電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

郭四志『中国エネルギー事情』を読む

2013年07月06日 06時09分24秒 | -ノンフィクション
岩波新書で、郭四志著『中国エネルギー事情』を読みました。帯には「驚異的な経済成長をいつまで支えられるか?」「深刻化する石油不足、石炭依存による環境汚染と政府の戦略」とあります。なにかと話題の多い現代中国、しかし統計から見た客観的な姿を知らないこの国の実情を知りたい、と思ったのがきっかけです。

本書の構成は、次のとおりです。

第1章:経済の高度成長とエネルギー資源
第2章:政府の危機感と政策・戦略
第3章:石油・天然ガス(1)~三大メジャーと政府
第4章:石油・天然ガス(2)~強化される海外資源確保
第5章:石炭~火力発電の主役
第6章:電力の需給はどうなっているか
第7章:価格というジレンマ
第8章:再生エネルギーの可能性
第9章:原子力発電の拡大へ
終章:エネルギー安全保障のゆくえ

中国は、石炭資源には恵まれていますが、産地は西部で消費地は東部と離れているため、長距離の輸送をしなければなりません。石油は、1990年代には輸入国に転じており、エネルギー問題は外交・政治・経済・安全保障・軍事面に直結しています。とくに、大慶油田など三大油田の老朽化で、沖合大陸棚の開発に努めており、トンキン湾など近年の周辺各国とのトラブルは、この延長上に考える必要がありそうです。また、パイプラインも東シベリア・ルートやミャンマー・ルートなどが計画・建設され、マラッカ海峡を経由した海上輸送以外の方法も、エネルギー・セキュリティの観点から推進されているといいます。資源に関する努力は、ナイジェリアなど中国のアフリカ政策に特徴的にあらわれており、対アフリカ政策を強化しているとのこと。

一方で、中国国内の石炭政策は、生産地域と消費地域を結ぶ輸送インフラの整備が遅れて供給ネックが深刻化しているほか、環境問題にも大きな影を投げかけているそうです。このあたりは、近年の大気汚染やPM2.5の問題など、2011年1月刊行の本書の記述以上に深刻化していることが伝えられており、本書はややエネルギー経済面に傾きすぎる傾向があるようです。
火力発電における石炭への過度の依存は、大気汚染を引き起こすことから、むしろ原子力発電への投資が増大してきており、加圧水型(PWR型)炉を中心に飛躍的に増大してきているようで、もし中国沿海部の原子力発電所が、自然災害あるいは人為的なミスのために深刻な事故を引き起こしたりすると、黄砂やPM2.5などと同様に、遮るもののない海をまたぐ季節風による影響を受けやすい日本にとっては、見過ごせない問題でしょう。

最後に、日中のエネルギー技術協力を展望してこの章が締めくくられますが、日本の省エネ・環境技術を、無断コピーではなく適法な形で生かしてもらい、著者の述べるように、両国の持続的な経済発展と共生関係を築くことを願いたいものです。非常に冷静かつ客観的な記述は、たいへん有意義なもので、岩波新書の格調を感じさせるものでした。



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