ナイアガラの滝をひと通り見物するコースは午前中で終わった。
ヨン様似のガイドさんにホテルまで送ってもらい、別れを告げた。
このガイドさんは、車の乗り降りの時も、ステップが凍っているので、僕たちに丁寧に手を添えて、滑らないように気遣ってくれた。ハンサムだし、言葉づかいも上品で丁寧だし、よく気が回るし…と、妻たちもすっかりこのガイドさんが気に入っていたようである。しかし、そのヨン様とも、半日でお別れだ。
そろそろ昼食をと、通りがかったレストランに入ると、中が暗い。
しかも異様な雰囲気に包まれている。
何が異様かと言えば、広い室内全体がジャングルのようになっているのだ。
そばには大きなゴリラたちが睨みをきかせ、木々の生い茂る中には怪しげな鳥や巨大な蝶や蛾の姿があり、あちらこちらの枝に猿がぶら下がっていたり大蛇が巻きついていたりする。地面には象やキリンやその他の動物がいる。実物と見まがうような精緻な作りの模型である。
不気味な雰囲気の中で、3人でパスタやサンドイッチなどを注文して、僕は地元カナダのビール「ブルー」でのどを潤していると、突然室内にピカッと稲妻が走った。…と思う間もなく、ゴロゴロ~、ダバダバ~、ビチャビチャ~と、雷鳴が轟き、激しく風の音と雨の音が周囲に鳴り響いた。それを合図に、動物たちがいっせいに動きだす。ゴリラはボコボコ胸を叩いて雄叫びを上げ、鳥たちはキーキーと鳴き叫び、猿はキャッキャと狂ったように騒ぎ、象は低い地鳴りのような声をしぼり出す。これにはびっくり仰天した。それが2分ぐらい続いたろうか…。しばらくすると、騒ぎはピタリと止んで、動物たちはもとの動かない人形に戻った。
そして…
15分ほどすると、また同じことが繰り返された。
一定の間隔で、鳥獣たちが大騒ぎをするジャングルレストランである。
しかし、まぁ、ナイアガラは滝だけで成り立っている観光の町だから、周辺は、ホテルとレストランと、カジノも含めたゲームセンターと、お化け屋敷しかない町である。
レストランも、ありきたりの店では客を呼べないと考えているのだろう。
とにかく滝を目当てに世界中からやってくる観光客に合わせて、娯楽に満ちた施設・設備があふれているというのが、ナイアガラ滝の周辺の印象である。
ジャングルレストランの入口付近。
15分に一度、このゴリラたちは暴れ出す。
レストランから、歩いて数分のところにレインボー・ブリッジがある。
レインボー・ブリッジはカナダ側とアメリカ側を結ぶ橋のひとつで、ナイアガラ観光では最も有名な、また便利な橋である。アメリカ側からしても、歩いてこの橋をわたりカナダ滝を見られるのだから、そりゃ~便利だよね。
ホテルの部屋の窓から見たレインボーブリッジ。対岸がアメリカ合衆国。
この右の方向にアメリカ滝があり、さらに右にカナダ滝が見える。
食事を終えた僕たちは、レインボーブリッジへ向かった。
橋を渡ってアメリカ側へ入るつもりはないが、いちおう対岸まで行ってUターンして帰ってくることにした。
橋への入り口は無人である。
自動改札のようなものがあり、そこで50セント硬貨を1枚入れると改札口が開いて通ることができる。小銭がなかったけれど、ちゃんと両替機がそばに備えてあったので、3人が50セントずつ入れて自動改札を通ると、橋の上に出た。
ポツリ、ポツリと人が歩いている。
橋の中ほどに近づくと、ナイアガラ滝がバランスよく見渡せる格好の撮影ポイントに来た。西洋人らしき3人連れが写真を撮り合っていたので、僕はその人たちに、「3人いっしょに撮ってあげましょうか」と言って、滝をバックに3人が並んだところを撮影してあげた。すると、一人の女性が「ありがとうございました」と上手な日本語でお礼を言ったので驚いた。
僕らも、ここで何枚か写真を撮った。
橋の真ん中に、カナダの国旗とアメリカの国旗がはためいていた。
ここが両国の国境となるのだ。
「ここからは、アメリカ、ゆうこっちゃね~」
