そこへやって来たのが…
40年来の付き合いがあったK田君であった。
これまた、びっくりするような偶然だった。
…ということで、前回は終わりました。
K田君のことを僕は友ちゃと呼んでいたので、
このあと、彼のことを友ちゃんと表記します。
退職してから、友ちゃんとは一度も会ったことがなかった。
彼もまた火災保険でやって来て、今から帰るところだという。
コバヤシ君がその場を離れて、今度は友ちゃんとの立ち話だ。
彼は10年少し前、役所仕事のストレスで心の病にかかった。
それまでの彼は、とても明るかったので、信じられなかった。
彼も僕も映画が好きで、土曜日の午後は2人でよく映画館に行った。
その中には…
「『宮本武蔵』5本立て」とか、
「『仁義なき戦い』5本立て」…とかも、
見に行ったなぁ。
こんな特別上映の時には、ほぼ1日映画館にいる。
弁当とワンカップを映画館に持ち込んでね。
2人だけの「映画友の会」を結成していた仲である。
彼が心の病で長期休暇に入った時は、さすがに驚いた。
僕なんかより遥かに明るい性格だったはずだ。
それでも、何かの拍子でそういう病気になるんだなぁ…と
これまで思いもしなかった感覚にとらえられたものだった。
しかし、この日、6年ぶりぐらいに会った彼は、
「もう病気はよくなったみたいや」と自分から切り出した。
聞いてホッとした。
「あれは51歳の時やったから…治るまで10年かかったなぁ」
そう言って、友ちゃんは目を細めた。
やはり、ウツ的な病は、簡単には治らないのだ。
「近所の人が言うには、あの時は肩を落として歩いていたけど、
このごろは、前向いて歩いているなぁ…と言われるねん」
そんなことも言った。
「また、飲みに行ったり、映画に行ったりしたいね」
と、僕と友ちゃんは、懐かしく語り合った。
「ところで…これから、家に帰るの?」と僕が聞くと、
「いんや、阿倍野へ出て、パチンコでもしようと思ってる」
それでは…と、2人で役所を出て駅に向かった。
2人で松原の駅までゆっくり歩きながら、
いろいろな積もる話に夢中になっていた。
駅が近づいたとき、「あっ」と、急に僕は思い出した。
「僕は役所へ自転車で来たんやった」
友ちゃんに会って、僕はすっかりそのことを忘れていた。
友ちゃんは、また目を細めて、
「あ、そうかいな。…じゃ、役所へ戻らないとねぇ」
僕らは歩道の真ん中で足をとめた。
ここでお別れである。
立ち止まったまま、もう少ししゃべった。
そこへ、一人の女性が通りかかった。
そして「あれぇ」と言って僕の肩をたたいたのだ。
見ると、2年ほど前に退職した美○子さんだった。
6年前…僕が退職した日に、帰宅すると、
彼女からの花束が届いていた…。
その後彼女は、定年を待たずに退職した。そして、
今では、毎年の年賀状で、互いに冗談を書き合う間柄だ。
友ちゃんと話していたので、彼女はそのまま行ってしまった。
せめて少しでも話したかったけれど、まぁ仕方なかった。
話は尽きなかったが、友ちゃんと別れた。
友ちゃんは松原の駅に向かい、
僕はまた歩いて役所へ引き返し、
自転車に乗って帰途についた。
役所へ行ったのは9時半で、用件を終えると、
そのままスポーツジム・コスパへ行くつもりで、
大きなリュックも持っていたのに、気がつけば昼を回っていた。
時間を見て急にお腹が減ってきた。
そのまま家に帰って、お昼ごはんを食べた。
結局、コスパには行かなかった。
でも、この半日は、多くの懐かしい人たちとの会話があった。
タイムスリップして、在職中の日々へ戻ったような感覚だったなぁ。