音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ドイツで、私の「 チェロ組曲第 1番 」が、CDとなりました■

2009-12-30 11:46:05 | ■私の作品について■
■ドイツで、私の「 チェロ組曲第 1番 」が、CDとなりました■
                     09.12.30 中村洋子


★明日は、大晦日です。

本年一年間、皆さまに、このブログを、

愛読いただきまして、ありがとうございました。

皆さまと、本当のクラシック音楽を聴き、

演奏し、楽しむ喜びを、これからも、

分かち合えることを、望んでおります。


★昨日、ドイツのベッチャー先生から、少し遅い、

「クリスマスプレゼント」が、届きました。

「 CD 」が、入っておりました。

≪ Gespraechskonzert mit Wolfgang Boettcher ≫

という、タイトルです。


★ことし4月18日、ベルリンで開かれました

≪ 対話付きコンサート ≫の、ライブ録音です。

この中に、私の「 チェロ組曲第 1番 」が、収録されております。


★プログラムは、

① Yoko Nakamura :
Cello Suite Nr.1 fuer Violoncello solo( 2007 )

② Volker David Kirchner(1942~):
Und Salomo sprach fuer Violoncello solo ( 1987 )
                ( ソロモンは、かく語りき )

③ J.S.Bach :
Cello Suite Nr.1 fuer Violoncello solo (ca.1720)

④ Ausschnitte aus dem Gespraech mit Wolfgang Boettcher 
(ヴォルフガング・ベッチャーとの対談からの抜粋)

⑤ Pablo Casals (1876~1973): El cant del ocells( 鳥の歌 )


★この「 CD 」で、ドイツの皆さまに、

私の作品を楽しんで頂けましたら、幸いでございます。


★このお正月休みは、「 チェロ組曲第 4番 」の

作曲に、励みたいと思います。

「 チェロ組曲 2番 」と 「 3番 」は来春、 CD で発表予定です。


★来年が、皆さまにとって、音楽に溢れた、

よいお年になりますよう、お祈りいたします。


                        (CD盤とブックレット)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
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■「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」の、第1~4回の日程■

2009-12-27 16:53:49 | ■私のアナリーゼ講座■
■「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」の、第1~4回の日程■
                        09.12.27  中村洋子


