音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「 ぶらあぼ 」10月号の案内と、「 ゴルトベルク変奏曲 」への誤解■

2010-09-24 11:25:16 | ■私の作品について■

■「 ぶらあぼ 」10月号の案内と、「 ゴルトベルク変奏曲 」への誤解■
                           2010・9・23 中村洋子



★月刊音楽情報誌 「 ぶらあぼ 」 10月号 173ページに、

私の出版楽譜:

≪ 無伴奏チェロ組曲 第 1番 ≫  Ries & Erler、 Berlin と 、

≪ 虹のチェロトリオ集 ≫ Musikverlag Hauke Hack 、Dortmund の

案内が、掲載されています。


★また、179ページには、「 カワイ表参道・パウゼ 」 で、

10月 8日 ( 金 )と、11月 16日 ( 火 )に、開催いたします

「 バッハ平均律 第 1巻 全曲アナリーゼ講座 」 の、

案内も掲載されており、どうぞ、ご覧ください。

10月は、「 平均律第 1巻 8番 」、

11月は、「 平均律第1巻 9番 」 です。


★10月の講座で、勉強します 「 平均律 8番 」 は、

日本で、人気の高い 「 ゴルトベルク変奏曲 」 と、

深い、関係にあります。


★ここ数日、改めて、 「 ゴルトベルク変奏曲 」 を、

勉強していますが、この曲につきましても、

前回のブログで書きました、フォルケル 「 バッハ伝 」 の、

 「 功罪 」 の 「 罪 」 のほうが、

日本では、はびこり、誤解が横行しているようです。


★フォルケル (1749-1818) の、間違った記述を、

検証することもなく、孫引きし、

それをまた、孫引きするという繰り返しです。




★フォルケルの伝記での、問題の部分:
      
< コルトベルク変奏曲は、ザクセン選帝侯、カイザーリンク伯爵の

すすめによって、生まれた。伯爵は、ライプツィヒにお抱えのチェン

バロ奏者ゴルトベルクを連れてきて、バッハから音楽の教授を受けさ

せた。伯爵は病気がちで、当時不眠症に悩まされていた。ゴルトベル

クは、そのようなおり、控えの間で夜をすごし、伯爵が眠れないあい

だ何かを弾いて聴かせなければならなかった。あるとき伯爵はバッハ

に、穏やかでいくらか快適な性格をもち、眠れぬ夜に気分が晴れよう

なクラヴィーア曲、お抱えのゴルトベルクのために書いてほしいと申

し出た。変奏曲というものは基本の和声が常に同じなので、バッハは

それまでやりがいのない仕事だと考えていたが、伯爵の希望を満たす

には変奏曲が最もよいと思ったのである。 ( 略 )バッハは、変奏

曲の模範としてこれ1曲しか遺さなかった。伯爵はその後この曲を

「私の変奏曲」と呼ぶようになった。彼はそれを聴いて飽きることが

なく、そして眠れぬ夜がやって来ると永年のあいだ、「ゴルトベルク

君、私の変奏曲をひとつ弾いておくれ」といいつけるのだった。バッ

ハは、おそらく、自分の作品に対してこのときほど大きな報酬を得た

ことはなかったであろう。伯爵は、ルイ金貨が百枚つまった金杯をバ

ッハに贈ったのである >
                    ( 角倉一郎訳:バッハ小伝から抜粋 )



★この “不眠症の伯爵のために書かれた ” という、曲の由来は、

日本で発売されている、たくさんの 「ゴルトベルク変奏曲」 C D の、

ジャケット解説など、いろいろなところで、ご覧になったり、

ラジオ放送の説明などで、耳にタコができるほど、

お聞きになっている、ことでしょう。

 

★権威ある、イギリスの音楽事典

「 THE NEW GROVE Dictionary of MUSIC & MUSICIANAS 」
             
 ( 1980年版に基づく 1995年 paperback edition )は、 

ゴルトベルクが、バッハの  pupil ( 生徒 ) であったことは、

speculation ( 推測  ) 、としています。


★さらに、GROVEは、

カイザーリンク伯爵が、ゴルトベルクに演奏させようとして、

バッハにこの曲を依頼した、という由来についても、

疑問を列記しています。

①ゴルトベルクが極めて、若かったことと、

②ゴルトベルク変奏曲の楽譜に、 ≪ 献呈 ≫  の記載が、

なされていない点です。


★ゴルトベルクは、鍵盤楽器での初見演奏の能力に、

優れていたのは、間違いなかったようですが、

作曲の能力については、フォルケルが書いているように、

「 特別な才能はなかった 」 のかどうかは、不明なようです。


★ 「 クラヴィーア ユーブング 」  の 第 4巻として出版された

「 ゴルトベルク変奏曲 」  の序文には、年月が書かれていませんが、

出版は、1741年ごろで、

作曲は、1739年より前と、現在では、推測されています。
     
伯爵が、ゴルトベルク  ( 1727~1756 ) に弾かせようと、

バッハに、依頼したとすると、

彼が、 12歳になる前、ということになります。

若すぎるという指摘が、妥当かもしれません。


★音楽の友社から出ています、ヴィーン原典版の、

ライセンス出版でも、ユゲット・ドレフュスが、前書きで、

「 伯爵の依頼による作曲説 」  に、疑問を呈しています。


★ 「 貴族からの委嘱作品にはやはり正式の献呈の辞を付けることが、

バッハの時代には習慣的であった 」。

「 バッハはこのきわめて要求の高い作品を直接チェンバロ奏者

ゴルトベルクのために書いたはずはおそらくなかったであろう 」。

 (  しかし、ドレフュスは、「  ゴルトベルクが1737年ごろから、

バッハの弟子であった 」 、と書いています。 )




