音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ シューマンのアナリーゼ ■ バッハからの影響、フォーレへの影響

2007-12-24 13:29:30 | ★旧・私のアナリーゼ講座
■ シューマンのアナリーゼ ■ バッハからの影響、フォーレへの影響
2006/6/13(火)

★一昨日(6月11日)、日本ベーゼンドルファーで「シューマンのアナリーゼ講座」が無事終了いたしました。

シューマンの個々の作品分析とともに、シューマンが影響を受けた作曲家、さらに彼が後の作曲家に

どう影響を及ぼしたか、についてもお話いたしました。

シューマン(1810~1856)が、終生、学び、勉強し続けた作曲はバッハ(1685~1750)です。

精神の病に侵され、作曲の筆を折る直前の43歳(1853年)。

ほとんど絶筆に近いこの作品は、バッハの「無伴奏バイオリンソナタ」と「無伴奏チェロ組曲」に

ピアノ伴奏を付けることでした。

この曲は、一般にはほとんど知られていません。(この楽譜はドイツ・ペータース版で入手可能です)。

病で作曲が困難になったシューマンが、バッハをもう一度勉強し、立ち直り、新たな創作に向かいたい、

という激しい渇望がひしひしと感じられてくる作品です。

「バッハ」に立ち戻ったのです。

心を打つ作品です。

歴史に「もしや」、という言葉は禁句ですが、彼がもし、病から立ち直り、作曲の筆をもう一度

とったとき、どんな作品が生まれていたのでしょうか。

1848~49年にかけて作曲された「森の情景」は、彼としては後期の作品です。

バッハの「フランス風序曲」の影響が、第4曲目「呪われた場所」の複付点のリズムにみられます。

このことは、よく知られています。

しかし、第7曲目の「予言の鳥」の特徴的なリズム(付点8分音符と、その後に続く、32分音符の

3連音から成る“ター、タタタ”)が、同じく「フランス風序曲」からきているように思われてなり

ません。

これはあまり気付かれていないことですが、私の作曲家としての勘です。

シューマン自身がもし気付いていなくても、バッハ勉強から自然ににじみ出て来たものではないで

しょうか。

第2曲目「待ち伏せる狩人」は、明らかにシューベルト「冬の旅」の18曲「嵐の朝」と似たモチーフを

使用しております。

これは、一目瞭然です。

しかし、シューマンは、バッハやシューベルトの影響を受け、さらにそこから、全く新しい曲を創り

上げています。

バックハウスがベーゼンドルファーピアノで弾いた「森の情景」の名演奏を、皆さんと一緒にCDで

聴きました。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


シューマンは、自分より35年後に生まれたガブリエル・フォーレに大きな影響を与えました。

アルフレッド・コルトーは、「フォーレの歌曲『夢の後に』の伴奏形は、シューマンのピアノソナタ

第2番2楽章の冒頭、左手の八分音符の音の刻みに類似している」と、指摘しています。

この2楽章はもともと、「秋に」という題名の歌曲をピアノ用に書き換えたものです。

コルトー(1877~1962)は、20世紀の大ピアニストです。

パリの「エコール・ノルマル音楽院」は、コルトーが創立しましたが、彼の晩年1954~1960年にかけて

の、マスタークラスでのレッスンがCD化されています。

そこで、彼はこの2楽章をレッスンしています。このCDも皆さんと聴きました。

フォーレは、シューマンの「子供の情景」を校訂し、出版しています。

「子供の情景」には、有名なトロイメライも含まれています。

この楽譜は、フランスのデュラン社から出ています。

大変に素晴らしい版で、シューマンをさらに深く知ることが出来ます。

それと同時に、フォーレの作品を理解し、演奏するうえでも参考になります。

「子供の情景」は、各曲に魅力的な題名が付いています。

各曲が有機的に関連付けられ、構成されているため、もし、題名がないとしても、独立した芸術作品

として同等に聴くことが出来ます。

これは、フォーレのピアノ連弾曲「ドリー」も同じではないでしょうか。

「ドリー」は、フォーレの“子供の情景”だったといえるかもしれません。

ちなみに、シューマンは「子供の情景」を1838年、28歳の時に作曲しております。

結婚の2年前、子供はいない独身時代の作品です。

バッハ(1685~1750)、シューベルト(1797~1828)、シューマン(1810~1856)、

フォーレ(1845~1924)という大作曲家の流れは、フォーレから弟子のラベル(1875~1937)に

受け継がれ、フランス音楽の大きな源流となっていったのです。

シューマンとシューベルトとの関係をもっとお話したいのですが、今回はここまでといたします。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


今日(6月12日)は、伝通院コンサート「東北(とうぼく)への路」のリハーサルで、

八木千暁さんにお会いいたしました。

「東北への路」で最後に演奏される≪「白秋」~波の間に≫で、八木さんは龍笛と楽琵琶を

演奏されます。

また、歌も楽琵琶に合わせて歌われます。

昨日のシューマンから一転、日本の雅楽の奥深さと、その楽器によって新しい21世紀の音楽を

創造する喜びを味わいました。

雅楽の合奏では、楽琵琶はそれほど目立った楽器ではありませんが、表現力の深さに驚きました。

八木さんの歌の素晴らしさにも感動したました。

陶酔してしまいました。

このお話は近く、ブログでまた、ご報告いたします。


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