「退職したら、想像以上に生活が激変しますよ」
退職前に、何人もの人からそう言われたことを、今になって、改めて思い出す。
あれから、2年が経った。
たしかに変わった。 それも、言われたとおり、「激変」 した。
通勤しなくてよい、ということは、それだけで宇宙人にでもなったみたいだった。
今年あたりから、その 「激変」 が、少しずつ身に堪え始めてきた。
何か、作り物の世界の中で、当てもなく浮遊しているような感覚が襲うのだ。
戸惑い、ふさぎがちになり、何に対しても関心が向かなくなってきた。
そんなとき、東日本大震災が起きた。
連日、テレビで被災地の様子を見ていると、ますます人生の無常とか、
命のはかなさとか、そういうところにばかり思考が偏り、いよいよ気鬱になった。
仕事に行っていれば、職場でいろんな人たちと意見を交わすことができるけれど、
家にいると、あまり人と話す機会はない。緊張もしないし、気分もピリッとしない。
それなのに、知人からの飲み会や歩く会や、旅行のお誘いを断ったりして、
最近、何となく、他人との接触を避けたいと思う自分がいるのだ。
この錯綜した気分は、自分でもどう説明していいのか、わからない。
しかし。
被災地の人たちの生活を見ていると、これこそ本当の 「激変」 であろう。
ウダウダ言ってるような暇はない。 生きることだけに全力を尽くす毎日だ。
震災前までの平穏な人生を、根底からくつがえされた人々の、苦悩と闘い。
どれほど大変なものなのか…、とてもではないが、僕などには想像が及ばない。
そう思うと、自分の身辺の変化なぞ、取るに足らない小さなことに見えてくる。
日々、被災地の惨状を映像で見ていると、結局、僕の生活の変化の程度など、
とても激変などと呼べるほどの大げさなものではない…と悟るのである。
今回の大震災で、自分が甘ったれた人間であることを痛感させられた。
自分の感情をコントロールできず、依存心が強い。 トホホな人間である。
先日、世界フィギュアスケート女子で優勝を飾った安藤美姫さんが、
「最近、安定感が増しましたね」 とインタビューで訊かれたとき、
こう答えた言葉が、印象に強く残っている。
「今までは自分の気持ちがそのままリンク上で出てしまったけど、
調子が悪い中でもスケートを心から楽しんで演技できるようになった。
心のコントロールの仕方を見つけたことが大きいと思います」
心のコントロールなぁ…
何をどうしたら、その仕方を見つけられるのだろう。