★ 「 ドレフュスの前書き 」 には、また、残念ながら、

フォルケルの孫引きが、見られます。

≪ ヴァイマル時代のオルガンのための変奏曲以来、

おそらくフォルケルがあげた理由から、

バッハは変奏曲を書くことにもはや特別の興味は示さなかった ≫

と、ドレフュスは、書いています。


★ 「 フォルケルが挙げた理由 」  というのは、

「 変奏曲というものは基本の和声が常に同じなので、

バッハはそれまでやりがいのない仕事だと考えていたが、

伯爵の希望を満たすには変奏曲が最もよいと思ったのである 」


★ 「変奏曲は、やりがいのない仕事」 という、

フォルケルの言葉を、真に受け、

「変奏曲を書くことに、もはや特別の興味は示さなかった 」

としています。


★私は、この考え方には、大反対です。

私の講座をお聴きになった皆さまには、既に、

ご理解いただいていると、思いますが、

≪インヴェンション&シンフォニアと、

平均律クラヴィーア曲集 1巻を、

大きな変奏曲と、捉えてもよい ≫ くらい、

壮年期のバッハは、変奏曲を追求していたと、思います。


★バッハが出版した 「 クラヴィーア・ユーブング 」 の、

「 第 4巻 」 としての、 「 ゴルトベルク変奏曲 」 は、

バッハの鍵盤作品の集大成として、

最も、凝縮され、切り詰められたテーマで、

どれだけ、多彩な変奏を追求し尽くせるか・・・という、

バッハの挑戦であり、作曲の集大成が、

ここに、見られるのです。


★私には、ゴルトベルク変奏曲が、

“ 睡眠導入剤 ” になるとは、到底、思えません。


★インヴェンション 15曲と、

シンフォニア 15曲を合わせた 「 30曲 」 と、

ゴルトベルク変奏曲の 「 30曲 」 は、

偶然の一致では、ないのです。


★フォルケルの  「 やりがいのない仕事 」 という言葉は、

大変に、愚かしい言葉でしょう。

これは、「 ブクステフーデ 」  の作品を研究すれば、

分かることです。


★バッハが、ブクステフーデから、どれだけ大きな影響を、

受けていたか、如実に、分かります。

少年時代、鍵のかかった兄の書庫から、こっそりと抜き出し、

月明かりで、書き写した楽譜の一つが、このブクステフーデです。

 

 ★  この場合、月明かりで写譜したかどうか、果たして、

本当に、鍵がかけられていたかどうかなどは、

瑣末なことです。

エピソードとして、少々、出来過ぎな気もします。

要は、ブクステフーデを一生懸命、勉強していた、

ということが、重要なのです。


★「 バッハが、変奏曲を、やりがいのない仕事とは、断じて、

考えていなかったことと、ブクステフーデの作品との関係 」

についても、

10月の講座で、少し触れてみたいと思います。
 

★「 変奏曲 」  というものは、

主題による、各変奏への拘束力が、あまりに強すぎるため、

変奏曲の各曲を、個性的に、豊かに作曲するということは、

作曲家にとって、最高の腕の見せところとなります。

“  最も、やりがいのある仕事  ”  なのです。

 
★この例は、モーツァルト、ベートーヴェン、

ブラームスなどの、有名な変奏曲のテーマが、

一見単純で、しかし、実に、底知れぬ力強さを、

秘めていることからも、お分かりと思います。

後世の、彼らの手法の 「 源泉 」 が、

バッハの、この 「 ゴルトベルク変奏曲 」 なのです。


★作曲家にとって、最高度の難易度をもつ挑戦、

“ エヴェレスト登山  ” は、 「 変奏曲 」 なのです。


★私も、ことし6月、新作の 「 変奏曲 」 を、

ベッチャー先生に、ベルリンで、初演していただきました。

≪ YOKO NAKAMURA

 Einleitung,Thema und Variationen über ein japanisches     
 „Erntelied“ ≫ 

 ≪ 日本の収穫の歌による、序奏とテーマ、変奏 ≫

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20100620



★ヨーロッパの、真の音楽愛好家の皆様は、

変奏曲の主題が、どのように変容していくか、

それを、聴き取り、楽しんでくださいます。

これこそが、本当の  「 音楽の楽しみ 」  です。





                                  ( 大犬蓼、柿のお菓子、雑草 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■「フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集 」を学ぶ意義■

2010-09-20 18:03:13 | ■私のアナリーゼ講座■

■「フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集 」を学ぶ意義■
                                2010・9・20 中村洋子


 