★本年もあと、4日を残すところになりました。

新年1月から新たに、カワイ表参道「パウゼ」で、開催いたします、

「平均律クラヴィーア曲集 第1巻・全曲アナリーゼ講座」の、

第1回~4回までの日程が、決まりました。


★いずれも、「AM 10時 ~ 12時半」です。

・第1回 1月 26日(火) 1番  ハ長調の前奏曲とフーガ
                  +「前奏曲」とは 

・第2回 2月 18日(木) 2番  ハ短調の前奏曲とフーガ
                  +「暗譜の方法」そのⅡ

・第3回 3月 30日(火) 3番  嬰ハ長調の前奏曲とフーガ
                  + Chopin 「雨だれ」との関係

・第4回 4月 28日(水) 4番  嬰ハ短調の前奏曲とフーガ
                  + Beethoven 「月光」との関係

       ●お申込は、カワイ表参道 03(3409)1958


★雑誌「ぶらーぼ」の 1月号(p 128)にも、講座の案内が掲載中です。


★私が、この講座で望んでおりますのは、バッハを聴くだけでなく、

弾く楽しみを、一人でも多くの皆さまと、分かち合いたいからです。

ピアノを指導されている先生も、たくさんご参加下さいますので、

先生がたを通して、たくさんのバッハファン、つまり、

真の音楽愛好者が、増えることを、願って止みません。


★講座では、「平均律」と、後世の大作曲家との関係、つまり、

大作曲家たちが、どのように、「平均律」を学び尽くし、

血肉化していったか、その結果、

名曲、例えば、ショパンの「雨だれ」や、

ベートヴェン「月光」の、どこにそれが反映しているか、

などについても、バッハと対照しながら、お話していきます。


★また、第2回講座では、好評でした「暗譜の方法」を、

さらに発展させた「そのⅡ」も、予定しております。


★お話の内容を、逐一、実際にピアノで音を出し、

検証しながら、体験していただいております。

一般的にいいますと、調律が悪かったり、ピアノの状態がよくない場合、

バッハの美しさや、意図が、十全に伝わらないこともあります。


★会場となります「コンサートサロン・パウゼ」は、

毎回、きちんと調律され、ベストな状態に仕上げた、

「KAWAI・フルコンサートピアノ」を、使用いたします。

とても、美しい音で、気持ちよく講座を、進めることができます。


★「ピアノの先生を選ぶ基準は?」をいう質問を時々、頂きます。

一つの、お答えとして、

「先生が、レッスンでお使いになるピアノが、きちんと調律され、

いい状態に管理され、保たれているか」という点は、

大変に、重要な要素です。


★「ピアノ」という楽器に、全く、無頓着で、

ガタガタのピアノを、平気で弾いている先生も、

一部には、見られるようです。

≪弘法は、筆を選ばず≫と言ってみたり、

≪普段、状態が悪いピアノで弾いていれば、

どんなピアノでも、うまく弾くことができる≫、あるいは、

≪タッチは重いほうがいい、そうすれば、指が強くなる≫などは、

とんでもない、間違った考えです。

良い状態のピアノで、訓練し、ピアノに合った筋肉を、

鍛えていきませんと、百年練習しても、徒労に終わります。


★私の経験で申し上げますと、日々の練習で、

良い状態に保った、優れたピアノを使っている場合、

音楽ホールなどで、悪い状態のピアノに、出会った際でも、

理想とする、日々の音に近づけようと、

体と感性が、意識しないでも、反応していくものです。

日常的に、良いピアノ、良い音を、体に染み込ませませんと、

とっさの応用は、効かないと思います。


★時々、音が騒音のようにうるさかったり、音が汚い

ピアノ・コンサートに、遭遇することがあります。

会場の音響や、ピアノの状態も影響しているのかもしれませんが、

ピアニストが、ホールとピアノの状態に合わせて、

自分のタッチを、コントロールできない、ということが、

大きな、要因のように、思われます。


★多分、日常の自宅での弾き方を、そのまま、

変えることなく、ホールで再現しているからでしょう。


★理想は、出来るだけ感度のいいコンサートピアノを、

自宅に備えることですが、それは難しい話ですので、

使い込んだピアノでも、絶えず、良い「調律」状態に保ち、

「湿度と温度」管理、「遮光」などにも、万全の注意を配り、

自分の家族のように、ピアノを育むことです。

そのように育てたピアノを、お持ちの先生は、

きっと、音楽への愛情に満ち溢れた、良い先生でしょう。


                         (赤唐辛子)
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■ご質問へのお答えと、バッハとシューマン・「パピヨン」との関係■

2009-12-26 00:44:30 | ■私のアナリーゼ講座■
■ご質問へのお答えと、バッハとシューマン・「パピヨン」との関係■
                        09.12.26 中村洋子


