音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■銀座からまた、名店が消えました、 銀座日航ホテルが閉館■

2014-03-31 00:37:41 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■

■銀座からまた、名店が消えました、 銀座日航ホテルが閉館■
              2014.3.31    中村洋子

 

 

★銀座の名店がまた、姿を消しました。

銀座 8丁目の外堀通りに面した 「 銀座日航ホテル 」 が、

半世紀以上の歴史を 3月 31日で、閉じました。

数寄屋橋交差点から、歩いて数分、

建物は威容を誇らず、さりげなく落ち着いたたたずまい。

上品で丁寧、気配りのきいた質の高いサービス。

「 粋 」 でした。

しかし、決して格式張らず、銀座という街並に、静かに溶け込み、

なくてはならない存在でした。


★東海道新幹線が開通した1964年より 5年前の、1959年の開業。

昭和 34年です。

その年の 4月 10日 は、 皇太子殿下と美智子様の結婚式。

4月 20日には、東海道新幹線建設の最初の槌音が、鳴り響きました。

誰もが日本の明るい未来を信じ、羽ばたき始めた時代でした。

それから半世紀、 「 銀座日航ホテル 」 は、銀座の栄枯盛衰を、

ずっと黙って、見守ってきました。


★今回、建物の貸借契約が、終了したため、

営業を終えることに、なったそうです。

いまの建物は、取り壊されてしまいます。

日本の歴史を眺め続けた建物が、何を見てきたか・・・、

語って欲しいような気持ちです。








★ホテルのホームページに、

ホテルの皆さまの、最後の声が流れています。

フロントの皆さん、厨房のコックさん、客室係の女性たち、事務係、

ボイラー担当者など全員が、一言お礼を申されています。

長年、黙々と働き続けてきた、まだ現役の大きなボイラ-も、登場します。

縁の下の力持ちの 「 ボイラー 」君 にも感謝し、いたわる心、

全員が、和気あいあいと仲良く働く、その暖かさ、

それが、 「 銀座日航ホテル 」 の、真骨頂だったのです。

http://www.ginza-nikko-hotel.com/information/movie.html


★お部屋からは、ゆっくりとしたスピードで走る新幹線の姿。

その高架の先には、夜になりますと、

日比谷図書館の丸い大時計が、ぼんぼりのように現れます。

その奥には、ライトアップされた国会議事堂も、

浮かび上がります。

 

★作家の故向田邦子さんも、

このホテルで、執筆されていた
そうです。

創作に疲れた時、かつての優雅で粋な銀座の街が、

彼女を暖かく、包み込んだことでしょう。


ご好意で、私の作品 「 無伴奏チェロ組曲 4、5、6番 」 の音楽を、

ロビーで、流していただいておりました。

海外のお客様も多く、音楽は違和感なく、ホテルの雰囲気に、

馴染んでおりました。

惜別の念は、尽きません。

 


 

★もう一軒、銀座 6丁目の中央通り、

松坂屋の向かい側、 5階建て美しいビルの、

「 銀座大増 」 さんも、閉店されました。

創業九十余年、 銀座で七十余年、

元々は、お弁当仕出しのお店でしたが、

銀座では、色彩感と季節感に溢れる、

会席料理のお店として、有名でした。


★入口のウインドーに飾られた、お膳料理の洗練さは際立っており、

道行く人々が、うっとりとした表情でしばし眺め、そして、

満足そうな気持で、去っていかれます。

眺めることで、幸せな気持ちになります。

それがまさに、銀ブラなのです。


★私は、数回しか賞味したことがございませんでしたが、

女将のさりげなく、しかし、水際立った心配り、気配りに、

いつも、感嘆しておりました。

本当に、居心地がいいのです。


★これが、名店の条件なのです。

「 銀座大増 」 さんは、お弁当などは、継続されているようですので、

少しは、ほっといたしました。


 

 


★一見、丁寧そうですが、実はマニュアル化されただけの、

心のこもっていない、形だけの応対をするお店、

海外の観光客向けに、眉をひそめたくなるような、

原色の看板を掲げたお店が、本当に増えてきました。


★高級和服のお店として、双璧を成していました、

「 きしや 」 さんと、 「 ちた和 」 さんが倒産されてから、

かれこれ、十年は経つのでしょうか。

淡くやさしい色合、細かい刺繍の 「 きしや好み 」 の和服。

ネオンが瞬き始めるころ、そんな溜息の出るような、

高級な、趣味のいい和服を召されたホステスさんたちが、

優雅に、歩かれていました。


★私にとって、それを眺めるのも、実は、銀ブラの楽しみでした。

しかし、それも、いまや幻となりました。

最近のホステスさんは、ほとんどが、けばけばしい貸衣装で、

和服の歩き方すら、ご存じないような方が多いようです。

それでも、まだまだ名店は頑張っていらっしゃいます。

陰ながら、応援していきたいと、思います。





 

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます

 

 
 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■Fischerが若き天才ジャグラーの芸を見て感動、 Mozartをさらに深く探求?■

2014-03-26 19:54:03 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Fischerが若き天才ジャグラーの芸を見て感動、 Mozartをさらに深く探求?■
                                    2014.3.26    中村洋子