★昨日のブログで、取り上げました

「 フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集

Klavierbuechelein fuer Wilhelm Friedemann  Bach 」は、

手書譜の表紙裏に、「 1720年 1月 22日 」の日付が、

記されています。

この曲集は、バッハは、長男・フリーデマンの教育のために、

編まれたものです。


★長男・ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ

( Wilhelm Friedemann Bach, 1710年11月22日~ 1784年7月1日 )は、

そのとき、満 9歳 2カ月でした。


★ここで、注意しなければならないのは、この曲集は、

フリーデマンが、鍵盤楽器を弾けるようになるために、

編んだ曲集ではない、ということです。


★この曲集は、「 作曲 」 を学ぶために、編まれたものです。

幼少時から、最高の環境で英才教育を受けたフリーデマンは、

当時既に、鍵盤楽器の演奏は、相当なレベルに、

達していた、とみるべきです。

曲集には、父親のバッハと一緒になって、

作曲した作品も、含まれていますが、

鍵盤楽器を、自由に弾けない子供が、

作曲できる曲では、ありません。


★この曲集に、「 平均律クラヴィーア曲集第 1巻 」 の、

前奏曲 1番 ~ 12番 ( 7番を除く ) と、

「 インヴェンションと、シンフォニア 」の、

大半の初稿が、入っています。


★≪ 最終稿である、 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻や、

インヴェンション&シンフォニアを、勉強しさえすれば、

この 「 フリーデマン曲集 」 を、見る必要はない ≫、

と考えるのは、大きな間違いです。


★この初稿と、最終稿とを比較することにより、

バッハが、どれだけ推敲し、飛躍的に内容を豊かにしたか、

それが、手に取るように、実によく分かります。

また、その相違点を、味わうことにより、

あまりにも、耳に慣れ過ぎてしまったこれらの名曲の、

魅力を、再度、新しく発見でき、

新鮮な気持ちで、曲に向き合うことができます。





★また、昨日のブログで書きましたように、

バッハの伝記作者・フォルケルの、明らかな誤りも、

一目瞭然で、判明します。

さらに、フォルケルの伝記本を、無批判に孫引きしている、

日本のバッハ解説本が信頼できるかどうか・・・、ご自身で、

判断することが、可能となります。


★以前は、この 「 フリーデマン曲集 」 が、

ライセンス出版で、入手できましたが、現在は、

信頼できる国内版は、ありません。


★「 ベーレンライターの原典版 」 を、入手され、

まずは、 “ 弾いて、驚き、味わって  ” ください。


★10月8日の、「 カワイ・平均律アナリーゼ講座 」 は、

第 1巻の 「 8番 変ホ短調前奏曲、嬰ニ短調フーガ 」を、

勉強しますが、この曲も、

「 フリーデマン曲集 」 に、収められています。


★「 8番 」 について、「 フリーデマン曲集 」 と、

「 平均律 」 との違いを、学ぶことで、

バッハの秘密を、探ることができます。

アルぺジオの掛け方も含め、アナリーゼ講座で、

詳しく、お話いたします。


★カワイ・表参道の「スタッフブログ」に、私の作品

「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 の楽譜案内が、載っております。

http://omotesando.blog.kawai.co.jp/ 

どうぞ、ご覧ください。




                                            ( 無花果、韮花芽、雑草の花 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■日本のバッハ解説本が孫引きを繰り返す、フォルケル著「バッハ伝」の功罪■

2010-09-19 23:45:18 | ■私のアナリーゼ講座■

■日本のバッハ解説本が孫引きを繰り返す、フォルケル著「バッハ伝」の功罪■
                            2010.9.19   中村洋子



★バッハについての、最初の伝記は、

ヨハン・ニコラウス・フォルケル

Johann Nikolaus Forkel  ( 1749 ~ 1818 ) による、

「 ヨハン・セバスティアン・バッハの生涯、芸術、

および芸術作品について。真の音楽芸術の愛国的賛美者のために 」

( Ueber Johann Sebastian Bach Leben, Kunst und Kunstwerke,

Fuer patriotische Verehrer echter musikalischer

Kunst.Leipzig, 1802 ) です。


★バッハが死去したのは、1750年ですから、フォルケルは、

バッハには、会っていません。

フォルケルは、ドイツで最初の音楽史を書いた人だそうです。


★この伝記は、バッハの長男のフリーデマンと、

二男のエマヌエルから得た情報を基にして、書いた、

といわれています。

ここで、今回は、フォルケルのバッハ伝の、

「 功罪 」について、見てみます。


★功罪の「 功 」 は、息子たちからの話を通じて、

バッハの生き生きとした姿が、伝わってきます。

バッハが、和声や対位法に対し、

どのような考えを、もっていたか、

生きた証言が、残されている、という点です。

バッハの日常生活のこまごましたお話では、ありません。


★それによりますと、バッハは、作曲のレッスンを始める際、

≪ 対位法から始めることはなく、まして、

音程比の計算で、弟子たちの時間をとることもなかった。

それは、もっぱら、理論家や、楽器製作者の仕事と、考えていた。

直ぐに、通奏低音に基づく、4声体和声から、始めた ≫

 ( 角倉一郎訳 白水Uブックス:邦題は「バッハ小伝」、

以下の翻訳引用は、この本による )

ということです。


★バッハが、「 2声、3声から始めなかった 」ということは、

「 4声 」 という、最もスタンダードな和声の形態を、

しっかりと、根付かせれば、その後、変幻自在に、

声部を減らしたり、あるいは、増やしたりすることが、

可能である、と考えていたからでしょう。


★私の各地での「 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 で、

皆さまに、お伝えしていますことは、

『 2声のインヴェンション、3声のシンフォニアは、

バッハのしっかりとした 「 4声体の設計図 」 に基づく、

「 2声 」 あるいは、「 3声 」である 』 、ということです。


★2声の場合、上声がソプラノであるのか、アルトであるのか、

下声が、テノールであるのか、バスであるのか、それを、

常に考えて、演奏しなくては、なりません。


★極端な例では、インヴェンションで、

2声の上声がソプラノ、下声がアルトである部分すら、

存在するのです。

その部分を演奏する場合、休止しているであろう、

テノール、バスの音の空間を、

頭の中で、十分に意識する必要があるのです。

 