★アナリーゼ講座で、よくお受けします質問で、最も多いのが、

「アナリーゼのことを書いた、いい本はございませんか?」です。

お答えは、「残念ながら、存じません」です。


★出版されています、アナリーゼの本の大部分は、

次のような、内容です。

「曲のなかで、テーマやモティーフがどこにあるか、

その位置を、示している」だけ、あるいは、

それすら明確に示さずに、曖昧な形容詞で、

ぼんやりと示唆するのに、とどまっているようです。


★実際に、その本を見て、勉強しますと、

テーマの位置は、よく分かりますが、その結果、

≪テーマを、強く弾きさえすればいい≫という、

過ちに、陥り勝ちです。

「テーマを強く、はっきりと弾き、他の部分は、弱く弾く、

ということで良いのでしょうか、それしか、

私には理解できないのですが・・・」というお悩みを、

お持ちの方が、私の講座によくいらっしゃいます。


★そのような方は、実に誠実な方で、

「自分ではその本を、十分に理解できないのではないかしら」と、

ご自分の能力を疑ってしまい、ご自分を責めてしまいます。

しかし、それは、ご自分の責任では、決してないのです。


★そのアナリーゼの本の著者が、本当にバッハの和声や対位法を、

理解して、書いているかどうかが、肝心です。

著者が、「ピアニスト出身」あるいは「ピアニスト」と、

いいいましても、エドウィン・フィッシャーや、

アルトゥール・シュナーベルのように、

音楽理論を血肉化したうえで、自分の芸術を、

羽ばたかせている、大芸術家なのか、

あるいは、バルトークのように第一級の作曲家が書いた、

アナリーゼの本なのか、まず、十分に確かめてください。


★テーマや、モティーフ(構成要素、動機)は、

ご自身で、じっくりと、検討されれば、

本を読むまでもなく、どなたでも、見つけられるものです。

重要なのは、そこから先です。


★作曲家が、全体の構成のなかで、どのような意図をもって、

「テーマを配置」していったか、

それが、本の中で分析されているかどうか、

さらに、その作曲家の和声について、

その「作曲家固有の和音」がどこに、潜んでいるか、

その和音の音が、どういう方向性や色彩をもった音か、

(例えば、導音は主音を志向しますので、導音が主音に解決したときに、

どう弾けば、導音と主音との関係を、音で表現できるかなどの、

説明があるかどうか)という分析が、必要です。


★また、クラシック音楽の傑作が、必ず備えている「対位法」を、

その著者が、曲から見つけ出し、解説されているかどうか、

そのような点が、チェックポイントです。


★以上の条件に合うアナリーゼの本を、私は残念ながら知りません。

私のアナリーゼ講座では、以上の点を実際に、ピアノで音を出しながら、

可能な限り、分かりやすく体験していただきました。

ことし12月、カワイ・表参道での

「バッハ・インヴェンション講座 全15回」を、終えました。


★この講座の内容を、来年は、一冊の本にまとめ、

皆さまに、お読みいただければ、と思っております。

私の願いは、バッハを演奏したり、聴いたり、

レッスンしたりする際に、本当の手引きとなるような

内容と、することです。


★きょうは、シューマンの「パピヨン Papillons」Op.2 の、

自筆譜を見て、私が感じたことを、お話したいと思います。


★この曲集は、シューマン(1810~1856)の、

1829~31年にかけての、作品です。

20歳前後、まだハイデルベルク大学で、法律を学んでいたころです。

最も、興味深いのは、序奏(Introduzione)の 6小節に続く、

「第 1曲」の左手 「5~ 7小節目」です。

自筆譜には、初稿の楽譜も記載され、それを斜線で消し、

現在の決定稿が、その後に、書かれています。


★決定稿は、5 小節目のバスが、4分音符で「 G H B 」 と動き、

6 小節目で、2分音符の「 A 」に、4分音符の「 G 」が続き、

7 小節目の付点 2分音符「 Fis 」へと、つながります。


★しかし、初稿では、5、6、7小節目は、1、2、3小節目と、

類似した伴奏パターンを、とっています。

5小節目の1拍目は、ひらがな「い音」( A )が、奏され、

2拍目は、「 G H E 」、3拍目は、「 G B E 」の 3和音です。

6小節目の 1拍目も、ひらがな「い音」( A )が、奏され、

2拍目は、「 A Cis E 」 、3拍目は「 G Cis E 」の 3和音です。

7小節目の1拍目は、かたかな「ニ音」( D )が奏され、

2、3拍目は「 Fis D 」 の、2和音です。


★決定稿から、分かりますことは、

シューマンが、この 「5~ 7小節目」で、聴く人や弾く人に、

「半音階」を、強く意識させることを、

意図していた、ということです。

もう一つ、分かりますことは、

1小節目1拍目 バスの 「A」 、

2小節目1拍目 バスの 「Ais」 、

3小節目 1拍目 バスの 「H」、

この「 A Ais H 」の 3音による、上行半音階が、

5小節目 2拍目から、 6小節目 1拍目のバスにかけて、

逆行形の「 H B A 」として、奏されることです。


★この「A Ais H」と、逆行形の「 H B A 」の関係は、

これから、全曲にわたって、張り巡らしていく

「対位法」の、先駆けと、見るべきです。


★シューマンが、半音階を際立たせるため、

何故、このように推敲したのか・・・。

それは、インヴェンションの全 15曲(Sinfoniaも含め 30曲)が、

第1曲に現れる「基本モティーフ」を順次、展開していく

≪主題と変奏≫という、関係にあることを、

彼が、バッハから学んだからでしょう。

シューマンは、序奏と全 12曲の小品から成る「パピヨン」で、

バッハの手法を、自分の創作に根付かせようと、

何度も何度も、推敲したように、私には思われます。


★「 H B A 」と「 B A C H 」は、どこか似ていませんか?


★この「 H B A 」のような、 3音による半音階進行 は、

「平均律クラヴィーア曲集」の、1巻 1番にも使われ、

この半音階を、第1曲目に置くことにより、

それ以降の曲の、「半音階」が、

より引き締まって、聴こえてきます。


★バッハも、「平均律クラヴィーア曲集 1巻」の、

特に、前半 12曲は、「インヴェンション」と同様の、

構成原理で、配置していますので、

まだ作曲家として、出発点にいた時期のシューマンが、

「インヴェンション」と「平均律」を、

作曲の拠り所としていたことは、想像に難くありません。


★冒頭のご質問への、お答えですが、

重要なテーマであるからこそ、

「弱く弾いたほうがいい」箇所も、あるはずです。

決して、他の声部に埋没させてはいけませんが、

大切なところであるからこそ、“小声で歌う”という、

発想も、作曲家は大切にします。

どのテーマを、“小声で歌う”か、自分で見つけ出すことが、

できるようにするため、アナリーゼが必要なのです。


                         (完熟した酢橘)
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■ベートーヴェン・ピアノソナタの、「名校訂版」から学ぶこと■

2009-12-21 19:27:27 | ■私のアナリーゼ講座■
■ベートーヴェン・ピアノソナタの、「名校訂版」から学ぶこと■
                    09.12.21   中村洋子


★明日は冬至、寒い日が続いております。

クリスマス前の、ヨーロッパや米国には、

記録的な寒波が、襲来しているようです。

12月17日は、ベートーヴェンの誕生日でした(16日説もあり)。


★きょうは、ベートーヴェン「ピアノソナタ31番」の続きです。

「どういう楽譜を選ぶべきか」というご質問を、

バッハだけでなく、いろいろな作曲家についても、お受けします。


★信頼できますUrtext(原典版)に加え、

歴史的な大ピアニストの校訂版を、参照することが、ベストです。

ベートーヴェン・ピアノソナタでの、お薦めしたい校訂版は、

①アルトゥール・シュナーベル Artur Schnabel(1882~1951)の、

「Beethoven 32 Sonate per Pianoforte 」
=クルチ社 Edizioni Curci- Milano

②クラウディオ・アラウ Claudio Arrau (1903~1991)の、

「 Beethoven Sonaten fuer Klavier zu zwei Haenden 」
Urtext Herausgegeben von Claudio Arrau
 =ペータース社 Edition Peters

