電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マーギー・プロイス『ジョン万次郎~海を渡ったサムライ魂』を読む

2013年11月18日 06時01分04秒 | -外国文学
過日、妻とともに近隣の図書館に出かけ、何冊かの本を借りてきました。その中の一冊、集英社刊の単行本で、マーギー・プロイス著(金原瑞人訳)『ジョン万次郎~海を渡ったサムライ魂』がたいへん興味深いものでした。
ジョン万次郎といえば、漁船に乗り組んで難破漂流し鳥島に漂着、そこで米国の捕鯨船に救出され、親切な船長のおかげで米国に渡り、色々と見聞を広めて帰国して、幕末の外交政策に影響を与えた人、という程度の認識です。これも、星亮一著『ジョン万次郎』(PHP文庫)などによるもので、どちらかといえば日本側資料に基づいた記述です。
これに対して、本書の場合は、米国の児童文学者で劇作家である著者が、米国に残された資料をもとに書きあげたもので、2011年にニューベリー賞オナー(*)を受賞した作品とのことです。たしかに、若い万次郎が米国滞在中に学校教育を受けたことは承知しておりましたが、少年ジョン・マンが少女キャサリンにあてた英詩:

寒い夜、
きみにかごのプレゼント。
目を覚まして、マッチをすって!
走り去るぼくを見て。
でも、おいかけてきちゃだめだよ。

というのが実際の史実にもとづいたものであり、キャサリンがそれを大切に保存していたことなどは、初めて知りました。
太平洋を漂流して米国にやってきた鎖国の国の少年が自分に思いを寄せ、しかも自分も憎からず思っている気持ちを意識した少女の心も、そしておそらくそれを許さないであろうアメリカ社会や親たちのことも、ジョン万次郎の少年時代の行動を通して描かれます。
おそらく児童文学の範疇に入る作品とは思いますが、そんな区分を越えて、少年の勇気がストレートに読む者の胸を打ちます。良書です。たぶん、今年の私的ベストテンに入るものでしょう。

(*):ニューベリー賞とは、1922年に開始された世界最古の児童文学賞で、アメリカ合衆国における最も優れた児童文学の著者に与えられるとのこと。1923年にはヒュー・ロフティングが『ドリトル先生航海記』で受賞しているようです。ニューベリー賞オナーとは、その年に書かれたものではない作品に対して遡及的に与えられることもある名誉賞のことだそうで、2010年に発表された本書が2011年に受賞したわけですので、これに該当というわけです。

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