★バッハは、その後の作曲レッスンでは、

「 コラール 」 を、教材として使用します。


★ 「 ソプラノ声部 」に、「 コラール 」 のメロディーを,

当て、そして、バッハ自身が、

「 バス 」 の声部を書き、最後に、

生徒に、内声の 「 アルトとテノール 」 の,

声部を、書かせたそうです。


★ここで分かりますのは、バッハのすべての作品が、

そうであるように、内声すべてを、無駄なく、

ソプラノのように、歌わせていることです。

フォルケルは、 ≪ その内声がソプラノとしても、

使えるほどであった ≫ 、と書いています。


★プロテスタント教会で、歌われる「コラール」」とは、

“誰でも一般の人が歌えるメロディー ”なのです。

その力強く美しいメロディーに、匹敵するような内声部を、

バッハは、弟子にも書かせた、ということです。

つまり、 「 ソプラノであるコラールが、メロディで、

アルト、テノール、バスの下 3声は、

“  無味乾燥な和声を付けた伴奏  ” 」 、 では、

決して、なかった、ということです。

その4声の各声部が、独立した価値を、

持っているのです。

これが、バッハの和声、つまり、対位法なのです。

 


★幼くして、両親に死別したバッハが、

兄のヨハン・クリストフのもとに、身を寄せ、

兄が、鍵を掛けてバッハに、見せなかった曲集を、

バッハが夜になって、こっそりと引き出し、

月明りで、半年かかって、

写譜したエピソードは、有名です。

さて、バッハは誰の曲を、写譜したのでしょうか。


★このフォルケルの伝記によりますと、フローベルガー、

ヨハン・カスパル・ケルル、パッヘルベル、ブクステフーデ、

ブルーンス、ベーム、そして、私がアナリーゼ講座で、

取り上げています「(ヨハン・カスパル・フェルディナンド・)

フィッシャー」などです。


★私の講座でも、お話しましたように、バッハが、突然、音楽史に

出現したのではなく、バッハの背後にこれだけの、大音楽家が、

ひしめいて、バッハを、月夜のもとで、育て上げたのです。

このため、彼らの作品を、研究していく必要もあると、思います。


★「功」は、このように、たくさんあり、

フォルケルの伝記は、参考にすべき書として、必要です。

しかし、後世になって、

フォルケルが、想像もしなかったような、伝記の一部を、

孫引きされるという 「 罪 」も、たくさん見受けられます。


★以前の、日本のバッハ解説書では、「 フォルケルによれば 」

というように、前置きしての引用が、よく見られました。

しかし、最近は、その「フォルケルによれば」という、

前置きすらなしで、孫引きに孫引きを重ね、

バッハに対する愚かな、考えを、

開陳している解説書も、見受けられます。


★それを、見破るためにも、まずは、

フォルケルをしっかりと、読むことが、大切です。


★実は、フォルケルの伝記には、事実に反する記述や、

間違いが、大変に多いのです。


★「 平均律クラヴィーア曲集 」 に対する、記述一つとりましても、

非常に、いびつな評価をしています。

≪ 平均律クラヴィーア曲集の第2巻は、初めから終わりまで、

傑作ばかりで、できている。それに反して、第1巻のなかには、

青年期の未熟さをもつ前奏曲とフーガが、まだ若干見出され・・・、

不完全だと非難しうる曲は、イ短調、ト長調、ト短調、ハ長調、

へ長調、ヘ短調などのフーガ・・・≫

( 角倉一郎訳 バッハ小伝 ) と、あります。




★以上のフォルケルの評価が、いかに、いい加減であるか、

その証拠を、お見せします。

「 フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集 」

 ( 1720年から書き始めた )

=以下 「 フリーデマン曲集 」 と略す = の中には、

平均律 ( 1722年に完成 ) の第1巻 1番から12番

( 7番を除く ) までと、

インヴェンション&シンフォニアの、ほぼ全曲の、

元になる 「 初稿 」 が、収められています。


★フォルケルは、初稿 ( フリーデマン曲集 )と、

最終稿 ( 平均律 )  の比較の例として、

≪ 1巻1番のハ長調、3番嬰ハ長調の前奏曲は、

2曲とも、フリーデマン曲集の無駄な部分を削り、

半分の長さにしたものが、平均律である ≫

という内容のことを、書いています。


★しかし、これは、明らかな間違いです。

まず、フリーデマン曲集を半分の長さにしたものは、

平均律には一つも、ありません。

全く、逆です。

フリーデマン曲集を、さらに豊かにしたのが平均律です。

約 2倍の長さにしたものは、5番 ニ長調、 6番 ニ短調、

10番 ホ短調 などです。

1番の ハ長調について、平均律では、全曲を分散和音に

していますが、フリーデマン曲集では、

和音として分散する前の、元の和音の形に、簡略化して、

記載しています。

長さは、平均律より、短くなっています。


★3番嬰 ハ短調 につきましては、長さは、

フリーデマン曲集と平均律の長さは、ほとんど同じです。

テーマの形を、 1小節目を例にして、比較しますと、

平均律のテーマは、「 E♯、C♯、G♯、C♯、E♯、C♯ 」

 (  ミ ド ソ ド ミ ド  ) ですが、

フリーデマン曲集では、「 G♯、C♯、E♯、C♯、E♯、C♯ 」

(  ソ ド ミ ド ミ ド  ) と、なっています。


★フリーデマン曲集では、テーマの開始3音が、

上行形であったり、下行形であったり、

統一が取れていませんでしたが、

平均律では、すべて、下行形に統一されています。


★バッハが、フリーデマン曲集を書いた後に、

推敲して、平均律のテーマへと、辿り着いた、

ということが、 いえます。

明らかに、平均律のテーマが、

優れていると、思います。


★以上のような明白な間違いが、フォルケルの伝記に、

記載されていることは、

「 フォルケルは、実際には、フリーデマン曲集を、

見ていなかったのか、あるいは、見ていたとしたら、

まともに、分析できない音楽家であった 」

というのが、結論です。


★日本の、平均律・解説書には、

そのフォルケルの、尻馬にのって、

≪ 平均律 1巻 のなかには、若書きの作品があり、

出来、不出来がある ≫ というような、

記載が、よくみられます。 


★そのような解説を、載せている本は、

信用しないほうが、いいでしょう。


★若いバッハは、本当に未熟であったのか?

