

        ( 背黒セキレイ: 独語 バッハシュテルツェ Bachstelze )


★余談ですが、相変わらず、日本の C D 解説の質の低さには、

悲しいものが、あります。

Lifschitz の Chopin 「 24 Preludes 」 の C D には、

Lifschitz の音楽の分析はなく、ひたすら、美辞麗句の形容詞、

どの演奏家にでも通用する形容詞が、 品評会のように、オンパレード。

さらに、 Lifschitz が、Argerich アルヘリッチ の代役として、

Kremer クレーメル、Maisky マイスキーと、

Tchaikovsky チャイコフスキー、 Shostakovichショスタコービッチの、

ピアノトリオを演奏した話を、紹介しています。


★≪ クレーメル、マイスキーという二人の巨人を前にして、リフシッツはいささかの

遜色もなく、いや遜色がないどころか、トリオの要となってアンサンブルをリードし、

演奏の性格、方向性すら決定づけるピアニズムを堂々と披露、演奏家としての

存在感を見せ付けたのである ≫ と、あります。

実際は、Lifschitz だからこそ、

“ トリオの要となって リードし ”、音楽を構築できたのでしょう。


★そもそも、 Argerich トリオ 3人が “ 巨人 ” かどうかは、さておき、

3人の音楽に対する方向性と、

Lifschitz のそれとは、少し異なっているように思います。

Argerich には、Lifschitz のように Bach を構築することは、

難しいかもしれません。

「 現代音楽 」 のところで、ご説明いたしましたように、

彼女の音楽も、 「 現代音楽 」 の抱える矛盾荒廃と同じものを、

抱えているようです。

 

 


★マスコミで喧伝される、超有名な音楽家の演奏を聴いてみたものの、

全く感動しない、楽しめない、よく分からないなどと、

お感じになる方は、多いのではないでしょうか。

その際、 ≪ 超有名な芸術家とされるのに、感動しないのは、

自分の理解が、まだ至らないためであろう。

自分には、能力がないのであろう ≫ と、

ご自分を責めることが、往々にしてあるのではないでしょうか。

誠実な方ほど、その傾向が強く、その結果、自信を失い、

≪ 結局、自分には “ 芸術 ” は分からない ≫ と、

音楽から、離れていくようです。

 

★しかし、どうぞ、自分を責めないでください。

ご自分の感性を、信じてください。

自分の感性の方が、正鵠を得ている場合が多いのです。

自分が美しいと感動する方向を、探し求め、

倦まず弛まず、努力を重ねること、

それが、音楽をする喜びなのです。

 

★今後のアナリーゼ講座の予定です。

・6月 26日(水) KAWAI 名古屋 「 Inventio & Sinfonia  No.11 g-Moll 」

・7月 8日(月) KAWAI 横浜みなとみらい「 Chopin の見た平均律 第 1巻
                     12番 f-Moll  prelude & fuga 」

・7月 9日(火) KAWAI 表参道 「 平均律 第 2巻 第 3番 Cis - Dur prelude & fuga 」
                                   * いずれも午前 10時 ~ 12時 30分

 

 

 

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■ラフマニノフの 「鐘」 にも宿る Bachの和声、ショパンが見た平均律アナリーゼ講座■

2013-06-15 12:42:52 | ■私のアナリーゼ講座■


■ショパンが見た 「 平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座 」■
 第 12回 平均律 第 1巻 12番、f-Moll プレリュード&フーガ
       ~ ラフマニノフの 「鐘」 にも宿る Bachの和声 ~
                      2013.6.15      中村洋子

 

 


★6月 13日に KAWAI 表参道 で開催しました

「 第 2回 平均律クラヴィーア曲集2巻・アナリーゼ講座 」 では、

2番 c-Moll と Chopin の関係についても、お話ししました。

 Chopin の和声が、いかに Bach に負っているか、

 20世紀ロシアの作曲家 Rachmaninov ラフマニノフ の音楽も、

その Chopin を土壌として、

生まれ出たことを、ご説明しました。

 


★平均律 第 2巻・アナリーゼ講座と並行して、

KAWAI 横浜では、 Chopin の眼を通して、

平均律 第 1巻 のアナリーゼ講座を、続けています。

次回 7月 8日は、 Rachmaninov  ラフマニノフ の、

 「 鐘 」 についても、 Bach との関連で、

お話いたします。

 

 

 