★前回ブログ、Fischer ≪毎日、Bach を勉強すれば至高の宝に到達 ≫

の続きです。


★その前に、ドイツの公共放送である 「 Z D F 」

( Zweites Deutsches Fernsehen 第 2ドイツテレビ )が、

放送いたしました、日本の 「 福島 第 1原発 」 についての番組を、

ご紹介いたします。

http://www.youtube.com/watch?v=tQ0_J3jSWDU&feature=youtu.be

http://www.youtube.com/watch?v=8MZKxWLruZQ

http://www.youtube.com/watch?v=8wCehe0iaKc

かなり風刺が効いていますが、客観的に見た現状を、

よく伝えていると、思います。

海外が日本をこのように見ている、という観点からも、

是非、ご覧下さい。

 

★私は、アナリーゼ講座でいつも、「 音楽は、曲芸ではありません 」

と、
お話しております。

超絶技巧を求められる難曲を、何分何秒で弾いた・・・という

可笑しな宣伝を、
このブログでも批判いたしましたが、

そのような曲芸を見たいのでしたら、

娯楽に徹した曲芸、サーカスを見るべきであると、思います。


★かなり昔ですが、上海を訪れた際、 「上海雑技団 」 という、

一種のサーカスを、見物しました。

実に、楽しいショーの連続です。

例えば、大きな火鉢を天井近くまで放り投げ、

それを、大男の方が、なんと額で、音も無く受け止め、

静止させてしまいます。

神技です、修練の賜物でしょう。

心から、楽しめました。


★音楽で、そのような神技を発揮したとしましても、

その演奏される音楽の質が、問題となります。

速度など特定の技術を誇示するだけの演奏が、質が高いとは、

到底思えません。

楽譜から逸脱しない程度に演奏するのが、精一杯でしょう。

そこは、音楽を聴き、楽しむ場ではないと言えます。

上海雑技団のほうが、満足度は高いと思います。






★「 曲芸 」 について、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、

著書 「 Musikalische Betrachtungen ( 音楽を深く考える ) 」
              Insel  Verlag    インゼル出版  1950年刊で、

含蓄のある内容を、綴っています。


★ 「 Musikalische Betrachtungen 」 は、

・Ansprache an junge Musiker (1937)
・Kunst und Leben  (1932)
・Üer musikalische Interpretation (1929)
・Wolfgang Amadeus Mozart  (1929)
・Frédéric Chopin (1943)
・Robert Schumann (1943)
・Beethoven Klavierwerke (1921)
          の 7章からなっています。

第 2章の Kunst und Leben  (1932) ( Art & Life ) の中に、

深く、頷ける文章がありました。


★Eines Abends ging ich ins Varieté ; verachtet mir die Artisten nichit ! Was sie an Beherrschung,Ausdauer,Üben,Konzentration,Einsatz,Mut leisten,kann nichit verglichen werden mit unserem stumpfen Üben von Etüden. Da kann man wirklich sagen:<>,  aber bei uns: der falsche Ton wird überhört. Also an jenem Abend trat der Jongleur Rastelli auf.

In blauer Seide, knabenhaft schlank und biegsam. Und er behandelte seine Kugeln wie eine Koloratursängerin die hohen Töne, ließ sie auf und nieder gleiten, sich begegnen,

kreuzen und spielte ein achtstimmiges Jubilate mit einer Grazie und Seligkeit, als habe er alle irdische Schwerkraft für immer überwunden: diese Überwindung der Schwere war der Gewinn jener Stunde.Rastelli, ein Frühvollendeter,starb jung wie Mozart, er war zu leicht für diese Welt. _Wenn ein zierliches Vöglein aus dem Nest gefallen war und ich sein zitternd schlagendes Herzchen in der Hand fühlte, so rasch,so leicht_so klangen nachher Cherubinis Arie und die Rondos Mozartscher Konzerte anders als vorher.


★ある夕べ、私は Show Theatre : Varieté (注1) に行きました。
私は、そこで活躍する芸人の皆さんを蔑むようなことは、いたしません! 
彼らの持続力、練習、集中力、全力投入、胆力の凄さは、私たち音楽家の生半可なエチュードの練習とは、とうてい比すことができない凄さです。彼らは、“ たった一つのミスで、奈落に墜ちてしまうのです ”。しかし、私たちは、音を一つ外しても、大目に見られます。

( 伝説の )ジャグラー名人・ラステッリ(注2) は毎晩、ブルーの絹衣装を身に纏い、少年のような細身のしなやかな体形で、ボールを蹴っていたのです。
 そしてラステッリは、コロラトゥーラソプラノの歌手が高音を転がすように、ボールを上へ下へと滑らせ、ボール同士が出会ったり、交差させたりして、優雅さや、至福の喜びを与えつつ、八声部の 「 ユビラーテ 」 を演奏していたのです。
 その時、彼は地上のすべての重力を克服していました。この彼の重力の克服を見て、私は、たくさん得るものがありました。

 ラステッリ、即ち早熟の天才は、 Mozartのように、若くして世を去りました。
彼は、この世にあっては、軽すぎたのです。愛くるしい一羽の小鳥は、巣から落ちました。小さな心臓を射られ、手の中でうち震えている小鳥のように感じました。その小鳥は、そんなにも生き急ぎ、あまりに軽かったのです。
 私にはその後、ケルビーニのアリアやモーツァルトの協奏曲のロンドが、以前とは、異なって聴こえてきました。

(注1)http://www.wintergarten-berlin.de/
(注2)http://www.youtube.com/watch?v=mowNKg1vhl8