それに対する、答えは、

「 大作曲家による編曲作品とは何か 」
 ★旧・私のアナリーゼ講座 2007/2/16 (金)
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/c/60af0c399fb1d77a1e5f08288998957e 

に、ヒントがあります。


★若いころのバッハは、既に、

類稀な大作曲家であった、ということです。

若いころから、段々と、「作曲が進歩していった」

のでは、決してないのです。




                                 ( 矢羽根薄、茗荷、秋の草 )

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■第 8回 平均律アナリーゼ講座は、10月 8日 ( 金 ) です■ 

2010-09-09 22:46:45 | ■私のアナリーゼ講座■

■第 8回 平均律アナリーゼ講座は、10月 8日 ( 金 ) です■ 
                                2010.9.9   中村洋子





★本日は、第 7回 平均律アナリーゼ講座を、開催いたしました。

幸い、心配しました台風も直前に消滅し、秋風の吹く、

明るく、心地よい一日でした。

バッハが好きな、音楽愛好家の皆さまも、

新しく、たくさんお出でになりました。


★平均律 第 1巻の 6番フーガから、

 7番が、どのように導き出され、

(次回講座の) 8番へと、つながっていくか、

についても、詳しく、お話しいたしました。


★10月は、平均律 1巻のなかでも、最も人気のある 8番です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■ 中村洋子「バッハ 平均律クラヴィーア曲集 アナリーゼ講座」 ■

▼第 8回  第 1巻 第 8番 変ホ短調 前奏曲 と 嬰ニ短調 フーガ

≪平均律8番は、ゴールドベルク変奏曲とどのように、つながっているか≫

日時: 2010年 10月 8日(金) 午前 10時 ~ 12時 30分

会場: カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

会費: 3,000円  ( 要予約 )   Tel.03-3409-1958 


★平均律1巻 全24曲のちょうど、三分の一の 8番に到達しました。

8番は、この曲集の白媚ともいえる曲です。

≪ 前奏曲が変ホ短調 ≫、≪ フーガが嬰ニ短調 ≫ という、

革命的な、異名同音調です。

ここに、壮年期のバッハの、気迫に満ち満ちた、

意気込みが、伝わってきます。


★この傑作は、実は、バッハの

「 ゴールドベルク変奏曲 」  ( 1741 ~ 2年に出版 ) とも、

深い関係があります。

そこを、鋭く察知し、演奏に活かしたのが Glenn Gould です。

グレン・グールドは、どこに着眼し、そして、

彼独自の演奏を生み出していったか・・・ ?



★それが、この8番の分析で、明らかになります。

バッハが、平均律 1番から 8番まで、

展開させながら作曲し、配列していったことを、

グールドは、熟考し、見つめていたのです。


★今回は、この傑作を、じっくり腰を据えて、

丹念に、アナリーゼします。

この 8番を、ご自身のものとして捉えることができますと、

平均律第  1巻 の大平原を、自分の目で眺め、

全体を、見通すことが出来るのです。



● 今後のスケジュール

第 9回 11月 16日 (火) 第 9番  ホ長調 前奏曲&フーガ

      午前 10時~12時 30分     会費:3,000円



■ 講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。

ピアノ、チェロ、ギター、声楽、雅楽、室内楽などの作品を発表。

2003年~ 05年、アリオン音楽財団
                                ≪ 東京の夏音楽祭 ≫で、新作を発表。

07年、自作品 『 無伴奏チェロ組曲第 1番 』 などを、
              チェロの巨匠 W.ベッチャー氏が演奏した
    CD  『 W.ベッチャー 日本を弾 く』  を 発表する。

08年 9月、CD  『 龍笛&ピアノのためのデュオ 』 と、
         ソプラノとギターの CD 『 星の林に月の船 』 を発表。

09年10月、『 無伴奏チェロ組曲第 2番 』 が、W.ベッチャー氏により、
                   ドイツ・マンハイムで初演される。

08~09年にかけ、 『 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座 』
                                全15回を開催。

10年  『 無伴奏チェロ組曲第 1番 』  の楽譜が、ベルリン リース&エアラー社
                           Ries & Erler Berlin から出版される。

10年  CD  『 無伴奏チェロ組曲第3番、2番 』
                                  ( W.ベッチャー演奏 ) を、発表。

10年  『 レーゲンボーゲン・チェロトリオス ( 虹のチェロ三重奏曲集 ) 』 の楽譜が、
           ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
                  Musikverlag Hauke Hack 社から、出版される。

 *ブログ: 「 音楽の大福帳 」 http:// blog.goo.ne.jp/nybach-yoko

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


■カワイ表参道
 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-1 
                              Tel.03-3409-1958 
 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
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                                     (  酢橘  )
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■ ベートーヴェン 31番ソナタは、バッハ平均律 1巻 7番の継承曲 ■