★「 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 12番 f-Moll 」 は、

1巻 24曲の、中心に位置する曲です。

Bachの自筆譜は、11番 F-Dur fugue を、

見開きの左ページ冒頭から書き始め、

右ページの 2段目で終えています。

そして、そのすぐ下の 3段目から、

この 12番 preludeを書き始めています。

ページを、改めてはいません。

変則的です。


★この自筆譜で演奏した息子たちや、お弟子さんは、

12番 prelude を弾く際、

否が応でも、

11番 fugue を、意識したことでしょう。

それが、 Bach先生の意図でした。

その意味するところを、深く考えることにより、

12番 が 第 1巻 の頂点を成す曲であることが、

分かってきます。


★Chopinが所持していた楽譜には、 prelude への書き込みはなく、

fugue の主題と対主題に、「 × 」 と 「 □ 」 を記入しています。

当時の楽譜は、いま以上に間違いが多く、

それを、丹念に訂正していたChopinでしたが、

Bach自筆譜を見る機会がなかったため、 2ヶ所で、

誤った臨時記号を、付けてしまっています。

しかし、それにより、

その個所が、いかにも Chopin の響きになっているのです。

 

 

 

■ 講師   :  作曲家 中村 洋子

■ 日 時 : 2013年 7月 8日(月) 午前 10時 00分 ~ 12時 30分

■ 会 場 : カワイミュージックスクールみなとみらい        
    横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F
      ( みなとみらい駅『出口1番』出て目の前の高層ビル3F )

■予約 : Tel.045-261-7323 横浜事務所
             Tel.045-227-1051 みなとみらい直通

 

■ 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団 ≪ 東京の夏音楽祭 ≫

新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠

         W.ベッチャー氏演奏した CD 『 w.ベッチャー日本を弾 

     く 』 を発表。

08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』

         CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。

08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」

               全 15回を開催。

09年 10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏に

         よりドイツ・マンハイムで 初演される。

10~12年: BACH平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリ 

        ーゼ講座(24回) を、カワイ表参道で開催。       

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello  無伴奏チェロ組曲

     第 1番 」 が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

     リース&エアラー社から出版される。

10年:  CD 『 無伴奏チェロ組曲  第 3番、2番 』 W.ベッチャー

     演奏を発表

       「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・

     チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・

     ドルトムントのハウケハック社    

      Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

11年 4月: 「 10 Duette für 2 Violoncelli 

       チェロ二重奏のための10の曲集 」

        が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

       リース&エアラー社から出版される。

12年12月: Zehn Phantasien für Celloquartett

        (Band 1,Nr.1-5) チェロ4重奏のための10の

        ファンタジー(第 1巻、1~5番)」が、

         ドイツ・ドルトムント Musikverlag Hauke Hack

        社から出版される。

・ スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、

  自作品が演奏される

 

★上記の 楽譜 と CD は、

「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、

販売中。

 

 
 
                                         ( ミズスマシ )
 
 
 
 
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■平均律 第 2巻 3番 fuga の主題はわずか 4音のみ、万華鏡のように展開■

2013-06-13 14:23:11 | ■私のアナリーゼ講座■
 ■第 3回 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座■
   第 3番 Cis-Dur BWV870 prelude & fuga
 ~ fuga の主題はわずか 4音のみ、それが万華鏡のように展開 ~
           2013.6.13      中村洋子
 
 
 
 
 
 
 
★平均律クラヴィーア曲集第 2巻は、
 
16番 g-Moll prelude の曲頭に Largo、
 
24番 h-Mollの prelude 曲頭に、
 
Allegro の tempo 表示があります。
 
しかし、その他には、この 3番 Cis-Durの prelude に、
 
tempo表示があるだけです。
 
 
★それも、 preludeの途中 25小節に Allegroの表示があり、
 
拍子も曲頭の 4分の 4拍子から、 8分の 3拍子に、
 
ガラリと変わり、 prelude でありながら、
 
fugato が始まってしまいます。
 
 
★prelude の途中で tempoが変わるのは、
 
平均律クラヴィーア曲集では、第 1巻 10番 e-Moll が、
 
あるだけです。
 
Bach が、この 3番で、どのような意図をもって、
 
Allegro表示をしたのか、
 
それを、どのように演奏すべきであるか、
 
講座で、詳しくご説明いたします。
 
 
 
 
★わずか 4つの 8分音符を subject 主題とする fuga は、
 
第 1番 C-Dur 、 第 2番 c-Moll の発展したものと、
 
考えることができます。
 
トニック(Ⅰ) と ドミナント(Ⅴ) のみから成る、
 
究極の fuga主題から、
 
Bach が、どのような豊かな音楽を生み出したのか、
 
詳しく、解説いたします。
 
 
 
