電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューマン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く

2011年10月04日 06時00分38秒 | -室内楽
日が短くなり、急速に暗さを増す黄昏時に、シューマンのピアノ三重奏曲第3番を聴きながら帰路につくと、車内はこの曲の気分に満たされます。CDは、エラートが出していたシューマンの室内楽全集から、WPCS-11379/80 という型番の disc-2 です。演奏は、ジャン・ユボー(Pf)とジャン・ムイエール(Vn)、フレデリック・ロデオン(Vc)。

「ピアノ三重奏曲第3番ト短調Op.110」は、デュッセルドルフ市の音楽監督に就任した翌年にあたる1851年の作品とのことですので、作曲者41歳の作品です。妻クララは、次々に産み出される作品を通じて夫の天才を確信し、夫の病気の真実と進行、やがて来る結末を知らない。シューマンの後期を飾る、代表的な作品の一つと言ってよいでしょう。

第1楽章:ト短調、8分の6拍子。「動的に、しかし速すぎずに」と指示されています。ヴァイオリンが、上行し下行する第一主題を提示します。内面に揺れ動く情熱を表すかのように、音楽は反復されます。展開部の後半では、弦のピツィカートで気分が変わりますが、すぐに元の主題と暗い情熱が戻ってきてしまいます。充実したソナタ形式の音楽です。
第2楽章:変ホ長調、8分の12拍子。「かなりゆっくりと」と指定されています。思わずため息が出るような美しい緩徐楽章ですが、途中に劇的な中間部を置き、再びはじめのテンポに戻って、優しくppで演奏したのちに、ppp で終わります。実に感動的な楽章です。
第3楽章:ハ短調、4分の2拍子、「速く」と指定されています。Rasch です。暗い情熱の噴出が印象的。この盤では、叙情的な第1トリオ?(0'57"あたり)のあたりで、ピロロロという着信音かホイッスルのような音が鳴りますので、運転中に思わずビックリしますが、演奏そのものは素晴らしいものです。躍動的な第2トリオを経て、再び上昇し下降する音型が登場、sehr rasch で sf の指示のもと、スタッカートぎみに終わります。
第4楽章:ト長調、4分の4拍子、「力強く、フモールを持って」、という指示ですが、フモールって何?ユーモアのこと?アクセントのきいた、ダイナミックな終曲です。それまでの、暗く噴出するような情熱から、意志的な力強さを示す音楽に変わっています。ヴァイオリンとピアノが活躍することの多い曲ですが、ここでチェロが歌うところなどに、思わずほれぼれと聴いてしまいます。

1978年から79年にかけて、パリの Eglise Notre-Dame du Liban にて収録されている、エラートによるアナログ録音です。父が倒れ、学問の道を断念して関東某県に就職し、安い給料の中から仕送りをしていた時代。LPでこれが買えなくて、NHK-FMのエアチェックをずいぶん愛聴しました。あれが、まさにこの録音でした。BASF のカセットテープでした。そんな記憶だけが、やけに鮮明です。

■ジャン・ユボー盤
I=9'39" II=3'01" III=4'07" IV=7'07" total=23'54"

この曲については、いくつかのブログで取り上げられており(*1,2)、お好きな方がけっこう多いようです。秋の日に、シューマンの室内楽など、いかがでしょうか。

(*1):シューマン/ピアノ三重奏曲第3番~「Maestro!」より
(*2):シューマン:ピアノ三重奏曲第3番 ト短調 by ボーザール・トリオ~「Etude」より
コメント (6)