な~んて言いながら、テクテク歩き、橋を渡りきったところに建物がある。そこでアメリカの入国審査をするのであるが、もちろんアメリカ入国の意思のない僕たちは、そこでUターンをした。
再びカナダ側を向いて歩く。
小さな赤ちゃんを乗せたベビーカーを押す若い母親がすぐ後ろを歩いていた。赤ちゃんに冷たい風が当たらないように、ビニールのようなもので完全防寒されているベビーカーである。お母さんもモデルみたいに美人だけど、くるくると真ん丸い目をした赤ちゃんも、お人形さんのように可愛い。
橋を渡り終えると、入ってきた自動改札から出ることができないので、矢印の方向に従って歩いて小さな建物の中に入る。そこを黙って通り抜けようとしたら、制服を着た男性がカウンターに座っていて「こちらへ」と手をこまねく。
「なに? なに? なんですか~?」
「パスポートを見せてください」
と、その制服の係官が事務的な口調で言った。
えっ…? あ、そうか。
ここは、カナダへの入国審査をする場所なのだった。
でもなぁ…。
僕たちは、ひとり50セントを払ってごく簡単にこの橋に出て、橋を向こうまで歩いたけど、アメリカには入らずUターンしてきただけである。ちょっとしたお散歩なのだ。それなのにこの、ものものしい入国審査は何なのだ! 元の場所に戻ってきただけではないか。
それにしても、パスポート…? ぎょぎょっ。持って来たかなぁ。
…あ、持っていた、持っていた。
パスポートはホテルの部屋の金庫には入れず、3人とも持ち歩いていた。
よかった~。いったんカナダから出たことには違いない。お散歩であろうが何であろうが、他の多くの人たちはアメリカからやってくるのだから、よ~く考えてみれば、ここでの入国審査も当然である。しかし、そこをまったく意識していなかった。要するに、軽く考えていたのである。
そういえば、昨夕、ホテルまで送ってくれた旅行社の人が、「レインボーブリッジを渡るときはパスポートを持って行ってください」と言っていた。僕はそれを、アメリカに入る場合のことを言っているものだと思ったので、まさか橋を往復するだけでまたカナダに入国審査をされるとは、考えも及ばなかった。
しかも係官はパスポートを確認するだけでなく、「カナダへ来るのは初めてか?」とか「何日間滞在するのか?」とか「宿泊はどこなのか?」とか、細かい質問をしてくるので、ちょっと緊張した。「行ってよろしい」と言われるまで、不安だった。海外旅行は少しでも油断をすると、こんなふうに、すぐに緊張の場面に出くわす。
橋の上が国境になっていると言えば、むかし、東南アジアに旅行したとき、マレーシアのジョホールバールからシンガポールに入るのに、同じように、徒歩の人たちが橋の上での入国審査を受けている光景を見たことがある。その時にも感じたことだが、日本という島国に生まれ育った僕たちは、「国境」というものが具体的にどんなものなのか、どうもピンと来ない。
川ひとつ隔てた目と鼻の先に外国があるということ自体に、僕たちは慣れていない。このレインボーブリッジでの入国審査のささやかな体験は、そのことを改めて感じさせられた出来事であった。
ぶらぶらと道路を歩いて行くと、やがてレインボーブリッジの入口にさしかかる。
橋が間近に迫る。このまま左へ進むと、橋に行く自動改札がある。
50セントコインを1枚入れて自分で勝手に改札を通過できる。
そこには誰も人がいないので、ごく簡単に橋には行けるのである。
橋の中間から見るナイアガラの滝は、なかなか絵になる光景である。
こちらは人物が邪魔して絵にならない。すんません。出たがりなもんで。
橋のちょうど真ん中が、カナダとアメリカの国境だ(左車道、右歩道)
橋を渡りきるとアメリカの入国審査の建物がある。
看板の Pedestrians は、「徒歩旅行者専用」 の意味。
アメリカ側の手前まで歩いて行って、またUターンしてカナダ側まで戻ってきた。