(このアラウ版は、Urtextとなっていますが、アラウの考えが、
色濃く反映されており、「校訂版」とみていいと思います)


★バッハの手稿譜から、フレージングや、

アーティキュレーションまでが、読み取れるように、

この両巨匠の校訂版からは、彼らが、ベートーヴェンを、

どのようにアナリーゼして、弾いていたか、

詳しく、読み取ることができます。


★そのアナリーゼが、端的に分かるのが「指使い」です。

バッハが、その手稿譜の符尾の位置や書き方により、

モティーフや、アーティキュレーションまで、

示唆しているのと、同様です。


★例を挙げますと、1楽章の 44小節目、

展開部に入ってからの、5小節目に、当たります。

右手上声は、変形された第一テーマを奏します。

左手は、3拍子の 3拍すべてが、16分音符 4つからできています。

最初の1拍目 「F」について、ヘンレ版(Urtext)では、

指使いは、記入されていません。

シュナーベル、アラウ版では、両方とも、

「5(小指)」を、指示しています。


★それに続く、1拍目のなかの、「F」に続く「C D E」は、

ヘンレでは、Cが 2、Eが 3、シュナーベル版では、Cのみに 4、

アラウ版では、Cが 1、Dが 3、と記載されています。


★2拍目の 「F、G、As、B」は、

ヘンレは、Asのみに 3、

シュナーベルは、Fに 1、G に 4、

アラウは、Gに 4、Asに 3。


★3拍目の 「C、As、G、F」は、

ヘンレでは、Asのみに 2、

シュナーベルは、Fのみに 4、

アラウでは、Asに 3、Gが 1、Fが 2。


★まとめますと、

ヘンレ版= 5213、2132、1234 

シュナーベル版= 5432、1432、1234

アラウ版= 5132、1432、1312

この箇所は、どの版も、それほど難しい指使いではありませんが、

その他の箇所では、“本当に、マエストロたちは、

この指使いで、弾いていたのかしら”と、思うほど、

難しい指使いも、多く見られます。


★シュナーベル版は、5指の後、4321、4321と、

規則的な、指使いが現れます。

これは、第一テーマの重要な音程である「4度音程」を、

CDEF GAsBC という、順次進行のモティーフとして、

アナリーゼした指使いです。


★ベートーヴェンは、≪ 右手上声に第一テーマの旋律を置き、

左手16分音符を、フーガの「対主題」のように、作曲している≫と、

シュナーベルは、アナリーゼしているのです。

ベートーヴェンの書いたレガートは、

1拍目の Fの次ぎに来る Cから、小節の最後の Fまで、

一つの大きなレガート記号で、結び、

一見、一つのフレーズのように見えますが、

それを、だらだらとしたレガートで弾いていはいけない、と

シュナーベルは、その校訂版で、示唆しているのです。


★アラウも、1、2拍目については、シュナーベルとほぼ同じ考えですが、

3拍目の 1312、次の 45小節の冒頭の 1の指使いは、

かなり、弾き難いかもしれません。

これは、312のAs G F  を、第1テーマ冒頭の「3度音程」から、

生み出された重要なモティーフであると、分析しているからです。


★いずれにしましても、この箇所が、旋律と伴奏という内容ではなく、

≪主題と対主題≫という、対位法の音楽であることを、

際立たせるために、あえて、

このような、難しい指使いをしているのです。


★最も弾き易いのは、ヘンレ版であると、思いますが、

ヘンレ版で弾く際、シュナーベルやアラウが、校訂版で示唆した

モティーフや、アーティキュレーション、フレージングを、

日々の練習に、取り入れることが、大事であると、思われます。


★前回のブログで書きましたように、この時期のベートーヴェンは、

「ミサ・ソレムニス」の作曲のため、若い頃にも増して、

バッハや、それ以前の「対位法音楽」を、勉強していました。


★この「ピアノソナタ31番」の、

≪28、29、30小節の左手、バスの動き≫は、

まるで、バッハの平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第14番 

「嬰へ短調フーガ」の 4、5小節目に初めて出てきます

「対主題」とそっくりでは、ありませんか。

この「対主題」は、全40小節のフーガ全曲にわたって、

繰り返し、現れてきます。


★“バッハの勉強なくしては、ベートーヴェンを弾くことはできない”

そういうことが、言えます。

1月26日から、始まります「平均律アナリーゼ講座」では、

このように、バッハ以降の大作曲家が、どのように「平均律」を学び、

創作のための豊かな土壌としていったか、についても、

ご一緒に、学んでいきたいと、思います。


                        (古い瓦屋根の土蔵)
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■ベートーヴェンが実践していた勉強方法と、ピアノソナタ31番の源泉 ■

2009-12-18 18:20:49 | ■私のアナリーゼ講座■
■ベートーヴェンが実践していた勉強方法と、ピアノソナタ31番の源泉 ■
                 09.12.18  中村洋子