★Edwin Fischer は、ピアニストなど一般的に芸術家と呼ばれる人たちより、

下に見られる、芸人と呼ばれる人たちから、

その芸を通して、多くを学び取っています。

≪ “ たった一つのミスで、奈落に墜ちてしまうのです ” ≫、

綱渡りの芸人が、足を踏み外して転落しましたら、そこで終わりです。

真剣勝負なのです。


ピアニストは、いつも真剣勝負として、演奏しているか、

という問い掛けです。

それは、自分に対してだけでなく、その他大勢のピアニストへの、

問い掛けでも、あったでしょう。


★≪ 彼は地上のすべての重力を克服していました。
この彼の重力の克服から、私は、大いに得るものがありました。
そんなにも生き急ぎ、あまりに軽かったのです。
私にはその後、ケルビーニのアリアやモーツァルトのロンドが、
以前より、異なって聴こえてきました ≫

34歳で夭折した、 Rastelli ラステッリという

天才的な名人の芸を見て、

Fischer は、深い考察を巡らしています。


すべての重力を克服した、つまり、

重力が無い世界での出来事と、思わせるような芸の極み。

Fischer をかくも感動させたそれは、最高の芸術であると、言えるでしょう。

そのような高みに、若くして到達した Rastelli ラステッリは、

命を擦り減らしました。

Fischerの中で、 Rastelli ラステッリの像が、

同様に夭折した Mozartに重なります。


★命を擦り減らすほど、燃焼し尽した芸術家、

そして、その作品は、すべてが究極の音楽である。

ここから、Fischerは、 Mozart を再認識し、そして、

Mozart への、より深い探求、分析へと分け入り、

「 Mozart  Sonate per Pianforte  Revisione di Edwin Fischer

ピアノソナタ 全曲校訂版 」 へと、

つながっていくのかもしれません。









★この Fischer による校訂版  Edizioni Curci - Milano

ミラノのクルツィ出版は、 Mozart Edition の最高峰です。

この版と、Bartók Béla バルトーク (1881~1945) の

Mozart 校訂版を、併せますと、
 
Mozart の、最善の勉強法となります。


★この著書  「 Musikalische Betrachtungen 」 も、

前回ご紹介しました新潮文庫に収録されていますが、

どうも、音楽そのものをご存じない方の訳のようですので、

日本文を読んだだけでは、Fischerの言わんとすることが、

あまり、伝わらないかもしれません。

やはり、自分で辞書を引き引き、読むしかありません。


★この本は、約100年前の本ですが、書かれている内容は、

今日現在のことのように、私には思えます。

以前、このブログでも、瀬戸内寂聴さんの言葉を、ご紹介しました。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20140107

≪ 100年後なんて、すぐ来ますよ。自分が生きて、もうすぐ100年
ですからね。振り返ってみたら、「 ああ、短いな 」と、思います ≫

≪ 生々流転、仏教では全てが変わることが根本思想です。
全ては変わるんですよ。だから、いまの状態は全て変わると覚悟
してください。変わらないのは、本当に立派な本ですね。
それから、いい音楽、いい絵画、いいお芝居、
そういうものは変わらないで、そのまま伝えていかなくてはなりません。
それが文化です≫








★私も、本当にそう思います。

人間社会の本質は、それほど、変わらないものである、

とも言えるかもしれません。




 

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます


 






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■Bachの誕生日、Fischer「毎日、Bach を勉強すれば至高の宝に到達」■

2014-03-21 21:35:52 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Bachの誕生日、Fischer「毎日、Bach を勉強すれば至高の宝に到達」■
             2014.3.21   中村洋子

 


★きょうは 3月 21日、

Johann Sebastian Bach  バッハ  (1685~1750) の、

お誕生日です。

1685年生まれですから、何歳でしょうか?

バッハの不滅の音楽は、ますます生命力を、輝かせています。

お誕生日を祝して、

Edwin Fischer の著作 「 Johann Sebastian Bach 」 を、

少しですが、丁寧に読みました。










★Edwin Fischer : Johann Sebastian Bach
                          Eine Studie
        Parnass-Büchrei Nr.76  パルナッスス文庫 No.76
 Alfred Scherz Verlag Bern  アルフレート シェルツ出版  ベルン

全体は、
    1) Praeludium
       2)   Tempo Ordinario
       3)   Interpretation
       4)   Lyrisches Intermezzo
       5)   Postludium   
                                   の5章から成っています。


★日本でも、 「 音楽を愛する友へ 」  (新潮文庫) という題で、

翻訳が出版されていましたが、

「 Tempo Ordinario 」 の訳が、「 四分の四拍子」 となっていたり、

首を傾げることが、多過ぎる翻訳です。


 
★その第4章 Lyrisches Intermezzo の最後のところを、

少し抜書きして、訳してみました。

So nahen wir uns auch zeitlosen Werken und je größer sie sind,
um so mehr ist ihr Wesen einer Sphinx vergleichbar.
Ein solches Werk sagt jedesmal etwas anders aus: 
es faßt heute unseren Lebenssturm, und  läßt sich  morgen logisch  auslegen;
verlangst Du Farben von ihm, es hat sie,

willst Du reine, architektonische Formen, Du findest sie und staunend
betrachtest Du das geheimnisvolle Rätsel dieser Werke, in denen so
konzentriert ein Vielfaches ist, und die so viel Gesichter haben. Da wird
man stil und fühlt, daßman sein kleines Leben nicht am Ewigen messen
kann, daßwir höchstens durch demustsvolle Arbeit und
unermüdlicheBeschäftigungmit der Ursprache des Meisters hoffen
dürfen, zu jenem ihm eigenen inneren Frieden zu gelangen, der zu den
höchstenGüterndieses Erdendaseins gehört.