 
■日  時 :  2013年 7月9日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
 
■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ
 
■会  費 :     Tel.03-3409-1958
 
 
 
 
■ 講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団 ≪ 東京の夏音楽祭 ≫

新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠

         W.ベッチャー氏演奏した CD 『 w.ベッチャー日本を弾 

     く 』 を発表。

08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』

         CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。

08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」

               全 15回を開催。

09年 10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏に

         よりドイツ・マンハイムで 初演される。

10~12年: BACH平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリ 

        ーゼ講座(24回) を、カワイ表参道で開催。       

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello  無伴奏チェロ組曲

     第 1番 」 が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

     リース&エアラー社から出版される。

10年:  CD 『 無伴奏チェロ組曲  第 3番、2番 』 W.ベッチャー

     演奏を発表

      「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・

     チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・

     ドルトムントのハウケハック社    

      Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

11年 4月: 「 10 Duette für 2 Violoncelli 

       チェロ二重奏のための10の曲集 」

        が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

       リース&エアラー社から出版される。

12年12月: Zehn Phantasien für Celloquartett

        (Band 1,Nr.1-5) チェロ4重奏のための10の

        ファンタジー(第 1巻、1~5番)」が、

         ドイツ・ドルトムント Musikverlag Hauke Hack

        社から出版される。

・ スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、

  自作品が演奏される

 

★上記の 楽譜 と CD は、

「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、

販売中。

 
■ 今後のスケジュール
 
・第4回  8/30(金) 第6番 ニ短調 ※曲の順番が異なります
 
 
 
 
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■2つの和音が同時に奏されているように、聴こえる Bach の和音■

2013-06-11 14:50:13 | ■私のアナリーゼ講座■
 ■2つの和音が同時に奏されているように、聴こえる Bach の和音■
~「 平均律 第 2巻 」 2番  fugue に現れる、切なく、美しい和音~
                                             2013.6.11    中村洋子
 
 
 
                                                          (菖蒲)
                              
 
 
★「 Bach =対位法 」 、 「 対位法=難しい 」、
 
という連想をなさる方も、きっと多いことでしょう。
 
しかし、Bach は、 「 対位法 」 はもちろんのこと、
 
 「 和声 」 でも、当然のことながら、史上最大の大家です。
 
それらによって生まれた Bach の音楽は、
 
もっともらしく、堅苦しいものではなく、
 
親しみやすく、どなたがお聴きになっても、心打たれ、
 
一度聴いたら忘れられない魅力が、あります。
 
 
★13日の KAWAI 表参道での、
 
「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 アナリーゼ講座では、
 
2番 prelude & fugue の和声を、
 
じっくり、徹底的にお話するつもりです。
 
 
★そして、その 「 Bach の和声 」 は、
 
「 対位法 = counterpoint 」 から導き出されている、
 
といっても過言ではありません。
 
一心同体なのです。
 
 
 
                              (菖蒲)
 
 
★一例を挙げますと、2番  fugue の、
 
≪ 21小節目 1拍目 ≫ の和音を、見てみましょう。
 
この部分は、主調 c-Moll です。
 
バスは c-Moll の第 3音 変 ホ音 ( es ) で、
 
その上方に、
 
ト音 ( g )、 ロ音 ( h )、 1点へ音 ( f1 ) 、1点ト音 ( g1 ) が、
 
配置されます。
 
 
バスの 変 ホ音 ( es ) は、
 
その直前の和音が、 「 属七の和音  ( ドミナント ) 」 ですので、
 
明らかに、主和音 ( トニック ) の 
 
c ( 根音 ) 、 es ( 第 3音 ) 、g ( 第 5音 )の、
 
第 3音 ( es ) であるべきなのです。
 
 
★しかし、その上方に配置された
 
ト音 ( g )、 ロ音 (  h  )、 1点へ音 (  f1 ) 、1点ト音 ( g1 ) は、
 
明らかに 「 属七の和音 ( g - h - d - f  ) = dは省略されている = 」 の、
 
構成になっているのです。
 
 
★このように、主和音の 第 3音 の上に、
 
主和音ではない 「 属七 」 の和音が、存在しているのです。
 
これは、聴く側にとってどう聴こえるのでしょうか?
 
それは、2つの和音が同時に奏されているように、
 
聴こえるのです。
 
これが、≪ 21小節目 1拍目の正体 ≫ なのです。
 
 
 
 
 
 
★この 2番 c-moll fugue  では、このような和音が、
 
21小節目を含め、 5ヶ所もあります。
 
 
★何故、このように、頻繁にこの和音が現れるのでしょうか?
 