入るときは写真の左側にある自動改札で橋に入ったのだが、
橋から出るには、Canada と矢印のある方向へ行かなければならない。
この中に、カナダの入国審査をする係官が座っていた。
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国境に関する話をもうひとつ付け加えたいと思います。
携帯電話のことである。
僕は au の携帯電話を使っているが、これにグローバル機能というのがついている。説明書では、海外から日本にメールや電話ができると書かれている(もちろん逆も)。これはとても都合がいい。僕は説明書に書いてあるとおり、エリア情報というのをダウンロードした。そして、アメリカのデトロイト空港に着いたとき、操作をすると「ここはUSAです」と画面に出た。そしてそのとき、日本時間では深夜の1時か2時ごろだったが、ためしに長男にメールを打ってみた。すると間もなく長男から「着きました」という返事が来たのだ。
やったぁ。
これで家族や友達にメールができるぞ~。
デトロイトからナイアガラに異動して、また携帯のグローバル機能を操作したら、「ここはカナダです」と画面に出た。かしこい、かしこい。そして、ここでも日本へのメールができた。「今、カナダのナイアガラにいます」というメールを何人かの人たちに送り、返事ももらった。楽しかったな~。
そのあと、トロントへ異動した。
ここも、アメリカとの国境に近い都市である。
ここで携帯電話に異変が起きた。
デトロイトやナイアガラでは成功したメールが、できなくなった。
グローバル機能を操作すると、「ここはUSAです」と出るのだ。
「おいおい。ここはカナダのトロントだよん」と携帯につぶやく僕。
メールを送ろうとすると「送信できません」というメッセージが出るばかり。
とうとう、トロントからは一度もメールを送ることができなかった。
帰国して携帯に詳しい知人にそのことを話すと、
「国境近くだから、携帯は、ここがアメリカなんかカナダなんか、わからへんかったんんと違う…?」などと言う。すぐ目の前にアメリカが見えていたナイアガラでも「ここはカナダです」とちゃんと識別してメールも成功していたのに、なんでトロントではあかんかったんやろう。
わからへん。いまだに、わからへん。
そうですかぁ~、風間杜夫とちゃいましたか(^^)
でも、フミヤにもボタンにも似てますよ☆どれをとっても色男ですやんか
ゴリラのレストランも楽しそうですね。15分に一回というのがミソですね。5分に1回やと、関西人は「もう、ええっちゅうねん!」とツッコミますからね。
しかし、パスポートを持っていてよかったですね、読んでいてハラハラしましたわ。
持ってなかったら。。。冷や汗がツララです。
そうですか、それでメールが来なかったんですね。
何かあったんかな?と心配しましたよ。グローバル機能も、微妙な国境には対応できなかったんですね。
そういえば、うちの家は門真と大阪市と守口市の境にあります。関係あらへん。。。
写真、楽しかったです☆
外国が「海外」でなく地続きである不思議。列車内や船内で行う入国手続きもまた、普段味わえない楽しみです。
カナダは国内でも時差があり、移動中に時計を合わせるのを忘れると大変なことになります。
かく言う私も飛行機での移動中に時差を忘れ、乗り継ぎの飛行機に乗り遅れました。
写真撮影禁止の軍事施設側で写真を撮り、当局に連行されたり…
全財産入った財布をホテルに預けたまま帰国しちまったり…ホントにねぇ…〓
のんさんは寒さに強いようだから、北極圏でオーロラ見物はいかがでしょうか。凄いです!オーロラ!
あまりの感激に地面寝転んで見ていたら服が雪に張り付き、起き上がれずにいたら、警官に死体と間違われましたけど…私。
中でもノンさん登場の写真がよかった。
下のコメントには笑いました。
なぜかこの写真、「石原慎太郎」風ですね。
一体ノンさんは誰に似ているのですか?