★寒さが、とても厳しくなりました。

岩波文庫「ベートーヴェンの手紙・下」に、よりますと、

ベートーヴェン(1770~1827)は、1815年の日記に、

「毎朝5時半から、朝食まで勉強すること!!」、さらに

「ヘンデル、バッハ、グルック、モーツァルト、ハイドンの

肖像画が、私の部屋にある。・・・それらは、私が求める

忍耐力を得るのに助けとなるだろう」という文が、

記されているそうです。


★この文庫本は、直訳の日本語で、読みにくい文章ですが、

それにも拘らず、ベートーヴェンの生の言葉は、

強く、訴えかけてきます。

寝坊してしまった朝、私は、この言葉を思い出し、

“ベートーヴェンなら、もう勉強を終え、

作曲に取り掛かっている時間だ!!”と、思い、

反省しています。


★ベートーヴェンは、1814年、第8交響曲OP.93 と、

ピアノソナタ 27番 OP.90 を、完成しています。

1815年には、二つのチェロソナタ ハ長調、ニ長調 OP.102が、

作曲されています。


★既にそれまでに、数々の傑作を書き上げているベートーヴェンが、

このように、ひたむきに勉強を重ねているのです。


★月2回、カワイ表参道で開催しております「アナリーゼ教室」で、

シューベルト「冬の旅」全曲を、じっくりと勉強中ですが、

これは、同時期に書かれた「4 Impromptus 即興曲集」

OP.90(1827年作曲)と、モティーフを共有し、

ヤヌス(両面神)の表と裏のような、関係にあります。


★シューベルト以外にも、アナリーゼする曲の希望を、

伺いましたら、「ベートーヴェンのピアノソナタ31番 OP.110」

という声が、出ました。

実は、私も、シューベルトのこの2作品を、勉強中、絶えず、

ベートーヴェンの「ピアノソナタ31番」」が、頭の中で、

鳴っていましたので、その偶然に、驚きました。


★ピアノソナタ31番(1821年作曲)を、アナリーゼし始めて、

シューベルトの「冬の旅」=前半12曲(1827年)、

「即興曲集(OP.90)」(1827年)の2作品と、

驚くべき、共通点があることが、分かりました。


★ピアノソナタ31番と、シューベルトの2作品が、

モティーフを共有しているばかりでなく、構成原理も、

極めて、類似しています。

シューベルトは、ベートーヴェンを大変に尊敬していたのは、

有名な事実であり、ピアノソナタ31番を、

徹底的に勉強していたことは、想像に難くありません。


★類似というよりも、シューベルトの創造の源泉が、

ベートーヴェン・ピアノソナタ31番の中にも、存在していた、

と、言えるのです。


★ピアノソナタ31番は、5小節目から11小節目まで、

左手は16分音符で、規則的に和音を刻み、

12小節から、突然、32音符の軽やかな分散和音が、

19小節まで、続きます。

この16分音符から、32分音符の突然の変化を、

皆さまは、既に、体験されているはずです。


★そうです!、バッハの「シンフォニア15番」の、

冒頭2小節の主題は、規則的に16分音符で刻まれ、

3小節目に、突如、32分音符の分散和音が、

coda (結句)として、現れます。

この同音連続を含む、規則的な16分音符と、

軽やかな32分音符の関係が、そのまま、ベートーヴェンの

ピアノソナタ31番に、見られるのです。


★カワイ表参道「インヴェンション講座」で、お話しましたように、

バッハは、スペインで活躍したドメニコ・スカルラッティ

(1685年ナポリ生まれ~1757年マドリッド没)を、

はじめとするスペインの音楽にも、通暁しており、

「シンフォニア15番」には、その影響が色濃く、うかがえます。


★シューベルトの2作品の源泉は、ベートーヴェンにあり、さらに、

そのベートーヴェンの源泉が、バッハにある、

さらに、そのバッハには、スペイン音楽の要素すら流れ込んでおり、

シューベルトの豊穣な世界は、そのようなバッハの多様な音楽が、

結果として間接的に、入り込んでいるということが、

これらの作品から、分かってきます。


★バッハの「シンフォニア15番」の、3小節目や、

ベートーヴェン31番ソナタの、12小節目からの、

32分音符の、軽やかな分散和音は、

シューベルトの「即興曲集(OP.90)」4番の、

冒頭4小節に現れ、繰り返し奏される16分音符の、

分散和音の発想へと、引き継がれた、と私は考えます。


★文献的裏付けがないとしても、これは、私の作曲家としての、

「直感」で、おそらく、間違ってはいない、と思います。

講座では、バッハの「シンフォニア15番」3小節目の、分散和音について、

私が考えました練習方法を、お話ししましたが、

ベートーヴェンやシューベルトの、分散和音を練習するときでも、

それを、応用することができます。

あえて他の練習曲を使って、分散和音の弾き方を、

訓練する必要がない、とも言えます。

シンフォニア15番と、同じ練習方法で、

その分散和音部分を、一つの練習曲として、学べばいいのです。


★バッハを学ぶことにより、ベートーヴェンやシューベルトの世界に、

より容易に、近づくことができます。

以上のことは、“生きた音楽史”を学ぶ、ということでもあります。


★岩波文庫「ベートーヴェンの手紙・下」の解説によりますと、

1818年、ベートーヴェンは、イタリアのジョバンニ・パレストリーナ

(1525~1594)や、ジョゼフォ・ツァルリーノ(1517~1590)などを、

深く研究し、その前年には、病床で、

バッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻」の変ロ短調フーガや、

「フーガの技法」の中の1曲を、書き写して勉強した、そうです。


★記録として残っていることが、上記文庫本に書かれているのでしょう。

実際は、早朝から、バッハの楽譜などを、手で書き写し、

自分の血肉としていったのでしょう。

当然、「インヴェンション」は、完全に、

手の内に、入っていたことでしょう。

それを、青年ではない、その時点で既に大家であった48歳の、

ベートーヴェンが、そういう勉強をしていたのです。


                          (千両の実)
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■第1回「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」は1月26日開催です■

2009-12-10 17:48:30 | ■私のアナリーゼ講座■
■第1回「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」は1月26日開催です■
                     09.12.10 中村洋子


