スポーツジムの帰りにスーパーに寄るというのが、
僕のふだんの日課なのだけれど、そのスーパーで、
ひとつだけ苦手なことがある。
あの「試食」とか「試飲」とかいうやつ。
スーパーの何かのコーナーで、立っている人。
買い物客に、お勧め品を試食させようとする人。
その人は、手に爪楊枝を持ち、何かを突き刺している。
「つまようじ男」ではなく「つまようじおばさん」だ。
突き刺したものをお客さんに食べさせようとしている。
むろん、食べさせて、買わせようとしているのである。
あれを見ると、僕はそこからなるべく離れて歩くようにしている。
「はい、どうですか、ご主人。シシャモですよ~」
などと、僕の行く手を阻むようにそれが突き出される。
「やめてぇ」と、僕は心の中で叫ぶ。
中にはかなり強引な人もいるので、ホント閉口する。
全然気がつかないふりをして通り過ぎようとしても、
パッと前に出てきて、「どうぞ~」と勧めるのだ。
手刀を切るように「いえ、結構です」と言いながら、
つまようじおばさんから身をかわし、足早に過ぎ去る。
勧められるつど、そのパターンを繰り返している。
僕は生まれつき気が弱いのだ(本当です!)。
人に勧められると、断れないタイプなのである。
そんな性格だから「試食」は敬遠する。
食べたら買わなければならない、と思ってしまうから。
そういう僕だったのですが、先日、驚くべきことが…
ほぼ毎日寄る近所のスーパーでのこと。
いつもの惣菜売り場ではなく、お酒の売り場付近におばさんがいた。
つまようじで何かを刺して勧めているのではないようだ。
僕は缶ビールの6本セットをカゴに入れ、
その人の前を通り過ぎようとした。
すると…「どうぞ、新発売ですので」
と缶チューハイを僕の目の前に差し出したのである。
1本まるごと…である。
「どうぞ」と言われたので、それをくれるのかと思ったが、
まさか、缶チューハイをそのままくれるって、聞いたことがない。
ちっちゃい容器に注いだ「試飲」ならわかるけれど…
怪しい…と思い、うつむいてそこを通り過ぎようとしたら、
「どうぞ、お持ち帰りくださ~い」と、また缶を差し出した。
「はぁ?」と僕は立ち止まり、顔を上げて、
「これ、もらっていいのですか?」と確かめた。
相手の女性は「ハイ、どうぞ。新発売です」
とまた「新発売」を繰り返し、僕にそれを手渡してくれた。
思わず手を出してそれを受け取った僕は、
「もらっていいんですね?」と、またまた念を押した。
「はい。どうぞ、どうぞ~」
ニコニコ笑うだけで、買ってくれとも言わない。
ただ、新発売ですからお試しください、と言うばかりだ。
「あ、ありがとうございます」と思わずお礼が口から出た。
買い物を終えた僕はそれを手にしたままレジに行った。
レジの人も、そのことはちゃんとわかっているようで、
僕が手にしている缶チューハイはカウントしなかった。
いやまぁ、これが「試飲」と言えるかどうかわからないが、
僕はまるごと1本の缶チューハイをもらってその店を出たのである。
お金にすれば安いものだけれど、何やら得がたいお得感があった。
またその気前のよさに、ちょっぴり感激もしてしまった。
こういう気分を、感無量 → 缶無料 というのでしょうか…?
(…なんのこっちゃ)