~ タイガー・ウッズは出てこない…? ~
漫画のタイガーマスクこと伊達直人を名乗る人から、児童養護施設などに次々と贈り物が届けられたのをきっかけに、それが燎原の火のごとく全国に広がり、今や一大ブームになっている。 それもタイガーマスクの向こうを張ってか、「桃太郎」 や 「矢吹丈」、「龍馬」、「鉄腕アトム」、「せんとくんの友人」 など、出るわ出るわの大騒ぎ。 一方、タイガーマスクの漫画そのものもまたブームが起きているという今日この頃である。
龍馬を名乗る人物からは、子ども相談所の玄関に置かれたランドセルなどの中に、「大きな夢と大きな愛を持った人間にならんといかんぜよ 龍馬」 というメッセージが入っていたという。
なんだかなぁ。
また同じタイガーマスクでも、「北アルプスの伊達直人」、「年金生活の伊達直人」、「デザイナー伊達直人」、「田舎伊達直人」 などいろんな伊達直人が登場し、中には伊達政宗と名乗る人物まで登場した。 正宗とタイガーマスクはあまり関係ないと思うんだけど、伊達つながり…というところでしょうか。
大阪府内でも、伊達直人をはじめ、「八十歳の花咲じじい」 とか 「みなし子ハッチ」 とか 「泉北のキン肉マン」 の名前で、施設や市役所に贈り物が届いている。
ひとつ何かが起きるとワァ~っと同じような現象がなだれのように起きるのが日本人の特徴であり、たいていはロクなことが流行しないのだけど、今回はまあ、善意のヒーローたち…ということで、メディアもこの風潮をベタ褒めしている。
匿名は匿名でも、有名キャラクターを名乗って贈り物をするところが、いかにも日本的である。 実名を記すのは何かおこがましく照れくさいけど、さりとて 「匿名」 の2文字だけでは 「自分」 というものが消えてしまって物足りない、ということで、やっぱりテレビや新聞に取り上げてほしい気持ちが、どこかで働いているのかも知れない。
巷間知られている如く、漫画のタイガーマスクは孤児院出身だから、児童養護施設に伊達直人の名で 「恩返し」 をするのは話としてよ~くわかるけど、それ以外はふつうの漫画などのヒーローなわけで、贈り物との必然的関連性はない。 贈り物をするなら、「匿名」 だけでいいのではないか…。 な~んて思うのだけれど、そんな理屈をこねていると、善意を踏みにじる不遜な発言だぁ…とお叱りを受けるかも知れないのでこれ以上は言わない。
むかし、はっきりとは覚えていないが、年末になると 「名もない町の天狗より」 という人物から、「恵まれない人たちへ」 と、役所かどこかへお金が送られてきたことがあり、毎年、そのことが報道されていた。 また、佐賀県のある施設には、20年前から 「月光仮面」 を名乗る人物から贈り物が届いているそうだ。 そんなことで、こういう善意は、今に始まったことではないのだが、なにしろ今はメディアが大きく取り上げると、それがドド~ンと、あっという間に全国津々浦々に広まってゆく。 これも群集心理のひとつだろうか。
この 「善意の輪」 には、いろんなヒーローたちが登場して賑やかなのだが、漫画といえば、僕たち団塊世代が小学生の時に人気があったのは、「赤胴鈴之助」 や 「まぼろし探偵」 、「鉄人28号」、「矢車剣之助」、「イガグリ君」、「七色仮面」、そして 「月光仮面」 などだった。 今回のブームでは、20年前から続いているという 「月光仮面」 以外はそういう漫画のヒーローたちが登場していないのが少し寂しいけれど、あんまり古いので、善意の人たちもそんな名前を使う気にはならないのだろう。
しかし、「善意の贈り物」 とか 「恵まれない人たちを救う」 と言えば、僕など真っ先に思い浮かべるのが 「鼠小僧」 である。 フルネームでいえば、鼠小僧次郎吉。 元祖、善意の人…というイメージである。
江戸時代、悪事を重ねる武家屋敷に忍び入り、小判を盗んで、それを貧しい善良な人たちの住居にばら撒くという 「義賊」 である。 盗み終わった後、武家屋敷の壁に、「鼠小僧参上」 とのメッセージを残すのがカッコいい~。 過去、東映時代劇なんかで何度も映画化され、テレビでは、小川真由美が主役の 「女鼠小僧」 という人気時代劇ドラマもあった。
「義賊」 というのは、命をかけてでも、貧しい人を支えようとしたお仕事だったのである。
しかしまあ 「義賊」 と言っても、泥棒には変わりないので、現代にこういう人が現れて、たとえばカネにまみれた某政治家の屋敷に忍び込み、そのカネを盗んで児童養護施設に贈ったとしても、防犯カメラにその姿が映り、たちまち窃盗罪で捕まり、施設に贈られた金品は返納させられる…というのがオチであろう。 ずいぶん味気ない世の中になってしまったものだ。
ところで…
タイガーマスクのブームが再燃し、猫も杓子もタイガーマスク、タイガーマスクの大合唱であるが、これにひっかけて、タイガーウッズの名前で贈り物をする…という人がいないのは、当り前と言えば当り前か…