★私たちは、流行に左右されない Bach の作品に、

近づくことができます。

(Bach の)作品が偉大であればあるほど、

その本質は、Sphinx スフィンクス に似てきます。

Bach の作品は、表現するたびに、前とは異なった容貌を、

私たちに、見せてくれるのです。


きょうは、人生の嵐 ( のような感情 ) を、表すかと思えば、

あしたは、論理的な側面を見せてくれます。

あなたがその作品に、色彩を要求すれば、それはそこにあります。

あなたが純粋に、建築のような形式を望むならば、作品のなかに、

それを見つけるでしょう。


幾重にも何重にも凝縮された、たくさんの容貌、そして、

神秘的な様々な謎に、満ちています。

あなたは、それに驚き、凝視することでしょう。

人の一生は短く、永遠という物差しでは、測ることができないほど、

短いのです。


Bachの言語 ( Ursprache ) で、謙虚に謙虚に、

倦まず堪えまず、仕事 ( 演奏、勉強 ) をすれば、

彼自身の内なる平和、即ち、

世界がもつ至高の宝物に、到達することができるでしょう。

 

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960) は、

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) と並ぶ、

Bach の、最高の表現者でしたが、

その彼が、 “ Bach は毎日毎日、違う容貌を見せる。

スフィンクスのように謎である ” と言っていますが、

この考えは、Casalsと同じです










★≪ 毎日毎日、 Bach の  Ursprache =源の言語 を学びなさい ≫

というのは、偏見や独善、孫引き、コピペに満ちた、

エディターたちによる、校訂版楽譜に依らず、

Bach の 自筆譜から学びなさい、と言っているように思います。


★感情、論理、形式、色彩、

すべてが Bach の作品に凝縮されています。

色彩とは、 harmony、

論理は、 countepoint 、

形式は、motif の有機的発展を基礎とする大規模な構築性、

感情とは、人類のもっている美しい、これ以上ない心の表現、

という風に、置き換えることも、

あながち、間違いではないでしょう。


★偉大な Fischer や Casals が、毎日毎日、

Bach の作品を勉強したのですから、

私たちも、怠けている時間はなさそうです。

 



 

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■Chopin Prelude Op.28-2番は、本当に調号が示す a-Moll か?■

2014-03-19 23:59:01 | ■私のアナリーゼ講座■

■Chopin Prelude Op.28 - 2番は、本当に調号が示す a-Moll か?■
                            2014.3.19  中村洋子







★3月も半ばを過ぎ、春分の日まであとわずか。

土手の土筆も、頭をもたげ始めました。

生暖かい早春の気が、大地に満ちています。


★3月11日開催の 「 平均律  第 2巻・ 13番 Fis-Dur 」

アナリーゼ講座が、終了後、

参加者の方が、ピアノのところまでお出でになり、

「 今日のお話をうかがって分かりましたのは、

この Prelude & Fugaから、Beethoven の ピアノソナタ 

24番 Op.78 ≪
Therese  テレーゼ ≫ が、生まれたことですね 」 と、

おっしゃいました。

 

★今回の講座で、この ≪ Therese  ≫ のことは、

頭に浮かびませんでしたが、

幸い、この第 1楽章は暗譜していましたので、その場で弾きましたところ、

Motif 、発想、展開の方法がすべて、 Bach 13番 Fis-Dur の、

Prelude & Fuga と同じでしたので、

近くにお集まりになっていた皆さまと、一緒に、大感動いたしました。

調性も同じ、Fis-Dur です。

 




★これは、 Beethoven が Bach を 「 模倣した 」のではなく、

Beethoven  ベートーヴェン(1770~ 1827) が、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) を、

自分の肉体として、 Bach の宇宙の住人になったからこそ、

可能だったのです。


★私に声を掛けられた方が、そのような発想をもたれたのは、

私の講座の中で、次のようにお話したからでしょう。

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) が、

≪ 鳥の歌 ≫ について、 “ この曲は、 Bach や Beethoven などすべて、

偉大な音楽家が愛したであろう音楽です ” と、語りましたが、

その Thema テーマ が、

Robert Schumann  ロベルト・シューマン (1810~1856) の

Concerto for Violoncello and Orchestra や、

Brahms  Sonata for Violoncello  No.1 Op.38  e-Moll  と、

motif、rhythm、調性 ( 同じでなくても、近親調の関係にある  ) など、

共通点が多く、それが名曲の条件なのです 」 と、具体的に申しました。


★それをお聴きになって、 Bach 13番と、 Beethoven Therese との関係が、

ピンと一致したのでしょう。

私も、大変に嬉しく思いました。


★アナリーゼ講座とは別に、月1回、小人数でディスカッションをしながら、

じっくりと、アナリーゼをする教室もいたしておりますが、

いまは、壮大な計画を立て、ゆっくりゆっくりと、

Frederic  Chopin ショパン(1810~1849)の ≪  Prelude Op.28 ≫ を、

学んでおります。


★この曲ばかりでなく、様々な曲を学びながら、

時々、Chopinの Prelude に戻るという方法です。

現在、1番と 4番のみ、なんとか終えて、

さあ 「 2番 」 というところです。








★この謎に満ちた 「 2番 」 を、 Chopin の自筆譜と、

Préludes  Revision  par  Claude Debussy ドビュッシー校訂版を、

手掛かりに、
Alfred  Cortot アルフレッド・コルトー(1877 - 1962)の、

録音を聴きながら、ディスカッションしましたら、皆さまから、

珠玉の意見や、発見が続出し、

それは刺激に満ちた、楽しいレッスンとなりました。


★普通に考えますと、

Chopin の Études Op.10 と、Études Op.25 こそ、

Prélude の名称にふさわしいように思われます。

しかし何故、この謎に満ちた 24曲の小品集が、≪ Préludes ≫ なのか?