2010-09-08 19:10:29 | ■私のアナリーゼ講座■

■ ベートーヴェン 31番ソナタは、バッハ平均律 1巻 7番の継承曲 ■
                         2010.9.8 中村洋子





★明日 9日に開催いたします

カワイ 「 平均律アナリーゼ講座 1巻 7番 」のための勉強で、

ベートーヴェンのピアノソナタ第 31番が、どれだけ深く、

バッハの平均律 7番から、影響を受けているか、

いまさならがら、実感しました。


★これは、ベートーヴェンが 31番を作曲するとき、

ピアノの上に、バッハの平均律 7番の楽譜を広げていた、

というような次元のお話では、ありません。


★私も、作曲しているとき、自分では全く気付かないのですが、

後になってから、自分の曲を、客観的に検討しますと、

無意識に、バッハの発想法を、使っていることを、

発見することが、よくあります。


★そのような点を、ドイツで評価していただいたとき、

心から、喜びを感じるのです。


★ベートーヴェンも、晩年、最後から2番目のピアノソナタを、

書くとき、彼の血となり肉となっていた 「 バッハ 」 が、

いたるところから、滲み出て、この大傑作をものしたのです。

ショパンとバッハの関係についても、全く、同じです。


★31番ソナタの一見、バッハとは無関係にみえる

「 第 1楽章 」  にこそ、

バッハの平均律 7番の影響が、一番色濃く、出ています。

特に、ベートーヴェンの自筆譜を研究いたしますと、

第1楽章、第 2テーマの 3小節目に当たる  「 22小節目 」  の、

左手 1、2拍は、バッハと同じ符尾の書き方となっており、

ここを、ベートーヴェンは、 2声部として、

発想していたことが、如実に、分かります。


★ 1楽章の 44小節目は、よく観察しますと、

平均律 7番前奏曲の、モティーフに酷似しています。

明日は、この部分を、 「 ヘンレ版 」、

自筆譜に基づいた  「 ペーター版・新版 」、

「 クラウディオ・アラウ版 」  、 「 シュナーベル版 」 で、

詳しく検討します。

特に、シュナーベルやアラウの、楽譜への読み込みの深さ、

さらには、バッハについても、

このマエストロたちは、こんなにも深く理解している、

ということを、お伝えします。





★ベートーヴェン 31番ソナタの、

最終楽章は、 「 フーガ 」 となっていますが、

このフーガの、主題の提示の仕方、

つまり 「 対提示部 」 の扱い方が、

まるで、バッハの平均律 7番と、瓜二つなのです。

この 「 対提示部 」 というものは、どういうものなのか、

詳しく、分かりやすく、お話します。


★主調による 「 第 1提示部 」 は、テーマの提示が、

2声ならば 2回、3声ならば 3回、4声ならば 4回、

というのが原則ですが、その後に、この  「 対提示部 」

( counter-exposition )  を、置きますと、

3声のフーガでも、主調の主題が、

4回、あるいは 5回、提示されます。


★バッハは、この手法を、平均律のなかで、たびたび、

実に巧みに、用いています。

そして、それを、ベートーヴェンが 31番ソナタで、

立派に、継承したのです。


★勉強の合間に、日本で出版されている有名な、

平均律クラヴィーア曲集の解説書を、

≪ ブラックユーモア ≫  として、読みました。


★例えば、 「 7番 前奏曲 」 の解説。

『 書き方は、大へんに厳格なのですが、

ただ調性遍歴がかなり自由というか、

行きあたりばったりなところがあるので、

完全な2重フーガとしてアナリーゼするには

少し無理があるように思います 』。


★“ 行きあたりばったり ” で果たして、

このような傑作が、生まれるものでしょうか。

“ 行きあたりばったり ” の曲を、

ベートーヴェンが生涯にわたって、愛し、

その高みに近づこうと、努力するものでしょうか。


★私の講座には、 「 バッハが大好きですが、

日本の先生のレッスンを受けても、さっぱり、分からない、

かえって、嫌いになってしまう 」 、あるいは、

「 “解説書 ”を読んで、どうしても納得できない。

疑問が増すばかり 」 、 という方が、

雪でも、雨でも、たくさんいらっしゃいます。


★きょうは、記録的な変な台風でしたが、それには、関係なく、

また、明日、熱心な皆さまと、お会いできることを、

楽しみにしております。 


 


                                            ( 数珠玉 )
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■バッハはなぜ、7番プレリュードを、6番フーガの後にそのまま書き始めたか?■

2010-09-06 23:58:33 | ■私のアナリーゼ講座■

■バッハはなぜ、7番プレリュードを、6番フーガの後にそのまま書き始めたか?■
                                   2010・9・6 中村洋子