それは、Bach の  「 counterpoint 」  と密接に、
 
関係しているからなのです。
 
 
★そして、この  5つの和音が、
 
この曲の大きな 「 魅力の一つ 」 である、といっていいほど、
 
切なく、美しいのです。
 
 
★トニック ( Ⅰの和音 ) の根音は、音階の主音です。
 
そして、この主音の上に、 属七を配置するということは、
 
ごく普通に、見られます。
 
 
★ハ長調を例に、ご説明いたしますと、
 
主音は 「 c1 」 、その上に、 「 属七 g1  h1  d2  f2 」 の和音が、
 
上方に配置されます。
 
その結果、主音 「 c1 」 から、最上部 「 f2 」 までが、11度音程となり、
 
それを 「Ⅰの11 」 と呼び、その和音の後は必ず、
 
ごく普通の主音、例えば
 
≪  c1  g1  c2  e2  ≫ に進行することが多いのです。
 
これは、 Mozart モーツァルト のカデンツで、よく聴かれるものです。
 
皆さん、ピアノで是非、弾いていてください
 
 
 
                                (石楠花)
 
 
★話は戻りますが、この Bach の、
 
≪ 最下部 ( バス ) が、主音ではなく、トニックの 第 3音である ≫ のは、
 
大変に、珍しいのです。
 
そこに Bach の和声の秘密、独創性、素晴らしさがあるといえます。
 
Bach のcounterpoint と絡めて、詳しくご説明いたします。
 
 
 
 
                                 (燕と藁)
 
 
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■Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 2番アナリーゼ講座■

2013-06-07 10:33:07 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 2番アナリーゼ講座■

~London original manuscript が発する強烈なメッセージ~
                             2013.6.7        中村洋子

 

                    (ハマナス)

 

★6月13日の KAWAI 表参道 アナリーゼ講座は、

Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻  2番 c-Moll です。

この prelude も 「 二部構成 ( binary form ) 」 です。

 

★新バッハ全集を基にした Bärenreiter ベーレンライター版 や、

定評ある Henle ヘンレ版 などの 「 実用譜 」 では、ほとんど、

prelude の第 1小節目から、繰り返し記号のある 12小節目までを、

見開き 2ページの左側に配置し、

右ページは、13小節目から最後の 28小節目までとしています。

一見、整合性がとれ、見やすい楽譜のようです。

 

★その実用譜のレイアウト通りに、前半 12小節目まで 2回弾き、

次に後半を、2回繰り返しますと、

前半と後半を、別々の独立したパートとして感じながら、

弾くことになります。

そのように演奏しますと、どう聴こえるのでしょうか?

≪ 単調で、退屈な、短い練習曲 ≫ となります。

 

                        ( 紫陽花 )

 

★それゆえ、この 2番 prelude については、一般的に

「 2声の Invention インヴェンション的な構造の曲である 」 という、

二重の意味で、はなはだ誤った解説が、広く流布しています。

 

★二重の意味というのは、まず、

≪ Invention ≫ に対する誤解です。

「 Invention は、 Wohltemperirte ClavierⅠ

平均律クラヴィーア曲集第 1巻 への入門的な曲であり、

難易度も高くない 」  という、大きな誤解です。

これまでの講座で、何度も指摘してきましたが、

Wohltemperirte ClavierⅠ の完成が 1722年、

Invention の完成が 1723年であり、

Inventionは、Wohltemperirte ClavierⅠ を、

凝縮したような曲です。

 

★たとえ Bach が、教育的な見地から入門書としての性格を、

考えていたとしても、出来上がった  「 Inventionen und

Sinfonien 」 は、

「 Wohltemperirte ClavierⅠ」 の上に聳え立つ、

恐ろしいまでに、濃密な曲集となっているのです。

 

★ちなみに、そうした誤った解説によりますと、

Invention風の曲は、 「 Wohltemperirte ClavierⅡ

平均律第 2巻 」 の中に 7曲ある、としています。

No.2 c-Moll、 No.8 dis-Moll、No.10 e-Moll、No.19 A-Dur、

No.20 a-Moll、 No.22 b-Moll、No.24 h-Moll です。

しかし、その分類は、平均律の本質を見極めるうえで、

大変に、末梢的で浅薄な見方であると、思います。

 

                          ( 紫陽花 )

 

★この 7曲は、表面的には、

Invention に、似ているように見えます。

しかし、内容は、大きく異なるのです。

これがもう一つの誤解なのです。

 

★ 一体 ≪ インヴェンション的 ≫ な曲とは、

どういうことを、意味しているのでしょうか?