無事帰れてよかったですね。
パスポートなかったら、大概ややこしいことになっていたでしょうね。
携帯はまだまだ開発しないといけない部分があるのでしょうね。
外国ともなれば、あんまり複雑なエリアだと、携帯も正しく反応しないのですかね。
私の携帯は家の中でもメールが送信できないときが多々ありますから。
yukariさんからコメントをいただいたあと、妻に
「僕は風間杜夫に似てるか…?」と訊いてみました。
妻はじっと僕の顔を見つめたあと、宙を睨み、
また僕の顔をじっと見つめ、さらに宙を睨み、
腕組みをし、目を閉じ、僕の顔を見て、また目を閉じ、
そうしてやっと口を開きました。
「さぁねぇ…?」(それだけかいな)
アナザービートルさんが、僕は誰に似ているのか…と言われていましたが、
「キアヌー・リーブスに似てます」と言ったら靴が飛んでくるでしょうね。
そうそう、キアヌー・リーブスはカナダ人なのだと、
カナダの人が誇らしげに言ってました。お国の自慢の俳優のようです。
お宅が門真市と大阪市と守口市の境にあるのですか。
それはいいですね~。
あるときは門真市民。
またあるときは大阪市民。
そして、またあるときは守口市民…。
門真、大阪、守口のそれぞれのゴミ収集日にゴミを出せますね。
ちょこっと、その市の境界線の中にゴミを置いたら引き取ってくれますやろ。
ひょっとしたら定額給付金も3つの市から三重にもらえたりして。
…そんなわけ、ないか。
ヨーロッパなどでは列車内での手続きが多かったですね。
まあ、ヨーロッパは国境があってないかのごとく、緩いですけど。
その点、アメリカは厳しいですよね。
ハワイでも、実にうるさいし、妻は指紋が合わないからということで、
別室へ連行されましたからね。指が荒れていたようです。
今回は、クリームを丹念に塗って手入れをした成果が出て、無事でした。
その点パリなんかは、入国審査もあっという間でした。
時差に気づかないというのも怖いですね。
僕にECCを紹介してくれた女性も、先年、時差のことを忘れていて、
ロンドンからフランクフルトで乗り換え時、飛行機に乗り遅れたとか。
新婚旅行で財布を忘れたお話は、以前、じゃいさんが始めてコメントを
下さったときに、書かれていましたねェ。さぞ困ったことでしょう。
しかし、写真撮影で当局に連行されたという話は穏やかではありませんな。
僕は寒さに弱いので、北極圏のオーロラ見物はねぇ。どうでしょうか…
地面に寝転んで死体と間違われるようなことはしないと思いますけど(笑)。
でも、その話って、笑う話なのか恐怖体験なのか、どっぢゃ?
それを今度の旅行で活用できるとは、妻に聞くまで気がつきませんでした。
デトロイトで機能を操作したら「ここはUSA」です…
と出たときは、ちょっとした感動を覚えました。
ナイアガラに着くと「ここはカナダです」と出るんですもんね。
すんご~い。なんてかしこい奴のだろう…とびっくりびっくり。
最後のトロントでは、携帯もバテたのか、狂いました。
後半に弱いんだ、この携帯は。
家の中でも携帯が通じないことがあるのですか?
ははぁ、やっぱり。
知り合いの議員さんも、そこの家に携帯電話をすると、
相手の「もしもし」の声が「もしも…」くらいでプチっと切れます。
で、家の固定電話に掛け直します。
「うちの家の中は電波が届けへんねん」とおっしゃってました。
まさかなぁ、と思っていましたが、やはりあるのですね。
僕が誰に似ているか…? まさか石原慎太郎はありませんが…
高校のとき、体育の先生から、
「お前の顔、ワシの息子の顔とそっくりや」
といわれ続けていました。
あるとき、先生がその息子の写真を持ってきたので見せてもらうと、
生後3ヶ月の赤ちゃんでした。
「どや、お前とそっくりやろ」ですって。
それ以来、いろんな人に似ていると言われてきました。
また、改めて書いてみたいと思います。