★近く、ドイツで出版予定の、私の作品

「無伴奏チェロ組曲第1番」の校訂を、

いま、ヴォルフガング・ベッチャー先生が、

ベルリンで、なさって下さっています。


★先生が出版社にお送りになった、校訂箇所のリストを、

拝見しましたが、行き届いた配慮で、感動するくらい、

細かく、点検されています。

例えば、前打音の符頭について、実際にステージで演奏する場合、

どのように見えるか、まで考慮し、

大きさについて、細かく的確に指示をされています。

ストリンジェンドなどの、指示記号の一部を、

「演奏家の判断に任せるよう、省略してください」等々。



★Urtext(原典版)でありながら、最高のチェリストに、

校訂していただけることは、大変光栄です。

正確な楽譜であると同時に、演奏生理にかなった楽譜となります。


★1月開催の「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」を前に、

≪エドウィン・フィッシャー Edwin Fischer≫が、演奏した、

平均律のCD(Naxos・Historical 8.110651-52)を聴きました。

「第1巻」は、1933年~34年にかけての録音です。

一般的に、CDの帯のキャッチフレーズは、

的外れなことも、多いのですが、このCDには、

「エドウィン・フィッシャー(1886~1960)は、

この≪旧約聖書≫の史上初の全曲録音を、30年代に敢行、

≪カザルスの無伴奏チェロ組曲≫、

≪シュヴァイツァーのオルガン曲≫と並び、

バッハ演奏史上の、偉業と讃えられています」と、記しています。

私も、全く同感です。


★フィッシャーの、「第1巻1番の前奏曲」を、聴きますと、

≪平均律≫という、美しい大宇宙の「扉」を、初めて開いた時の、

素朴な感動と驚きに、満ち満ちています。

暗い陋屋に差し込んでくる、希望と喜びに満ちた、

美しい光、のようです。

その光に接した感動を、湧き上がるような喜びで、

素直に、表現しています。

心のときめきを、そのまま表すように、演奏も、少し速めです。

感動している若者の心臓、その鼓動にも、似ています。

二次世界大戦に、突入する前の困難な時代に、演奏されました。


★21世紀になってからも、平均律はよく録音されていますが、

最近は、その冷え冷えとした、拒絶するような演奏に、

がっかりすることが、多いのです。

私の講座では、バッハ、そして、このフィッシャーの世界に、

どうやって、近づいていくか、をお話したいと、思います。


★また、フィッシャーの「1番のフーガ」の、

10小節目のバスの主題と、アルトの応答主題による「カノン」の、

溜息のような、“声を潜めた”美しい演奏法、さらに、

12小節目テノールの応答主題の冒頭、イ短調音階の上行形に対応する、

アルト半音階進行の下行形の、見事な対比。

この3小節だけでも、使い古された形容ですが「比類ない演奏」。


★また、この平均律1番の「前奏曲とフーガ」は、

「インヴェンションとシンフォニア1番」と、

緊密な関係に、あります。

インヴェンションと、平均律クラヴィーア曲集を、

別の曲集と、峻別しないほうがよいと、思います。

それらについても、詳しく講座でお話します。


★この厳しい時代に、最も必要とされ、求められる音楽は、

バッハの音楽であると、思います。

フィッシャーは、その優れた弟子たちにより、現在でも、

彼の理念は、継承されていますが、グレン・グールドも、

フィッシャーを徹底的に勉強しており、彼無くしては、

グールドは在りえなかったと、思います。


★グールドを“異端のピアニスト”と、とらえる向きも、

かつてはあったようですが、私の考えでは、

研究熱心な、極めて正統的なピアニストだった、といえましょう。

彼の古典研究や、楽譜の読み込みの深さを、

理解できないがために、異端の演奏と評論するのは、

勉強不足でしょう。


★名ピアニストのCDや演奏を、漫然と何度も聴いても、

バッハの音楽への到達には、程遠いのです。

とにかく、自分で楽譜を読み、ピアノで弾いてみる、

あまり弾けなくても、できる範囲で、弾いてみる、

そういう営為こそが、バッハへの王道です。


★バッハは、音楽を愛している子供や、初心者、愛好家に対し、

インヴェンションの序文で、書いていますように、

大きな手を広げて、歓迎しています。

たとえ、演奏技術がおぼつかなくても、

自分で弾くことにより、バッハの音楽を楽しんで欲しいと、

心から、願っていたことでしょう。

しかし、文献漁りだけで、和声や対位法はおろか、楽器演奏も、

おぼつかない音楽学者に対しては、厳しい拒絶をすることでしょう。

       
                            (桜の落葉)