その答えは、 Bach の Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集、

Chopin の Autograph 自筆譜を、詳細に研究し、さらに、

Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918) 校訂版が、

示唆するものを読み解き、やっと、分かってきました。


★ Debussy が、 Chopin の曲集と同じ名前の、

≪  Études エチュード ≫、≪ Préludes ≫ を、作曲したのは、

決して、偶然ではありません。


★Préludes Revision par Claude Debussy は、 Bach における、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)版、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)版、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 版と同様、

そのすべてを、 Fingering で語っています。


★その読みの深さに、レッスンのとき、全員で感嘆の溜息をつきました。

そして、 Chopin の 24の  ≪  Préludes ≫ は、

 Bach が成し遂げた ≪ 調性とは何か ≫ という命題への解答を、

今度は、 Chopin  が、 Chopin  の方法で成し遂げたことになります。


Chopin  が ≪ Préludes ≫ と命名したのは、

「 これが、私の Préludes です 」 と、高らかに宣言したことになります。

金字塔です。








Prélude  No.2 に話を戻します。

その前の  No.1  C-Dur は、全  34小節です。

最後の 33、 34小節は、 C-Dur の主和音が、終止和音として、

低い方から、 C - G - c - e - g - c1 - e1  

ド - ソ - ド - ミ - ソ - ド - ミ と、
奏されます。


★Debussy は、その中で、唯一  『 e 』 ミ ( かたかなホ音 ) に、

「 1 」 の  Fingering を、記しています。

はたして、この  『 e 』 を、 「 1 」 以外の指で弾く人がいるかと、

思えるほど、当たり前な、当たり前すぎる  Fingering です。

なぜ、彼はあえて、「 1 」 を記入したのか・・・?


★当然、この 『 e 』 を、注視しなさい、ということではあります。

C-Dur の中で、『 e 』の意味は、主和音 c - e - g  ( ド ミ ソ ) の、

第 3音という意味が、あります。

C-Dur の属調  G-Dur  ( ト長調 ) の平行調 e-Moll  ( ホ短調 ) の、

主音  『 e 』 でもあります。


★そして、問題の 2番になりますが、

この曲は、一体、何調なのでしょうか・・・?

調号は、何もついていません。

全 23小節の最後の 23小節目の和音は、

下から  A1-  E - c - e - a  (  ラ  ミ  ド  ミ  ラ  ) ですので、

「 a-Moll イ短調 」 と、なります。


★しかし、その開始和音 1、2、3 小節目の和音は、

何なのか、そして、何調なのか・・・、判然としません。






1、 2、 3 小節の左手部分で、使われている音は、

E G H g  と Ais  のみです。

この場合、Ais  ( ひらがな嬰い音ーラ♯ ) は、

和声音 H  を、  H → Ais →  H と、飾る 「 刺繍音 」 ですから、

「 非和声音 」 となります。


E G H g からは、ミ ソ シ の和音が、作られます。

ミ ソ シ の和音は、常識的に考えますと、 

e-Moll の主和音となります。

しかし、この2番を a-Moll としますと、 

a-Moll の ドミナント属和音Ⅴ は、 e - gis -  h  ミ - ソ♯  - シ  となり、

ソは、「 導音 」 として、半音上行するのが普通です


★導音が、 半音上行しない例も数多くありますが、

この 1、 2、 3小節だけ弾き、聴いていますと、

とても a-Moll  には、聴こえません。

そして、4小節目は明らかに G-Dur の主和音です。

これを、どう考えるべきか。


★そこで、クラスの方が手を挙げられ、

「 この 1、 2、 3小節の  E  G  H の和音を、

 ≪ G-Dur の Ⅵ の和音 ≫ と、捉えたらどうでしょうか 」 と、

素晴らしい意見を、述べられました。


これで、すべて氷解しました。

 Debussy が 1番 33小節目の  「e 」 に、

「 1 」 の Fingeringをしたのは、

≪この 「e 」 は、次の 2番につながる大事な音ですよ ≫ と、

言っているのです。









★そして、 Chopin の自筆譜を見ますと、

「 2番 」 の 1小節目から、 長い 7小節にもわたる slur スラー が、

描かれていますが、その出だしは、

1拍目の  E - H 音 の位置から、もっと左から始まっています。

即ち、ピアノが第 1拍を打鍵する前から、

長い 7小節の slur スラー が、始まっているのです。


その前の 「 1番 C-Dur 」  の最終小節 34小節の、

フェルマータ付き終止和音には、

その前の 33小節目から、 slur スラー が付けられており、

それが、この 34小節の和音で閉じられず、宙をふんわり、

浮かんだままのように、見えます。


★「 1番 」 からそのまま 「 2番 」 に、途切れることなく、

曲が、進行しているとみれば、

2番冒頭は、属調 G-Dur で、その G-Dur を経て、

平行調 a-Moll に着地すると、みることが
できます。


Debussy は、2番曲頭の左手和音 「  E   H  ( ミ シ ) 」 に、

「 5  2 」 の Fingering を、付けています。

続く、 「 3番 G-Dur 」 の曲頭 16分音符の速い動きの、

G   D   g  (  ソ  レ  ソ )  の、  G   D に、

同様に 「 5  2 」 と Fingering を、書いています。

深く、頷けるのです。


Debussy の Fingering を見ますと、

まさに 「 天才の一筆 」 の感が、あります。

彼が、この素晴らしい  Edition を残してくれたのは、

彼の作品とともに、人類の宝といってもよいのかもしれません。

 



