電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

日高敏隆『セミたちと温暖化』を読む

2013年11月28日 06時03分48秒 | -ノンフィクション
新潮文庫で、日高敏隆著『セミたちと温暖化』を読みました。奥付によれば平成22年の元旦に発行された本書を、たしか同時期に書店の新刊平積みの中から購入したのではなかったかと思います。その後、途切れ途切れにではありますが、ちょっとした合間に少しずつ読んできて、このほどようやく読み終えたものです。

著者については、動物行動学の重鎮として著名なだけでなく、コンラート・ローレンツの名著『ソロモンの指環』の訳者としておなじみでもあります。軽妙な文章は、エッセイストとしての面も見せており、学識に裏付けられた視点に、思わず考えさせられることが少なくありません。

本書の話題も実に多岐に渡りますが、個人的におもしろかったのは、

「人は実物が見えるか?」(p.63~68)
「バタフライガーデン」(p.136~140)
「春の数え方の食いちがい?」(p.218~223)

などでしょうか。
「人間は実物を見たからといって、おいそれとその実物が見えるわけではない」(p.68)という文は、観察力が訓練のたまものであることを示していますし、他の二編は、昆虫や鳥たちが光周性を目安に季節を知る仕組みをわかりやすく説明しています。そして、気温の累積で春を知る植物の場合、温暖化の影響が顕著に現れてくるのに、光周性によって季節を知る動物とは、時期がずれてしまうという結果をもたらします。このような食い違いは、時として卵から孵った幼虫(鳥)が餌を見つけられないという悲劇をもたらします。遺伝的に組み込まれた行動に従う種の場合、絶滅という結果となってしまうことでしょう。声高に語るタイプの本ではありませんが、内容はたいへん興味深いものです。

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