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■≪インヴェンション・アナリーゼ講座≫全15回が終了しました■

2009-12-04 22:53:40 | ■私のアナリーゼ講座■
■≪インヴェンション・アナリーゼ講座≫全15回が終了しました■
                  09.12.4   中村洋子


★昨年6月から、カワイ表参道で続けていました、

バッハの≪インヴェンション・アナリーゼ講座≫が、

本日、終了しました。

インヴェンションとシンフォニア全30曲を、1年半かけて、

皆さまと、じっくり学びました。


★本日の朝も、電車の不通という困った事態が起きました。

にもかかわらず、汗をふきふき、駆けつけてくださった方や、

“最終回ですから、なんとしてでも聴きたい”という熱心な方、

“当ブログの愛読者です”と、お声を掛けてくださった方など、

いつもにもまして、たくさんの方々が、ご出席されました。

このような皆さまに支えられて、全15回を完走できました。

お礼申し上げますとともに、大変、感動しております。


★きょうは、インヴェンションとシンフォニアの15番を、

詳しく見ると同時に、インヴェンション全曲の、

曲の関連性についても、お話しました。

インヴェンション1番を、全曲の「前奏曲」と見るならば、

シンフォニア15番は、「コーダ(結尾部)」と位置づけられます。

インヴェンション15番の、テーマを基に、

シンフォニア15番のテーマが、紡ぎだされています。

インヴェンション15番とシンフォニア15番は、

一つの楽曲と、みなすことも可能です。


★インヴェンション15番は、「2声」ですが、

3回の主題の提示があり、あたかも、

「3声のフーガ」の、第一提示部のようです。

シンフォニア15番は、「3声」ですが、曲の開始の6小節間は、

2声部しか現れず、休止している3声部目の全休符を、

バッハは、あえて、手稿譜に記譜していません。

2回提示されるテーマの関係は、同度(正確には1オクターブ)で、

フーガの主題と応答の関係である「5度」では、ありません。

まるで、インヴェンション1番のようです。


★最後の15番で、「2声のインヴェンション」を、

「3声楽曲」のように、

「3声のシンフォニア」を、「2声楽曲」のように、

とても、ユーモアに満ちた作曲をしたバッハ。

その作曲技法の凄さに、感服しました。


★お弟子さんや、息子たちのびっくりした顔を、

にこやかに、満足気に見守るバッハの横顔が、

目に浮かぶようで、

彼の暖かい家庭の団欒が、彷彿とされます。


★また、本日は、バッハと、

ドメニコ・スカルラッティとの関係について、

少し、お話いたしました。

バッハ、ヘンデル、スカルラッティの3人とも、

同じ、「1685年生まれ」です。

伝えられるところによりますと、20代の初めの、1708年、

ヘンデルとスカルラッティは、コンテストに参加し、

ヘンデルがオルガンで、スカルラッティは、

チェンバロで、優勝したそうです。

二人は、お互いを、認め合った間柄でした。


★ヘンデルを、尊敬していたバッハですから、

スカルラッティについても、若い頃から、その作品を注視し、

研究していたことは、想像に難くありません。


★本日は、さらに、バッハが息子のフリーデマンの教育用に、

「平均律クラヴィーア曲集」1巻の、前半12の「前奏曲」を、

難しい箇所を省略して、インヴェンションやシンフォニアと、

同時に並行して、教えていた、ということもお話しました。


★このバッハの教育方法を、是非、皆さまがバッハに親しむ際や、

生徒さんに教える際に、お使いいただきたいと、思います。

ただし、楽譜は、編曲されたり、簡易版ではなく、

必ず、原典版(Urtext)を、ご使用ください。


★この方法は、作曲者本人であるバッハが、

自ら、採用していたのですから、

自信を持って、皆さまにお薦めできます。


★来年から、始まります「平均律クラヴィーア曲集」講座では、

いつも、≪インヴェンションとの関係≫を、念頭に置き、

だれもが親しめる「平均律クラヴィーア曲集」を、

目指して、講座を進めたいと思います。


                          (野草の花)
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■「インヴェンション15番」バッハ手稿譜のスラーの位置について■

2009-12-02 23:38:09 | ■私のアナリーゼ講座■
■「インヴェンション15番」バッハ手稿譜のスラーの位置について■
                 09.12.2  中村洋子


