音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ ブラームスが晩年に到達した世界 ■

2007-12-24 16:04:20 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2007/1/19(金)

★1月28日の「ブラームス・アナリーゼ講座」に向け、

ブラームスのピアノ作品を勉強中です。

ロマン派の作曲家といいますと、シューマン、ショパン、ブラームスなどを思い浮かべる方が多いようです。

画家のマネやモネが、曖昧模糊な風景をただ単に絵にした「印象派」の画家ではないのと同様、

この3人が、感情のままに、霊感を受けて作曲する「ロマン派」でないことは、当然です。

しかし、よくいわれるように、≪ブラームスは保守的な古典主義作曲家≫では、決してありません。

このことは案外、理解されておりません。


★ショパンについては、彼が若い時に習った作曲の先生が、当時としては変わった人で、

バッハ好きだったために、幸運にも、ショパンはバッハをよく学ぶ結果となりました。

それが彼の傑作を生んだ源泉であります。

ショパンのエチュードは、バッハの平均律プレリュードを下敷きにしていることが、明確に分かります。

ショパンの作品は、一生涯、ある意味で大変に「古典的」であり続けました。

このショパンの「古典的」については、いずれアナれーゼの会を改めてお話いたします。


★ブラームス晩年のピアノ小品群は、「年老いて大曲を書く気力が失せたため」という

愚かな評論や伝記があります。

ブラームス本人が、実際にもし、それに近いことを発言していたとしても、

それは、彼一流の韜晦でありましょう。

実際、ブラームスは、皮肉屋で知られています。


★ブラームスの和声言語の特性は、10項目ぐらい挙げることが出来ますが、

それは、≪すべて調性の破壊≫へと導いているものです。

それを理解しないと、晩年の作品を≪老いた大家の「諦観」「悲しみ」などから生まれた≫とする

常套的な解説に騙されてしまいます。

ブラームスが到達した凄い世界を、作曲家ではシェーンベルクが、的確に捉え、

一生涯をブラームス研究に充て、自身の創作活動の源としています。

それは、ベルクやヴェーベルンにも伝えられています。


★ピアニストでは、ヴィルヘルム・ケンプやグレン・グールドが、いち早く気付き、

ブラームスの意図に沿った演奏をしています。

ケンプやグールドは、ピアニストですから、何も言いません。

ブラームスの意図に気付くとは、音楽の設計図を理解できた、ということだけなのです。

彼らは、設計図の上に、素晴らしい音の建築をピアニストの仕事として、施工したのです。


★設計図を読めない、“耐震偽造”のブラームス演奏は、あれこれいくら聞いたところで、

クラシック音楽を聴く本当の喜びは、味わえません。

ケンプやグールドの演奏は、何度聴いても、その都度、新しい発見があり、

飽きることがないのはその所以です。


★そういう演奏を不朽の名演というのでしょう。



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