 

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます

  




copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■平均律2巻14番、「協奏曲」を彷彿とさせる Prelude、「大伽藍」のFuga■

2014-03-11 23:11:18 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律2巻14番、「協奏曲」を彷彿とさせる Prelude、「大伽藍」のFuga

  中村洋子 Bach 平均律 第2巻アナリーゼ講座
     ~第 14番 fis-Moll  BWV883 Prelude & Fuga

           2014.3.11 中村洋子

 





★11番の Prelude & Fugaから、12番、13番へと、

共通のmotif を用い、
精緻な波が幾重にも、

うねり上ってくるかのように、周到に準備されたのが、

この 14番 Prelude & Fugaです。

平均律第 2巻は、ここで、仰ぎ見るような頂点を迎えます。



14番 Prelude は、 Bach の 7つの「クラヴィーア協奏曲」や、

「イタリア協奏曲」の緩徐楽章(2楽章)と、

共通した性格を、もっています



★若き日の Bachは、当時巨匠だったイタリアの

ヴィヴァルディやマルチェロなどの協奏曲を、

クラヴィーア独奏曲に編曲しました。

その後、ケーテンで1720年代頃に、

ヴァイオリン協奏曲も 2曲作りましたが、

Bachはそれも、クラヴィーア協奏曲に編曲しています。

それらが、上記 7つのうちの 2曲です。



★7つの協奏曲は、鍵盤作品でありながら、オリジナルの発想は、

ヴァイオリンなのです。






★「協奏曲」のような 14番 Prelude の上声部分は、どう弾くか? 

ヴァイオリンならば、どう弾くか? 

チェンバロ協奏曲や,ヴァイオリン協奏曲の勉強が欠かせません。



全 70小節の 14番 Fuga は、

平行調 A-Dur のカデンツが出現する 20小節目まで、

第 1対主題は現れません。

第 2対主題は、さらに遅れ、36小節目でやっと姿を現します。

主題、第 1、第 2対主題の 3つが、同時に出現するのは、

50小節を過ぎてからです。



★ここで、私は巨大な 「 伽藍 」 を想像します


磨き抜かれた細部の美しさ、そして、

全体の構造は、ゆるぎない完璧なプロポーションです。


-------------------------------------------------------

■日  時 :  2014年  4月 17日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

 

■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

 

■予  約:     Tel.03-3409-1958


■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

 

2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

 

07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

 

08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
    CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

 

08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

 

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 

        「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

 

10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

 

10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

 

     「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

 

11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 

12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

 

13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

 

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 

       スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

 


 

 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

 

  全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。

 

★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/  

 

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中






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■Röntgenの平均律2巻13番の見事な解釈&笑い話“平均律 3巻があった”■

2014-03-08 23:25:54 | ■私のアナリーゼ講座■

■Röntgenの平均律2巻13番の見事な解釈&笑い話“平均律 3巻があった”■
                                                 2014.3.8   中村洋子

 

 

★前回ブログの続きです。

平均律 第 2巻 「 第 13番  Prelude 」 の、付点や三連符のリズムは、

 Bach の  「 Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク 」

第 2巻に収録されています 「 Overture nach Französischer Art

フランス風序曲 」 や、

Clavier Übung  第 3巻 1曲目の

「 Praeludium pro Organo Pleno 」 と、おおいに、

関連性があります。


Clavier Übung  第 3巻 1曲目と、最後の 27曲目の 2曲を、

Ferruccio Busoni フェルッチョ・ブゾーニ(1866 -1924)が、

1曲の 「 Prelude & Fuga 」 として、ピアノ用に編曲しています。

それを、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、

1933年に、録音しております。

       ・「Fischerの芸術第18集」 EMI  SGR-7118

この CDには、 Bach が編曲した 「 マルチェロのオーボエ協奏曲 」 から、

Adagio アダージョも、収録されています。


★さらに嬉しいことに、平均律 第 1巻 5番 ニ長調も、

録音されています。

この Fuga も、フランス風序曲の性格をもつ、付点リズムが、

多用されています。


この CDは、お薦めですが、添付されている解説は、問題です。

 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991) の CDなどで、

お馴染の、 “ テクニックに欠陥があったが、それを補って余りある

精神の深さ、崇高な美しさ ” などという、お決まりの陳腐極まりない、

常套句が、ここにも、ペーストされています。

“ テクニックに欠陥があった ” とは、天に唾するものでしょう。

 

 