★バッハ手稿譜としては、珍しく、「インヴェンション15番」には、

「スラー」が、数ヶ所、付されています。

同様に、バッハの手で記号が書かれているのは、

3番、9番、12番などです。

そのスラーが付されている箇所と、スラーの掛け方が、

版により、かなり相違があります。


★11月29日のブログ≪「シンフォニア15番」の最も、

信頼できる原典版について≫で、取り上げました、

4種類の原典版について、まず、見てみることにします。

①ヘンレ版 Henle
②新バッハ全集のベーレンライター版 Baerenreiter
③ヴィーン原典版 Wiener Urtext Edition Schott/Universal
④ヴィーン原典版 Wiener Urtext Edition 音楽之友社


★バッハが、手稿譜にスラーを付しましたのは、

16、17の両小節のみです。

ヘンレ版は、1978年の校訂版ですので、資料が古く、

1、2小節を除き、ほぼ全小節にスラーが付されています。

このため、この15番に関しては、ヘンレ版を採用しないほうが、

いいと、思います。


★残り3つの版は、16、17小節にのみ、スラーが付されています。

しかし、バッハの手稿譜には、スラーが始まる音符と、

終わる音符の位置が、曖昧に見えるところもあるため、

3種類とも、スラーの付されている位置が、異なっています。


★一例を挙げますと、17小節目1拍目のスラーについて、

バッハは、16分音符が4つ≪シ、ソ、ラ、シ≫あるうち、

最初の三つの音符≪シ、ソ、ラ≫に、スラーを付しています。

しかし、ベーレンライター版と、音楽之友社のヴィーン原典版では、

四つの音符≪シ、ソ、ラ、シ≫全部に、スラーが付されています。


★Schott/Universalのヴィーン原典版は、バッハの手稿譜と同じ、

最初の三つの音符≪シ、ソ、ラ≫に、スラーを付しています。

しかし、この版も、その1小節前の「16小節1拍目」の、

スラーについては、バッハが≪ラ、ファ、ソ、ラ≫のうち、

後ろ三つの≪ファ、ソ、ラ≫に、スラーを付しているの対し、

四つの音≪ラ、ファ、ソ、ラ≫全部に、スラーを付しています。

このSchott/Universalのヴィーン原典版のみならず、

他の3つの原典版も、すべて同じ様に、

四つの音に、スラーを付しています。


★残念ながら、最も、権威と定評があるこの4種類も、

バッハの意図を、正確に反映しているとは、いえません。


★それでは、バッハの意図は、どの校訂者にも、

無視されているのでしょうか。

実は、原典版ではないのですが、ハンス・ビショッフ

Hans Bischoff の≪批判版≫ Kritische Ausgabe が、

完全とはいえませんが、この箇所については、

バッハの意図に沿うよう、努力しています。

この版は、Kalmus 社や、全音からのライセンス出版など、

数種類が、市販されています。


★実用版の「園田高弘」版では、

この16小節目1拍目のこのスラーを、なんと、15小節目3拍目の、

「ド♯」から始め、4拍目を経て、16小節目1拍目まで、

一気につないでしまい、さらに、その後も、2拍単位で、

長いスラーを、連続して付す、という“暴挙”が、

見られるため、お薦めできません。


★細かいことに拘泥しているように、思われるかもしれませんが、

スラーをどのように付して弾くか、ということは、

「モティーフを、どのように展開しているか」、

ということに、直結する、いわば“生命線”ですので、

軽視するわけには、いきません。


★4日のアナリーゼ講座では、各版を比較しつつ、

この2小節を、どのように解釈するか、

お話したいと、思います。


★バッハは、フランス音楽やイタリア音楽にも、精通していました。

それは、「フランス風序曲」や「イタリア協奏曲」という、

題名から明らかに分かる曲以外にも、広く深く、バッハの他の曲に、

浸透していました。

しかし、それだけではなく、「インヴェンション&シンフォニア15番」には、

スペインの影響すらあることが、読み取れます。

この点についても、講座で触れたいと思います。


★もう、師走に入りました。

今夜は、満月の一日前です。

月が冴え冴えと、輝いています。

私の願いは、インヴェンションの隠された「大きな構造」を、

皆さまとともに学び、決して学習用のためだけではない、

バッハの、この傑作の美しさを、皆さまと感じとることです。


★日本では、クラシック音楽が、一見、

大変に栄えているように、見えます。

でも、本当にそれが根付いていると、いえるのでしょうか。

バッハを源流とする、クラシック音楽は、

音楽がどのように構成され、展開されていくか、

曲を聴きながら理解し、その展開を、楽しむものです。


★それができませんと、ただ知っているメロディーだけを、

探すことになり、知らない曲は、敬遠してしまいます。

バッハ愛好家が増えることは、真のクラシック音楽愛好家が、

増えることに、つながります。

この全15回の講座で、私の願いが、

すこしでも、達成できたのであれば、この上なく幸せです。


                           (野草の花)
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