肝心なことは、≪ インヴェンション的 ≫ とされる曲の、

どこが、どう ≪ インヴェンション ≫ と異なるのか、

それを、分析することです。

 

★表面的な類似点を探すより、

Bach が何故、 「 Wohltemperirte ClavierⅡ」 で、

たくさんの曲を、 「 二部構成 ( binary form ) 」 で書いたのか・・・

それを考えることが、何よりも、重要になってきます。

それは、Bach が何故、 「 Wohltemperirte Clavier

平均律クラヴィーア曲集 」 を、第 1巻だけでなく、

第 2巻まで書いたのかという、巨大な謎にも、

迫ることになるからです。

 

                            ( ドクダミ )

 

★  「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ」  には、

prelude が 「 二部構成 ( binary form ) 」 の曲は、

No.2、No.5、No.8、No.9、No.10、No.12、No.15、

No.18、No.20、No.21 と、10曲もあります。

ちなみに、 「 Wohltemperirte ClavierⅠ」 では、

No.24 h-Moll ロ短調のみ、

「 Inventionen und Sinfonien  」 では、

No.6 E-Dur ホ長調だけです。

 

★上記のたくさんの疑問に答えてくれるのは、やはり、

Bach と アンナ・マグダレーナAnna Magdalena Bach

(1701~ 1760) の自筆譜である ≪ ロンドン写本 ≫

( London original manuscript1739~1742 

The British Library 所蔵 ) です。

 

★この≪ ロンドン写本 ≫( London original manuscript ) で、

Bach は、強烈なメッセージを発しています。

レイアウトが、実用譜と全く異なっています。

 

                            ( 苧環 )

 

★1ページが 6段の楽譜。

見開き左ページは、第 1小節目から、2回目の繰り返しの途中までです。

1回目の繰り返しが終わっても、そのまま 2回目の部分を書き続け、

残りを、右ページ 4段で書いています。

しかも、4段目は最後の 28小節目だけです。

5、 6段目は空白にしています。

どうして、このような変則的なレイアウトにしたのでしょうか?

 

★これは、 誤った意味での ≪ インヴェンション的 ≫ に、つまり、

≪ 単調で、退屈な、短い練習曲 ≫  風には、

絶対に弾くべきではない、

という Bach の、強い意思の表れでしょう。

逆にいいますと、≪ ロンドン写本 ≫ を読み解いて初めて、

この 2番を、Bach の意図通りに、

演奏することができる、といえます。

 

★それを、見事に分析しているのが、

天才 Bartók Béla バルトーク (1881~1945)です。

「 Bartók 校訂版・平均律クラヴィーア曲集 」 で、

それが、はっきりと示されています。

 

★さらに、2番  prelude と fugue が、ともに 28小節という、

全く同数の小節からできていることも、この 2番を分析する上で、

大変に、重要なカギとなっています。

この解析は、推理小説より面白いともいえます。

 

★6月 13日の KAWAI 表参道 アナリーゼ講座で、

これらのことを、詳しくお話いたします。

 

                            (芙蓉)

 

■ 日  時 :  2013年 6月13日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

■ 会  場 :  KAWAI 表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

■ 予 約  :   Tel. 03-3409-1958

 

■ 講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003年~ 05年:アリオン音楽財団 ≪ 東京の夏音楽祭 ≫

新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠

         W.ベッチャー氏演奏した CD 『 w.ベッチャー日本を弾 

     く 』 を発表。

08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』

         CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。

08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」

               全 15回を開催。

09年 10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏に

         よりドイツ・マンハイムで 初演される。

10~12年: BACH平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリ 

        ーゼ講座(24回) を、カワイ表参道で開催。       

10年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello  無伴奏チェロ組曲

     第 1番 」 が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

     リース&エアラー社から出版される。

      CD 『 無伴奏チェロ組曲  第 3番、2番 』 W.ベッチャー

     演奏を発表

      「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・

     チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・

     ドルトムントのハウケハック社    

      Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。

 11年 4月: 「 10 Duette für 2 Violoncelli 

        チェロ二重奏のための10の曲集 」

          が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・

        リース&エアラー社から出版される。

 12年12月: Zehn Phantasien für Celloquartett

        (Band 1,Nr.1-5) チェロ4重奏のための10の

        ファンタジー(第 1巻、1~5番)」が、

         ドイツ・ドルトムント Musicverlag Hauke Hack

        社から出版される。

・ スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、

  自作品が演奏される

 

★上記の 楽譜 と CD は、

「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、

販売中。

 

 

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