★それはさておき、本当に、驚きましたのは、

先ほどの、ブゾーニが Clavier Übung  第 3巻 から

1曲の 「 Prelude & Fuga 」 として、ピアノ用に編曲した、

「 前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV552  」 の曲目解説に、

1739年に出版された 「 平均律クラヴィーア 第 3巻 」 に、

含まれるもので、

その冒頭の前奏曲と、巻末のフーガをブゾーニが編曲した・・・≫ と、

ありました。


「 平均律クラヴィーア 第 3巻 」  と、あります。

一瞬、 「 第 3巻 の草稿があったのでしょうか!!!」 と、

嬉しさから、頭がクラクラ、眩暈する思いでした。

しかし、すぐに分かりました。

この解説者は、「 Clavier Übung クラヴィーアユーブンク 」  第 3巻 を、

≪ 平均律 3巻 ≫  と、思い込んでいるのでした。


これは、 「 ケアレスミス 」 として、片付けられるような、

単純な問題ではなく、

Bachや 平均律、 Clavier Übung について、

ひいては、クラシック音楽についての、最低限の知識がない、

という結論になります


旧約聖書、新約聖書のあとに、新々約聖書があった、

というような、恐るべきお話ですが、

これが、日本の CDの解説のレベルです。

CDをお買い求めになっても、

ゆめゆめ、日本語解説をお読みにならないように。

できれば、輸入盤の CDを購入され、

辞書を引きながらでも、解説を読みましょう。


★この恐るべき笑い話は、結局、いま日本を騒がせている

佐村河内事件と、同根でしょう。

基本的な勉強不足のうえ、真贋を見分ける眼と能力が、

いまの日本で、徹底的に、欠如しているのです。

見分ける能力が全く無いマスコミが、 「 贋 」 を、

“ 本物 ”、“ 天才 ” と、日夜、繰り返し繰り返し宣伝して、

刷り込みます。

それも、ほとんどは商業的意図をもった故意でしょう。

「 障害 」 を売り物にする芸術は、芸術ではないのです。


★巨大なメディア媒体を駆使し、組織的になされる、

こうした宣伝プロパガンダに対し、よほど自覚して、

勉強されている方以外は、知らず知らずのうちに、

刷り込まれていくでしょう。

文化が衰退、凋落していきます。

本当の芸術、美を生み出すためには、

私たちは、知性と理性、感性とを絶えず研ぎ澄まし、

自分を磨き、「 本物 」 を日夜、

勉強する以外ありません。

 

 


★この 13番 Prelude は、 2声で書かれています。

主に下声に、付点を伴ったフランス風のリズムが多く、

心の軽やかさ、踊り出したくなるような軽やかさを、

身体で表現するリズム、といえるでしょう。


★13番 Prelude の 1小節目下声の開始音は、

fis ( 嬰へ音 ) で、 さらに、 gis  ( 嬰ト音 )、  ais  ( 嬰イ音 ) と、

続きます。


Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)版では、

その 「 fis 」 に、 「 4 」 の Fingering が付けられています。

そして、4小節目に目を移しますと、

その 3拍目上声が、 fis1 ais1  gis1  fis1   ( ファ ラ ソ ファ )

となっており、

その  ais1 に、 また、「 4 」 の Fingering が付けられています。


1小節目の  fis  gis   ais の、

逆行形  ais1  gis1  fis1   であることを、

「 4 」 によって、示しているということです。

 

 


★ピアニストは、 この唐突な 「 4 」 を見て、

何故ここに 「 4 」 があるのだろうか?

と、考えます。

そして、これは、 “弾き易くするための Fingering ではない”、

ということに、気付きます。

その次に、じっくり、 「 4 」 の意味を考えるでしょう。


★その結果、 “  「 4 」 が motif モティーフの開始音である ”

と、やっと気付くことでしょう。

1小節目 と 4小節目の関連性が、分かるのです。

同様に、 5、 6小節目についても、

示唆に富む Fingering が記されています。


これが、 Bach の対位法のほんの一端なのです。

Röntgen は、 Fingering でそれを指し示しているのです。

それゆえ、素晴らしい版なのです。

 

 

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 ■ 日  時 :  2014年 3月 11日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

 ■ 会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

 ■ 予約   :      Tel.03-3409-1958

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
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2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
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08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
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                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

        「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
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                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
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10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
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     「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
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11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
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12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
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13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

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■ カザルスの Bach演奏がこの上ないのは、彼が平均律を毎日勉強したから■

2014-03-06 23:27:09 | ■私のアナリーゼ講座■

■ カザルスの Bach演奏がこの上ないのは、彼が平均律を毎日勉強したから■
~ 平均律 第 2巻 13番アナリーゼ講座のご案内 ~
                           2014.3.6    中村洋子






3月 11日(火) 、KAWAI表参道・コンサートサロン「パウゼ」で、

「 平均律 第 2巻 13番 Fis-Dur  Prelude & Fuga 」

のアナリーゼ講座を、開催いたします。

そのための勉強をしておりますが、毎日毎日が発見の連続で、

楽しくて、仕方ありません。


★Bach の自筆譜を、勉強いたしますと、

この上なく
親切な先生に、丁寧に丁寧に、

直接、レッスンしていただいているような、

錯覚すら、覚えます。


平均律 2巻を勉強する方法は、まずは、

「 Bach の自筆譜 」 を徹底的に学びます。

そして、補助的に、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 先生、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)先生

