電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

法事の準備中に祖母への弔辞が出てきた

2020年02月11日 06時02分52秒 | 季節と行事
過日、亡父の13回忌と祖母の27回忌を行いました。もうそんなになるのかと、月日の経つのがやけに早く感じられます。葬儀関係の綴りを調べていたら、平成6年に亡くなった祖母への弔辞というか、孫代表の「お別れのことば」が出てきました。30代で緑内障のために視力を失い全盲となっても、夫(祖父)が妻を支え、夫が倒れてからは自ら介護し、91歳まで生き抜きました。


 謹んでお別れのご挨拶を申し上げます。
 ばんちゃんは、九十一年の生涯の中で、四分の三が、光を閉ざされた生活でしたね。長い間、私たちの想像できないほどの苦悩があったことでしょう。けれども、ちっとも苦しさを聞いたことがありませんでした。そして、最後まで私たちにやさしいばんちゃんでした。
 思い起こせば、ばんちゃんは、私たちに限りない思い出を残してくれました。
 ばんちゃんと二人で、トゲのある木から木の芽をつんで作った「ウコギご飯」。小さな板の間で一生懸命あんこを練って、柏の葉を蒸して、出来上がった柏餅。蒸かし釜に美味しそうに入っていた「ゆべし」や「ちまき」。梅の時期には梅干し作り、白ササギで作る栗きんとん。
 いたずら心で、作っている最中に一つ手を出すと、「出来上がってからあげるから」とたしなめられ、「ばんちゃんの目、見えるの?」と疑うほどでした。
 それぞれの季節の味と、ばんちゃんの思い出が昨日のようによみがえって来ます。
 手仕事の大好きなばんちゃんでしたね。若いときに作った振り袖のひながたを、青い目の人形に着せ替えて遊ぶ私たちを、暖かく見守ってくださいました。
 ひな形は、本物の振り袖を小さくしたもので、中には真綿がうすく入っている、手の込んだものでした。ぼろぼろになるまで遊んでしまったのですが、大事にしておけばよかったなと、しきりに思い出します。
 それから、着古した衣類を小さく切って、平らになるように何枚も重ねて、毎日雑巾を作っていましたね。いる使いや針目に注意して、なるべく真っ直ぐに縫えるように、器用に半分にたたんで確かめながら針を進ませていましたね。糸が足りなくなると、木綿糸をほぐしてつないでしまうのでした。うっかり針から糸が抜けてしまうと、糸を通してあげるのが私達の役目で、学校から帰るのをずっと待っていましたね。
 小学校に、たくさんの雑巾を寄贈していましたので、掃除のときにばんちゃんの雑巾を手にするときはとても嬉しかったことを思い出します。ばんちゃんの雑巾はとても丈夫で、一緒におろした雑巾がボロボロになっても、まだしっかりしていました。雑巾が役立っている話をすると、ばんちゃんはとても喜んでいましたね。
 お前たちが小学生の頃は、あちこち連れて行ってもらって、良かった、とあとになって聞きました。それは、お寺や親戚にお参りするときのことでした。距離にすれば百メートルくらい、ほんの短い道中でしたが、季節の良い時分など、日差しを浴びてとても楽しそうでした。
 孫達が成長してからは、寝たきりの祖父の世話をするのが日課でしたね。体を拭いてあげたり、食事の世話、二人でテレビを観たり、目が見えるけれども動けない祖父の手や足の代わりになり、二人で一人前だと笑いながら、今日は夜中に何回も起きて世話をしたと話していました。
 ばんちゃんが亡くなったとき、祖父の時から数えて二十年間、毎週往診していただいたお医者さんは、「ばんちゃんは、幸せな一生だったな」と言われたそうです。
 ばんちゃんは、たくさんの人に、言葉に表せないほど、とてもお世話になりました。そして、それ以上に、私たちに優しさと生きる勇気を与えてくれました。
 大正琴を上手に弾き、演歌のテープを聞きながら歌っていた明るいばんちゃん。
 孫たちの成長と、訪れる人をとても楽しみにしていたばんちゃん。
 もう会えなくなるのはとても悲しいことですが、天国でおじいちゃんと仲良く暮らしてください。
 どうぞ、安らかにお休みください。


農家の労働力にはならない病妻を、ずっと面倒を見た祖父も偉かったと思います。祖父は、「人にはそれぞれ生きる役割がある。ばんちゃんの役割は、お前たち(孫)に生きる勇気を教えることだ」と言いました。「誰でも全盲の人を24時間ずっと手助けすることはできない。大事なのは一人で動ける環境を作ること、具体的には、床に物を置かないことだ」とも言われました。自ら望んだわけではない障碍を持ってしまった人と接するとき、この言葉が光ります。人は亡くなっても、このような形で心に生き続けるのだなと思います。


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