電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『雨降ノ山~居眠り磐音江戸双紙(6)』を読む

2008年11月09日 07時01分48秒 | -佐伯泰英
双葉文庫の佐伯泰英著『居眠り磐音江戸双紙』シリーズ第6巻、『雨降ノ山』を読みました。今回は、今津屋の内儀のお艶が病死するまでを中心とする物語です。
第1章「隅田川花火船」。長屋に居ついたあだっぽい女を助けたばかりに降りかかってきた女難ですが、藤沢周平『用心棒日月抄』に登場する夜鷹と同様、命を落とす運命に。しかし、子供を亡くし、恋女房を刺し殺した丑松が、たとえ生き残るのも地獄とはいえ、はたしてバッサリと斬ってしまうのが人情なのでしょうか。このあたりが、講談調と感じる所以です。もっとも、

丑松は腰縄を打たれて引き立てられて行った。二人の子を失い、恋女房を手にかけた男の行く末を思い、磐音は暗然と後ろ姿を見送った。

という具合に終わったら、これは藤沢周平の二番煎じになってしまうのかも。そのために、あえて講談調ホラ話の路線を選んでいるのかもしれず、これはこれでありうる話です。
第2章「夏宵蛤町河岸」。長屋の老婆が詐欺にあい、首をくくったことを怒り、幸吉は子供らを動員して探索に走ります。危機一髪でした。
第3章「蛍火相州暮色」。病が進み、里帰りを願う今津屋の内儀のお艶は、吉右衛門とおこんと小僧の宮松、そして磐音を用心棒に、相州伊勢原まで旅の途中です。ゴマの灰にまとわりつかれても、お艶さんは「これで退屈せずに旅ができますね」。病弱ですが、この人は意外に度胸がすわっていますなあ。病気は、今ならば胃ガンでしょうか。
第4章「鈴音大山不動」。ようやく実家にたどり着いたお艶が、大山詣でがしたいと言います。死を覚悟のお不動参りに磐音も同行します。私は丹沢には何度か登りましたが塔ノ岳が中心で大山には登ったことがありません。それでも、若い時分でさえ、15kgを限度にパッキングをしておりました。大学ワンゲル部のしごきでさえ、20kg超がいいところだそうです。成人女性をおぶって山登りなどというのは、とても無理です。死病の女性の願いを叶え、おぶって登るスーパーマン!このあたりも、リアリティくそくらえの講談調ホラ話です。であればこそ、代参の阿夫利神社での雨中の剣戟が本巻の表題となるのでしょう。
第5章「送火三斉小路」。磐音は、吉右衛門留守中の今津屋の後見に座り、偽大判騒ぎを持ち込んだ南町奉行所の笹塚孫一を助けます。そして送り火の夜、今津屋にお艶の死去が伝えられます。講談ではありますが、思わず粛然とする今回の物語の終わりです。

豊後関前藩物産プロジェクトは、国元で苦労しながらも進んでいるようです。人をバッサリと切り捨てる話よりも、坂崎磐音が主人公として直接的に活躍しなくていいから、むしろ中居半蔵さんあたりに焦点が当たった方が、物語として多面的な展開のおもしろさがあったのかな、とも思います。あるいは今後そのような展開が準備されているのかもしれませんが。
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