の教えを、乞います。

ところどころ、Bärenreiter ベーレンライター版

( 新 Bach 全集 ) も、
参照します。

Henle ヘンレ版は、独善的で、勝手な改竄も多く、

あまりお薦めしません。







★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、

平均律の校訂を、残せずに世を去ったのは、

大変に、残念です。

しかし、Frederic  Chopin ショパン (1810~1849) が、

平均律 第 1巻に書き込んだ Fingering と解釈が、肝心要の部分で、

Bartók 校訂版と、不思議に、いつも一致しているように、

Fischer版がもし、存在していたとしても、

Bartók、 Röntgen と、大きな相違はないと、思われます。


★以前書きましたが、

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、

毎朝、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集から、

2曲を選び、それを弾くことから、

一日を、始めたそうです。


Casalsの  Bach 「 6 Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 演奏は、

全く、他のチェリストの追随を、許しません。

その理由は、実は、この毎朝の、

≪ 平均律の演奏と勉強 ≫ に依るものが大きいと、

私は、思います。


★どなたでもご存知の、世界的な素晴らしいチェリストたちによる、

Bach 無伴奏チェロ組曲の演奏を、数多く、聴きましたが、

「 あれだけ立派なマエストロたちが、どうして、

こんなに底の浅いBach なのか 」 と、

いつも、疑問に思っていました


★やっと、得心がいきました。

私が、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集を、

「 自筆譜 」 で勉強した結果、やっと、

Casalsの演奏が、なぜ素晴らしいのか、その理由が

明確に、分かったのです。


★基本的に、Celloは単旋律なのですが、

Bach の 「 無伴奏チェロ組曲 」 に、

縦横無尽に、張り巡らされている

Harmony 和声や、Counterpoint 対位法を、

完全に分析し、それを知悉して、血肉化して初めて、

「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像が、

現れてくるのです







★毎日、Celloの練習をしているだけでは、

「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像は、

把握できないでしょう。



チェリストに限らず、どんな楽器の奏者でも、勉強すべきは、

 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集です。

並外れたテクニックで、聴衆を圧倒するような、

名人チェリストたちの、惨めな Bachを聴くたびに、

痛感いたします。


★ということは、彼らが演奏する、

Robert Schumann  ロベルト・シューマン (1810~1856) の

「 Cello Concerto 」 、

Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) の、

「 Cello Sonata 」 も、本物かどうか、

ということになります。
 

★逆に、音楽を好きでたまらない方が、

こつこつと、平均律を勉強すれば、

≪ 真贋を見抜く目と耳を獲得できる ≫、ということになります。

これが、音楽の喜びそのものなのです。







★1月に、ある会合で、Casalsの 「 Song of the Birds 鳥の歌 」 を、

ピアノで演奏しましたが、

原曲は、「 for Cello and String Orchestra  」

弦楽合奏と独奏 Cello のための曲です。


曲の初め、ヴァイオリンの 2分音符の長いトレモロ、

これは鳥のさえずりを、象徴しているのですが、

それを、ピアノで弾いていて、どこかで聴いたことがある

と思っていました。


★今回、平均律 2巻 13番を勉強しておりまして、

やっと、分かりました。

13番 Prelude の 26、 27小節目に、頻繁に現れる 

「 cis2 2点嬰ハ音 」 の、長い trill トリルが、

 「 鳥の歌 」 のトリルと大変によく、似ているのです。


★Casalsによりますと、この曲は、カタロニアの古い 「 Carol 祝い歌 」、

その歌詞は、キリスト降誕をうたっています。

「 みどりご 」 を迎えるのは鷹、雀、ナイチンゲール、ミソサザイです。

鳥たちは、 「 みどりご 」 を、甘い香りで大地をよろこばせる

一輪の花にたとえて、歌います。


★Casalsは、トリルを標題音楽的に使っているのではなく、

この 13番 Prelude のトリルと同じように、

使っています。







13番 Prelude の 26、 27小節は、実は全 75小節の、

ちょうど 3分の 1のところに位置し、

そのレイアウトも、非常に作為的に、凝っています。


★この 「 cis2 」 のトリルは、 26小節目の 2拍目から、始まりますが、

Bach は、26小節目の 1拍目を、

わざわざ、 5段目の一番最後に記譜し、

6段目の冒頭に、2拍目を置いています。

つまり冒頭から  「 cis2 」 のトリルが、始まるよう、

記譜しているのです。


★さらに、26小節目 2拍目の真上、つまり、5段目の冒頭に

目を移しますと、ここも 同様に、21小節目の 2拍目から、

始まっています。

なんと、この2拍目の上声は、 「 cis2 」 なのです。


★この 「 cis 」 という音は、実は、

≪ 13番 Fis- Dur の属音 ≫ です。

大変に、重要な音なのです。


★今度は目を、13番 Prelude の冒頭に移しますと、

何と、その上声は、 「 cis2 」 から、

始まっているのです。


★この一連の 「 cis2 」 のレイアウトのみならず、

Bach の自筆譜から、分かってくる曲の凄さ、楽しさに、

毎日、付き合っていますと、

喜びが、心から溢れ、春を待つ鳥のように、

歌いだしたくなるのです。






★さらに、 26、 27小節目の trill は、

13番 fuga の subject の、冒頭の trill に、

変容していくと思います。


13番 Fuga の冒頭トリルを、どう弾くべきかについても、

Bach 先生の自筆譜を、読み込みますと、

なんなく、回答が得られます。


★しかし、この Prelude & Fugaは、

愉悦に満ちているだけでは、ありません。

同時に、深い悲しみもたたえ、その悲しみの中に、

昇華した一種の明るさも、感じられます。


★次の 「14番 Prelude & Fuga fis-Moll 」 は、

平均律 2巻の白眉と言う説もありますが、

この曲は、嘆きに満ちた曲ではなく、実に暖かく、

明るい曲であることが、13番をよく勉強いたしますと、

分かってきます。


★講座でご説明しますが、平均律は、

24曲の別々の曲を、曲集として集めたのではなく、

≪ 巨大な 1曲の 24楽章 ≫ 、とみるべきなのです。

とりわけ、≪ 同じ主音をもつ、長調と短調の結び付き ≫ は強く、

14番を弾くためには、 13番を徹底的に勉強しなければ、

無理である、ということになります。

 


 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

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