★新聞を見ますと、クラシック音楽家の犯した、

驚くべき犯罪記事が、最近、よく出ています。

音大の作曲家准教授が、覚せい剤で逮捕されたり、

きょうは、オーケストラの元コンサートマスターが、

盗撮で逮捕された、という記事を新聞で見ました。



★専門の演奏や作曲の勉強に、真摯に取り組んでいますと、

そのようなことに、時間を費やすことができる、ということが、

私には、信じられません。



★私のアナリーゼ講座参加者の方と、以前、お話していましたら、

その方は、いま、ブラームスの後期ピアノ作品の演奏に、

取り組んでいらっしゃり、

「勉強することが、多すぎて、時間がいくらあっても足りません」

と、話されていました。



★ヨーロッパのベッチャー先生を初め、本当のマエストロたちは、

「 毎日 Üben  und  Üben 練習 練習 」 と、おっしゃっています。

ケンプやルービンシュタインでも、もちろん、例外ではありません。



★逮捕された音楽家たちは、経歴だけは、華麗に飾り立てていても、

人物のみならず、その音楽も偽物でしょう。



★本物の芸術は、冷静な計算と、設計、構築を重ね、

その積み重ねの結果としての、ひらめき、から生まれるものですので、

上記のような、まやかしの快楽から、生まれるものではありません。

麻薬をしなければ書けない、という曲は、

取るに足らないものでしょう。



★9月9日に開催します「バッハ平均律アナリーゼ講座」では、

借り物ではないバッハ、つまり、誰かの弾き方を真似したり、

先生に言われた通りのバッハを、弾くのではなく、

ご自身が心から納得し、練習の末に、

素晴らしいひらめきを伴った演奏が、できるようになるための、

基本となるアナリーゼのお話を、いたします。

私自信、バッハと格闘して、見つけ出した内容です。



★いつものように、バッハその人が書いた楽譜の、

ファクシミリを、見ながら、

バッハがどのように、平均律クラヴィーア曲集7番の、

プレリュード、フーガを、作曲し、その上に、

ひらめきを加えていったかを、考えていきます。



★バッハは、平均律クラヴィーアの各曲を、書くに当たり、

1ページ を 6、 7 段にレイアウトして、書いています。

ところが、バッハ自筆譜では、
 
このプレリュード 7 番 の書き出しは、

フーガ 6番の終わった後に、つまり、

そのページの 4段目から、そのまま、書き始めています。

別のページから、始めてはいないのです。



★ 〝 バッハが、紙を節約したから、6番フーガの終わった次の段から、 

書き始めたのだ  ″  と主張する、バッハ学者のしたり顔が浮かびます。

バッハは、自分の芸術を、紙の倹約より下に置く、ということは、

決して、ありません。

平均律クラヴィーア曲集の、他の曲を見ますと、

ゆったりと、余白を残している曲も、たくさんあります。



★なぜ、 6番フーガの後で、すぐに 7番プレリュードを、書き始めたか。

この書き始めは、見開き2ページのうちの右ページにあります。

その左のページ、即ち、前ページの一番上から、

6番のフーガが、始まっています。

7番のプレリュードを、弾く場合、この楽譜のレイアウトですと、

否応なしに、常に、6番フーガのテーマが、

視界のなかに、入ってくるのです。

 

★これこそが、バッハの狙いだった、と思います。

この理由については、講座で、詳しくお話いたしますが、

さらに、それを、深く読み込んでいきますと、

6番、 7番、 8番のプレリュード&フーガの、

驚くべき関連性が、浮かび上がってきます。



★さらに、話は飛びますが、グレン・グール ド Glenn Gould による

8番の演奏法の秘密も、ここから解き明かすことができるのです。



★ヘンレ版で、平均律クラヴィーア曲集を勉強されている方も

たくさんいらっしゃると、思いますが、

旧版のオットー・フォン・イルマー Otto von Irmer 校訂のものではなく、

新版 エルンスト-ギュンター ハイネマン 

Ernst-Guenter Heinemann  校訂版を、お使いください。



★旧版ですと、プレリュードの34小節目、

左手2拍目が  「 A  G  Fis  E  」  となっていますが、

正しくは  「  A  G  Fis  G  」  です。

新版では、ここを、訂正しています。



★「 A 」  にするか、「 G 」 にするかは、バッハ自身も迷ったようですが、

自筆譜の最終稿では、 「 G 」 になっています。

どうして、  「 G 」 を選択したか、についても、

講座で、説明いたします。

 

★旧版では、 59小節目の右手内声 4拍目 「  A  A  」 の、

2つ目の  「 A 」  が、

60 小節目 1拍目の 「 A 」 と、タイで結ばれていますが、

バッハは、タイを書き込んではいません。

新版では、タイを、 (  ) で括っています。



★学生時代の楽譜を、ぼろぼろになるまで、

使うことを、誇るという、風潮もあるようですが、

楽譜も生き物、いつも、申し上げていますように、それも

かなり、いい加減な生き物です。

常に、最新版に目を配り、ヘンレ信者の方も、ご自身の楽譜を、

どうぞ、再確認してください。



★これは、ご自身で、いい音楽を作り上げる上での、

必要、かつ、基礎的な作業といえます。




                                  (  赤い花、 露草  )
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■“トルコの国際音楽祭で、私のチェロ組曲を演奏 ”、ベッチャー先生からお便り■

2010-09-05 16:15:59 | ■私の作品について■

■ “  トルコの国際音楽祭で、私のチェロ組曲を演奏 ″、ベッチャー先生からお便り ■
                                        2010・9・5     中村洋子







★9月に入っても、炎暑の毎日ですが、陽が落ちますと、

肌を横切る風には、若干ながらも、

秋の涼しさが、感じられようになりました。

雨も降らないのに、コオロギなど虫たちも、

暦どおり、健気に、鳴いております。


★昨日、ベッチャー先生からお便りが届きました。

トルコでの 「 夏の国際音楽祭 」で、

私の 「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 を、演奏された、

というご報告に、

音楽祭のプログラムが、同封されていました。


★この音楽祭は、「 7th intenational Gumusluk ( Gümüşlük)

classical music Festival 」、

「 第7回 グムスリュク国際音楽祭 」。


★先生は、この音楽祭で、 10日間、

チェロのマスタークラスを、開催され、

8月 21日 ( 土 )、演奏会を開かれました。



★曲目は、 すべて、無伴奏のチェロ独奏曲。

① バッハ    「 無伴奏チェロ組曲 1番 」、

② 中村洋子  「 無伴奏チェロ組曲 1番 」

③ キルヒナー 「 かく、ソロモンは語りき 」

④ バッハ    「 無伴奏チェロ組曲 3番 」


★グムスリュクは、トルコ南西端にある半島の先、

エーゲ海に面した、国際的な保養地です。

ヘロドトスは、その近くの生まれだそうです。

海のすぐ西には、ギリシアの地が、広がります。



★先生のお手紙は、

                                             22.AUg.2010

  Dear Yoko!  Yesterday I performed your 1.Suite here in

Turky, and it was a succes.The solorecital was in an old

church and was transmitted to a big screen outside,

so quite a lot of people could listen + look.

 I send you the festival brochure, and you can find

on page 25 my program with your name,  (略)

 It is very hot here,but mostly some fresh wind comes

from the mediterranian sea, which is just in front of
 
my room. I have a look of the Greek Islands of Kalymuos

and Kos over the deep blue sea.

  What a rich culture was there in this area with many of

the old Greek philosopheres !

My concerts + masteclasses go on 1. Sept. in Italie

( Cervo + Bolzano ) until end of September.

Beste Gruesse from the Mediterranian Sea!
                                                  Wolfgang.



★演奏会は、古い ( 600年前の )教会で開かれ、

あなたの 「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 を演奏し、成功しました。

教会の外に設置された、大きなスクリーンに、

演奏が放映されたため、本当にたくさんの人たちが、

演奏を聴き、見たことでしょう。

大変に暑いのですが、地中海から、新鮮な風が、

ホテルの部屋に、入ってきます。

部屋の前には、群青色の地中海が広がり、島々が眺められます。

9月は、月末まで、イタリアの  「 チェルヴォ 」  と

 「 ボルツァーノ 」 で、演奏会と、マスタークラスです。
                          ヴォルフガング

★中村洋子作曲  「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 の楽譜は、

輸入楽譜・音楽書の専門店  「 アカデミア・ミュージック 」 で。

> https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501629029&title_type=score 

または、https://www.academia-music.com/
の 「 楽譜コーナー 」→「 弓弦楽器 」→「 チェロ 」→「 作曲家頭文字 」→
「 N 」 → 「 Nakamura.Y 」 にお進みください。


                                  ( グムスリュク国際音楽祭のプログラム、裏&表の表紙 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ Musikverlag Hauke Huck から出版された「虹のチェロトリオ集」の解説■

2010-09-02 00:36:10 | ■私の作品について■

■ Musikverlag Hauke Huck から出版された「虹のチェロトリオ集」の解説■
                            2010・9・2     中村洋子



 
★ドイツ・ドルトムントの音楽出版社 ハウケ・ハック社

〈 Musikverlag Hauke Huck 〉 社から、出版されました、

「 虹のチェロトリオ集 」 全 7曲の、日本語訳と解説です。


▼ ≪ Regenbogen-Cellotrios ≫
         ~ 7 Trios für 3 junge Cellisten ~、
 「 虹のチェロトリオ集 」
         ~ 3人の若いチェリストのための、7つの三重奏曲集 ~


★このトリオ集は、若いチェリストやチェロ愛好家のための、作品集です。

1曲ずつを独立して演奏することも、可能ですし、

全曲を通して、演奏することもできます。

調性を使い、親しみやすい、平易な曲集として書かれていますが、

チェロに必要な表現法が、自然に、楽しみながら身に付くよう、

作曲されています。

ドイツのヤングチェリスト・コンペティションで、優勝者が演奏したり、

音楽会などでも既に、演奏されています。


★ 1)三匹の小熊の行進曲 :

冒頭の曲にふさわしい、メルヘンの国へといざなう、明るく楽しい曲です。

3人の奏者が対等の役割で、あるときはカノン、あるときはユニゾンなど、

刻々と曲の顔が“ 虹のように ”変化します。73小節。


★ 2)おとぎの森  :

2 拍子 Lento tranquillo の、静かで、心休まるやさしい曲。

眠りの森の美女が、すやすやと眠りながら、楽しい夢を見ています。

微風のような2度のモティーフが、印象的です。70小節。


★ 3)テントウムシのメヌエット :

3匹のテントウムシが庭で、手をつないでメヌエットを踊っています。

2番「おとぎの森」の2度のモティーフが、テントウムシの羽音として、

また、登場します。

さんさんと太陽が降り注ぐ初夏の風景。59小節。


★ 4)ファンファーレ :

王さまの登場を高らかに告げるトランペットが、城壁から響きます。

第1、第2、第3チェロが、順次カノンで姿を現します。

他の奏者の演奏を、注意深く聴きながら、

演奏できるように、なります。48小節。


★ 5)シチリアーノ :

メランコリックな、少し大人っぽい曲。

さざ波のような2度のモティーフが、憂いに満ちた心の内面を表現します。

最終小節は、全休止。

余韻として残っている音を、心の中で味わいます。53小節。


★ 6)カエルの王様のサラバンド :

魔法により、カエルに変身させられた王様。

カエルの姿のまま、王女様に求婚します。

1 オクターブの跳躍進行は、カエルのジャンプ。

カエルが、池に飛び込み、

水紋が丸く、幾重にも広がって曲が終了。50小節。


★ 7)出帆 :

「帆を上げよ!、出発だ」。

溌剌と朗らかなチェリストたちが、曲集の最後を、

力強いジーグによって、締めくくります。

荒波を渡って行く帆船が、ディミヌエンドしながら、

視界から、姿を消していきます。42小節。



★この曲集の案内は、輸入楽譜の 「 アカデミアニュース 」 8. 9月号の、

11ページにも、以下のように、掲載されています。



★ ≪ ベルリン・ Ries & Erler 社から「無伴奏チェロ組曲第 1番」を出版した

中村洋子の新作「虹のチェロトリオ集」が、ドイツ・ドルトムントの、

ハウケ・ハック 社から出版されました。

アマチュアでも演奏でき、しかし、質は高く、

音楽の喜びに溢れる曲集です。

既に、ドイツの 「 Young cellist competition 」 で、

優勝者がこの曲を演奏しています。

「 おとぎの森 」、 「 シチリアーノ 」 など 7曲で構成  ≫


楽譜のご案内

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501639732&title_type=score

または、
https://www.academia-music.com/

の 「 楽譜コーナー 」→「 弓弦楽器 」→「 チェロアンサンブル 」→

「 作曲家頭文字 」→ 「 N 」 → 「 Nakamura.Y 」 にお進みください。

 

ハウケ・ハック 社 のホームページ

http://hauke-hack.de/page4.php






                              ( 虹のチェロトリオ集・表紙、唐辛子 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲







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